【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第六章 実り多き秋の騒動

205.下された処罰(カイツ視点)

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 ☆      ☆      ☆      ☆      ☆      ☆(カイツ視点)







 あれから二日。
 副将軍閣下がおっしゃった通り、上司のハインツ様には多大なお叱りを受けたが、咎めはそれだけで済んだ。
 それは閣下がお受けになられたあの少女からの言葉を伝えられたのか、ハインツ様からは本当に特に何もなく処罰を受けるのを待つだけとなる日々。
 同僚や他の先輩達には伝わっていないのか、いつも通りだ。いつも通り過ぎて、日を追うごとに罪悪感が募っていってしまう。
 いくら魔法省の人間とて、政務に全く関わらないわけではない。
 そう、そこが俺の胸を蝕む罪悪感だった。

(本人は気にせずともいい言っていたが、王族の遠縁の方だったなんて……っ‼︎)

 まだ俺のような下っ端には公表出来ない事実だったから、俺は行動を起こしてしまった。
 知ってたら、あんな大胆な行動をしなかった。
 悔いても遅過ぎるのはわかるが、小心者の俺が行動しなければ親父達に申し訳が立たなかったのだ。
 それほど、偽物でもあの少女が生み出したデザートは美味過ぎたのだから。

(そんな俺を責めるどころか、自分が悪いと言うだけでなく対策まで考えてくれるなんて……)

 閣下も仰ったように、情が厚過ぎる。
 あと、年齢詐欺かと疑うくらい子供らしくない。
 100以下のはずなのに、俺と世代が変わらないくらい落ち着き過ぎていた。
 方陣で捕まえた時も、俺が始めから頼み込む勢いだったのか呆気な表情でいたし。

「カイツ。副将軍殿から識札が来た」

 考えながらいつも通り仕事をしていると、ハインツ様にそう言われて肝が冷えた気分になる。
 早くもないが遅くもない。
 処罰が、とうとう決まったのか。
 俺は一度息を吐いてから彼の席に向かう。

「……内容だが、とりあえず中層の食堂に来いとの事だ。詳しい内容は、そこですべて伝えると。私にも他の事は追って知らせるとしかない」
「……それだけ、ですか?」
「ああ。お前も読んでみろ」

 嘘だろと思ったいたら、ハインツ様は本当に俺にも見せてくれるようで札の中身を広げてくれた。
 慌てて拝借して読めば、本当に処罰については一切書かれていない。
 ただ、今日の仕事は終わらせてからと但し書きがあった。

「その通りだ。引き継ぎ出来るものはしてから行け」
「は、はい!」

 まだ頭の中が追いついていないが、やるべき事はしなくてはと急ぐことになった。

(……なんで、先に代替案を教えてくれるんだ?)

 少し落ち着いてから行き着いた答えはそれだ。
 あの子が言ってくれた、俺の家のために考えてくれる事。
 てっきり、もっとかかると思っていたから謹慎にされた時にでも受け取るだろうと頭の隅に置いていた。
 それがこんな早く出来るなんて、あの子は噂でも実際会ってわかった通り、やはり『神童』と言う事だろうか。
 とにかく、行ってみてから判断しようとすべてを終わらせてから食堂に向かった。

「い⁉︎」
「……よぉ」

 あまり面識はないが、知っている相手だ。
 今でこそ中層の料理長と言う立場でも、彼は六大侯爵家の次男。
 つまり、あのカティアちゃんとも遠縁にあたる御方だ。
 おまけに将軍閣下かそれ以上に体格も顔立ちも男前過ぎて、不機嫌さが露わな今の表情が滅茶苦茶怖い!
 彼が今の地位にいなければ絶対御目にかかれない方だが、何故食堂の入り口で待ち構えていたのだろう。
 それと、明らかに俺を待っていたようだ。
 リチェルカーレ料理長は、腕組みをしながら扉にもたれかかっていたが、俺と目が合えばしばらく思考を探るように見てきたがすぐに焔のような瞳を一度閉じた。
 そして、俺の前までやってくると必然的に俺は見上げる形になるが、見下ろしてきた彼は物凄い速さで俺の額を弾いてきた!

「い゛っ⁉︎」
「カティアに免じてこれくらいにしてやる。俺の今の立場じゃ、ジェイルのように処罰を下すのは出来ねぇからな」
「……は、はい」

 この人、下手したら将軍閣下方に負けない程だろうに、何故料理人の道を選んだのだろうか?
 疑問に思っても口出し出来る側じゃないので、その疑問は飲み込むことにした。
 とりあえず入れ、と彼について行くこととなり、食堂の中でもかなり奥に連れてかれた。

「ほんとは部外者は禁止してんだが、今日は仕方ねぇからな?」

 連れて行かれたのは、厨房の中でも奥の部屋だ。
 料理人達の休憩室のようで、十数人が座って休めるようなところ。
 そこに、カティアちゃんと副将軍閣下が仲良く話していた。

「薄焼きケーキも種類がもっとあるんですよ?    型を使ったり、材料の力でふわふわに出来るんです」
「それは興味深い!」
「あとソースや添え物も、甘かったり酸っぱかったり色々ですねー」

 ぱっと見ただけなら、年の離れ過ぎた兄妹か叔父と姪のように見える。
 この間の時は仕方なくても、随分と打ち解けてるようだ。それとカティアちゃんは作ってもらったのか、青い料理人用の服を着ていた。

「おい。盛り上がってんとこ悪いが連れてきたぜ?」
「あ、はい」
「……来たか」

 あれだけ高揚していた表情を一気に切り替えられた副将軍。
 ハインツ様以外この方しか眼鏡をかけている方をお見かけしてないが、切り替えるのに縁を上げるのは共通の癖か。
 それと、俺が来たと分かったら思いっきりじと目で見てくる。自業自得だからしょうがないことだが、カティアちゃんには苦笑いされていた。

「処罰については、カティア嬢からの情状酌量が主となって……二ヶ月の減給に三ヶ月の謹慎処分だ」
「っ、え、それだけ……?」
「もっと重くしてもいいんだが?」
「め、滅相もないです⁉︎」

 むしろ、そんな軽過ぎでいいのだろうか?
 宰相閣下だけでなく、陛下にもお伝えしただろうに……本当にカティアちゃんが言ってくれたからそれだけの処罰?
 俺は夢でも見てるのだろうか?

「ただ、謹慎中にカイツさんはご実家に帰りますよね?」
「あ、ああ……」

 あの親父だから只働きさせるつもりだろうと言うのは承知だが、彼女は知っているのだろうか?

「代替案をこれから食べていただきますので、お父さんにレシピを渡してもし作るようになるのなら、みっちり働いてください」

 やはり知っていたのは、彼女に誰かが俺の実家の事を伝えたのだろう。
 それか、彼女がシュレインに行った時にひょっとしたら覗いてくれたかもしれない。
 俺は、何も言わずに頷いた。

「じゃあ、今からイシャールさんと持って来ますねー」
「お前持つのやめとけよ」
「やっぱり小さいからですか?」
「ああ、落としそうだ」

 料理長ともやはり仲が良いらしく、あれだけ険悪な感じでいたのを引っ込めてごく普通に接している。
 だが、二人が奥に行ってしまったので必然的に副将軍と二人だけになってしまった。

「「…………」」

 男同士、しかも部署は違えど接点の少ない上司と部下が話合うなんて早々ない。
 ましてや、この方は料理長や将軍閣下に劣っても貴族の出。市井の俺なんて、宮仕えしなければ雲の上の方に等しかったのがこの間の件で接点を持ってしまった。
 つまり、この方の俺への印象は最悪だ。
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