Red Crow

紅姫

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隔絶の都とゼロの騎士④

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~6日目

私はルイの元へ行く前に、ゴイトのもとへと向かった。
一応ノックをした上で扉を開ける。

ゴイトは昨日初めてあった時のように、ただ窯の前に座っていた。

「来たか」

ゴイトはおもむろに立ち上がり、壁に立てかけるように置かれていた布にくるまれたそれを持って、私の前に立つ。

そこそこ身長のある私でも見上げなければならない程、ゴイトは背が高かった。

「それが?」

「あぁ」

ゴイトの手に持たれたそれを見ながら聞けば、ゴイトは頷く。

「お代は?言い値で払うよ」

「金はいらない」

「え?」

拍子抜けしてゴイトを見つめる。

「その代わり、お前の武器を見せてほしい」

私の武器が見たい?
彼が鍛冶師が故に、そんなことを思ったのだろうか。

「構わんよ」

私は服の内側から、ナイフを取り出した。

「私は普段、コレと同じナイフを何本も使っているんだがね…コレは特別思い入れのあるやつだ」

私は取り出したナイフの刃に触れながら言う。

「私が初めて手にしたナイフなんだ」

このナイフだけは、折れないように細心の注意をしているし、3日に一度は自分でメンテナンスをし、普段、肌見放さず身につけている。

「相棒とも呼べるナイフだ。普通なら他人には触らせないが…あなたは特別」

私はナイフを差し出した。

「…」

受け取ったゴイトは、まるで壊れ物でも扱うように私のナイフを持ち上げてあらゆる方向から見始めた。

「…良い武器だな」

それだけ言うと、ゴイトは私にナイフを返してきた。

「もういいのか?」

「あぁ、武器を見れば分かる。お前がどれだけ優れた武力を持つ者か。そんなお前が選んだ相手にこの剣が渡るならオレも安心だ」

渡される布にくるまれたソレを、今度は私が壊れ物を扱うように受け取った。
丁寧に布を取る。


息を呑んだ。


この剣が傑作であることは、ひと目見て分かった。

木から造られたとは思えない刃は、スッと真っ直ぐに伸び、淡く輝く。
一見、華奢な造りに見えるが、手にかかる重みは程よく重い。


「素晴らしい…」

口から言葉がこぼれた。

「握らなくても分かる…この剣の切れ味はとても素晴らしいものだろう…」

ゴイトは何も言わず、元いた場所に腰を下ろした。


鍛冶師と依頼主の関係は、物が鍛冶師に渡った時点で始まり、物が依頼主に渡った時点で終わるのだ。


私は、その場を後にした。













「お兄さん!」

村につき、教会へ行くとヴァレが出迎えてくれた。

「ヴァレ、ちょうどいい所に」

「え?」

「コレ、君からルイに渡してくれないか?」

布に包まれた剣をヴァレに差し出す。

「コレ、何?」

「昨日、鍛冶師に頼んだ剣だよ。さっき受け取ってきたんだ」

「だったら、お兄さんが渡したほうが…」

そういう口とは裏腹に、剣を握りしめているヴァレ。私は苦笑する。

「ヴァレから受け取ったほうがルイも喜ぶよ」

「そう…かな…」

「もちろん、さぁ行こう」

私はヴァレの背中を軽く押した。






ルイの姿が見えてくると、ヴァレの足は重くなる。
こうなってはヴァレを動かすよりも…。

「ルイ!!」

私は声を張り上げてルイを呼ぶ。
木刀を振っていた彼は手を止めて、コチラを見て、走ってくる。

ビクリと隣に立つヴァレの肩が揺れた。

「ユウィリエさん」

「ルイ、君に渡したいものがあるんだ」

「え?」

「ほら、ヴァレ」

ポンとヴァレの肩を叩く。
意を決したようにヴァレはルイにそれを差し出した。

「こ、コレ!」

受け取ったルイは布を取る。

「剣?」

「そう、君のね。明日の決闘、その木刀で出るわけには行かないし、今後兵士になるなら剣は絶対必要だから」

私は説明した。

