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第六章 実り多き秋の騒動
219.それぞれのスタート?なのか(途中別視点有り)
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走ると言っても、駆け足より少し速いくらい。
僕もだけど、セヴィルさんが目印になるポイントを見つけやすいように、だ。
そう言う途中途中の目印なんかは、フィーさんが描いたらしいデフォルメのようなマークが、線と線の間にいくつも地図の中に描いてあったからわかりやすい。
「次は、三角の岩ですね。順路は道なりで大丈夫です」
「了解した」
「ふゅぅ!」
こんな調子で、別れ道やポイントを見つけては立ち止まって確認、その後に駆け出すを繰り返していた。
ほぼずっとセヴィルさんは走りっぱなしなのに、分岐点以外では特に止まることがない。
大丈夫かなって何度か聞いたけど、『特に問題はない』とだけ。
体感時間だと30分以上も僕とクラウを抱えながら走ってるのに、本当に大丈夫なんだろうか?
昨日まで、ずーっとデスクワークされてて体をほとんど動かしていないのに。
「……セヴィルさん」
「どうした?」
「少し、休憩にしませんか?」
「俺は平気だが?」
「僕が、ちょっと喉が渇いたので」
こうして言っておかないと、ずっと走りっぱなしだ。
いくらセヴィルさんが大丈夫大丈夫と言っても、あとで万が一に倒れでもしたら、僕は何も出来ない。
わざと苦笑いすれば、セヴィルさんも小さく苦笑いしてくれた。
「そうか。俺も、少しだけ喉が渇いたかもしれない」
「じゃあ、休憩しましょう」
「ふゅぅ!」
「お水だーけ」
「……ふゅぅ」
神域でフィーさんの許可なく勝手に木の実を食べちゃういけないから、クラウにもちゃんと注意する。
お水は、水魔法で水筒に入れたものだから間違っても聖樹水じゃないので安心。
適当な岩場にそれぞれ腰掛けてから、魔法袋の中に入れておいた木のコップにセヴィルさんがお水を入れてくれ、僕はクラウの分も一緒に受け取る。
クラウの手じゃ、上手くコップ支えきれないので先に飲ませてあげた。
「はー、美味しい」
特に運動してないけど、冷たいお水は美味しい。
少し聖樹水の味を思い出したけれど、あれはやっぱり特別過ぎだったかも。
この世界に来て、今の体よりも幼児化して動き回ってから口にしたお水。だから、余計に美味しかったかもしれない。
「もう一杯いるか?」
「いいえ、大丈夫です」
あまり飲みすぎるとお花摘みに行かなきゃダメだから。
大自然の中でって、本当に今の体の歳だったら抵抗なかっただろうけど、僕は大人!
絶対、絶対距離離れててもトイレ出来るわけがない!
悟られないようにクラウの分のコップも返してから、行く前に地図を見直すことにした。
「半分、ですかね?」
「そうだな。順調と言っていいだろう」
分岐点を三つ、ポイントも三つくらい過ぎても他の二組と遭遇しない。
エディオスさん達の方がもっと速いかな?って予想しようにも、向こうじゃないからわからないや。
「んー、けど帰りも走んなきゃいけないですし」
「最悪、転移の札が使えなくもないが」
「それは最終手段ですもんね」
基本は、走って帰って来てとフィーさんに言われてるから魔法は本当に最終手段。
ズルしちゃダメとも言われてないけど、僕とセヴィルさんの性格からズルなんて出来ない。
「僕達別に一番を狙ってないですから、完走出来ればいいですよね?」
「そうだな。エディオスはいつも通りか怪しいが、サイノスとアナなら先に行ってる可能性が高い」
「やっぱり、軍人さんだから?」
「それもあるが、アナは負けん気が強いからだ」
それは、最強タッグを組ませてしまったかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(アナリュシア視点)
エディお兄様には負けませんわ!
っと、表面上はそう言う風に取り繕っているけれど。
心の中では心臓が破裂しそうなくらいに緊張しているわ!
(だってだって、今日二度目とは言えサイお兄様に抱えられるなんて……っ!)
