Red Crow

紅姫

文字の大きさ
115 / 119

隔絶の都とゼロの騎士⑥

しおりを挟む

~10日目


「へえ、ココが」

私は感嘆の声を出しながら、その場を見た。

「ほら、行こう。ユウ」

「待てよ、引っ張るな!行くから、アリス!」

私はアリスに引っ張られるままにその場所へ向かって行った。




来国10日目の今日はアリスに誘われて、アリスが日々通っていた学校に来ていた。
教室の方には最初の方に行ったことがあったが、その場所に来るのは初めてだ。

そこは、『校庭』と呼ばれる場所だった。
が、普通の規模とは違い、だだっ広い。

普段は何もないらしいその場所には、数十の舞台が設置され、その上で生徒と思われる兵士同士が剣を交えていたり、戦いを見ながら何やら話していたりしている。

生徒の数も多く、ごった返すようだ。
さすがは6年制の学校である。

「これから4日間はこんな感じに賑やかになるんだって」

とアリスは面白そうに言った。




アリスの行っている学校にいるのは兵士であり、当たり前だが武術大会参加者が多い。
そのため、学校ではこの時期に4日間かけて、大会に向けた技術向上の期間を設けているらしい。
その間は勉強はせず、時間の許す限り剣を振り、作戦を練るらしい。

もし良ければ見学しに来ないかとアリスが学校側から誘われ、護衛も一緒にと言われたらしく私に声をかけてくれたのだ。

昨日まではルイのもとに通い続けていたわけだし、せっかくのアリスの誘いを断るのもアレなので、私は共にやってきたのだ。
それに、ルイと同じ武術大会を目指す兵士達の実力も見てみたかったし。



「どこから見る?色んなところで皆戦ってるよ」

「そうさなぁ」

とアリスと話しながらブラブラと歩く。


「アリス先生」

そこにかけられる声。

「校長先生」

振り返り声の主に言うアリス。
校長先生…つまりこの学校のお偉いさんだ。

低めの背にずんぐりむっくりな体型。
ややハゲかけた髪。
にこやかな笑みを浮かべる彼はとても人が良さそうだ。

「校長先生、紹介します。僕の護衛をしてくれているユウィリエです」

「はじめまして、ユウィリエ=ウィンベリーと言います。今回は来訪をお許しいただき感謝します」

「これはこれはご丁寧に。校長のローマン=ハリーズです。他国の護衛の方に我が学校の実力を見ていただける機会を持てて嬉しく思っていますよ。何かご助言でもいただければ幸いです」

「私にそんな大層な役目が務まるかは分かりませんが、お力添えになれるよう努力しましょう」

アリスが何か言いたげに私を見てくるが、スルーする。

「どうぞ、ごゆっくり見ていってください」

校長はどこかへと歩いていった。

「いい校長だな」

「うん、本当に」

アリスがウンウンと頷いた。




舞台を見ながらゆっくり歩く。
さすがは兵士の学校というべきか、ある程度の実力は持っているようだ。

「そう言えば聞いた話なんだけどね」

「ん?」

「今まで武術大会…今回で21回目みたいなんだけど、20回目までの武術大会の優勝者は皆この学校の出らしいよ」

「へえ」

と答えながら、何か引っかかる。
武術大会の優勝者が騎士になれる。
今回で21回目。
騎士は全員で…30人と言わなかったか?

騎士が10人多い?
何故だろうか。
武術大会優勝者以外にも騎士になった者がいたのか。
はたまた、女王が就任した際に10人を騎士に任命したのか。

「この4日間の中の3日目にトーナメント戦をやるんだって。そのトーナメントで優勝した人が今年の優勝候補筆頭になるらしいよ」

つまり、そのトーナメント戦は武術大会の前哨戦って訳か。

「ほう、それは見ものだな」

アリスの話を聞いて、3日目が楽しみになる。

「今年の優勝候補って言われてる生徒が4人いてね。実力は拮抗してるって聞いてるよ」

「その四人の戦いぶりは是非見てみたいね」


「アリス先生」

話していれば再びかけられる声。
前から誰かがかけてくる。

女性だ。
長い焦げ茶の髪を1つにまとめ結んでおり、走るたびに毛先が揺れる。
戦闘用の服と思われる濃い紫色の服は、ぴっちりと彼女の体を覆っており、彼女のスタイルの良さを明らかにしている。
腰に下げられているのは、細剣だろうか。
あと、背中にも何か見える。

