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第五章 新たな一員
156.グリフォン飛行デート
しおりを挟む「では行くぞ」
飴を半分くらい舐め終えた頃には浮き島も上空高く浮かび上がっていて、セヴィルさんとフェルディスの準備も万端になったようだ。
セヴィルさんが声をかけたと同時にフェルディスは浮き島の地面を軽く蹴って、翼を大きく動き出した。
グゥルァアアアアアアアアア!
ディシャスとはまた違った雄叫び。
鳥の顔だけど、猛獣に近い感じだ。ちょっと冷静になれたのはディシャスで少し慣れたからかも。慣れってすごい。セヴィルさんとの密着は一向に慣れる気しませんが!
「ふーゅふゅぅ!」
クラウはどっちにしても楽しいからか、きゃっきゃと手足をばたつかせていた。
フェルディスの翼がある程度動いたところで彼?彼女?は地面を蹴り上げて宙に浮いて駆け出した。
(安定感……で、安心出来るなぁ)
それくらいフェルディスの空中飛行は快適でした。
飴の効果ももちろんあるだろうけど、それ以上にセヴィルさんがゆっくりしてくれてるので酔うことはなかったです。
ただ一個問題なのは、景色を眺めようにもセヴィルさんの吐息とかがダイレクトに髪に伝わってくるんで落ち着かない!
「……気分が悪くなったか?」
「い、いえ……」
こんな風に声をかけられるだけで髪から伝わった吐息で肌がぞわぞわしてきちゃう!
ここまで密着することなんて、最初のデートでの最後以来だからドキドキしないわけがない。身内のお兄ちゃん達にだって、歳が離れてるから小さい頃はテレビを見る時とかにこうしてもらった記憶はあるけど……緊張感が全然違います。やっぱり意識してるから?
「あと四半刻程で着くから、この体勢は我慢してくれ」
30分もこのまま⁉︎
エディオスさんの時は酔ってそれどころじゃないから気にはしてなかったが、素面?の状態でそんな時間密着が続いて果たして耐え切れるか。
これ今行きだから帰りもだよね?
大丈夫か僕!
◆◇◆
違う意味で疲れました。
「…………大丈夫、か?」
「ふゅぅ?」
二人に心配されるのも無理なかった。
僕は全身が熱くなって、息も絶え絶えにぐったりしてしまったからだ。
意識し出すともう頭の中が沸点越えまくってさあ大変がぐるぐる続き……今のような状態になってしまったんです。
「と……とりあえずは、大丈夫……です」
「どこも大丈夫そうには見えぬが……」
「む、無理はしてないですから! も、目的地ってまだですか?」
話題そらしをしてないと、いつまで経っても意識しまくる方になっちゃうから苦肉の策だけど。
「……もうじきだ。少し下を見れるか?」
言われて少し密着度を緩めてくれたのでクラウごと上体を前に倒せば、眼下には薄っすらと雲がかかってたけどその下には緑に混じって真っ白な絨毯が見え隠れしていた。
「うわぁ! あれってなんですか?」
「ルーキゥの花の群生地だ。もう少し奥に行けば地平線まで続くほどあるそうだ」
そうだと言うことは聞いた話なんだろう。
なら、思い当たるのはユティリウスさんやフィーさん辺り。エディオスさんは勝手なイメージだけど、食事以外の目的で散策って少なそうだから。大変失礼なことではあるが。
セヴィルさんは手綱を捌いて、フェルディスを花の絨毯とは別の薄緑の絨毯のところまで飛ばせた。
到着するなり、フェルディスは大きく翼をはためかせてゆっくりと草の絨毯の上に着地しました。降り方まで懇切丁寧にこちらを気遣うのは紳士過ぎる。って、この子の性別聞いてないから紳士は失礼かもしれない。
「では、降りるか」
降り方も予想は出来てたんで、しっかりクラウを抱っこしたまま僕はお姫様抱っこされてセヴィルさんに降ろしてもらいました。
「フェルディス、呼ぶまで好きに飛んでていい」
「くぅるぅ……」
「どうした、珍しいな?」
セヴィルさんが声をかけてもフェルディスはすぐに飛び立たずに首をしょげた?感じになった。
すると、いきなり僕らに顔を寄せてきて、主人のセヴィルさんに甘えると思いきや嘴を僕の顔の前まで近づけてきた。
「え、え?」
「……触って欲しいそうだ」
「僕に?」
質問を返せば、セヴィルさんはこくりと頷いた。
なら、僕が触るまでどこにもいかないのならするしかないか。
クラウを片手で抱っこしながら、空いてる手で嘴に恐る恐る伸ばせば……ちょんと触れても動くこともない黄色の嘴はディシャスの鼻とは違った意味でつるつるしていた。感触的には歯に近いかな?
