【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第四章 式典祭に乗じて

144.式典祭翌日ーシュレインへー(サイノス視点)

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 ☆      ☆      ☆      ☆      ☆      ☆(サイノス視点)






 式典祭を終えて翌日。
 俺は訓練を終えていつも通り執務に戻ろうと廊下を歩いていたら、急に背後からマントを掴まれて息が止まった。

「だ、誰……って、おま⁉︎」

 服装も髪色も目も変えてるが、数日前に見たエディの変幻フォゼ
 それとまったく同じ出で立ちでいたエディ本人が何故か俺のマントを引っ張っていた。

「お前何やってんだ⁉︎」

 声を張り上げないように注意しながらも、なるべく死角になる場所へと逆に奴を引きずっていった。エディは珍しく大人しく俺に引きずられていたが、表情はどっちかと言えば不機嫌なまま。
 俺の方がそうなりたいわ!

「……呼びに行こうとしてたとこに見つけただけだ」

 念の為透過になる結界を張ってから奴はそう言い出した。

「呼びに?   識札でいいだろ?」
「行くって決めたからだ。俺とお前でセリカを迎えにいく」
「はぁ⁉︎   ゼルはどうした!」
「あいつには簡単に言っといた。っつったら、さっさと行ってこいってよ」
「マジか?」
「マジ」

 取り繕わないあたり本当かもしれないが、急過ぎやしないか?

「先触れは?」
「冒険者エディの方で識札は送るようにさせた。フォックスは同席しないが、近くで待機させる」
「それなら警戒はされにくいだろうが……」

 ならなんで俺まで?と聞けば、イシャールに直接伝えるのはまだ早いのと少しでも思い出せる要素を持って行くためだと。あとは、念の為の護衛だそうだ。

「つーと、俺も少しばかり変幻フォゼした方がいいか?」
「解くのはすぐじゃねぇからな。シュレインじゃお前も当然知名度はあるから俺くらいの範囲内でいい。あと傷跡少し隠せ」
「わーった」

 移動手段は、転移方陣を使うそうだ。
 あまり考えたくはないが、セリカが拒絶の意を示した時に俺達がすぐに城へ戻れるように、と。







 ◆◇◆






 転移方陣を使っての移動は久々だったんで、少し体力は持ってかれた。
 だが、息を吐いてる場合じゃねぇと気を引き締めて方陣を警護してる連中にエディが労いの言葉をかけてるのを見て、少し苦笑した。
 俺はほとんど知らなかったが、変幻フォゼした姿のエディはもう少し若い頃しょっちゅうこの方陣を使ってて、警護の奴らにも顔が割れてるそうだ。
 式典中にカティアとここに来た時に使わなかったのは、不必要に体力を削らせたくなかったらしいが、ディシャスの方が大変だろうに。だが、方陣は基本要人の移動か輸送手段にしか使わないから私用で使うのはあまりよろしくない。
 さすがのエディも、王になってからはそこを理解してるか?

(……してねぇな。脱走癖がある限り)

 その祖父は今回の式典でもっと仕出かしてたが、似た者家族ってやつか。

「おい、行くぞ?」
「っと、ああ」

 ここからは神王や将軍の肩書きを外して、ただの冒険者に成り代わる。俺はエディとは違う目的で、昔冒険者として活動してた時期があった。
 さすがに将軍より前に役職を持ってからは活動しなくなったが、万が一の時には役に立つからと身分登録書はそのままにしてるし更新も自分で行く。
 今回の変幻フォゼはそっちの時の姿にほぼ似せていた。

「……式典の翌日だからか多いな」

 屋台とかは片付けられてるが、人混みはかなりある。
 潰されはしないが、俺の巨体じゃ逆に潰しかねん側だ。出来るだけぶつからないように割って進んでるが、エディが早い!
 一応俺が後ろにいるから気にはしてるものの迷いもなく人混みをかき分けて進んでいる。

「おい、待てって!」

 無理に突き進んでエディの肩を掴めば、何故か過剰に肩を震わせた。

「……どーした?」
「……いや」

 それからは少し速度を落として、例のミービスって男が経営してるバルに向かうことになった。
 俺はそこまでシュレインの街を出歩いたことはないが、規模の大きいギルドがある分活気の絶えない街だとは知っている。
 だから、と思っていたのだが……ある人混みを見かけた時はなんだ?と首を傾げた。

「やけに多いな……?」

 区画から飲食店の多いとこなのはわかってるが、何か流行ったものでもあったのだろうか?

