おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ラックの過去3

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ラックとジョイフルが出会ったのは二人が6歳の時。
先にいたのはジョイフルであり、後から連れてこられたのがラック。
ハッカータから少し離れた街で、ドロネズミのように街の地下道でコソコソと暮らしていたラックを親方が見つけ出してひっぱてきた。
それは優しさなんてものではない、あくまで駒を増やすための行動原理。
だからラックにとってそこは、暗く汚い地下道と対して変わらない環境であった。
住む環境は良くなったが、代わりに扱いが酷くなった。

仲間の大人たちの言われるがまま犯罪を行い、失敗をすれば当然のように体罰が与えられる毎日。
そんな中、同世代であったジョイフルはラックにとって唯一心を許せる相手となっていった。

相手にとってもそれは同じで、年の頃が10を過ぎる頃にはいつも一緒に行動するようになった。
大人の駒であることには変わらないが、それでも二人はそれなりに楽しく生きていた。



そんな生活が終わったのは唐突。
ラックが魔法に目覚め、自らを半魔と知った時。
突如として手に入れた超常的な力に舞い上がったラックは、これで大人たちに認めてもらえると思い込み、その力を披露してしまった。

『魔法は魔族にしか使えない』

これは誰もが知る当然の知識であった。
いくら魔族との戦争に参加していな一般市民が、魔族に対する偏見が少ないとは言っても、それは自らと関わり合いが無いからという大前提があってこそ。
もし目の前にその脅威が現れたとなれば話は別だ。

ここの大人たちにしてみれば、日常的に辛く当たっていた子供が、突然強大な力を手に入れたのだから当然焦った。
その力を目の前で披露された時、誰もが考えただろう。
ラックは俺たちを復讐しに来たのではないか。




ラックは褒められるものと思っていた。
自分の有用性を示すことが出来たのだ。
きっとこれからは一人前の大人として扱ってくれるだろうと。

しかし周囲から向けられた感情は殺意。

何を言っても相手は聞いてくれず、誰もが殺そうと襲ってくる。
いくら暴力を振るうと言っても、重症になりそうな怪我は与えてこられなかった。
だが、目の前を通り過ぎる鈍器には殺意しかない。

ラックは逃げた。

多くの疑問が頭の中を駆け巡ったが、かつて慣れ親しんだ地下道で半日篭った末に思い至った。

「俺は化物なんだ」

誰もこの身を受け入れてくれない。
誰も自分を好いてはくれない。
誰もこの力を褒めてはくれない。

だったら、俺は俺だけを信じる。



ラックは夜の闇に紛れ、自分の力の事を知った大人たちを始末して回った。
いくら魔法が使えるとは言え子供だ。
こうもうまく行ったのは、暗闇と相性が良かったからだろう。

3日と経たずに自分を殺そうとした大人たちは物言わぬ死体となっていた。

だがこの街にはいられない。
自分が殺したことはすぐに知れ渡るだろう。
きっと殺した以上の大人たちが自分を付け狙う。
すぐにでも街をでなければならない。

何も持たずに身一つで街を出ていくラックに近寄る足音が聞こえた。
ジョイフルである。
ラックの力を知ってなお、自分を忌避しなかった唯一の人物。

「もう戻ってこないのか?」
「・・・ああ、みんなが俺のことを忘れるまでは少なくともな」
「そうか・・・」

ジョイフルは何か言いたげそうな顔をしていたが、伏せていた顔をあげるとニッと笑顔を浮かべ別れの言葉を口にした。

「何年後でもいい、また・・・また会おうな!!
 そん時にはお前が想像できないくらい、でかい男になって待ってるから!!」
「・・・」

ラックは返事もせず、眩しそうにジョイフルを見つめていた。
一秒、二秒、三秒と見つめ合った後、ラックは背を向けて街の外へと歩きだした。




魔法のちからを手に入れてから、もう一つ彼には能力が宿っていた。
魔素を感じとる魔族としての力。

そして、ジョイフルの体からも僅かにその痕跡が感じ取れたのだ。
とても言えなかった。

願うことしかできなかった、その力が「発症」してしまわないようにと。



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