【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第四章 式典祭に乗じて

146.セリカの帰還(セリカ視点)

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 ☆      ☆      ☆      ☆      ☆      ☆(セリカ視点)






 幼馴染みのお兄様達がシュレインに来られてから数日後。
 お世話になった女将さんや大将さん達に事情を告げ、ささやかな送別会を開いてくださってから、私はその街を出ることとなった。
 盛大に迎えの使者などを送ることはなく、内密に出立する事。宮城からの使者が来るとなれば、ただでさえ今忙しいバルに更に噂が飛んで問い合わせが殺到するからだ。
 これは、陛下ことエディお兄様が提案されて決められた。

『シュレインの裏門から出て待っててくれ。俺は行けないが、最低サイノスに行かせる』

 お二人がいらっしゃったその日に言われ、私は頷いた。
 危惧してたことは、もう何の障害にならないことをエディお兄様が告げてくれたから、私は固く誓っていた決心を緩ませれた。
 言い訳をしなければ、とずっと思っていたけれど、彼に覆されればしまい込んでた気持ちが溢れかえるだけだった。

(エディお兄様は、本当にずるいわ)

 こちらが遠慮していたことを、彼はいつも容易く垣根を越えて叶えてくれる。
 あの襲撃があった昼の行楽も、彼は嫌な顔一つせずに私や妹姫のアナお姉様のわがままに付き合ってくださった。

「おい、セリカ!」

 裏門に着いた途端かけられた声に、私は思考するのをやめてそちらに顔を向けた。

「サイノスお兄様」
「予定通りだったな?」

 彼の前には貴族が使う一等級の馬車が用意されていた。
 サイノスお兄様も将軍の装いよりは貴族らしい装いをされているのは当然だが、私はいいのだろうかと少し躊躇いが生じた。
 余所行きの服ではあっても、女将さんが成人祝いに用意してくださった庶民の余所行き。
 貴族令嬢が身につける簡素なドレスとも程遠いものだ。

「気にすんなって。恰好よかお袋さん達に今のお前の姿を見てもらうのがいいだろ?」
「……いいんでしょうか?」
「今は敬語とかいいって。公的な場じゃなきゃ、今も全員いつも通りだぜ?」
「あ、うん……」

 とは言っても、皆とは随分と疎遠になっていたのだ。
 すぐに慣れるのは難しいが、少しずつ慣らしていこう。
 私達は馬車に乗り、出立してから少しの間お互い無言になってしまった。

(どう……話せばいいのかな?)

 200年近く前は、はとことして気兼ねない付き合いをしていたが、今は互いにいい大人だ。
 私は、記憶が戻るまではただの庶民の子供と変わりない生活をしてきた。手も少し荒れてるし、肌も焼けたから貴族令嬢のように透けてるくらいの真白じゃない。肌は少し経てば戻るだろうが、考え方や癖はどちらかと言えば庶民向きだ。
 学園も貴族科ではなく市民科で大半を過ごしたせいもあるので、そこはどうしようもない。

「……最初は、驚いたな?」
「え?」

 とても小さな呟きだったが、はっきりと聞こえた。
 うつむかせてた顔を上げると、サイノスお兄様は苦笑いされていた。

「昔お前の婆様の若い頃の姿絵見せてもらったことがあったんだよ。目の色とか細かいとこはそりゃ違うが、セリカそっくりだったんだ」
「お祖母様と……?」

 薄っすらとだが、そう言われた覚えはある。
 姿絵のことまでは思い出せないが、長兄や次兄達が自慢するように言っていたのはなんとなしに。

「帰ったら全員目ぇ丸くすると思うぜ?   俺がそうだったしよ」
「……だから、お兄様私と会った時に口を塞いでたの?」

 急にどうしたのかと思ったが、あの時は他人のふりをしなくてはとあえて聞かずでおいたから。

「先にエディが言ってたから身構えてはいたが、意味なかったな」
「自覚ないけど……」
「見せてもらえよ。すぐ納得すると思うぜ」
「うん」
「それと話は変わるが。セリカ、フォックスに気づかれても口止めさせたのは……この前言ってた理由のせいか?」
「……ええ」

 フォックスさんには、割と早い段階で気づかれていた。
 それでも記憶が戻ってからだが、内密に説得されても私が拒否の意を伝えたから黙っててもらったのだ。
 以来は、半分護衛も兼ねて近くにいてくれたり言いにくい相談にも乗ってもらったりもした。
 それをサイノスお兄様に話せば、少し複雑そうなお顔になった。

「暗部はあくまで下の位置につく者だからな?   フォックスは少し特殊だが、今までセリカを護ってくれてたんならエディも咎めはしねぇよ」
「良かった……」

 エディお兄様がカティアちゃんとバルにいらした日の夜にこっそりと私の身辺調査の依頼をされたと聞き、もう隠し立て出来ないと覚悟はしたが……ずっと見守ってくれてたフォックスさんの処罰がどうなってしまうか気がかりだった。
 けれど、サイノスお兄様がこう言ってくださるならば、エディお兄様も神王として重い処罰を下すことはないだろう。憶測でしかないが。

