【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第三章 交わる記憶

086.チーズと蜂蜜のデザートパン-②

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 場所をコンロの近くに移して、実際の調理はミュラドさんが行い、僕はちっちゃな脚立のような台に乗って指示することに。

「小鍋半分くらいの牛乳を、縁が小さくあぶくくらいに温めます」
「かき混ぜたりは?」
「大丈夫です」

 とにかく中火や強火で一気に温度上昇させちゃいけないことも伝えてから調理開始。
 中弱火くらいの火で湯気が立つのと縁が小さく泡立ってきたら火から下ろして、イシャールさんが絞ってくださったリモニ(レモン)汁をほんの数滴入れてターナーで優しくかき混ぜる。
 すると、

「え?」
「なんだこりゃ⁉︎」
「固まっていく?」

 三人が驚くということは、カッテージチーズも黑の世界じゃ出回ってないみたいだ。ファルミアさんとかヴァスシード側じゃわかんないけども。
 レモン汁を入れてかき混ぜたことでもろもろと固まって、水分はどんどん薄い黄色になっていく様には皆さん目が点。
 ヨーグルトはあるのにこう言うのはないのって不思議。

「カティアちゃん、これでいいの?」
「はい。これを八半刻の半分くらいまで置いてからザルで漉します」

 その間にプチカの粗みじん切りと蜂蜜のピックアップ。
 蜂蜜は花の種類によって蜜の味が違うのは当然。
 こちらの花の種類はわかんないけども、さっき食べたのとか上層で使ってたのは主に蓮華蜜のようなものっぽい。
 アカシアではないなとは思ってたけど、結構美味しい。ただ、大量に使う場合はブレンドしたものらしかった。
 それを味見させてもらったら、百花蜜のような濃い味がしたのでこれを使わせてもらうことにしました。

「カティアちゃん。鍋底に全部沈殿したよ?」
「はーい」

 鍋の中を見れば、ほぼほぼカッテージチーズの出来上がりだ。
 これをザルに漉すんだけど、分離液もクリームチーズ制作過程で出るホエーと同じだから、パン作りに使えるのでボウルに受けておく。
 普通ならターナーで軽く混ぜて漉すか、間に晒しを挟んで絞るとかだけど、ここは魔法を活用。
 限界少し手前まで水分を絞り取って冷却をかけ、出来上がったカッテージチーズをちっちゃなボウルに移しちゃいます。

「これ全部甘くしていいですか?」
「他にどんな使い道があんだ?」
「そうですねー……ケーキの材料にもなりますし。食事系だとスライスしたマトゥラーと塩少々混ぜたこれを具にしたサンドイッチとかサラダに和えたり、ヘルネと胡椒を入れておつまみにも」
「万能じゃねぇか⁉︎」

 まだまだ語りたいのにイシャールさんの割り込みで止められちゃったよ。

「このカッツ?はなんて言うのかな?」
「え、えーっと……コッテージカッツです」

 カッテージチーズの呼び名がコッテージとも言うらしいから敢えてそっちにしてみたけど。
 急に作ることになったからファルミアさんには後で確認取らなくちゃ。

「半分はサンドイッチにしようぜ!」

 そっちはイシャールさんがパパッと作ってくださることに。食材の味を活かすために塩胡椒とトマトのスライスと葉物野菜にするようです。
 僕は半分を苺と蜂蜜と和えて、フランスパンのようなバケットの上に少量乗せていく。

「出来ました!」
「こっちもだ」

 振り向けば、即席のトマトチーズサンドイッチがちゃんと出来ていた。試食用にミニサイズとはさすが料理長さん!

「少し下の者の意見も聞きたいから、呼んできたよ」
「「よろしくお願いします」」

 ミュラドさんが呼んでこられたのは若い男女のコックさん。多分、好みの差を見極めるためだろうね。僕じゃ、メイドさん達の好みを見極めるのは難しいもの。

「うわぁ」
「可愛らしいですね!   この白いものがカッツなんですか?」
「材料は然程難しいものじゃないけど、吟味すべきは味だね」

 じゃあ、いっただきまーすと、お姉さんはバケット。お兄さんはミニサンドイッチを食べることに。
 僕はお言葉に甘えて両方。料理長さん'sもだけど。
 セヴィルさんはサンドイッチの方だよ。

