【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第四章 式典祭に乗じて

142.式典祭3日目ーセリカとの思い出-③ー(エディオス視点)

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 報せが来たのは夕餉をとる直前だった。

「た、大変です!   リチェルカーレ様方の馬車が‼︎」

 識札を握り締めながら食堂にやってきた近衛騎士が酷く青ざめていた。
 だから、神王の親父も先代のじい様も咎めをせずに識札を受け取った。
 俺としては何があったのか早く知りたかったが、すぐに親父達の表情の変化に釘付けになった。平素笑み以外の表情を見ることが滅多にないからだ。

「落石に激突……?」
「その衝撃でセリカが谷底に、じゃと?」
「「なっ⁉︎」」
「「セリカが⁉︎」」

 二人の口から告げられた事実にすぐ捜索に加わりたい気持ちに駆られたが、まだ続きがありそうなのとゼルに肩を掴まれて遮られたせいで仕方なく折れた。

「しかも故意に事故に見せかけて、イシャール達を連れ去ろうとした阿呆どもの仕業ときたか。イシャールや護衛の者達が応戦して始末はつけられたが、セリカを追うにもまだ見つからないそうじゃ」
「魔眼攫いですね、父上」

 何万人に一人の割合で現れるかどうかの異能。
 イシャールもその一人だが、セリカは違う。
 けれど、異能は血脈から出現する確率が高い。幼いとは言え未知数の能力が眠ってるとしたら無理にでも開花させようとするだろう。
 人攫いもだが、魔眼持ちを狙う糞どもは細い根っこ並みに潜んでるせいで未だ根絶やしに出来てないのだ。

「親父!   俺に行かせてくれ!」
「ダメだ。いくらお前でも王位継承者が捜索に加わるなど、王として許可出来ない。近衛達と張り合える腕を持っているとは言えどもな」
「っ!」

 予想はしてたが、ここまで予想通りの返答が来るとは。
 ほぼ勅命に近い否定をじい様の前でしたからには、俺は動けない。
 お飾りでない王子として訓練はしてても、魔獣退治の数をほとんどこなしてないなら、サイノスよりも弱い。
 あいつは俺やゼルと違い、軍人の家系と父親が侯爵兼将軍を務めてるから鍛え方そのものが違う。
 歯を食いしばっても覆すことは出来ないので、拳を握りしめるしかなかった。

(……待てよ?   一つだけなら出来ることが)

 だがここでするわけにはいかないので、ゼルの手を無理に引っ張って食堂から出ることにした。

「ちょ、エディオス⁉︎」
「どこに行く気だね?」
「俺達にしか出来ねぇことだ!   城からは出ねぇよ!」

 そう言い切ってから俺達は食堂を出た。

「俺とお前にしか出来ないとはなんだ?」
「いーから、急いで俺の部屋に行くぞ!」

 出し惜しみしてる暇はないので転移用に使う術札を使って自室に移動した。
 着いてからすぐに勉学に使う用の卓に向かい、目的のものを探すのに引き出しを無造作に漁って行く。

「随分前に渡されたっきりだが……お、あった!」

 漆黒色のぎょく
 大きさは飴玉程だが、サイズがどーのこーのじゃねぇ。

「それは……?」

 ゼルにも見せたことねぇから知らないのも無理はない。
 が、説明している時間も惜しい。
 さっさと使うために部屋の中央に立った。

「たしか……叩き壊せばいいんだったよな?」

 説明を受けた記憶も彼方に追いやってたから、引っ張り出すのに少し時間を要した。
 あいつとの会話をなんとか思い出しながら使い方を確認し、勢いよく床に玉を叩きつける。
 当然、ガラス程の強度しかないそれは簡単に割れた。
 そして、割れたところから黒い靄が溢れ出てきた。

「ーーーーなーに?   どうしたのー?」

 間延びした少年の声が聞こえ、成功したことに少し安堵した。
 靄は量が増したかと思えば、すぐに人型のように形を変えていき、やがて形が定まると特殊な形状の漆黒のマントを羽織った150歳前後の黒髪の少年となっていった。