「それと、頼んでたのはもらってきたか?」
「あ、うん。入れてきたよ」

 少し大きめの黒いトランクを取り出し、鍵を開けてから彼に渡した。
 受け取ったお兄様は躊躇わずに蓋を開けられた。

「……そうだな。この生地とかは俺ら六大侯爵家じゃなきゃ身につけられねぇやつだ」

 取り出したのは、ところどころ破れてはいても上質だとわかる貴族令嬢の服だ。
 もちろん、今の私じゃ着れないくらい小さいもの。
 あの日、川に流されて打ち上げられた場所から、意識を朦朧とさせながらもシュレイン近くの崖まで歩き続けたせい。
 100歳の幼子がよく出来たことだと思うが、記憶を失ってた当時は大将さんに見つけてもらった時にこれでもかと泣き叫んで抱きついていた。
 心が不安と恐怖で埋め尽くされて、何の惜しみもない優しさが嬉しかったせいだと思う。
 もうあのように泣くなど恥ずかしくて堪らないが、ついこの前にこのお兄様とエディお兄様の前でやらかした。
 そして、この後も家族の前できっと……。

「物的証拠は、これとフィーの術があれば完璧だな?」
「フィー……って、もしかして……フィルザス神様?」
「おう。今訳あって城にいるんだ。近いうちにお前とも会いたいって言ってたな?」
「私、に?」
「お前をずっと捜索してたのもあんだが、なんか話したいことがあるそうだ」

 創世神様が私に一体何を?
 それはサイノスお兄様にも話してもらえなかったと言われたので、その時が来るのを待つしかない。
 少し緊張と不安が押し寄せてくるが、今は考えないでおこうと頭の片隅に寄せた。
 するとここで、馬車がゆっくりと速度を落としていった。

「そんな話してねぇが、もう着いたんだな。今日は本邸じゃねぇから近いのも当然だが」

 今日は別荘地の一つにリチェルカーレ家全員が集まってるそうだ。
 サイノスお兄様の方のアズラント家は聞くところによるとお兄様だけなそう。

「お疲れ様です。到着致しました」

 完全に止まってから外からそんな声が聞こえ、私は一度大きく深呼吸をした。

「緊張すんなってのも無理あるからな?   先に降りるぞ」

 荷はそのままでいいと言われたので、彼が降りてからすぐにエスコートしてくださった。
 少しの間だったが、薄暗い馬車の中にいたせいで外の陽光が眩しく思えた。
 目を慣らすのに何度か瞬きをして、彼の手をしっかり握ってから馬車を降りる。
 踏み台に足を下ろした時、少し距離を置いたところから息を飲む音がいくつも聞こえてきた。
 すぐに見たかったが、踏み台から転けては怪我をするだけなので、ちゃんと地面に足をつけてから上体を起こした。

「……セリカ!」

 声と共にすぐ駆け寄ってきたのは、赤茶の髪が綺麗な女性だった。
 歳はエディお兄様くらいにまでなられているが、記憶の中ではしっかり覚えてた方だ。

「シアリーシャ、お姉様?」
「ええ、そうよ。セリカ」

 名前を呼べば、彼女は躊躇わずに私を抱きしめてきた。
 久しく会う姉は、昔と変わらず力が強い。
 正直、息が詰まって咳き込みそうだった。

「こら、シア!   セリカが苦しがってるよ、昔みたいに失神させたらどうするんだい?」
「ロイズお兄様、久しぶりなんだから抱きしめずにいられないでしょ!」
「いいから離しなさい」

 長兄がやって来てくれたことで、なんとか失神は避けられた。
 少し息を落ち着かせてから顔を上げれば、昔の父様そっくりの青年が少し泣きそうな表情で私を見ていた。

「ロイズお兄様……?」
「そうだよ、セリカ。お帰り」
「……ただいま、戻りました」

 本当に、ずっと待っててくれていたんだと実感出来た。
 彼とも少し抱き合ったが、すぐに両親とその側で何故か不機嫌でいる次兄のところへ行くことに。

「お帰り、セリカ」
「よく、戻って来たね」

 200年近く離れていたが、離れた時と少ししか変わっていない。
 そのことに安心出来ると、私はすぐに母に抱きついた。

「ただいま戻りましたっ」

 母のドレスを濡らしてしまうことに少し申し訳なさがあったが、自然と流れてくる涙を止めようにも出来ない。
 それは母も同じだったようで、埋められた髪に少し湿り気を感じた。
 それから父とも抱き合って同じようになってから……次兄のイシャールお兄様と向き合った。

「……イシャール、いつまで拗ねてるんだ?」
「拗ねてねぇって!」

 父がそう言うと、彼は髪や目以上に真っ赤に肌を染めて言い返していた。
 と言うことは、不機嫌だったのは先に姉が駆け寄ってきたからか。
 昔は一番次兄に懐いていた自覚はあったので、彼のところへ一番に行かなかったのが気に食わなかったのだろう。
 いつのまにか後ろにいたサイノスお兄様が可笑しそうに笑っていて……即座にイシャールお兄様に叩きのめされていた。

(うん。昔のままだ)

 もう大人だから出来ないと思ってたが、今日くらいいいだろう。

「イシャールお兄様!」
「あ?」

 強く呼んでから、私は彼に駆け寄って姉がしてくれたように抱きついていった。

「っと!……でかくなったなぁ?」
「心配かけてごめんなさい。ただいま!」
「おう、お帰り」

 精一杯の笑顔で答えれば、兄の顔も笑顔になってくれた。
 私は、今日からセリカ=エディット=リチェルカーレに戻りました。
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