「私とヴァレからのプレゼント。明日、絶対勝とう」

「はい!!」

頷く彼に微笑んだ。









礼拝が始まるからと、神父に引きずられるように(実際引きずられていた)去っていったヴァレを見送ったあと、私とルイは特訓を始めた。

あまり難しいものを今から短時間で教えるのは無理なので、基本的なことと、それを応用した技を少し。

初めて握る剣でありながら、まるでそうでは無いように剣を振るうルイには少々驚いたが、やはり才能があるとも感じた。


「はぁ…」

ルイが地面に倒れる。
肩で呼吸をするその姿は、ボロボロである。

「だいぶものにできたじゃないか」

私は頷き、握っていたナイフをしまう。

「特訓はお終い。あんまり根を詰めてもが行けないからな。もう休め」

本当は嫌だと言いたそうなルイだが、疲れた体の重みを感じてか、素直に頷いた。

寝転ぶ彼の隣に腰を下ろす。

「明日…勝てれば…兵士になれるんだ…」

疲れた声で、それでいてとても嬉しそうな声でルイが呟いた。

「…嬉しいのか?」

「当たり前だよ、ずっと…木こりをし続ける事になると思って…諦めてたけど…これで…大会で優勝できたら…城に行けるんだから…」

「城に行きたいの?」

はっきり言ってそんなに良い場所じゃないぞ、と続けそうになるのをこらえる。

「あの城は…限られた人しか入れないから…」

「お偉いさんとか騎士とか従者とかってことか?あと、兵士も選ばれれば入ってこれてたけど」

あの城で会った人といるであろう人を想像して言う。
よく考えれば、今日までグラディア国のお偉いさんとは会っていない。

「…あの城はね。国の偉い人と騎士と…あと罪人が居るんだ」

「罪人?」

「そう」

何故、城に罪人が?
そもそも、罪人が居るなんて聞いていない。

「罪人達はあの城で、カーベイシャス様に心を清めてもらうんだ」

「カーベイシャス?」

「この国のトップの人だよ」

初めて聞くこの国のトップの名だった。
それにしても…。

あの城に…騎士も罪人も居るのに…誰一人として会うことがないなんておかしくないか?

と考えて、ふと思う。

よく考えれば、私はまだあの城の内部を全ては見てないのだ。
特に必要も感じなかったし、必要なものは1階から3階の間で事足りていたのだ。
しかし、あの城はもっともっと上の階まである。

私がいる階よりも上でそんなことが行われているということなのだろうか。


「まだ…城にいるかは分からないけど…また会いたいんだ」

聞こえてきたルイの声に思考を止める。

「誰に?」

「ぼくの幼馴染の女の子なんだけど…昔…6歳の頃…罪をおかして連れて行かれちゃったんだ」

「はぁ!?」

6歳で罪人になった?
3歳の頃に師匠に拾われ、その後人殺しを始めた私が言うのはおかしいが…はっきり言って、6歳で罪人になるなんてありえないだろ。

「罪って言っても人を殺したとかそんなんじゃないよ。…ただ、間違ってあの森に入っちゃっただけさ」

ルイは上半身を起こして、ジッと遠くを見る。
視線の先にあるのは…エルドレッドから入ってはいけないと言われたあの森がある。

「あの森は、入っただけで罪になるんだ」

「なんたって、そんな所に入ったんだよ」

「…」

ルイはしばし口をつぐんだあと話し始めた。

「ぼくとその子…ジャンヌはただ、森を見てみようとしただけだったんだ。できるだけ近くで見たくて…森の範囲のギリギリまで近づいて。少し見たら帰るつもりだったし、実際そうした。でも、帰ろうとして…ジャンヌが躓いて転んで…後ろに倒れて、範囲を超えたところに手をついてしまったんだ」

そして、その日の夜、城からジャンヌを連行しに使者が来た。とルイは静かに続けた。

その話に私は違和感を覚える。
そんな私の様子に気づかずにルイは話し続ける。

「ジャンヌは城に連れてかれたんだ。…もう清めが終わってるだろうけどこの村には帰ってこなかった。もしかすると、他の村で暮らしてるかもしれないし……もしかすると、まだ城に居るかもしれない。ぼくは、確かめたいんだ。そして…もう一度、ジャンヌに会いたい…」