「……酸味がほのかにあるけど、蜂蜜の甘さが際立ってプチカとよく合います!」
「サンドイッチではカッツの重たい印象が覆されましたね!   これオーラルソースとも合いそうです」

 お兄さん正解。マヨネーズとカッテージチーズの相性は抜群だもの。

「たしかに軽くてさっぱりしてんな?」
「調味は後で出来るから、調整しやすい。デザートとも合うカッツなんて初めてだね」

 言いにくい。
 実はヴァスシードとかじゃ既にもうワンランク上のクリームチーズが出回ってて、ファルミアさんはお料理だけでなくデザートにも大活用してるなんて。
 あと、上層調理場ではこの前伝授したのも。
 ちらっとセヴィルさんと目を合わせれば、言うなってみたいに頷いてた。マリウスさんが料理長さん'sに言うまで僕もお口チャックしとこ。

「お前の頭の中はどうなってんだ?  俺達のちまっとしか生きてねぇはずなのに」
「ぴっ」

 ぐわっしっ、とイシャールさんに頭を掴まれました。
 あたふたしてれば、次第に撫でてくれてるけど手付き荒いからセットが!

「おい、やめろ」

 再びセヴィルさんが止めてくださいました。
 けども、セットはだいぶ崩れてたので手櫛で直すしかなかったよ。

「え?」
「閣下が?」

 ……他にも外野いたの忘れてたね。
 そっちを向けばコックのお兄さんお姉さんがお口あんぐり。

「へいへい、これくらいにしとくわ。つか、カティア。もっとこのカッツの活用法ねぇの?」
「え、あ、はい」
「全部答えていたら日が暮れるぞ。まだカティアは裏庭とここ以外案内出来てない」
「あー……うちの方か?   多分、今は平気か?」

 そう言えば噂がとか言ってたけど、何かあったのかな?

「まあ、何か言う奴は蹴散らすわ。中層にも来いよカティア」
「はい!」


 僕は結局不安よりも期待の方が勝ってしまい、思わずぴょんぴょん飛び跳ねた。
 この後のことを知らずに。






 ◆◇◆






「………………えーっと?」

 まだ中層の調理場には着いてないけど、ちょっとばっかしUターンしたくなってきました。

「なんだこれは……」
「まーだ退散してなかったのかあいつら」

 どうなっているのかと言いますと、下層よりもう少しかっちり大きい扉の周辺で、騎士のお兄さんお姉さんともう少しかっちりした服装のお兄さんお姉さんとかが何かを待ち構えてる態勢でいるんです。
 しかも、結構なご人数!

「まだ来ないのか?」
「先に下層に行っていたからな」
「何か作ってるんじゃないの?」
「けど、ドレスでだぞ?」
「閣下がご一緒なら変換アイゼン使ったとか?」
「「「「ああ」」」」

 ああ、じゃあごぜぇません。
 僕未だにドレスのままだし、セヴィルさんも黒王子スタイルのまま。

「……どーゆーことですか、イシャールさん」

 これじゃあ、調理場に行けないではないですか!
 僕が詰め寄れば、イシャールさんは済まなそうに眉を下げて頭を掻いた。

「お前らが下層に来る前に会った連中覚えてっか?」
「連中?」
「近衛のだ」
「あ、お兄さんお姉さん!」

 ここに居るかは人だかりで見えにくいけど、似た服装の人達は居るね。

「そん中に一人だけ女いただろ?   あれが俺とすれ違いで『かんわいいお嬢ちゃんが閣下とご一緒やった!   珍しい純金の髪に蒼の瞳やったで‼︎』って、地元の方言丸出しで騒ぎ出したらこうなった」
「ざっくりし過ぎです!」

 つまりは、尾行してた近衛さん達の中のシェイルってお姉さんが興奮して言いふらしちゃったのか。

「まあ、その前からちょこちょこ噂にはなってたぞ?   ゼル、お前が公衆面前にも関わらずちんまい幼子を褒めてたとか」
「……………あれか」

 セヴィルさんお耳真っ赤っかさんだ。

「ーーーーこれ行くとまずいですよね……?」
「ゼルよりもお前の方が特に注目されんだろうな。カティアの容姿もだが、お前なんか目に術かけてんだろ?」
「ほぇ?」
「お前にはやはり気付かれたか……」

 神様のフィーさんの魔法なのに、なんでイシャールさんにはバレたんだ!
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