そろそろ触っていると、フェルディスは嬉しいのか喉を鳴らすように声を上げてくれた。何回か繰り返し撫でて上げたところでやっと僕らから離れ、軽く地面を蹴ってから空へと飛び立っていった。
爆風が凄かったんで、恥ずかしさも忘れてセヴィルさんにしがみつくくらいの凄さだった。
「……引き寄せてしまうもの、か」
完全に風がおさまってからセヴィルさんがそんな言葉をつぶやいた。
「え?」
「いや、以前ディシャスに聞いたが……お前の魔力は微量ではあっても質が桁違いだそうだ。だから聖獣がこぞってお前に触れたがるらしいが」
そう言いながら僕を降ろしてくれた時の表情は、苦笑いに近かった。
「ディシャスがですか?」
「ああ。主人が許可を出せば、他者にも交信させることが出来る。クラウが生まれた日に俺とエディオスが獣舎に行っただろう? あの時に聞いた」
たしか、僕がクラウにパンツェロッティを作ってる最中だったような。
聞くに主人と守護獣との交信可能な契約は、幼少期でも可能でなくはないが大抵は成長期段階で守護獣から語りかけるそうだ。
そして、主人が許可をすれば他人に交信パスを繋ぐことも可能らしい。
「クラウも、いずれは可能なはずだ。だが、神獣は基本俺達と関わりがない故に期間がどれほどかかるかはフィルザス神に聞かねばな」
「セヴィルさんの場合はどうだったんですか?」
「そうだな……だいたいが、カティアの今の体よりいくらか幼かったが」
「ってことは」
最低でも数十年はかかるかもしれないってことですか。
僕の体はフィーさんによって創り変えられたからこの世界の常識と同じ寿命があるそうだが……しばらくどころで済まない期間もクラウとおしゃべり出来ないのは少し寂しい。
けれど、元の常識を思えば意思疎通が少しでも出来るからいい方かな?
「ふゅぅ?」
まだ難しい言葉は理解出来ないクラウは、僕の腕の中でこてんと首を傾げるだけだった。
「それより、行くか」
「そうですね」
今の正確な時間はわからないが、出てきたのはお昼より少し前くらいだった。
が、ここで今日はただのお出かけじゃなくてデートだって言うのを再認識してしまい、急に緊張感が高まってきた。
「どうした?」
「い、い、いえ……その」
立ち止まってくれましたが、正直に言うとセヴィルさんもきっと恥ずかしがってしまうだろう。
僕もだけど、恋愛事について彼は過敏に反応する傾向が強い。お顔以外に真っ赤っかになるとか、慌てるところとか。
「…………そう、言えば……今日は逢引だったな」
とか考えてたらセヴィルさんが目的思い出してしまった!
その言葉にあわあわと口が上下に動いてクラウをきゅっと抱きしめてたら、目の前が少し暗くなった。
なんだろうと顔を上げれば、大きな手がこちらに差し出されていました。
「少しは、らしいことをするか……?」
手の向こうに見えた綺麗な顔は、照れ臭そうにしながらも微笑んでいた。
そのカッコよさに顔が熱くなってきたけれど、僕は何故か迷うことなく自分の片手を彼に差し出していた。
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