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番外編 口下手
しおりを挟む「ん?」
仕事をしようと椅子に腰掛けたリュウイはそれに気づいた。
細長い白い箱が黒い机の上にポツンと乗っていた。
白い箱には黒いリボンと花。
見たことがないことがない花だ。先の尖った花びらを5、6枚つけた白い花はとてもいい香りがした。
「何だろ…」
箱を手に取る。
カツっと箱の中で何かが揺れる音がする。
何か入ってる?
首を傾げ、リュウイはリボンを解こうとする。が、一度手を止める。
「こういうのはちゃんと確認してから開けろって、ユウに言われてたっけ…」
と言っても何をどう確認すればいいのだろうか。
とりあえず…
箱をジロジロと見る。宛名は無し。
箱に耳をあてた。なんの音もしない。
箱を押して見る。
箱の中央部分に何かあるのか、そこだけあまり凹まない。
うーん…。
「特に危険な感じはしないし…いいよな」
今度こそ、リュウイはリボンの結び目を解いた。
出てきたものを見て、リュウイは微笑み
「アイツか」
と呟いた。
「何でしょう…コレ」
起きてすぐ、着替えをするためクローゼットを開けたキースはその中にあるそれを見ていた。
昨日まで絶対になかったと言い張れるソレ。
きちんと畳まれて仕舞われた服の上に乗る白い紙袋。
黄色いリボンと小さな花。
道端に咲いているものだ。城下にも咲いてるところがあったはずだ。
薄青色の花びらをつけた小さな花。確か…前にユウさんが『星の瞳』と呼んでいた。
袋を手に取る。
カサッとした感触とともに、袋の中に何か厚みのあるものが入っているのが手から伝わってきた。
重さはそれほどでもない。
袋に名前らしきものはない。
「…」
少し考えてから、キースはそれを開けてみることにした。
袋の中に手を突っ込んで取り出したソレを見て、キースは微笑んだ。
「…」
枕元に置かれていたソレをルークは黙って見つめていた。
箱だった。小さいとも言えないが大きいとも言えないような、そんな箱。
箱には、青いリボンと赤い花。
5枚の花びらをつけた鮮やかな赤い花だった。どこかで見たことがある気もするが、なんて名前なのかさっぱり分からない。
そもそもなんでこんなものがここに?
「…」
ルークは無言のまま、箱に手を伸ばした。
持ち上げた事で中に入っていたものが動いたのか、カサッとした音と何か硬いものが動く音がした。
それ以外に音はしない。
気になるとすれば、少し重たいことくらいだろうか。
「…」
ルークは眉を寄せながら、リボンを解く。
簡単に解けたそれ。注意しながら蓋を開け、中身を取り出す。
「…」
ルークは無言だったが、その口元は笑みを浮かべていた。
「??」
目をさましたルナティアがソレを見つけたのは、パソコン前で突っ伏して寝てしまい固まった体を伸ばしているときだった。
キーボードの上に乗っている厚みのある横長な白い箱。
箱につく深緑色のリボンとピンクの花は、無機質な部屋の中で少し浮いて見えた。
ピンクの花は、流石に花に疎いルナティアでも知っている『ツバキ』だった。
「なあにこれ?」
自分以外誰もいない空間。返事など返ってこない。
とりあえず…と、箱を手に取る。
宛名や名前の書かれたメッセージカード等は無い。
振ってみればカツカツと音がする。…プラスチックが箱に当たって出しているようだ。
一応耳を箱に押し付けるが音はしない。
次いで、引き出しから磁石を取り出し箱にかざす。
微力ながら何かに引っ張られる感覚。ほんの少しだけ金属が使われているのだろうか。
「重さ的に爆破物には思えないし…液体の音もしないから毒っぽくもない…」
全く中身に予想がつかない。
「開けてみるか…」
やばいものだったときは…それはその時考えよう。
リボンを外し、箱を開ける。
「…ハハッ」
中身を見てルナティアは思わず笑った。
それは医務室の机の上に置かれていた。
「何だろ、これ?」
マオはそれを手にとって手のひらに乗せた。
小さな袋だった。それこそ、手のひらにちょこんと乗る程度の大きさ。
それに申し訳程度に黄緑色のリボンと濃いピンク色の花がつけられている。
この花は知っている。『ペチュニア』だ。
「…」
ポカンとそれを眺めるマオ。
なんの考えもなしに手に乗せてしまったが、もう少し警戒すべきだったか?
恐る恐るまた袋を持ち上げた。
袋を全体的に見る。
名前無し。
とても軽いソレ。電気の光で形がすけて見えないものかと思ったが、袋が結構厚手なのか意味はなかった。
振ってみれば、チャラッと小さな音がする。
「どうしようかな…」
特に危険性は感じない。でも、昨日まではなかったものだ。
ユーエに相談すべきか…?
