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第三章 交わる記憶
105.やるせない想い(サイノス視点)
しおりを挟む☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(サイノス視点)
チャイルが終わった頃合いに、ファルとカティアが良いつまみを持ってきてくれた。
「なんだそれ?」
「ポテトチップスならぬマロチップスとウルス揚げです!」
ただ芋を薄く切って揚げたようなのと薄茶の四角いの。
チャイルの片付けが終わったものから手拭いで軽く手を拭いてから食べることになった。
パリポリ。
パリンッ。
予想通り軽い音だったが、初めての食感に最初は物足りなさを感じた。しかし、歯で噛み砕き、舌の上に感じる程よい塩味と芋の甘みと油。段々とそれは口の中を楽しませてくれて手が止まらなくなった。
「美味いなっ」
しかも、一種類じゃなくポルト味まであるとは酒が欲しくなってきた。
俺以外にも片付けを終えた面々が次々に芋の薄切りやもう一つのも口に入れ、同じ音を立てながら咀嚼していた。奴らもどうやら気に入ったようだ。
「チップスもだけど、この四角いのも美味しいー」
フィーがかなりの量を片手に乗せながら口にどんどん放り込んでいた。
俺もひと口食べてみたが、チップスよりは固くて香ばしさと甘みを感じたが塩味が濃過ぎずちょうどよかった。
ウルスって言ってたが、そこまで食材に詳しくないんでなんだったか忘れた。
そして勢いで思い出したが、起きたクラウと四凶らが貪るように食ってたんで、それぞれの主人に諌めつけられていた。
四凶はちょいちょい見るが、まだこの城に来てわずかでしかないカティアとクラウがもう溶け込んでいるのに、今更ながら苦笑いが湧いてくる。
悪い意味じゃなく、いい傾向だ。
ファル達と親交を深める以外はほぼ身内でしか話し合わない連中が、カティアが加わったことで気が緩み笑顔が増えた。
(肝心のあいつは……?)
目線だけで探せば、カティアの御名手であるゼルは目線だけはカティア達を向いてても手は菓子をつまむのに勤しんでいた。甘いもんじゃねぇから、余計好んだんだろうな?
(しっかし、逢引の手伝いはしたが……見事にお互いそれっきりだな?)
俺は詳しい内容を知らないが、多少は意識するだろうにほとんどと言って良いくらい態度を露わにしない。
ゼルはまあ無愛想で隠せているだろうが、カティアの方もそこまで表に出してないのが不思議だ。彼女は結構感情の起伏が激しいし、反応も面白い。なのに、ゼルのことを過剰に意識することはなく、俺が見る範囲でもいつも通りの応対しかしていない。
外見に惑わされそうになるが、あれで成人しているんだから異界渡りする前の自分の世界で何かあったせいか?
(……そうだな。この世界とは違ったんだから、恋愛事情もだいぶ違うだろ)
御名手の慣習が通じるのも、王族や貴族を除けば富豪の一部だけだ。一般民なんかは自由恋愛が多い。カティアもそうだったかと想像したところで……少し考えを止めた。
(ゼルも当然見越してるだろうが……前に恋仲がいたりでもしたらどう反応するんだろうな)
嫉妬だけですまない気がしてきた。
全部は聞いてなくても、ユティからカティアが奴にとって初恋の相手だと言うのは聞いてる。事情を知らないでいたら嘘だと笑い飛ばしただろうが、カティアとのやり取りにエディから伝えられた真実を聞けば、それは納得出来た。
ごく僅かとは言え、今はなりを潜めている鉄仮面から笑顔を引き出したからな? あん時は大層慌てたぜ。
あんなすんなりと気を許す幼馴染みの表情なんて、ゼルが生まれてから数回しか見たことがない。
(御名手抜きにして、カティアのことは相当気に入ってるからなぁ?)
目線をまた戻せば、カティアはクラウを抱えながらゼルに話しかけていた。
あの光景すら稀有であるのに、カティア自身が元の身体に戻ったとしたらどれだけ似合いの男女に見えるだろうか?
幼子の今も悪くない容姿ではあるが、本人は大したことがないと気に留めてないそうだ。絶対元に戻れば、それ相応になると思うんだがな。
だが、そうするとゼルが耐えられるかわからない。今の状態のカティアを着飾らせただけでも過剰に反応するそうだかんな。成人期にさせれば卒倒するだけで済まない気がしてきた。
(今もだが、カティアが関わるとあいつも人間らしくなってきたな?)
気づいてる奴は気づいてるだろうが、ゼルを纏う空気がカティアと話す時だけ和らいでる気がする。
目元も鋭さが減り、口元もだが少し緩んでいるようだった。
普段執務を共にしてるエディオスは気づいてるだろうが、近習達や他の大臣や重鎮達が見れば肝が冷えあがるだろう。
それくらい、冷徹と称される宰相の顔は恐ろしいからな? カティアには見る機会がそうないから見せないだろうが。
(俺も人のことは言えんが、もうちぃっと進歩しろよ?)
俺の場合は御名手なのか怪しい。
うちは代々見つかりにくい家系として有名だから血筋のせいもあるだろうが、それはエディ含める王族も同じだ。
だから、時折抱いてる気持ちが御名手の勘なのか、そうでないのか不安になってくる。
(あいつはどうかわからねぇが……)
ゼル達から視線を逸らして、俺は別の相手を探した。
波打った深い赤毛の女性は、隣国の王妃と菓子をつまみながら語らいを楽しんでいた。
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