Red Crow

紅姫

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番外編 それはある日の会話

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「全く…大事件になったもんだな。そうは思わないかルナ」

と新聞片手に部屋にやってきて椅子に腰掛けたユウ。

「そりゃ白磁の監獄がおちたとなれば大事件にもなるさ」

僕は苦笑しながらその問いに答えた。


ユウが帰ってきて1週間。新聞の見出しは毎日その事件だった。

『白磁の監獄、陥落』

『最高指揮官の死、他殺か?』

などと大きく書かれたそれは、評論家はこう推測しているなどと間違った見解を並べている。


「それもそうか…」

ユウは新聞をたたんだ。

「で?なんのよう?」

「お前知ってて聞いてるだろ」

苦笑しながら返される。
まぁ…分かってるんだけど。

「情報が本当になくてね。まだかかりそう」

「そうか…お前が苦戦するなんてよっぽどだな」

「そもそも本当に実行されるかわかったもんじゃないしね。情報をコンピューター内に入れてるかもわからない」

答えながら、僕は目をこすった。

「どうしたんだ?」

「最近、やたら目が痒くてね」

「画面の見過ぎか」

「かも」

ユウは掻くなとと言うように手をつかむ。

「目が疲れてるんだろ、画面を見るなとは言わないが…眼鏡でもかけたらどうだ?」

「検討しておくよ」

首をすくめて、ユウは手を離してくれる。
そして、フと自分の手首を見て、眉を寄せ

「今何時だ?」

と聞いてきた。

「いま?10時すぎだよ。珍しいね時計は?」

「監獄潰しのときに爆弾の材料に使いたいからと言われてな…ぶっ壊れた」

「時限式か、なるほどね」

「大体の時間は把握できるからいいが…時計がないと不便だな…」

と頭をかく。

「そろそろ戻る。何か分かったら教えてくれ」

「分かった」

部屋を出ていくユウを見送って、僕はまた画面に向き直った。



















「ノア!」

と声をかけられて剣を振っていた手を止める。

「リュウ?」

近寄ってくるのは、庭に出てくるのも珍しい我等が総統だった。

「一人か?」

「うん、どうしたの?」

「いや…実はさ使ってた万年筆のペン先が潰れてな…。ユウが持ってたと思ったから借りれたらと思って探してたんだ」

「そうだったんだ。ここには居ないよ。確か…ルナのところに行くとか言ってたけど」

「そうか、何か用事かもしれないし…。急ぐ書類でもないから後でいいや。それより、ノア」

リュウは眉を寄せる。

「お前、素手で剣握ってるのか?」

「え?」

「素手だと色々と危ないぞ」

僕は自分の手のひらを見る。
…確かにルークもゾムも剣を持つときは指ぬきの手袋を履いていたっけ。ユウが履いてるところは見たことないけど。

「素手だと滑るからな…。手袋を履くか、剣の柄に紐巻き付けるとかして滑らないようにしないと」

「あ~」

そういえばユウのナイフの柄には紐が巻いてあったな。

「怪我したら大変だぞ」

「リュウ、詳しいね」

そういうことには興味なさそうな彼からそう言われるのがとても意外だった。

「そりゃ、俺は武器とか好きじゃないけど…戦えないわけじゃないからな」

「え?」

リュウが戦うだって?