「……中層か下層でティラミス食った奴が、実家で真似して作ったらああなったらしい」
「は?」
「っつっても、少し減ったな?   やっぱ本物と違うからカティアの予想通り飽きが出てきたのかもな」

 詳しく聞くと、なるほどと頷けた。
 ゼルのように甘い物が嫌いな奴にはわからんだろうが、いくら甘さの中に苦味を足せても珍しいのは初めだけ。カッツクリームがないとなると味に物足りなさを感じ、繰り返し食べてては飽きがきてしまう。
 そうはさせないように研究は出来ても、まったく知らない食材を探し出すにも手間暇はかかる。カッツクリームが実はヴァスシード近郊じゃ珍しくない食材と知った時は驚いたが、この神王国はかなり広い。いくら隣国でも、あそこまで探しに行くのも労力がかかる上に気づきもしないだろう。

(それに、更に真似する店は出て来てもそこは同じだ)

 カティア自身は色々申し訳なさでいっぱいになってるそうだが、彼女が悪いとこは一つもない。

「着いた……ぜ?」
「閑古鳥が鳴いてんじゃなかったか?」

 バルの並びに来た途端、他はともかく一つの店だけがさっき見かけたティラミス擬きを出してるバルと同じかそれ以上の人で埋め尽くされていた。
 先に聞いた話じゃ、ティラミス擬きの方のせいでどこもかしこも閑古鳥状態と言ってたが雲泥の差だ。

「……冒険者が多い。フォックスが持ってったカッツクリームのサンドイッチか?」
「は?」
「カティアが詫びだっつって、大将に教えてた。ティラミスの材料になるとかは一切言ってねぇよ」
「で、代わりにサンドイッチか?」

 俺は食ったことはないが、これだけ並ぶならきっと美味いだろう。

「しっかし、先触れ出してても大丈夫かこりゃ?」
「先約はこっちだ……と言いたいが、出直すか?」

 いくら迎えに来たからって、セリカの今の状態じゃ話し合いに持ち込めないだろう。
 そう思って引き返そうとしたが、

「エディじゃないか!」

 少し年の行った女性の声がしてきて、俺達は振り返った。
 そこには、人混みを掻き分けながら待ってくれとエディに呼びかける初老の女性が。

「女将?」
「あれがか」

 セリカの今の母親がわり。
 ぱっと見気前の良い感じな女性に見えるが、エディが嫌な顔一つしないところ、それが正解だと認識した。

「もう来てくれたのかい?」
「いや、この人混みじゃ一度出直そうとしたんだが……」
「ああ。ほとんど待ってもらってるから大丈夫だよ。中では食べないようにしてもらってるんだ。忙しいのはうちの人だけだがね?」

 いや、いいのかそれは。

「あら、こっちのえらい男前は?」
「サイだ。エディとは古い付き合いなんでな」

 実に単純な呼び名だが、まったく別の名前で呼ばれるのもあまり慣れない。
 この呼び名にさせたのは、アナが俺をそう呼んでくれるからなのだが……あえて言う必要はない。

「そうかい?   セリカは今ちょっとクッキー焼いてるんだけど、それが終われば暇を取らせるつもりだったんだよ。裏からお入り」

 そう言われては断るわけにはいかないかと、俺達は彼女の厚意に甘えることにした。

「女将、これ結局はフォックスが持って帰ったあれでか?」
「そうなんだよ。ギルマスがえらい気に入ってくれたらしくってねぇ。うちの人もあのクリームの使い方を色々試して、それをまたギルマスに食べてもらったら……冒険者伝手でここまでね」

 ヴァスシードでもファル自身が色々革命を起こしたそうだが、直接的なのと間接的にもここまで人気を集めてしまうとは。
 異界の知識や文化は凄いなと関心してしまう。

「中じゃ待てないだろうから、客間の一つで待っててもらってもいいかい?」
「ああ」
「構わない」

 いきなりセリカの部屋へ通すとかになったら流石に慌てたが、男二人が相手だからそれはないかと少し安心してから中に入った。
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