チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號

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第1章

第三十八話 ダンジョンの秘密

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 カラルはお茶と軽食的な手料理などを振るまいつつ、このダンジョンについて説明してくれた。

 彼女の話を要約するとこんな感じだ。

 彼女は今から二百年前にこちらの世界に憧れて、襲撃時に展開される異世界転移魔法に便乗して、移住目的で悪魔族の世界からこの世界にやってきた。

 そして襲撃には参加せず、早々に戦場を離れる。姿をダークエルフに擬態して、各地を転々としてながら、最終的に街の近くにダンジョンが少なく、ダンジョンの立地が良かったこのシュウゼルゥトに落ち着いた。

 このダンジョンはカラルが一から創った。この世界にあるダンジョンは悪魔族の手によるものと自然発生しているものに分類される。

 彼女がダンジョンを作った最大の理由——それは夫探しだそうだ。それを聞いての俺の感想は「そんな馬鹿な……」だった。

 悪魔族の男性は夢見がちで、働こうとせず、人間の街を支配することばかり考えている。襲撃しては撃退されるといったことを繰り返しているのだが、とにかくだらしないそうだ。

  こちらの世界に来た彼女はそんな同族男性との結婚なども考えることができず、かといって普通の人間は弱すぎて、全くときめかなかった。

 理想の男性の第一条件は強いことだったが、子孫を残すことのできないエルフ、竜人、獣人は強くとも相手には選べなかった。

 ダンジョン生成し、ダンジョンの運営を始めて理想とする強い人族の冒険者が現れるのを待った。

 モンスターを配置して、訪れる冒険者たちに宝物を少しずつ分け与え、その見返りとして死亡時に精気を若干吸い取り、ダンジョンを大きくすることに使ったり、自分の力に変えたりしている。

 神の加護を得た冒険者たちは四回まで死んでも生き返ることが可能だからできることなんだろうな。まあ、冒険者家業は一攫千金狙いで、常に死と隣り合わせなわけだし、ある意味持ちつ持たれつの関係になるかのかな……。

 冒険者の心をくすぐる魅力あるダンジョンであるために、歴史的背景を創作し、お宝情報などをギルドに情報提供して、冒険者が途切れないための運営努力もしているそうだ。聞いているうちになんだかアミューズメントパークの経営かと錯覚してしまう。
 
 カラルは強い冒険者の夫候補の俺を見つけ出した。偶然にもこのダンジョンにやってきたので様子を見ていたが、驚異的なスピードで進んでくるのでかなり戸惑ったようだった。通路を閉鎖して合わないでおくべきか、それでも隠し部屋をいとも簡単に見つけてしまう能力者相手に逃げ切ることができるのか、とても悩んだそうだ。

「あんなに早く攻略してくる人なんてこれまでいなかったわ。……おまけにこの隠し部屋まで見つけてしまうのだから、慌てて隠れてしまって、出会いとしては最悪ね」と、呆れて、笑っている。

 理想とする冒険者が現れた時のアプローチ方法も入念に計画していたそうだ。

「あはは……それは悪かったな。で、どんな計画なんだ?」

「それ聞いちゃうの?……後をこっそりつけて、趣味とか好きな女の子タイプはどんな子だとか、どこでの出会いが効果的か三十項目ほどのチェックシートに記入して攻略していくのよ」

 そう言いながらアイテムボックスから手帳を取り出して、その項目を俺に見せつける。

 俺との接点のあるルーミエ、ユウキ、ノイリから遠夜見(とおよみ)の巫女の近くにいる存在と判断し、謁見のことにも気づくほどの情報収集能力は魅力的だ。

 なるほどよくわかった。話を聞いていると真面目で努力家で俺には悪い奴には思えなかった。

 カラルはアイテムボックスの秘密も教えてくれた。

「五回目の死亡の魂が消滅する時には武器、防具、財宝は倒された相手にほとんどが移譲され、食料や家具などは消えてなくなってしまうわ。アキト様が万が一死んでしまったらアイテムボックスにしまっているわらわの人形と共に私も消えてなくなるのよ」

「悪魔族は洗脳や精神操作はできないのか?」

「私たち一族の最大の能力は精気の抽出と生成、そして精気を使っての物質生成能力なのよ。そんな能力はもっていないわ」

 ふいに、アズアフィアの声が頭に響く。

『アキト、召喚してくれ』

 どうした?