そう考えたところで、ふと思う。
もしもこれが、外部の人間がここに置いたものならユーエが黙っているわけないのだ。
自分が見つける前に処理しているだろう。
「…あるって事は、開けていいんだよね?」
マオは呟き、袋を開けた。
出てきたそれを手のひらに乗せて眺めながら、マオは嬉しそうに笑った。
「……?」
ポカンとノアはそれを見つめていた。
仕事をするべく書記長室に行こうと扉に近づいたとき、それに気づいた。
扉の前にちょこんと置かれたソレ。
黒い紙袋に白いリボンが巻かれている。そして、一輪の花。黄色い花びらに赤い斑紋のはいった可愛らしい花だ。
何でこんなものが、こんな所に?
扉にはきちんと鍵をかけて寝たはずだし…。
と思ったが、よく考えればそんなの意味ない気もした。
音もなく天井裏を走り回るような人がこの国には居るのだから。
「…」
と言うことは、コレは少なくともこの国の…しかも限られた人が置いたと考えていいだろう。
なら、心配するだけ無駄だ。
ノアは袋を持ち上げる。
かなり軽い。
リボンを取る。
袋が少し揺れて、カサカサと紙袋と中身が擦れる音がした。
袋を開けて中身を取り出す。
「!」
ノアは一度目を丸くさせて、次いでフフッと笑った。
「♪」
ソレをポケットに入れて、ノアは自室を後にした。
「何だろう…」
とアリスは図書室の机に置かれた小さな紙袋を見ていた。
本を読もうと訪れれば、最近定位置としている椅子の前の机にそれは置かれていたのだ。
薄っぺらい、それこそカードくらいの厚さしかないソレにはオレンジ色のリボンと一輪の花が添えてあった。
白い花だ。花びらの付け根に目のような模様が見える…確かコレは…。
「アイリスでしたね」
そう呟きながら、マジマジとそれを見る。
何故ここにあるのだろう、誰かの忘れ物だろうか?
でも、昨日夜遅くまでここに居たのは自分自身だし、ルーク以外他の誰かは来なかったはずだ。
ルークはこんなもの出してはいなかったし。
「中身に名前でも書いてありますかね」
と、アリスはそれを手に取り中身を出す。
期待は裏切られ、それに名前はなかったが…。
「コレ…もしかして…」
アリスは嬉しげに微笑んだ。
「…はぁ」
ユウィリエはため息をついた。
視線は机の上に置かれているそれに注がれている。
小ぶりの白い箱だ。赤いリボンが巻き付けられたそれは、物語などで見るプレゼントそのものである。
それに添えられた小さな白い花の集合体。
「ナズナ…か」
花を指でつつきながらユウィリエは呟く。
「全く…何してるんだか…」
昨日の夜、来ていたことには気づいたが特に何かしている訳でもなさそうなので放置していた。その結果がこれである。
危険なものでは無いだろうが…一応確認。と箱に耳を寄せた。
カチコチ…カチコチ…
これで他の誰かからの届け物なら爆弾か何かだと思って窓から投げ捨てていたかもしれない。
「…」
なるほどねぇ…そういうこと。
もとよりしてないのだが…警戒する必要はないようだ。
リボンを解く。そして中身を取り出し
「へぇ、いいじゃん」
と、満足そうにユウィリエは呟いた。
❈❈❈❈❈
「おかえり」
扉をあけて入ってきた俺にそうユウィリエは言った。
そして、胸ポケットから赤い懐中時計を取り出す。凝った模様が彫られた美しい懐中時計だ。
「時間もぴったりだな。報告は後でいいから今日はもう休みな。…あ、でもリュウに帰ってきたことを伝えてからな」
その言葉に頷き、部屋を出た。
「あ、おかえり。今帰ったの?」
部屋を出た俺にかけられた言葉。振り向けばマオが立っていた。手には書類がある。ユウィリエに届けに来たのだろう。
そうだと答えれば、マオは笑う。そして、俺を追い越し扉を叩いた。
その後ろ姿を見て目に飛び込んでくるのは、黄緑色の蝶のエンブレムのついた髪ゴム。髪の毛をハーフアップにしたマオは普段とは少し雰囲気が違う。
マオが扉の中に消えるまでその姿をを見つめ、歩き出した。
総統室の扉を叩き、中にはいる。
「おかえり」
「おかえりなさい」
中にはリュウイとキースが居た。
予定の確認をしていたのかキースの手には黄色い手帳が握られていた。
リュウイは、手元の書類を上から下まで見て、下の方に自分の名前を万年筆で書く。艶のある黒い万年筆がキラリと光った。
「お疲れ様、ユウにはもう会った?」
頷き、休むよう言われたことを告げれば
「なら、そうして」
とリュウイは言い、また書類に目をやった。
これ以上居る必要もないので、総統室から出た。