「なんなら相手しようか?」

と軍服から短刀を取り出す。
黒い鞘に黒い柄。柄には紐が巻いてあった。

「護身用にいつも持ってるんだ」

スッと鞘を抜けば白銀の刃が見える。
構えられれば、こちらも構えざるを得ない。

「行くぞ」

と言いながらリュウが距離を詰めてくる。
予想以上に速い。でも、見失うほどではない。

「!?」

だから、リュウが来た方向に剣を振るったが、姿が消えていた。

トンっと後ろ膝に衝撃が来て前に倒れそうになる。それを抱きとめるように後ろから手が回されて、首にヒタっと短刀が突きつけられた。

「俺の勝ち」

と楽しげに囁かれた。


「ノアもこれ位はできるようになるよ」

とリュウは短刀をしまう。

「俺もユウから教わったんだ」

「ユウから?」

「うん、せめて護身術位は身につけろってさ」

先程の動きは護身術の枠を超えてる気がするのだが…。

「と言っても使うことなんてほぼ無いけど」

そりゃ、ユウやキースが側にいるのだからリュウが自ら戦う必要なんてないだろうけど。

「さて、そろそろユウとルナの話も終わったかな。俺行くね、特訓頑張って」

手を振りながら帰っていくリュウを見送り、また素振りを始めた。






















食堂に行くと珍しい先客がいた。

「珍しいな、マオがここにいるなんて」

声をかければ、振り返りにこやかな笑みを浮かべるマオ。髪を払いながら口を開く。

「警備帰り?ルーク」

「あぁ、何か飲もうと思ってな」

「そっか、自分もちょうど何か飲もうと思ってたんだ。コーヒーでもどう?」

貰いたいと答えれば、席に座って待ってるように言われる。流石に悪いと断るが、いいからいいからと流される。


「あれ?ルーク?」

「ん?」

「君、自分のマグカップとか持ってないの?」

台所から声がかけられる。

「ないけど」

「そうなんだ、分かった」

答えれば簡素に返事が返ってきた。



「自分のマグカップくらい持ってきていいんだよ?」

と客人用のカップを俺の前に置きながらマオは言う。

「そういえば、ユウィリエに言われた気がするな…」

この国に来たときに確かに言われたはずだ。すっかり忘れていたが。

マオは自身の物であろう黄緑色のマグカップに口をつける。そしてまた髪を払った。


「邪魔なのか?」

「ん?」

「髪」

「あ、あぁ」

マオは毛先を弄ぶ。

「ちょっとね。伸びすぎてるわけじゃないから切るほどでもないんだけど、気になってね」

…確かに。

「切るのはもったいないかもな。せっかくきれいな髪なのに」

「え?」

本音を言えば驚かれる。

「なんで驚くんだよ…」

「いやそんなこと言われたの初めてだったから」

「そうなのか?」

それは意外だ。

この国の奴らは皆きれいな髪をしているが、その中でもマオとユウィリエは格別きれいだと思う。
初めて二人にあったとき見惚れたものだ。
顔立ちの良さもその一因だったろうが、やはり、彼ら自身を構成しているパーツ一つ一つが整っていたがゆえにきれいだと感じたのだろう。

「すごくきれいだと思うよ、俺は」

「そういうことは、女性に言ってあげるものじゃないかな」

顔を背けて、マグカップに口をつけるマオ。
長めの髪から覗く耳は赤く染まっていた。

「そうかもな」

俺はコーヒーを飲みきり立ち上がる。

「ごちそうさま、美味しかったよ。ありがとう」

「…どういたしまして」

感想をつたえれば、マオはまたにこやかな笑みを浮かべた。


















「……」

図書室で僕は本を読んでいた。
ルークは警備とやらで居ないので広々とした図書室を独り占めにして、静かな空間で黙々と読んでいた。

ココの蔵書は研究所ですら見たことがないような物まで揃っていて1日中過ごしたって飽きが来ない。

「あれ?アリスさん、一人ですか?」

「うん、一人だけど…どうしたの?キース」

そんな空間にやって来たのはキースだった。

キースはよく図書室を訪れるので、自然と仲良くなった。元々読書家だったのか色々な本を読んでいて、同じ本を読んでの感想を言い合ったりするのはとても楽しい時間である。

「ルーク君を探していたんです。ちょっと相談したいことがあって」

「あぁそうだったのか。でも、ルークはちょうど警備に出てて居ないよ」

「そういえば、いつもこの時間に行ってましたね」

腕時計を確認してキースは言った。

「少しすれば帰ってくるでしょうし、ここで待っててもいいですか?」

「もちろんだよ」

と言いながら無意識に本を閉じる。

「あ…」

しまった。またやってしまった。

「どうしました?」

「いや…本、閉じちゃって…」

首を傾げるキース。

「栞がなくてね、閉じちゃうとどこまで読んだか分からなくなるんだ」

「あ、なるほど」

「ユウに持ってないか聞いたんだけど、無いって言われちゃってさ」

「ハハッ、確かにユウさんならどんなに厚い本でも一日で読みそうですしね。お貸ししたいところですが僕も1つしか持ってないんです…」

「いいのいいの、気にしないで」

シュンとしてしまうキースに言う。
栞なんてそうたくさん持っているものじゃない。

「後でどうにかするよ。それより座りなよ」

と席に座るよう促す。
失礼します、とキースは座った。



「ここに来てまだそんなに日は経ってませんが、どうです?少しは慣れました?」

「うん、ここは良いところだね」

問われたことに素直にこたえれば、キースは笑った。

「何かあったら言ってくださいね。困ってる事とか、お願いとかあれば」

「お願い…あ、そうだ。すっかり忘れてた。確かキースがリュウの仕事の調整してるんだよね?」

「そうですけど…何か?」

「ほら、僕この国に来たじゃない。それで一時的とはいえ研究者会から抜けたことになってるんだ」

「研究者会?」

分かってなさそうなキースに説明する。

研究者会はその名の通り、研究者達が登録するものだ。
なんの研究をしてるのか、研究者が何人いるのかを把握するために作られたもので、研究所にいた時には加入が絶対だった。
講演会やらの調整も研究者会が行っているし、有力な情報も集まりやすいため、是非とも入っておきたい。

ただ、そのためには国のトップにきちんと説明をして同意書を作ってもらわなければならない。

「暇なときでいいから、時間作ってもらえるかな」

「わかりました」

と、手帳を開く。
そして、あ…と声をもらした。覗き込めば、手帳は最後のページになっていた。

「最後のページだね」

「そうですね、もうこんなに使ったんですね」

と感慨深そうに言う。

「コレ、僕がこの国に来たときにリュウさんがくれたんです。使ってって」

「へ~」

「使い切ると、この国に来てかなり経ったなって気がしますね」

と笑う。
確か、この国が作られたときに居たのはリュウとユウ、あとルナの三人だけで他はあとから来たと聞いた。
いつ来たのかは分からないが、きっとそれなりの事情で来たのだろう。
ならば、そうして書き溜めた手帳が使い切られるのは嬉しいことな気がする。

「新しいの買わなきゃですね。まだまだ、使うでしょうし」

キースはそう言った。
そして、腕時計を見る。

「そろそろ帰ってくるかな…僕行きます。お話できて楽しかったです」

「こちらこそ、楽しかったよ」

と言いながら図書室を出る彼を見送る。
机においていた本をまた開き、どこまで読んだか探すべく目で文字を追った。
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