『戦う意思はない、その女に話があるんだ』

 わかった。

「カラル、今からあるものを召喚するが驚かないで話をきいてやってほしい」

「わらわに話が?アキト様のお願いだったらいいよ」

「ありがとう」

 アズアフィア三十センチほどの大きさで召喚する。

「暴食の炎?」

『ああ、そうだ。悪魔族のお前にしか頼めないことだ』

「何かしら?」

『これから召喚する炎に精気を分けて癒してほしい……』

「いいわよ」

『アキト、シルヴィを小さくていいから召喚してくれ』

「わかった」

 小さくシルヴィを召喚すると弱々しく揺らめく銀色の炎。見るからに魔人との対決の傷が癒えてないのだとわかった。

 カラルの手から白色に輝く光の筋がゆっくりと放たれ、シルヴィを包み込む。みるみるうちに炎が大きくなっていく。

「もう少し強化してあげる」

 カラルはそう言ってさらに精気を送った。銀色の炎がさらに色濃くなったような気がする。

『ありがとうございます。カラル様、ご主人様。この御恩は必ずお返しします』

「わらわは別に構わないわ。アキト様のためだもの……」

『助かった、ありがとう、カラル、アキト。ゴールジュと俺はもう傷が癒えたからいつでも呼び出してくれ』

「ああ、分かった」

 そして二つの炎は消えた。

「すごいわ、アキト様!あんな炎の召喚も可能なの?間違いなくこれまでに出会った冒険者の中で最強ね!」

カラルは霊格の炎を癒せるのか。……能力的に欲しい人材だな。

「カラルはこれからどうするんだ?」

「そうですわね、街に戻ってアキト様のことについて情報操作してコトが穏やかに済むように善処するわ」

「王への謁見まであと二日しかないが頼む」

「元はと言えばわらわが原因だものね、それが無事に終われば猛烈アタックさせてもらうわ」

 猛烈アタックって……。そんな言葉をこんな場所で聞くとは思わなかったな。

「嫁もいるのでお手柔らかに頼むよ」

 俺としては嫁候補に入れてもいいと思っている。

「このダンジョンはどうするんだ?」

「わらわはすでにアキト様のものよ。閉鎖しろと言われれば閉鎖するけど……」

 閉鎖する理由は見当たらない、このまま継続して運営を続けてもらおう。さっきのフロアで手に入れた宝箱を渡す。

「ダンジョンは続けてほしい。これも返すから運営に使ってくれ」

「わかったわ、お望みのままに……。それと今日はここに泊まっていく?」

 まだ体感的に昼くらいだったような気がする。なんで泊まるってことになるんだ?

「いや、風呂にも入りたいし帰るよ」

「お風呂ならすぐに用意できるし、一緒に入ってお背中をお流しさせてよ」

 なに、洗体か!!!カラルの色香も相当なものだな。悪魔族ってみんなこんなに魅力的なんだろうか……。このままここにいると彼女と色々コトを進めてしまいそうだ。

 頑張って帰ることを選択する。

「いや、帰るよ。道を教えて」

「お誘いに乗ってこないなんてなかなかやるわね。わらわの魅力が足りないのかしら?」

 いや、充分に足りていると思います。

「出口はこの竪穴を浮遊魔法であがるだけよ」

 箱魔法を展開して乗り込む、カラルも一緒にのってきた。

「狭いからね、通路広げないようにしてね」

 カラルによる照明魔法で光の玉が先行して、行く先を照らしている。箱魔法も通路に合わせて狭めると、中のスペースも狭くなり、かなりの密着を強いられる。カラルは手を俺の腰に回し、脚を間に入れてきた。

「あっ、うぅん……」

「おい、変な声出すなよ」

「だってぇ、あたってるっていうかぁ……」

 カラルの顔が目の前にある。まじまじと見つめる。二百七十歳なのにとても肌艶がきれいだ。大きな瞳、整った顔立ち、カラルはゆっくりと目を閉じて顔を近づけて、キスするつもりだ。まてまてまて!まだだっ!

「カラルちょっと待って、ストップストップ!」

「え~どうして~?こんなに近いのにぃ」と、不満げだったが、それ以上は受け入れられなかった。

 突き当りの出口を真上に押し上げて外に出る。木のウロが出入り口になっているのか。箱魔法を大きいサイズにしてカラルとの距離を取る。

 太陽の位置から時間は昼頃と言った感じだろうか。およそ一日ぶりの外にでて空気の新鮮さを感じる。

「街までいくけど、一緒に乗っていくか?」

「うん」

 超高速で上昇し、それから王都の中にある森を目指して移動する、パラメータは変えていないので最速ではないがそれなりの速度が出た。

「これが長距離の高速移動の秘密なのね」

「まあ、そういうことだ、うまく情報操作してくれよ」

「わかったわ、最大限に努力するわ」

 森に着地して、宿屋まで一緒に歩く。カラルはダークエルフへの擬態を開始する。耳が伸び、若干薄めのメイクで服装も落ち着いた感じのものになり、肉食系小悪魔から清楚可憐なダークエルフへと変貌した。

「おおぉ~!」と、感嘆の声を上げてしまう。

「こういった感じの女性の方がアキト様は好きなの?」

「そうだな、悪くないな……」

 カラルとの会話も楽しく感じ始めている。宿屋の前まで歩く間、世間話をする。

「またあとで、魔法研も覗いてみるよ」

「はい、お待ちしておりますわ、それではごきげんよう、アキト様」

 口調まで変え、うやうやしくお辞儀をして、宿の前で別れた。
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