【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第六章 実り多き秋の騒動

203.恋愛相談と過去

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 ◆◇◆






 まさか、自分より小ちゃい子に言われるとは思わなかった。

(じじじ、自覚は、してるんだろうけど……)

 アイシャちゃんが言ってたように『大好き』って思っているかは、正直わからない。
 焦ったり慌てたりはしたが、受け入れたかと言われれば違うと答えてしまうだろう。

(それだけ僕は、あの事・・・を引きずってるんだ……)

 それにも気づいてしまった最近、特に考えないようにしていた。
 だから、他の人に指摘されたせいで思い出してしまった。

「それで、私に?」
「す、すみません……」
「謝ることはないわ」

 チェイシアの皆さんをお見送りしてから、まだお城に残っていたセリカさんを識札で呼んで、僕の部屋に来てもらいました。
 他には遊び疲れたクラウがベッドで寝てるだけだ。

「むしろ、協力出来るなんて嬉しいわ。でも、私だけでいいの?」
「アナさんだと、興奮しちゃって逢引の計画とか色々されそうですから……」
「ああ……」

 ないとは言い切れないから、今回は呼ばなかったのだ。

「で、ゼルお兄様が好きでも、恋愛としての好きかどうかだったかしら?」
「は、はい……」
「んー……向こうでは、ほとんどが自由恋愛だったのかしら?」
「そ、そうですね。僕の国の王室の人も、身分はともかくほとんどそうらしいです」

 王室には負けても、結構位の上の人だったらしいから本当に一般の人とも言えないが。

「そう。なら、余計に御名手の慣習がまだ根強いこの城の人達じゃ、共感出来る部分は少ないわ。私も市井にいなきゃ、好きな相手のことは『御名手だからなのかも』と思ってたもの」
「アナさんもですか?」
「お姉様はご自分のお母様のこともおありだったから、御名手はもちろんだけど恋愛婚にはとても憧れているの。サイノスお兄様がどのように想われてるかはわからないけどね?」

 実はあの人もそうですとか実は御名手ですとか言いたいけど、多分伝わってしまうだろうからこれについてはお口チャックだ。

「で、カティアちゃんはだけど……初めてお会いした時は覚えてなくても、今は好き?   人としてよ?」
「す、好き……です」

 それについてははっきりわかってるが、やっぱり言うのは恥ずかしい。

「じゃあ、そこがわかってるなら恋愛面もきっと大丈夫よ」
「え?」
「私も、ここからいなくなる前は御名手なのかもって、エディお兄様を好きなのかと思っていたの。けど、記憶を失って、戻ってしばらくしてからそうじゃないと思い直していたわ。お兄様だから、好きなんだって」

 そう言いながら微笑むセリカさんは、少し寂しそうだった。
 無理もない。
 僕とエディオスさんが見つけて、エディオスさんが説得しなきゃ、きっと戻って来なかった今。
 その生活が順調と言うのは、聞いてない僕にはわからない。
 今は、聞かない方がいいだろう。
 教えてもらえるまで、僕は聞かない。

「今は贅沢だわ。ほとんど毎日お兄様にお会い出来るもの。気持ちがいつバレそうになるかハラハラしてしまうわ」
「……そう考えると、僕も贅沢ですね」

 短い時間でも、会えるのはセリカさんと同じだ。

「お互い、急がなくていいと思うの。さっきも言ったけど、御名手の慣習は王族やその縁戚程根強いから……ある意味自由恋愛に近いわね。そのおかげで、周りから強制的に相手を押し付けられることがないらしいの」
「でも、あんまり外出出来ない今じゃ……例えば、舞踏会を催いて、とかは?」
「そ、そうね。あったかもしれないわ……」

 僕らじゃ予想しか出来ないし、実はセリカさんだとはまだ言えないから、これについては考えないことにした。

「話題が逸れたけど、カティアちゃんには踏み込めない何かがあるの?   聞いてもいいのかしら?」
「ちょっと、聞いて欲しいです」

 過ぎた事だし、言われた相手には二度と会えなくても、僕の中にはずっと残ってしまってる。
 用意した紅茶をひと口飲んでから、僕は小さく息を吐いた。

「僕、前いた世界じゃもっと髪も短くて色も茶ががった黒だったんです」

 目も茶色の典型的な日本人。
 髪が短いのも、別に現代人としては普通だ。
 料理をするのに長い髪だと邪魔だなって個人的に思ってから、縛ることもせずに美容院ではいつも短いのをお願いしていた。
 だからか、私服もスカートは似合わないと思ってお兄ちゃん達のお下がりを着てたし、よく男に間違われた。

「あ、あえて男の人の格好を??」
「向こうじゃ、スカートじゃない女性の服もあるんですが、僕の場合お兄ちゃん達がいたからもらってたんです」

 だから、中学生に上がってから少ししてそれで図書館に行くと、同級生の男の子に驚かれた。
 驚かれたけど、特に声をかけて来ることもなくその子は去っていき、僕も自分の用事を済ませた。
 だが、週明けの教室で、唐突に言われた。


