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第五章 新たな一員

147.共有とこれからの役目

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 ◆◇◆







「か……カティアちゃんが、異邦人で本当の年は私と同じ?」

 秘密を打ち明けた相手は、つい先日侯爵令嬢に戻られたばかりのセリカさんだ。
 最も、打ち明けたのは僕じゃなくてエディオスさんです。もちろんこの場には他にもいつもの皆さんが勢ぞろいしている。ヴァスシードの皆さんもだよ?

「え、あ、えぇ?」

 大混乱されたようで頭が追いついてないみたい。
 これくらいな反応を見たのはサイノスさん以来かな?
 いやむしろ彼以上?

「だ、大丈夫ですか?」

 簡潔な説明くらいだったから全員立っていたので、セリカさんは特に驚きながらふらついてしまってた。
 さすがにその反応を予想していたのか近くにいたサイノスさんが受け止めてくれましたが。

「え、ええ。少しは……」

 何度か深呼吸を繰り返してから、セリカさんはサイノスさんの腕から離れた。

「そ、それと……ぜ、ゼルお兄様の御名手みなてって言うのも本当に?」
「あ……は、い」

 その説明もしたので、確認のために聞かれるとやっぱり気恥ずかしくなってきた。
 きっと顔や首とか真っ赤っかだろうが、事実であることなのできちんと答える。

「そう……え、ゼルお兄様?」

 セヴィルさんの方を見なくても大体は予想出来ちゃう。
 多分、僕以上に赤面ゆでだこ状態なはず。恥ずかしくて見れません。

「面白いだろ?   カティアのこととなるとあーなるんだぜ?」
「う、うるさいサイノス!」

 サイノスさんが茶化すように言えば、言い返すセヴィルさんの声はどもってました。

「セリカ。お前にカティアやゼルの秘密を話したのは俺の独断じゃねぇ。そこのフィーが許可したんだよ」
「フィルザス神様が……?」
「昔みたいにフィーでいいのにー」
「そ、それは出来ません!」
「えー」
「そーゆーのはあとでいいだろ。そこんとこの説明はお前からするんじゃなかったか?」
「そーだね」

 と言いながらフィーさんは大股歩きでセリカさんの側まで近づいていった。

「縁の巡り合わせは神の僕でもいじれないけれど、セリカはついこの間までほとんど市井しせいの子達と変わりない生活をしてた。もちろん、今は六大侯爵家の一つの姫に戻ったけど……正直言って貴族令嬢達との縁はほとんど薄い。だから、慣れる前の段階にカティアの家庭教師として接してもらおうって思ってね?」
「「家庭教師⁉︎」」

 僕も事情は聞いてなかったから、そのことについては初耳だった。
 だからセリカさんとほぼ同時に声を上げてしまったのだ。

「あー、適当に割り振ったんじゃないよ?   君は市民科を一応大学部まで卒業してるし職員の見習いでもあったんだから、教師役は最適だと思ってね。それにカティアに教えたい内容は貴族側よりも君が学んでた方がいい。君は君で少しずつそっちの教養は身につけるだろうけど」
「わ、私で、いいんですか?」
「もちろん。あとは、短期間でも会話したことがある相手と交流していく方が少しは気が楽になるでしょ?   仕方ないとは言え今は幼馴染み全員が何かしらの役職持ちだから、こう言う風に集まれる時間は限られてるし」

 今日は僕のお願いで全員集まってもらったんだーと、フィーさんは舌を出してお茶目に答えた。

(けど、食事やおやつとかには割りかし集まってるよね……?)

 今言うとセリカさんを更に混乱させてしまうだろうから、僕もここは黙っておこう。

「あ、カティアの秘密を話したのは君の努力を見て伝えようって決めてね?     事情はあれだったけど、僕の目をかいくぐって200年近くも行方をくらましてたんだ。それくらい我慢強い子にならいいと思ったし、何よりエディ達の幼馴染みだもの。これってないくらい信頼出来る要素があるよ?」
「も、もったいなきお言葉ですっ」
「だから昔みたいに砕けた付き合いでいいのにー」
「む、無茶を言わないでください!」

 せっかくいいお話してたのに、相変わらずマイペース自由人っぷりを発揮されてるから台無しだ。
 けどまあ、緊迫してる空気よりずっといいから他の皆さんは苦笑いされてるだけだった。

(話すって決めた時ははらはらしちゃったけど……とりあえずは大丈夫そうかな?)

