君と密かに恋をする

梧 哉

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 翌日。
 帰社していたあきらは携帯に連絡があるかもしれないと、デスクの上に携帯を置いて、書類整理をしていた。

 既に終業時間を過ぎているが、晶良あきよしはまだ会社へ帰ってきていない。

 ーー主任に何もなければいいけど。

 少し思案すると、LINEアプリをたちあげ、晶良とのトークにスタンプだけを送信する。
 返してくることが出来るなら帰社途中だろう、既読だけなら相手が近くにいないか、相手が晶良を見ていないかだ。既読がつかないなら、先方とまだ一緒にいるのだろう。
 携帯を置いたまま自分の書類の整理をしていると、LINE通知が入る。送信相手は晶良で、困った顔のスタンプだけが入っていた。

 ーー困ってるってことは、付き合わされているってことかな。

 昶は腰をあげると、商談スペースへ移動する。いつもは会社から支給された携帯で連絡を入れるが、手に持っているのは個人用のスマートフォンだ。
 会社支給の携帯をテーブルに置き晶良の番号を開けると、自分のスマートフォンでその番号を押した。

 コールが数回したあと、晶良の声。

『はい、中野です』
 丁寧な口調の背後から聞こえるのは、ざわめき。

 ーーやはり、強引に付き合わされていたのだろう。

「佐藤です。今、お時間は大丈夫ですか?」
 こちらも彼にならって丁寧に喋る。近くで聞かれている可能性があるからだ。

『申し訳ありません、今、出先でして』
「出来れば早急に確認したいことがあるのですが」
『わかりました。少々お待ちください』

 携帯が手で塞がれた感じがして、しばらくそのまま待つと、ざわめきが消えた。

『悪いな、助かった』
「さすがにこの時間まで帰ってこないのは不自然だから、ちょっと電話してみました」
『会社に原稿持って帰るって言ってるのに、無理矢理飲み屋に連れてかれて、正直困ってたんだよ』
「それでなくとも先方のせいで、こっちはバタバタしてますしね……」
『まぁな、仕方ないって言われりゃそれまでなんだが……さすがに原稿持ったまま飲み屋に連れてかれたのははじめてだ……』

 心底疲れたため息を吐いた晶良に、昶は苦笑いを浮かべた。

「予定ないから手伝いますよ」
『いやいや、たまには早く帰れよ』
「主任が確認したあと、組版にまわるんでしょ? 二人の負担を減らそうかな、と」
『こっちとしては、手伝ってくれるのはありがたいが……いいのか?』
「一緒に帰る口実ができるじゃないですか」

 昶がそう言えば、確かにな、と晶良は小さく笑う。

『ほんと、おまえがいて助かるよ』
「姉に散々、対処法を聞かされましたからね」
『あぁ、ほんと助かる。……ありがとな』

 電話を切ると椅子から腰をあげ、ポケットを確認する。

 ーー原稿の内容によっては、また残業の日々かな…。

 財布がポケットにあるのを確認して、出口へと向かう。足を進めながら、スマートフォンを操作する。

「もしもし。まだ店にいるのか? ……悪いけど、四人分のコーヒーとサンドイッチと用意しといてくれ」

 電話を切ると、ふと立ち止まり空を見上げた。

 ーー随分、日の入りが早くなったな…。

 これからの季節は、帰りは今以上に寒くなるし、暗くなる。

 ーーどうにかできないかな……。

 会社のこれからを思案しながら、昶は電話先へと足を向けた。
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