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番外編 紅蓮のヒーロー
しおりを挟むそれは…今から20年も前の話
森の中の家。
久々に師匠と食事を共にしている時にその話題は出され、私は困惑した。
「今なんて?」
「今度の仕事はお前も来い」
どうやら聞き間違いではないようだ。
私は驚き、瞬きを繰り返した。
「どうしたのさ、師匠?いつもは『連れてけ!』って言っても連れてってくれなかったのに」
「今度の仕事は人手が欲しいんだ」
「師匠一人じゃ大変ってこと?」
「まぁそんな所だ」
ズズッとスープをすすりながら師匠は言った。
『仕事』というのは、殺人のことだ。
とても食事時にする話ではないが、私達にとってはよくある事だ。
「金獅子が苦戦する仕事に私なんかが着いてっていい訳?」
「お前だって、巷じゃ『赤烏』と呼ばれるくらい有名になったじゃないか。殺しを始めて5年以上になるだろ?」
まぁ確かに…そんな名前で呼ばれるようにはなったが…。
「まぁ、師匠がいいと言うなら行くけど…。いつ出るの?どこに行くの?」
「夜には出る」
師匠はそれしか言わなかった。
「あぁそうだ。お前は一応あの武器を持て」
あの武器、というのはカラー武器のことだ。
そんなに大変な仕事なのだろうか。
「分かった」
私は少し疑問を持ちながらも頷いた。
―その日の夜
「師匠、こっちの方向にあるのって…」
「あぁ、あの村だ」
私は師匠と共に音もなく走りながら、会話をした。
「ザビ村か…」
私は呟いた。
ザビ村
その名前は、かなり有名だ。
表の舞台ではなく裏の舞台で、だが。
有名な理由は、武器の密売である。
ザビ村は小さく、目立たない村だが、近くに鉱山があり鉄が取れる。それを元手に銃を作り、戦時国に流しているのだ。
「確か…一番の取り引き相手国のキーク国は近々戦争予定だったよね。今回の依頼主は対戦相手国のクラレ国?」
「いい推理力だ」
「師匠に鍛えられたからね」
「今回の仕事は、銃の製造ラインの破壊と銃製造に関わる人物約30人の始末だ。お前には前者を任せたい」
「なるほど…だから、あの武器を持てと」
私の持つカラー武器『赤』の1つは鉄を溶かす熱を持つナイフだ。
銃の製造ラインの破壊にはうってつけである。
「終わったら、人の始末にまわれ」
と言いながら、紙の束を投げて寄越す。
紙には人の顔写真が30人分。
「その顔と同じ奴を殺せ」
「ふーん、ちなみに親玉は?」
「1枚目、左一番上」
私は視線をそこへ向けた。
夜な為色まではハッキリとしないが、ガッチリとした印象の男であることは分かった。
アマドル=カレン
そう名前が下に書かれていた。
私は紙の束に載る顔を目に焼き付けた。
ザビ村に着くと、私と師匠は別れた。
私は武器の製造ラインがあると思われる建物の前に立った。
見た目は廃工場。
所々に錆がついた壁。
割れた窓。
だが、確かに聞こえる。
音が小さい為、おそらく地下からなっているであろうベルトコンベアーの音。
私は割れた窓から廃工場の中へ潜入した。
電気こそ付いていないものの、中はなかなかにキレイだった。
見た目が廃工場なら中まで気にしないだろうと思って、武器製造関係者の誰かがキレイにしたのだろう。
さて…とりあえず…。
「地下への入り口でも探すか」
私は足音を立てないように慎重に薄暗い廊下を走り出した。
地下への入り口は簡単に見つかった。
というのも、ご丁寧に入り口のある部屋の鉄扉に見張りを立ててくれていたからだ。
見張りから見えないように位置取り、様子を観察する。
見張りは2人。
一人は背の高い男。手にはここで作られたであろうアサルトライフル。ただ、持ち方がいかにも初心者なので今まで撃ったことがないと予想できる。
もう一人は少し横幅の広い小太りな男。持っているのはハンドガン。こちらは、少々銃の扱いに慣れている印象を受ける。
まぁ…脅威ではないな。
私は服のポケットからある物を取り出す。
Y字型のパチンコである。
狙いは…彼らの後ろにある扉。
BB弾を1発セットして、狙いを定めてゴムを引っ張り、話す。
カーン!!