なんで、フィルザス様の立てた催し物とは言え、想う殿方に抱えられなければならないのだろうか。
エディお兄様とセリカや、カティアさんとゼルお兄様はまだわかる。
わたくしの場合は、一方的に想い続けているだけなのに何故このような事態に?
(……いいえ。フィルザス様のことですから)
わたくしの気持ちなどとうの昔にばれていたのかもしれない。
それを知った上で、わたくしも巻き込まれたのだろう。
護衛任務も兼ねてサイお兄様を誘われたのは本当でも、わたくしだけ除け者にならないように。
(だからとは言え、想いを告げれません!)
これまでも、これからも告げるつもりはないでいたのに。
二人っきりと言うこの状態は嬉しくもあるが辛くもある。
だから、表面上はエディお兄様に負けないように振舞っているだけ。
「アナ、このままでいいのか?」
「っ、え、ええ。大丈夫ですわ! 次に紫の花の群生地を目指せばいいだけです」
「りょーかい」
サイお兄様は何も気になされずに、わたくしをしっかり抱えたまま走られている。
この状態ではお顔はほとんど見えないが、前を向いている勇ましいお顔はどんな表情でいるのだろうか?
わたくしのことなんて、幼馴染みの中でも妹分としか思われていないのだろうか。
悲しくなってしまうが、それは幾度思ったことだ。
母に似た面立ちと周囲に言われてはいても、サイお兄様の心に響かないのならなんの意味もない。
(それに、わたくしは昔一度お兄様に傷を負わせてしまったもの)
気まずくなることはなくても、わたくしはずっとあの時のことが胸に刺さっていた。
少し見上げれば目に入る、あごにある十字の傷跡。
それは、わたくしがこの方への想いをはっきり自覚した時についたものだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セリカ視点)
「背負ったら、お前の指示がわかんねぇだろ?」
「だ、だけど、お、重いし!」
「重くねぇって! 来る時も抱き上げただろ⁉︎」
女心をわかってお兄様!
そう言いたいけれど、押し問答が続いてしまってなかなか言い出せない。
それ以前に、収穫の遊戯が始められないでいた。
私が折れればいいんだろうけど、気にしてることを口に出してしまってからずっとこんな状態。
きっとカティアちゃんやアナお姉様達は始められてても、それどころじゃなかった。
「抱えてねぇと、お前だって前が見にくいだろ? 俺とお前の身長差じゃ、背負ったら俺の背で見えにくいはずだ!」
「か、抱えてたら走りにくいでしょ⁉︎」
「サイノス程じゃなくっても柔な鍛え方してねぇって! いい加減移動しねぇと、あいつらに先越されてんだからセリカは抱えられてろっ!」
「ひゃ⁉︎」
有無を言わせない気迫のまま近づいてきて、私になにかの紙を持たせてからすぐに抱え上げられた。
城から移動する前と同じ、本当に逞ましい腕に抱えられて心臓が破裂しそうになるが何故かお兄様は動かれなかった。
「え、エディお兄様……?」
「指示出すのはセリカだ。多分、緑の線だったはずだから誘導してくれ」
「あ、うん」
もうこうなっては動くしかないので、大人しく地図らしい紙を見ることにした。
お兄様が言われた通りに緑の線があり、開始地点らしい点の側には双子の木が可愛く描かれていた。
「双子の木?」
「あれか。そん次は?」
お兄様が向かれた右手には、たしかにほとんどそっくりに並んだ二本の木が植わっていた。
その後ろには茂みが少ない歩きやすそうな道が見える。
そこと地図を見比べて、私は次の指示をお兄様に出すことにした。
け、計画通りにじゃないけど、お兄様と一緒にいられる時間を無駄にしたくないからだ。
「しばらく道なりに進んで、二股のところで左!」
「よっしゃ、しっかり掴まってろ!」
「きゃっ」
いきなり助走もなく走り出されたので、私は地図を落とさないようにお兄様の胸元にしがみついた。
その時、耳に届いた鼓動に違和感を感じた。
(なんで……こんなに速いの?)
それほど、今日からの休暇を楽しみにされていたから。
無駄な時間を過ごさせてしまって、本当に申し訳なく思った。
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