203 / 616
第六章 実り多き秋の騒動
203.恋愛相談と過去
しおりを挟む◆◇◆
まさか、自分より小ちゃい子に言われるとは思わなかった。
(じじじ、自覚は、してるんだろうけど……)
アイシャちゃんが言ってたように『大好き』って思っているかは、正直わからない。
焦ったり慌てたりはしたが、受け入れたかと言われれば違うと答えてしまうだろう。
(それだけ僕は、あの事を引きずってるんだ……)
それにも気づいてしまった最近、特に考えないようにしていた。
だから、他の人に指摘されたせいで思い出してしまった。
「それで、私に?」
「す、すみません……」
「謝ることはないわ」
チェイシアの皆さんをお見送りしてから、まだお城に残っていたセリカさんを識札で呼んで、僕の部屋に来てもらいました。
他には遊び疲れたクラウがベッドで寝てるだけだ。
「むしろ、協力出来るなんて嬉しいわ。でも、私だけでいいの?」
「アナさんだと、興奮しちゃって逢引の計画とか色々されそうですから……」
「ああ……」
ないとは言い切れないから、今回は呼ばなかったのだ。
「で、ゼルお兄様が好きでも、恋愛としての好きかどうかだったかしら?」
「は、はい……」
「んー……向こうでは、ほとんどが自由恋愛だったのかしら?」
「そ、そうですね。僕の国の王室の人も、身分はともかくほとんどそうらしいです」
王室には負けても、結構位の上の人だったらしいから本当に一般の人とも言えないが。
「そう。なら、余計に御名手の慣習がまだ根強いこの城の人達じゃ、共感出来る部分は少ないわ。私も市井にいなきゃ、好きな相手のことは『御名手だからなのかも』と思ってたもの」
「アナさんもですか?」
「お姉様はご自分のお母様のこともおありだったから、御名手はもちろんだけど恋愛婚にはとても憧れているの。サイノスお兄様がどのように想われてるかはわからないけどね?」
実はあの人もそうですとか実は御名手ですとか言いたいけど、多分伝わってしまうだろうからこれについてはお口チャックだ。
「で、カティアちゃんはだけど……初めてお会いした時は覚えてなくても、今は好き? 人としてよ?」
「す、好き……です」
それについてははっきりわかってるが、やっぱり言うのは恥ずかしい。
「じゃあ、そこがわかってるなら恋愛面もきっと大丈夫よ」
「え?」
「私も、ここからいなくなる前は御名手なのかもって、エディお兄様を好きなのかと思っていたの。けど、記憶を失って、戻ってしばらくしてからそうじゃないと思い直していたわ。お兄様だから、好きなんだって」
そう言いながら微笑むセリカさんは、少し寂しそうだった。
無理もない。
僕とエディオスさんが見つけて、エディオスさんが説得しなきゃ、きっと戻って来なかった今。
その生活が順調と言うのは、聞いてない僕にはわからない。
今は、聞かない方がいいだろう。
教えてもらえるまで、僕は聞かない。
「今は贅沢だわ。ほとんど毎日お兄様にお会い出来るもの。気持ちがいつバレそうになるかハラハラしてしまうわ」
「……そう考えると、僕も贅沢ですね」
短い時間でも、会えるのはセリカさんと同じだ。
「お互い、急がなくていいと思うの。さっきも言ったけど、御名手の慣習は王族やその縁戚程根強いから……ある意味自由恋愛に近いわね。そのおかげで、周りから強制的に相手を押し付けられることがないらしいの」
「でも、あんまり外出出来ない今じゃ……例えば、舞踏会を催いて、とかは?」
「そ、そうね。あったかもしれないわ……」
僕らじゃ予想しか出来ないし、実はセリカさんだとはまだ言えないから、これについては考えないことにした。
「話題が逸れたけど、カティアちゃんには踏み込めない何かがあるの? 聞いてもいいのかしら?」
「ちょっと、聞いて欲しいです」
過ぎた事だし、言われた相手には二度と会えなくても、僕の中にはずっと残ってしまってる。
用意した紅茶をひと口飲んでから、僕は小さく息を吐いた。
「僕、前いた世界じゃもっと髪も短くて色も茶ががった黒だったんです」
目も茶色の典型的な日本人。
髪が短いのも、別に現代人としては普通だ。
料理をするのに長い髪だと邪魔だなって個人的に思ってから、縛ることもせずに美容院ではいつも短いのをお願いしていた。
だからか、私服もスカートは似合わないと思ってお兄ちゃん達のお下がりを着てたし、よく男に間違われた。
「あ、あえて男の人の格好を??」
「向こうじゃ、スカートじゃない女性の服もあるんですが、僕の場合お兄ちゃん達がいたからもらってたんです」
だから、中学生に上がってから少ししてそれで図書館に行くと、同級生の男の子に驚かれた。
驚かれたけど、特に声をかけて来ることもなくその子は去っていき、僕も自分の用事を済ませた。
だが、週明けの教室で、唐突に言われた。