ジャンヌに会いたい、と呟いたルイの様子は、まるで生き別れた恋人に向けて言っているような感じがした。
きっと…ルイは…。
だから、ヴァレは…。
と思考が働く。
『あの事を…気にしてるのかな…』
昨日そう呟いたヴァレの泣きそうな顔が頭に浮かんだ。















✻✻✻✻✻

「明日だっけ?決闘」

「…あぁ」

「どうしたの?浮かない顔して」

アリスが私の前に紅茶の入ったカップを置きながら言った。

「いや…実は…」

私は今日ルイから聞いた話をアリスに話した。
頭の良い彼なら何か私に考えつかないような事を思い浮かべてくれるかもしれない。

「うーん、この城に罪人ねぇ…。それに、6歳の子供ですら罪人にするか…。確かに気になる話だね」

アリスは興味深そうに頷く。

「あぁ、何か引っかかる…だけど、違和感の正体が未だに分からなくてな」

ルイの話を聞いたときに感じたあの違和感はいったい…。

「それは多分、対応が早すぎるからじゃないか?」

「え?」

「まぁ…ユウなら分からなくても不思議じゃないかも」

アリスは苦笑しながら、話してくれる。

「普通、森の範囲に片手突っ込んだって事がすぐに分かると思う?そりゃ、ユウならミール国の城に侵入者が片足突っ込んだだけでも気づくかもしれないけど…普通そんなことはできないんだ。ずっと監視してたりしない限りね」

「監視?」

「そう、でもおかしいよね。誰も入っちゃいけないって言われてる森の中に監視員がいるなんて」

「おかしい話だな」

そう答えながらもアリスの話の可能性を考える。
ありえない話ではないかもしれない。

「まぁ、これだけは言えるよ。全てはこの城にいる国のトップによる行いだってこと」

アリスは天井を見上げながら言った。












その日の夜。
私はこっそりと部屋を抜け出して、階段を登っていた。

3階にある部屋からの移動なので、そう時間はかからない。
数十段の階段を登っていくと4階に続くであろう所に鉄の扉があった。
この城の見た目に合わない、頑丈そうな扉だ。


鍵穴を見る。ピッキングには時間がかかる代物だ。
一応ドアノブを握って、押したり引いたりしてみるが、ガチャガチャと扉が音を出すだけで開くことはない。


「何をしているんです」

後ろから声がした。
誰かが近づいていることには気づいていたので、驚きはしないが、聞いた声は初めてのものだった。
それは女の声だった。

「何をしているんです」

振り向いて顔を見れば、女はまた言った。

夜中で、寝ているであろう時間だというのにぴっちりとまとめられた白髪が数本目立つ髪。
細い眉の下には、切れ長の瞳。
スッと通った鼻にはちょこんと眼鏡が乗っている。
若い頃はとびきりの美人だったのではなかろうかと失礼なことを思う。

「ちょっと、上の階を見てみたくて…。鍵を持っているなら開けてもらえませんか?」

「無理ですね」

ピシャンと言われた。

「なぜ?」

「鍵など持っていませんし、持っていたとしても上の階は選ばれた者しか入れない聖域です。貴方を入れるわけには行きません」

聖域ねぇ…。

「そんな聖域に、他国の善良な人間は入れないのに罪人は入れるのですか?おかしな話ですね」

私が善良な人間かと言うのは棚にあげておく。

女は不機嫌そうに眉を寄せた。

「何をバカげたことを…。上の階にいるのは、騎士様達です」

どうやら、罪人など居ないと言いたいらしい。
この女を問い詰めたところで、有益な情報は得られまい。

「そうですか」

私はここで話を切り上げることにした。

「失礼しました。好奇心に負けてしまいました。部屋に戻ります」

「そうしてください」

私は女の脇を通って階段を降りていく。

ふと足を止めて振り返り、女に聞いた。

「失礼ついでに。あなたの名前は?」

「ジャラ=エッカート。この城のメイド長をしています」

誇らしいことを話すようにジャラは言う。

「そうですか。そんなメイド長さんが、こんな夜中にこんな所に何をしに?」

「貴方には関係ありません」

またピシャンと言われる。

「早く部屋にお戻りを」

「そうします」

また階段を降りる。
背中には見張るような視線が突き刺さっていた。


階段を降りきったあと、少しの間階段を見張っていたが、あのメイド長が降りてくることはなかった。
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