『お前スカートよりあっちの方が似合ってるよ』


 何気ない一言。
 別にからかいではなかったけど。
 妙に、自分の中に突き刺さるような感覚を覚えた。
 その男の子は、当時も親友だったツッコミ親友に叩きのめされ、無理矢理僕に謝罪するように言われて謝ってくれた。
 以降、その子とは普通に挨拶はかわしても特に接触することもなく、中学を卒業してからは会わなかった。

(たった、それだけだけど……)

『僕』と使わずとも、『男』として見られてしまったのは、少なからず僕自身傷ついた。
 かと言え、スカートを選ぶ気にもなれずに制服以外は、購入するのも自然とお下がりと似たのを買うようになっていた。
 就職してからは多少化粧を始めたし、服装の感じも女性らしくするように心掛けてみた。
 けど、恋愛については、ほんとにからっきし。
 淡い想いを抱いても、どこかで自分は男に見えるだろうと諦めていた気がする。

「そのせいか、余計に自信、持てなくて……」

 少しずつ自覚してきたこの想いは本物かどうか。
 誰かに打ち明けたかったのだ。

「…………よく、言えたわね」
「う?」

 いきなりセリカさんが立ち上がったかと思えば、僕の方に来て抱きしめてきた。

「ゼルお兄様には言えなかったでしょうね。絶対会えない相手でも、好いてる人を傷つけたのなら世界を越えてでも呪いをかけたでしょうから」
「……やりそうですね」

 昨日僕を誘拐しちゃったカイツさんへも随分怒ってたから。
 イシャールさん達が言わなきゃ、絶対何かされたはずだ。

「けど、酷いわ。女の子の服装について似合う似合わないなんてはっきり言うのは」
「まあ……ほんとに男の子のような見た目してたんで」
「それでも、女の子は女の子だもの!   カティアちゃんだって傷ついたから引きずってしまってたのでしょう?」
「……はい」

 短い話でも、セリカさんにはわかってくれたようだ。
 それと、あの時のツッコミ親友のように怒ってくれたから少し気持ちが楽になった。

「……今のこの髪切ったら、間違われますか?」
「やめて!   絶対ゼルお兄様が猛反対するわ!」
「あ、はぁ?」
「前はともかく、今のカティアちゃんは可愛い可愛い女の子なのよ?   もっと自分に自信持って!」
「え、えぇ?」

 前と同じ顔なのに、って言うと何故かセリカさんの目が丸くなった。

「その顔で、例の男の子が言ったの?」
「もうちょっと大きかったですが」
「……多分、照れ隠しね」
「え?」

 あの子が照れ隠し?

「学園で会う時と格好が違い過ぎたから驚いたのよ。気になってる相手が、自分よりもかっこいいか綺麗と思ったから、本音を言えずに逆の事を言ったかもしれないわ」
「そ、そうでしょうか……?」

 けど、思い返せば、ツッコミ親友も『やっかみね!』って言っていたから、あれは本当だったのだろうか?
 会ってもいないセリカさんがこう言うくらいだし。

「思うのは自由よ。そうだったのかもと思えば、少し気がまぎれると思うわ。今はむしろ、愛されてる存在がいるから自信持ちなさい?」
「あ、あ、あ、愛……っ!」

 そうは言われてるが、あれ以降の散歩では特に言われていない。
 普段通りとも言いにくいけど、少しずつ笑顔を増やしてきたから、心臓がもたないのだ。

「……そう言えば、識札を覚えたのなら自分からお誘いはしないの?」
「え?」

 急に話題を変えられて、飲みかけてたカップを落としそうになった。

「いつもゼルお兄様から?」
「そ、そうです、ね」
「カティアちゃんからもお誘いしたら?」
「で、ででで、出来ませんよ!」

 お休みの日くらいゆっくり休んでもらいたいのに。
 そう言えば、セリカさんの瞳が光った気がした。

「エディお兄様にお聞きして作ってもらえばいいんだわ!」
「は、はい?」
「すぐには無理でも、女性からお誘いしてもいいのよ?   好きかもって思ってるのならもっと行動してもいいと思うわ!」
「ちょ、ちょっとセリカさん!」

 このパワフルさと行動力、やっぱりイシャールさんの妹さんだって納得出来ちゃう。
 だが、行動される前に止めなくちゃ!

「せ、セリカさんの方は、い、いいんですか?」
「わ、私?」
「ぼ、僕だけじゃ不公平ですよ!    セリカさんも行動しなくちゃ」

 エディオスさん自身がお仕事で忙しくても、一日くらいお休みはあるだろう。
 ここ最近はイベント以来お休みがないでいるが。

「わ、わわ、私、なんかが、い、いいの、かしら……」

 今度はセリカさんがさっきの僕と同じようになってしまった。

(あ、あの人なら)

 事情を知ってるから相談に乗ってくれるかも。
 セリカさんにその相手を伝えれば頷いてくれたので、僕は識札を準備してからその人に向けて飛ばした。
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