『お前スカートよりあっちの方が似合ってるよ』
何気ない一言。
別にからかいではなかったけど。
妙に、自分の中に突き刺さるような感覚を覚えた。
その男の子は、当時も親友だったツッコミ親友に叩きのめされ、無理矢理僕に謝罪するように言われて謝ってくれた。
以降、その子とは普通に挨拶はかわしても特に接触することもなく、中学を卒業してからは会わなかった。
(たった、それだけだけど……)
『僕』と使わずとも、『男』として見られてしまったのは、少なからず僕自身傷ついた。
かと言え、スカートを選ぶ気にもなれずに制服以外は、購入するのも自然とお下がりと似たのを買うようになっていた。
就職してからは多少化粧を始めたし、服装の感じも女性らしくするように心掛けてみた。
けど、恋愛については、ほんとにからっきし。
淡い想いを抱いても、どこかで自分は男に見えるだろうと諦めていた気がする。
「そのせいか、余計に自信、持てなくて……」
少しずつ自覚してきたこの想いは本物かどうか。
誰かに打ち明けたかったのだ。
「…………よく、言えたわね」
「う?」
いきなりセリカさんが立ち上がったかと思えば、僕の方に来て抱きしめてきた。
「ゼルお兄様には言えなかったでしょうね。絶対会えない相手でも、好いてる人を傷つけたのなら世界を越えてでも呪いをかけたでしょうから」
「……やりそうですね」
昨日僕を誘拐しちゃったカイツさんへも随分怒ってたから。
イシャールさん達が言わなきゃ、絶対何かされたはずだ。
「けど、酷いわ。女の子の服装について似合う似合わないなんてはっきり言うのは」
「まあ……ほんとに男の子のような見た目してたんで」
「それでも、女の子は女の子だもの! カティアちゃんだって傷ついたから引きずってしまってたのでしょう?」
「……はい」
短い話でも、セリカさんにはわかってくれたようだ。
それと、あの時のツッコミ親友のように怒ってくれたから少し気持ちが楽になった。
「……今のこの髪切ったら、間違われますか?」
「やめて! 絶対ゼルお兄様が猛反対するわ!」
「あ、はぁ?」
「前はともかく、今のカティアちゃんは可愛い可愛い女の子なのよ? もっと自分に自信持って!」
「え、えぇ?」
前と同じ顔なのに、って言うと何故かセリカさんの目が丸くなった。
「その顔で、例の男の子が言ったの?」
「もうちょっと大きかったですが」
「……多分、照れ隠しね」
「え?」
あの子が照れ隠し?
「学園で会う時と格好が違い過ぎたから驚いたのよ。気になってる相手が、自分よりもかっこいいか綺麗と思ったから、本音を言えずに逆の事を言ったかもしれないわ」
「そ、そうでしょうか……?」
けど、思い返せば、ツッコミ親友も『やっかみね!』って言っていたから、あれは本当だったのだろうか?
会ってもいないセリカさんがこう言うくらいだし。
「思うのは自由よ。そうだったのかもと思えば、少し気がまぎれると思うわ。今はむしろ、愛されてる存在がいるから自信持ちなさい?」
「あ、あ、あ、愛……っ!」
そうは言われてるが、あれ以降の散歩では特に言われていない。
普段通りとも言いにくいけど、少しずつ笑顔を増やしてきたから、心臓がもたないのだ。
「……そう言えば、識札を覚えたのなら自分からお誘いはしないの?」
「え?」
急に話題を変えられて、飲みかけてたカップを落としそうになった。
「いつもゼルお兄様から?」
「そ、そうです、ね」
「カティアちゃんからもお誘いしたら?」
「で、ででで、出来ませんよ!」
お休みの日くらいゆっくり休んでもらいたいのに。
そう言えば、セリカさんの瞳が光った気がした。
「エディお兄様にお聞きして作ってもらえばいいんだわ!」
「は、はい?」
「すぐには無理でも、女性からお誘いしてもいいのよ? 好きかもって思ってるのならもっと行動してもいいと思うわ!」
「ちょ、ちょっとセリカさん!」
このパワフルさと行動力、やっぱりイシャールさんの妹さんだって納得出来ちゃう。
だが、行動される前に止めなくちゃ!
「せ、セリカさんの方は、い、いいんですか?」
「わ、私?」
「ぼ、僕だけじゃ不公平ですよ! セリカさんも行動しなくちゃ」
エディオスさん自身がお仕事で忙しくても、一日くらいお休みはあるだろう。
ここ最近はイベント以来お休みがないでいるが。
「わ、わわ、私、なんかが、い、いいの、かしら……」
今度はセリカさんがさっきの僕と同じようになってしまった。
(あ、あの人なら)
事情を知ってるから相談に乗ってくれるかも。
セリカさんにその相手を伝えれば頷いてくれたので、僕は識札を準備してからその人に向けて飛ばした。
21
あなたにおすすめの小説
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる