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第六章 実り多き秋の騒動
211.夢の狭間でのお茶会(フィルザス視点)
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「ふゅ?」
「大丈夫、ここは夢の中だよ」
深い深い、僕の髪や眼よりも深い黑の闇の中。
予定通りにクラウを連れて来れたけど、向こうはまだ気づいてないのか、わざとか。
あの人の事だから、後者の可能性が強い。
「クラウ、不安なのは無理ないけど僕について来て」
「ふゅ」
僕がそう言えば、クラウは僕の頭の上に乗ってしがみついて来た。
抱っこしても良かったけど、ちょうど手を使うつもりでいたから都合が良かった。
「……導け、導け」
両手を胸の前で組んでから、ゆっくりと右、左に広げながら人差し指をそれぞれ真横に向ける。
見ずとも、指先が熱くなるのを右に感じ、左は解いてからそちらに指を向けたまま歩く事にした。
「ふゅー」
「んー? あ、ここで曲がるのか」
神獣のクラウでもこの夢路での神力の流れがわかって来たのか、僕が繋ごうとしている道筋が途切れたのを察知出来たみたい。
試しにクラウに似た方法をさせようとしたが、そこはまだまだ幼いからか感知は出来なかった。
なので、途切れては僕が探すを繰り返しながら歩き続けば……明らかに用意されていたティーセットが乗った卓と椅子がそこにあった。
「……姉様、いるんでしょー?」
わざと大声を出して呼びかければ、少ししてころころとした鈴の音に近い笑い声が響いてきた。
「相変わらず、素直じゃないわねフィー」
緑がかった地に着くように長い黒髪。
好奇心を隠さない、明るい若草の瞳。
神霊のような白装束の上に紫紺の衣。
相変わらず綺麗な人だけど、魅入ってる場合じゃないし心情は読ませない。
久しく会うからって、彼女の領域で何も出来ない僕じゃない。
「内側も読ませないって、成長したじゃない。伊達にあの世界の管理者じゃないわね?」
「からかってる場合じゃないでしょ。僕がいずれ来るのがわかってたんなら、なんでカティアの封印を強めたのさ!」
心当たりは、この人しかいなかった。
クロノ兄様も出来なくないけど、最近会ったばかりで気配は覚えてたのもあってか、そう言ったのはカティアからは感じ取れなかった。
僕が問いかければ、姉様──サフィーナ姉様は若草の瞳を緩く細めた。
「やっぱり、クロノお兄様とお会いになったからあの人ではないと思ったのね?」
「僕があの人苦手でも、そこまで馬鹿じゃないよ」
「昔はもう少し素直な子だったのに」
「姉様!」
「はいはい。答えてあげるから、とりあえず座りましょう? その神獣も困ってるわ」
「ふゅ」
僕の頭に乗ってたクラウは、姉様の言う通り不案を露わにした鳴き声を漏らした。
わざわざ連れてきた意味ないじゃないかと自分で反省し、降ろしてからぽんぽんとお腹を撫でてやった。
「夢でも、お菓子は食べれるはずだわ。神獣……クラウだったかしら? 食べる?」
「ふゅふゅぅ!」
君、餌付けされるなら誰でもいいのかな?
カティアだったら、何かしら窘めたりするだろうけど。ここは、サフィーナ姉様の領域だ。
むしろ、逆らわない方がいい。
僕はクラウを卓の上に降ろして、自分は姉様とは別の椅子に腰掛けた。
「夢現でも、こうしてお茶会なんてどれくらいぶりかしら?」
「最低1000年以上はないんじゃない?」
「そうね。他の皆とも最近を除けばそうだったわ」
姉様は、手ずから紅茶の準備をし始めた。
ただ、飲み物は紅茶と言うよりヘルネに近い。
姉様の世界じゃ、確か華草茶って呼び名だったかな?
前と言っても、神々の集いの時に出された時と同じ匂いがしたからだ。
「前に出したのとは少し別。カリカリしてる時は、甘いものがいいでしょう?」
「だーれーのーせーいー?」
「あなたには、まだ伝えれなかっただけよ。お兄様もレイもまだ気づいていないか、お祖父様のところへ行かれてるかわからない。私は、ただお祖父様からの言伝を頼まれてあの子に強化を施しただけ」
「……じい様が?」
聞き返せば、姉様は小さく頷きながらお茶が入ったカップを僕とクラウに置いてくれた。
「ふゅ?」
「湯気は立ってるけど、夢じゃそんなに熱くないはずよ。ゆっくり飲んでね?」
「ふゅ!」
クラウは欲望に忠実で、いいと言われたらとにかく口に入れてしまう。
そう言えば、この間カティアに『クラウの暴食っぷりがどうにかならないか』なんて相談されたけど、最初は良かったのに段々と自分で行動し出した兆しだろう。
ここでも、姉様が用意してくれたお菓子を全部食べちゃったらさすがに僕でも言うが。
神が用意したものを夢でも食べて、起きた時に非常に欲しくなってしまっては僕だけじゃ生産が追いつかない。
姉様の場合は夢路だから魔法でも、現実では無機物のモノ以外は自らの手で作るのが基本。
それは、どの神でも同じだ。
とりあえず、僕もお茶をひと口飲めば、姉様が言った通り花の甘味が強い美味しいお茶だった。
「さて、あなたの場合夢路の記憶は普通に残る。知った上で、あのカティアと言う少女の近くにいられるの?」
「……既に、彼女の存在の秘密を少し知ってるし。今更だよ」
姉様だって、じい様に言われたんならそれくらい知ってるだろうに。
「そうね。あの子をわざわざ転生に近い状態で異界渡りさせたのは、もう知ってるもの。他はお兄様から何かお聞きしたかしら?」
「夢路使って視たんじゃないの?」
「お祖父様に許可をいただけれたのは、あなた達が映し鏡を通じて会われたことまで。あとは、先読みも禁止されたわ。この事を知ってるのは、今私だけ。お祖母様やお父様達も、知らされてないそうよ」
益々わからない。
クロノ兄様は、特殊中の特殊だからわかるが僕達の両親やばあ様にも何も伝えずに事を運んでいる。
いったい、じい様は何をさせたいのだろうか。
僕を含める孫数人に。
「とにかく、カティアにも伝えた事だけは教えるわ。聖樹水を抜く前から、あの子の身体の変化は始まろうとしていた。御名手として、対になるセヴィルへの想いを自覚しかけた時、今の肉体が崩壊の道を辿ろうとしてたの」
「なっ⁉︎」
僕のしてきた事が、逆にカティアの身体に負担をかけていた?
「すべてあなたが悪いわけではないはずよ。でなければ、クロノお兄様があなたの神域にあの子を転送させないもの。ただ、こちらの予想以上にあの子の記憶の底に眠っていた想いが強かったのね。レイの世界は長寿でない分、短期間で成熟期を迎えるのが早い。その違いをお祖父様も見落としてたの」
「成人期が、早いのも?」
「レイの世界にしては、あれでも遅くなった方よ。昔聞いたけど、あなたの世界基準で言うのなら稀に80未満でもあったそうよ」
「えぐっ⁉︎」
今のカティアくらいの歳で成人させるってどんな神経してるのさ!
「期間については置いといて。とにかく、カティアもセヴィルが異界渡りした時に無意識下で彼が御名手ってわかってたはずよ。でなければ、これほど強い想いがずっと奥底で留まってるはずがないわ」
「その想いが、魂の中で溢れそうになった?」
「そう。それで、前世の記憶をほぼ持った状態の魂と肉体の波長にズレが生じて、どんどん亀裂となっていったの。それを補おうと、そこのクラウを引き合わせて加護をつけても遅かった」
「ふゅ?」
呼ばれたクラウは、僕の予想以上の速さでお菓子を食べまくっていた。
だが、今は食べる気も注意する気もなれないのでそのままにしておいた。
「あとは、あの子自身の埋めようがない消失感があったせいね? いくら、神の中でも最高位に近いクロノお兄様の封印を施されていても、御名手の相手を見つけてしまったら簡単には恋愛なんて出来ない。その淋しさは、未だ対が見つかっていない私達と同じと言っていいわ」
孫の僕らは、どれだけ時を重ねても独り身。
理由はある。
ある世界の神が『いない』からだ。
「たった10数年でも、そりゃ寂しいよね」
今は末っ子の僕でも、独りは寂しい。
産まれた時は、とにかく泣き虫だったくらい。
「だから、普通とは違う転生を経てセヴィルと出会えた。まだ本当の自覚を持ってない今はいいけれど、強化しなかったら魂がどうにかなってしまいそうだった。その措置をすべく、お祖父様は私だけに打ち明けたの」
「……カティアは、頷いたの?」
「ええ。これは本当のことだけど、彼女の身体を魂と同等の成長期にまで合わせるのに私達は動いている。そう言ったら、『はい』って言ったわ」
「……そっか」
カティアなら、きっとそう言うだろう。
本当に、自分の事は大抵二の次と言うか聞き分けがいいと言うか。
けど、身体がいずれ元に戻るように動いてるのなら僕もこれ以上言わないでおこう。
「僕に出来る事は?」
「今のところ、ないと思うわ。と言うのも、あなたの加護が既にあるからしばらく必要がないだけ」
たしかに、カティアには物質変換のために僕の力は注いである。
って、あれ?
「サフィーナ姉様」
「何?」
「なんで僕がカティアの身体に力注げれたの?」
「あー……なんでかしら? クロノお兄様とレイの加護が既にあるから?」
「それかじい様の加護があるから?」
「ああ、あの髪色はそう言えばそうだったわ。ごめんなさい、詳しくは聞いてないの。多分、お祖父様も答えていただけるかわからないわ」
本当に知らないのなら、僕からもじい様に会いに行くのはやめておこう。
姉様が最初に言った通り、まだ兄様達がじい様と会ってるかもしれないし。
「じゃあ、とりあえずはカティアに不調があれば知らせた方がいい?」
「そこは大丈夫。彼女との夢路はまだ途絶えさせてないの。私がまた夢路であの子に教えるわ」
「そう。強化って、しばらく保つの?」
「特に問題がなければ、最低そちらの時間流で100年は大丈夫よ」
「それなら手は出さないでおくよ」
緑は、豊穣と抱擁を意味するくらい慈しみの強い力だから。
「ああ、そうそう。来たついでに教えておくわ。目醒めが近いそうよ、彼女が」
「……え?」
いきなり重大発言されたので、僕はお茶をこぼしそうになった。
そして、意識が段々と遠退いていく感覚が頭を襲う。
姉様が、夢路から追い出してるからだ。
「ちょ、姉様⁉︎」
「続きは、多分お兄様とレイも交えた時ねー」
「ちょっとちょっと!」
「ふゅ!」
クラウも一緒になって、夢の狭間から追い出されてしまった。
「…………っくしょー」
目を開いたら、クラウと一緒に寝た枝の上だった。
クラウも目が覚めたようで、小さくあくびをしていた。
(なんて情報教えるんだよ!)
カティアの事は納得出来ても、自分の事については納得がいかない!
だって。
目醒めるって。
「……僕の、対」
兄妹であって兄妹じゃない。
出会う黑と白。
その白の世界の管理者がようやく目醒めるとなれば。
「出来ちゃう、かもしれないんだ」
僕ら孫世代の、御名手達が。
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