といい音が響いた。
「な、なんだ!?」
「敵襲か…?」
動揺する彼らに私は近づく。
よく見えるようになったその顔は、殺害リストに載っていた顔だ。
なら、容赦する必要はないな。
私はナイフ(カラー武器ではない)を取り出して、小太りな男の心臓めがけて刺し込み、次いでもう一人にも同じことをする。
「あ…が…」
どうやら二人目は甘く入ってしまったらしい。
鍛錬不足、と師匠がいたなら言われていたかもしれない。
小太りな男が持っていたハンドガンを拾い上げて、穴の空いた胸に1発発砲する。
ビチャッと血しぶきが上がる。
ビクンッと一度痙攣して、背の高い男は死んだ。
顔についてしまった血をぬぐって、私は死体を飛び越え、扉の中に入った。
地下には予想通り、武器の製造ラインがあった。
ベルトコンベアーにはいくつもの銃が並び、箱へと運ばれている。
機械を操作しているであろう人の気配が2、3。
とりあえず、ソイツらを殺すのが先か。
私は一番近い人の気配のある場所へ足を向けた。
3人ともまさか敵が来たとは思っていなかったのか、無防備にも武装していなかったので簡単に殺せた。
はっきり言って拍子抜けである。
まぁいい。これで目的を果たせる。
「それにしても広いなぁ」
これでは、いくらカラー武器があるとはいえ、破壊に時間がかかってしまう。
ふと視線を動かせば視界に入るのは、オイル缶。
多分、機械の燃料だろう。
「そっちのほうが手っ取り早いか」
私は呟いた。
煌々と燃える廃工場を眺める。
大量に燃料をかけて火をつけたから、製造ラインはもう機能しないだろう。
さて…。
「人殺しの手伝いでもしますか」
結局使うことのなかった赤いナイフを手で弄びながら、住宅のある方へ足を向けた。
ある家の前で、師匠がリストに載っていた顔の男達を殺していた。
まだ、数名残っているが…死ぬのは時間の問題だろう。
男たちは私に気づいている様子がなかったが、師匠の目はしかと私を捉え、目線で近くの家を示した。
中には入れという事なのだろう。
私は音を立てずにその家の扉をあけて、中に身を滑り込ませた。
薄暗い部屋。
人の気配はするが、リビングに姿は見えない。
ドガッ
と何かを殴るような音が聞こえた。
師匠が敵を倒した音かとも思ったが、何度も聞こえるその音はこの家の中からしていた。
私は音のする方へ足を進めた。
家の端の部屋。
木製の扉の中からその音はしているようだった。
扉には鉄製の小さなプレートが付けられていて、何やら書かれていたが、かすれていて読めない。
多分、書かれていたのは名前。子供の部屋だろうか。
私はスッとその部屋の扉を薄く開き、中を覗いた。
見えたのは大人の背中。
ガッチリとしたその人物は腕を振り上げてはおろしている。
再度、腕を振り上げたとき、その人物の横顔が見えた。
アマドル=カレン、その人だとすぐに分かった。
私はスッと背後に近づき、ナイフで彼の首を凪いた。
血を吹き出しながら倒れる彼。
死んだだろう。
ナイフについた血を落としていると、私を見る視線に気づいた。
私とほとんど変わらないくらいの年齢の子供だ。
線の細い…弱そうな印象を受ける。
白い肌には所々に痣が見える。
その子供の黒い瞳が私を見ていた。
本当なら…見られたのだから殺さなくてはならない。
でも…何故か殺す必要はないと思った。
多分、今までアマドルから暴力を受け続けていた子供。
この子はこれから生きる未来がある。
そう感じたのだ。
私は彼に背を向け、部屋の扉を開けた。
家の中に入ってきていた師匠に声をかける。
「殺したよ、師匠」
「アマドルか?」
「うん」
「お前、何人殺した?」
「アマドルと、工場で5人」
「なら全員死んだな、帰るぞ」
師匠は私がモタモタしている間に24人も始末していたらしい。
出口に向かって歩く師匠。
それを追いかける前に私は、部屋の中へ顔を向け、そこに残る子供に一言言った。
「バイバイ、幸せになってね」
その言葉が、その子に届いていたかは…その時は定かではなかった。
✻✻✻✻✻
「って、言うのが私がアリスの父親を殺した真相」
私はようやく一息つき、紅茶に口をつけた。
昼下がりの書記長室。
仕事に一段落つき、お茶をする時間はまさに至福だろう。
「ふーん」
「ルーク…お前ねぇ、聞いてきたのはそっちなんだぞ?そんな興味なさげにするなよ」
タイミングよくやってきたルークをお茶に誘い、話をしているとアリスの父親を殺したときのことを知りたいと言われ、お茶の時間にするような話ではないと思いながらも話してやったというのに…。
「いや…もっと意外性のある話が聞けるかと思ったもんだから、拍子抜けした」
「拍子抜けって…」
人殺しの話を聞いて、拍子抜けするなんて…ルークも段々と私のようになってきたなぁ…。
「どんな話を期待していたんだ?」
「んー、そう言われると…。昔はユウィリエも無差別に人殺してたとか言われたら驚いたかも」
「んな事するかよ」
私は頭を掻いた。
「それにしても…お前、何歳からカラー武器持ってたんだ?」
「ん?何歳からだったかな…」
「そんなに昔なのかよ…」
ルークが呆れたように言う。
「あぁ…少なくともマオに出会う前にはもう持ってたからな」
本当に昔のことだ。
「…」
ルークは何も言わない。
きっとルークは分かっているのだ。
私がそんなに小さい時からカラー武器を持つような生き方をしてきたと…。
「大変だったんだな」
「まあな」
ある日の昼下がり。
そのお茶会は…そんな言葉で幕を下ろした。
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