Red Crow

紅姫

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隔絶の都とゼロの騎士①

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「やっと着いたな」

私は船から降り、目の前にそびえる塀と門を見上げた。

「長旅だったもんね、よいしょっ」

荷物を抱えて船から降りながら言うアリスに手を貸す。

「ありがとう、ユウ」

礼を言ったアリスは私のように塀と門を見上げた。

「ココが隔絶の都、グラディア…」

キィ…
と静かに門が開く。

そこには、きっちりとした格好をした初老の男性が立っている。

「ようこそいらっしゃいました、アリス様、ユウィリエ様。さぁ、どうぞコチラへ」

「ご丁寧にありがとうございます、行こうかアリス」

「うん」

私達は彼に続いて、門の中へ足を踏み入れた。
これから、1ヶ月の間過ごすことになる、その国の中へと。










私とアリスが、この国グラディアにやって来ることになったのは、2週間前に届いたアリス宛の手紙がきっかけだった。

「グラディアに…教授として呼ばれた?」

書記長室にやって来たアリスの話を聞いて私は首を傾げた。

「うん、そうなんだ」

とアリスは私に手紙を差し出してくる。

あまり他人に出された手紙を読むのは気が引けるが、私は手紙を取り出し、目を通す。

中には丁寧な字でこう書かれていた。


『拝啓 アリス=カレン様

すっかり春めいて参りました今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

さて、この度このような手紙を書かせていただいたのは、アリス様にぜひ我が国で教壇に立っていただいたいと思ったからです。

以前より、アリス様がカラー武器に関する研究をしている事を知り、一度我が国に来ていただき、我が国の兵士達にお話を聞かせてほしいと思っておりました。
そこで、色々と準備をしていたのですがアリス様が研究所を出たという話を聞き、どうやって連絡を取ればよいのだろう…と困っておりました。

するとどうでしょう。研究者会から連絡があり、アリス様がまた研究者会に入ったというではありませんか。
そして、今アリス様はミール国にいると聞き、こうして手紙を出したのです。

ずっととは申しません。1ヶ月ばかり我が国に滞在し、兵士達にカラー武器について教えていただきたいのです。

一人で不安というのなら、誰か護衛をつけても構いません。
来ていただけるなら、返答を下さい。
お会い出来ることを楽しみにしております。

敬具

グラディア国代表 ヘルバシオ=エリュ・ワン』


「えらい所に呼ばれたなぁお前」

「第一声がそれかよ」

読み終えてつぶやいた私にアリスは呆れたように言った。

「だって…グラディアだろ?あの『隔絶の都』だぞ?」

「まぁ…そうだけどさぁ」

アリスは困ったように笑った。


『隔絶の都』
という通称を持つグラディア。
何故そのような名がつけられたのかと言えば、それはグラディアのある場所に由来する。
グラディアは四方が海で囲まれ、その地に足を踏み入れるためには船を数時間走らせねばならない。そんな場所にある。
まさに、陸とは隔絶された都なのだ。

普通なら辺鄙な場所というだけで終わるだろうグラディアだが…世界でかなり有名な国である。
と、いうのもグラディアは世界で5本の指に入るほど広い土地を持ち、その地は中々の立地なのだ。
もし、このミール国を陸上での最高立地とするならば、グラディアは海上での最高立地である。
それ故に、陸地の他国から狙われもするが…国の周りを囲む塀と、鍛えられた兵士達により国は守られていると聞く。


「グラディアは軍事にも力を入れている訳だしカラー武器について知っておきたいという気持ちはわかるな。行ってきたらいいじゃないか、リュウだって駄目とは言わないと思うぞ」

「そうだろうけど…」

アリスが口ごもるので首を傾げてみせる。

「問題は護衛の件なんだよ」

「あ~」

納得した。

「ルークじゃ、ちょっと目立ちすぎるな」

私の言葉にアリスは頷いた。
護衛が目立ってたんじゃ、意味がない。

「うーん、でも他っていうとなぁ…。護衛という役目からに、マオとリュウは論外として…ノアはまだ力不足だろ。一応、国からの招待だから礼儀がなってないと駄目だと考えると…ゾムは難しいだろうな。ルナは…今忙しいって言ってたし、リッカはその手伝いしてるから無理。キースは条件的には一番良いけど…リュウの予定の管理をしているキースが居なくなるのはなぁ…」

私が考え込んでいるとアリスが口を開いた。

「…ユウは?」

「ん?」

「ユウが一緒に来てよ」

私が?

「護衛としての力もあるし、礼儀も分かってるし…まぁ目立ちはするだろうけどそれで目をつけられてもユウなら大丈夫でしょ」

「うーん…でもなぁ…」

「いやに渋るね」

「別に行くのはいいんだけどさ…」

「いいんだけど?」

「私がいなくなると…リュウがなぁ…」

1週間ちょっと離れただけでどんなだったか…キースから涙ながらに報告を受けている。1ヶ月も離れたらどうなることか…想像もできん。
キースの心労を考えると…あまり長期間リュウから離れるのはやめておきたい。