喉の乾きをおぼえ、俺は食堂に向かった。
「あ!おかえり」
「よぉ」
食堂にはルークとアリスが居た。
何してるんだと聞けば、
「たまには環境を変えて本を読みたいなと思ってね」
とアリスが読んでいた本を持ち上げる。腕のすぐ側にオレンジ色の栞が置かれている。
「俺はその付き添い」
そう言ってルークは手元の青いマグカップを持ち口をつける。
「お前は?」
と聞かれたため、喉が渇いたから来たことを伝えれ、キッチンへ向かい、コップに水を入れ飲み干した。
食堂を出て、フラフラと歩いていると、足は勝手に中庭に向かっていた。
中庭にはノアがいて、俺に気がつくと手を止めた。
「おかえり、今帰り?」
頷けば、ノアは笑って
「お疲れ様」
と言った。
ずっと剣を振っていたのか、額から流れた汗をノアは手で拭う。
その手には指ぬきの白い手袋がはめられていた。
ノアと軽く話してから別れ、自室に向かうべく歩く。
すると前から小走りでルナが現れた。
「あれ、おかえり」
俺を見たルナは立ち止まって言った。
その顔には普段はない緑色の眼鏡。
クイッとそれを上に上げて、ルナは
「ゆっくり話したいところなんだけど…ちょっと急ぎの用事があるんだ。ごめんね」
と去っていった。
自室に入り、何気なく机の上を見た。
そこには見覚えのない白い箱と封筒。
白い箱には、銀色のリボンが結ばれており、傍らにピンクの花が。
花びらがまるで蝶のような形をした花だ。
「……」
俺はそれを見つめ、ゆっくりとリボンの結び目を解いた。
中から現れたのはフープ型のピアス。
「何で…?」
俺は手紙に手を伸ばした。
封を切り、中身を出す。
中には一枚の紙。広げれば、違った筆跡の文字が並んでいた。
『万年筆ありがとう!大事にするよ!俺もお前とずっと一緒に居たいと思ってるぞ! リュウイ』
『手帳ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。僕もあなたの事を信頼してますよ、これからもよろしくお願いします。 キース』
『突然こんなことするから驚いたよ、手袋ありがとうね。特訓の時には毎回使うよ!これからも特訓に付き合ってね!特別な存在なのはお互い様だよ。 ノア』
『俺もお前のような友を持てて嬉しく思ってる。マグカップありがとう。 ルーク』
『髪ゴムありがとうね。とっても気に入ったよ!君にそう思ってもらえて嬉しいよ。何かあったら頼ってね。
マオ』
『栞、ありがとう。まだここに来て日は浅いけれど、これから皆と友情を築けていければと思ってるよ。今度、良かったらゆっくり話でもしよう。 アリス』
『君も意外と粋なことをするね。眼鏡ありがとう、おかげで目の疲れが軽減したよ。感謝はしてるけど、1つだけ…僕の優しさは控えめなんかじゃないだろ! ルナ』
『こういう事をしようとするなら、気づかれないようにやるんだな。時計と花、ありがとう。お前の気持ちはしかと受け取ったよ。
大層なものではないが、箱の中身と花は私達の気持ちだ。お前が皆を大事に思うのと同じくらいに皆だってお前が大切なんだぞ。 ユウィリエ』
「ッ……!」
気づかれていたのか。何の反応もないから大丈夫だろうという思ってたのに…!
顔に血が集まる感覚。絶対今顔は赤いだろう。
「?」
手紙をひっくり返せば、何か書かれていた。
『追伸
知らないだろうから一応書いておくが、その花はシザンサス。意味は“いつまでも一緒に”だ。
ピアスにも意味はあるが…それは自分で調べろ』
いつまでも一緒に…。
「……っ!」
ゾムは頭を抱えた。
全く何なんだ。今回は自分がみんなを驚かせようとしていたのに。
そのために、わざわざ外交中に城に忍び込んで仕込んだというのに。
「何なんだよ…」
そう呟くゾムの表情は、とても嬉しそうなものだった。
次の日から、ゾムの耳には銀色に輝くピアスがついていたのは言うまでもない。
✻✻✻✻✻
アングレカム(何時までもあなたと一緒) リュウイ
オオイヌノフグリ(忠実、信頼、清らか) キース
オドントグロッサム(特別な存在) ノア
ゼラニウム(真の友情) ルーク
ツバキ(控えめな優しさ) ルナ
ナズナ(あなたに私のすべてを捧げます) ユウ
ペチュニア(あなたと一緒だと心が和らぐ) マオ
アイリス(知恵、賢さ、あなたを大切にします) アリス
ピアス(離れていても私(達)の存在を感じて)
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