 僕のためであるのはもちろんだが、ほとんどはセリカさんのためだ。
 フィーさんの言う通り、子供の頃付き合っていたご友人とは大分疎遠になってしまったから、貴族のお嬢様に戻られたことを正式に発表されても関係が同じようになるかと言うとそれは怪しい。
 なにせ、成長期と思春期の大半を一般人の中で過ごされたそうだから、きっと奇異の目で見られることはあるだろう。
 いくら綺麗で可愛い容姿を持っていても、ついてしまったレッテルは剥がすことは出来ない。貴族としての教養をこれから身につけられるとしても、家族や身内はよくったって周囲は黙ってないはずだ。
 だから救済措置として、僕との交友関係を築く時間をフィーさんもだけどエディオスさん達が提案されたんだろうね。僕はもう正式にエディオスさんのお客様として公表されてるし、その家庭教師役となれば嫉みはされても悪くないお役目として認識されるはず。
 僕も付き合いは短くても、セリカさんを悲しませる環境は極力作りたくないと思ってるもの!

「じゃ、家庭教師とかの日程はおいおい決めるとしてー。セリカは敬語外す練習頑張ろっか?」
「え、何故……?」
「僕も嫌だけどー……君の幼馴染みほとんどが嫌がってるよぉ?」
「そうよ、セリカ!」

 これに挙手されたのはアナさんだった。

「わたくしと貴女は30歳くらいしか歳が離れていないのだから公式な場以外では昔のようにしてちょうだいな!   無理があるのはたしかだけど、貴女がわたくしに敬語を使うのは少し……いえ、結構違和感があるわ!」

 アナさんがタメ口調なのは初めて聞くけど、こんなにしゃべるのも初めて見た。
 普段は料理の感想以外相槌が多いからかな?
 あとテンション高いのはお着替えごっこ……。

「で、ですが、アナお姉様……」
「呼び方はそれでいいけれど、敬語はダメ!」
「リュシア?   それなら私ともいい加減敬語抜きに話せない?    セリカもいいわよ?」
「「それは恐れ多くて出来ません(わ)!」」
「……息ぴったりね」

 僕だって出来ないからぷるぷると先に首を振った。

「残念だわ。これをきっかけにもっと打ち解けた付き合いがしたかったのに……」
「また来ることもあるんだし、少しずつでいいんじゃないミーア?」

 ヴァスシードの皆さんの滞在期間はあと数日もない。
 帰られる支度はもう済んでるらしく、出立日まで変わらずのんびりと過ごされています。
 僕も僕で今日までは式典前と変わらないのんびりとした日々を送ってたよ?   ただ、あれだけ体を動かしてた日々から抜け出すと……少し物足りない。なので、ほぼ毎日ファルミアさんと差し入れのお菓子やピッツァを作ったりしてました。

「……そうね。じゃあ、明日にはカティご希望のエクレア作りをしましょうか?   セリカもバルの手伝いでクッキー作りをしていたのなら挑戦してみない?」
「え、え、ひ、妃殿下。何故そのことを?」
「エディが持ち帰ってきたダイラジャムのクッキーをいただいたのよ。すごく美味しかったわよ?」
「ええええぇええ⁉︎」

 まさか、親交国とは言え王妃様に食べてもらえるだなんて思ってもみなかったでしょうね。
 実はあの時いただいたクッキーは、エディオスさんが何故かフィーさんに保存魔法をかけてもらってから全員に行き渡るようにお裾分けしたのだ。
 僕はバルでいただいたけど、腕前はファルミアさんといい勝負だと思います。

「ええ、美味しかったわよセリカ。イシャールお兄様の妹君の貴女ならって頷けるくらいだったわ!」
「そ、そうで……えと、そう……かな?」
「あ。あれイシャールにも渡しといたぞ?   名前は伏せといたが」
「え、エディお兄様⁉︎」

 ちょっとずつちょっとずつ、セリカさんの殻が剥がれていく。
 昔はこれにイシャールさんや他の幼馴染みさんも加えてもっと賑やかだったんだろう。
 セヴィルさんは積極的に輪に入らないのは相変わらずなのか、少し距離を置いて彼らを見守っていた。

(……ここに僕が入ってていいんだろうか?)

 いくらセヴィルさんの御名手と言う婚約者って理由があったって、体がこのままじゃそれは公表出来ない。
 それとは別に……僕自身の気持ちがはっきりしていないのもある。

(せ、セヴィルさんは、ああ言ってくれたけど……)

 デート以降特に接触もなく、差し障りない挨拶か会話くらいしかしていない。
 好意的なのはわかってるけど……あまりにも普通だから時々嘘だったんじゃとか勘違いしそうだ。
 こう言う気持ちになるのは、僕が記憶を封印された以降強い恋愛感情を抱いたことがないせいもあるんだろうね。ほとんど恋愛初心者だから、気持ちが理解出来てないのだ。

「……ティア。カティア、どうした?」
「ふゅぅ?」
「え?」

 クラウは抱っこしたままだからわかるけど、なんでセヴィルさんの声がこんな近くに?
 知らずうつむいてた顔を上げれば、綺麗な瑠璃色が視界いっぱいに入ってきた。

「うぇ⁉︎」

 思わず変な声を上げてしまった。
 だって、無理ないでしょう?
 セヴィルさんのご尊顔が至近距離にあって目が合っちゃえば⁉︎
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