「でも、お前を一人で行かせるのもなぁ…」

一応、戦時国であるグラディア。
何かあったときに助けられるだけの力を持つ奴が一緒に行くべきだろう。


私はしばし思案し…1つの妥協案を考えた。
そして、アリスと共に隔絶の都、グラディアへと足を踏み入れたのだ。











グラディアの中心地にある、もはや塔と呼ぶほうがしっくり来るような城に私達は案内された。

通されたのは塔の2階にある広々とした1室。

「改めまして。ようこそいらっしゃいました、アリス様と護衛のユウィリエ様」

ここまで案内してくれた男はうやうやしく頭を下げた。
礼儀正しい人だ。
気を遣わせないようにと、あえて私がミール国の書記長である事は伏せてアリスに返事の手紙を書かせたのだが…いち護衛にまで様付けするとは、畏まりすぎてはなかろうか。

「ワタクシ、案内人のブラウン=トイと申します。ここでしばしお待ちください。説明係のものがすぐに参ります」

ブラウンはそう言うと深々と頭を下げて部屋を出ていった。

「堅苦しいなぁ」

思わず呟いた。

「ミール国には無い感じだもんね」

「そりゃ…総統があんなだしな。にしたってこの国は堅苦しい。さっきの案内人もまるでロボットみたいにインプットされた動きをしているようにしか見えなかった」

「そもそも、案内人と説明者を別々にしてるなんて…どれだけ人を雇ってるんだろうね」

確かに。従者は数名いるものの幹部10人で国をまわしているミール国ではこんな人の使い方はできない。

トントンッと扉がノックされた。

「失礼します」

これまたうやうやしく頭を下げて入ってきた男は、ブラウンと比べればかなり若く見えた。
身にまとう艶のない灰色の防具が部屋の色調とまるで合わない。

「お二人の説明係を命じられました。グラディア軍特攻部隊第13班所属兵士のエルドレッド=モーズリーと言います」

いやに長い肩書きをスラスラと口にするエルドレッド。

「説明係だけでなく、お二人の御用聞きもワタクシがさせてもらいます。何なりとお申し付けください」

「よろしく、僕はアリス。コッチがユウィリエ」

「よろしくおねがいします、アリス様、ユウィリエ様」

何ともまぁ…堅苦しい。
表情のあるロボットと話している感覚がする。

「早速ですが、この国について説明させて頂きます」

私達の前に腰掛けたエルドレッドは無表情で淡々と説明を始めた。





エルドレッドの話を簡単に要約するとこうなる。

アリスが講義をするのは、この塔から少し離れたところにある兵士の学校(そんな物がこの国にはあるらしい)であること。
兵士の人数がかなり多いため、講義は1日に3回同じ内容をやってほしいこと。
講義の資料等は学校内で作ってほしいこと。
アリスが学校へ行く時と塔へ帰ってくる時、きちんと送り迎えの車と護衛をつけるから安心してほしいこと(あんに私は必要ないと言われているようだ)。

「もちろん、ユウィリエ様が護衛として着いてくるというならそれも構いません」

エルドレッドはそう付け加えた。

「それは状況を見て決めさせてもらいます。護衛する必要がないと感じたら…その時はまあ、この国を見学させてもらいますよ」

「そうしていただいて結構です。ですが…」

ここでエルドレッドの言葉に初めて感情が介入した。

「決して、雪海の森には近づかないでください」

「雪海の森?」

エルドレッドは懐から大まかな地図を取り出す(準備がいいことで)。

「これはこの国の土地のだいたいの全容です。中央にこの城のある王都があります。その周りには住民区が点在しています。それぞれの住民区で生活様式も様々ですから見て回るのも面白いかもしれません。

問題の雪海の森はココ。この王都から一番遠い住民区の更に奥にある森です。
一年中、雪が溶けずに残っていることから雪海の森と呼ばれています」

地図を見ると確かにそんな場所が記されている。

「この森は未だに全貌が分かっていません。足を踏み入れて、迷ってしまえば…帰ってこれないかもしれません」

私に限ってそんな事は絶対ないが…一応、神妙に頷いておく。

これでエルドレッドの説明は終わったようで

「質問などはありますか?」

と聞かれた。

なので、気になったことを聞いておく。

「この国は兵士の数が多いようですが、皆さん望んで兵士に?」

「望んで…?」

エルドレッドは不思議そうに聞いてくる。まるで、言葉の意味がわからないというように。
ただ、困った様子はすぐに鳴りを潜めて

「この国では兵士はかなり上位の階級ですからね」

と言った。

「兵士は皆、エリュの名を得るために日々精進しています」 

「エリュ?」

「この国の騎士の名です」

エルドレッドはまた淡々と説明を始める。

「年に4回行われる武術大会で優勝するとその名を得ることができ、騎士として、この城の上層階に住むことができるのです」

つまり…年に4回、その時の最強の兵士を決めて、その兵士を騎士として更に上位の階級に上げている。と言う事か。

「ちょうど、お二人が居る間に大会がありますよ。その日は国民全てが仕事を休んで、大会の様子を見るのがこの国の決まりです」

何だその決まり。
と思ったが口には出さない。

「騎士にはエリュと言う名とナンバーが与えられます。今の国のトップが就任してからの試みですから、今で騎士は30人ですね」

それは多いのか、少ないのか…。私には分からなかった。

ただ、頭に浮かんだのはアリスに手紙を書いてきた人物の名前に確かにエリュ・ワンとあったことだ。
つまり…手紙の出し主は(多分国王の代筆だが)初代騎士なのだろう。
中々に名誉ある人から手紙を貰ったものだ。

「あと、質問はありませんか。何か気になることがあればその都度聞いてください」

とエルドレッドは一度この話を閉じ、

「今日はゆっくりお休みください。お部屋へご案内します」

立ち上がってそう言った。
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