「エディ……と、セヴィルも。こっちに帰ってきてたんだ?」

 少し眠たげだが、軽口を言ってる場合じゃない。
 俺はすぐに用件を言うことにした。

「フィー、一刻を争うんだ!  俺達の代わりにセリカを探してくれねぇか⁉︎」
「え?   セリカって……たしかイシャールの妹の?   その様子からただ事じゃないのはわかるけど、もうちょっと詳しく教えてよ」

 掴みかかりそうな勢いで言ったせいか茶化しはしなかったが、要点が足りなかったとゼルと二人で近衛が報せてきた事実をこの創世神に伝えた。

「……まーさか、まだこそこそ隠れてる馬鹿な子がいるとはねぇ?   そっちの事は後にさせるにしても、セリカだね。君達が動けないのは無理ないから、引き受けるよ」
「「頼んだ」」

 普段はしない、創世神へ敬意を込めて深く腰を折ると、フィーは特に気にせずに手を軽く振ってから転移を使って俺の部屋から消えた。

「……いつ、あれを渡された?」

 フィーの気配が完全に消えてからゼルが口を開いた。

「割と出会ってすぐだな?   俺が神王の息子だからって理由で、万が一の時には呼ぶのに使えって言ってきてな」

 ここ数十年は忙し過ぎて頭の片隅に入れてた程度だったが、切羽詰まった状況で思い出せて良かった。
 フィーに任せれば、半刻は最低かかっても必ず見つかる。
 俺やゼルはそう信じていたのだが、フィーが一度戻ってきたのは翌日の真昼近くだった。

「川に流されたとこまでは辿れたんだけど……そこからが残滓まで流されて難しい」

 いつになく自信がまったくない表情でそう告げてきた。
 俺はいつもだったら怒りで掴みかかるところを、フィーの本気でも見つからない事実にショックを受けていた。
 同席していたゼルやサイノスも同じく。イシャールは応戦の時怪我をしてしまったので自分の家で強制待機だ。

「やれる手は尽くしているよ。でも、かなり時間がかかるのは覚悟して」

 最悪の結果もと言うのは、さすがのフィーでも口にしなかった。






 ◆◇◆






「それから今日まで、フォックスが言う理由を除けばフィーが手を尽くして探してくれてたってわけだ」
「そんなことが……」

 あの可愛いくて綺麗なセリカさんにもだけど、皆さんにそんな暗い過去があるなんて思いもよらなかった。
 でも、僕に言えるわけがない。
 日が浅いのもあるが、生きてるかわからない身内の話なんて気持ちがいいことじゃないもの。

「でーも、シュレインにいたってのが不思議。精霊達や神霊オルファにもいたら即報告って言っておいたのになぁ?」

 フィーさんの疑問も最もだ。
 だが、現実は200年近くも行方不明状態が続いていた。
 フォックスさんの報告や意味深な発言も引っかかるが、何かわけがあるのだろう。
 エディオスさんやサイノスさんもそこについて口にはしなかった。

「で、どーする?   イシャールに言うか?」
「すぐには無理だな。最低、式典が終わってからだ。見習い時代ならまだしも、今はあいつも役職を持ってる人間だからな」
「侯爵家には?」
「まだだ。俺やフォックスで確かめたからって、決定的な証拠がない。もし他人の空似で終わった時は意味ねぇだろ?」
「決定的な証拠?」

 今は記憶がないらしいでいるのに、何かあるのだろうか?

「女将達が拾ったって時に身につけてた装飾品や服とかだ」
「あ」

 もう着れなくなっても、女将さんは一度親元に返してあげたいって言ってたからどこかに保管はしてるだろう。

「それか僕が姿隠して探ってこよーか?」

 フィーさんが挙手して提案したが、エディオスさんは首を横に振った。

「無事とわかったから急がなくていい。フォックスにも頼んだから奴の仕事取るのやめてくれ」
「はーい」
「んじゃ、そこはとりあえずいいな?」

 と、サイノスさんが急に立ち上がってエディオスさんの前に立たれた。

「あ?」
「呆れたが怒ってないとは一言も言ってねぇからな?」

 そうして、目を丸くしたエディオスさんの脳天に拳を強く叩きつけた。
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