近づくにつれて顔も見えてくる。とても整った顔立ちをしている。
血色のいい肌。
女性にしては凛々しげな眉の下には、紫色の輝く瞳がある。

「おはようございます、先生」

「おはよう」

凛とした声で挨拶する彼女はアリスに微笑みかけると、興味深そうに私を見た。

「ユウ、紹介するよ。僕の教え子の一人で6年生の…」

「マルティーナ=ウィアーです」

アリスの言葉を引き継ぎ、マルティーナが自分の名を言う。

「はじめまして、ユウィリエです。アリスの護衛をしています」

マルティーナにいうと、よろしくと手を差し伸べられる。
気さくな性格のようだ。
その手を軽く握り返した。

「マルティーナは今年の武術大会の優勝候補なんだよ」

「へぇ」

「今はまだ候補ですが、必ず優勝しますよ」

意気込んで言うマルティーナ。
意気込むのも当然かもしれない。
この学校で6年間過ごしている間に騎士などになることなく卒業すると、国の傭兵や兵士団に、入ることになると聞いた。
傭兵や兵士団になると任務を持つことになり、その後の大会の日に任務が入ったりするらしく、騎士を目指すどころではないのだとか。
6年生のマルティーナが張り切るのも無理はない。ましてや、優勝候補とまで言われているのだから。

「マルティーナせんぱーい」

遠くからヨタヨタと走ってくる姿が見えた。

「テディー、今までどこにいたんだ」

走っている彼にマルティーナが言う。

「す、すみません。先輩が走り出して、姿を見失って…ちょっと迷ってたんです…アッ」

ドテッと彼はコケた。

「全くお前は…」

とマルティーナが彼を起こしにかかる。

「ありがとうございます、先輩」

起き上がった彼はキョロと私を見る。

「わぁ…綺麗な人ですね」

警戒することなく私に顔を近づけてくる。

「こら!失礼だろ。まずは挨拶だ」

「すみません、先輩。はじめまして、綺麗な人。テディー=プレスコット、1年生です。マルティーナ先輩の補佐をしてます」

「補佐?」

「この学校では、6年生に1年生の補佐官がついて、剣の特訓とかの相手をするんだ。6年生は相手ができるし、1年生は格上に教わることができる一石二鳥のシステムなんだ」

「なるほどね」

「補佐官はくじ引きで決まるんですがね…ハァ…」

とマルティーナはため息をつく。
そのため息には『酷いくじを引かされたものだ』と言う意味が込められているのだろう。

「はじめまして、テディー。私はユウィリエ。よろしく」

手を差し伸べれば、恐る恐る握られる。
おや?

「テディーも武術大会に出るのかい?」

「な、なんでですか?」

「テディーは出ませんよ。コイツ、兵士の癖に剣を握るのが怖いと言ってましてね」

「すみません…」

またため息まじりにマルティーナは言った。
剣を握るのが怖い?

「んな馬鹿な…」

「そう思うでしょう。兵士としては情けないにもほどがありますよ。度胸をつけるためにテディーにトーナメント戦に出させようと思ってるんです」

「…そうなのか」

私は改めてテディーを見る。
困ったように眉を下げているテディー。
私の目から見てもその姿は情けなく見えるが…しかし…。



「おい、今からジャレッドさんが戦うらしいぞ」

「マジかよ、見に行こうぜ」



私達の脇を駆け足でかけていく兵士達。
ジャレッド?

「ほう、ジャレッドが。これは見に行かなくては」

マルティーナもそんなことを言う。

「アリス先生達も一緒に行きましょう。面白いものが見れますよ」

歩き出すマルティーナの後を追い、歩き出した。




「ジャレッドってのは?」

歩きながら私は尋ねる。

「武術大会優勝候補の一人です。つまり、マルティーナ先輩のライバルですね」

テディーが答えてくれる。

「なるほど、ソイツが戦うってんでこの騒ぎか」

「誰だって強力なライバルの実力は見ておきたいものでしょう」

マルティーナが振り向いて言う。
強力なライバルか。それはルイにとっても同じだろう。見ておくに越したことはない。





人だかりのできている舞台についた。
舞台の上には戦っている二人の姿が遠目に見える。

「もう少し前に行きましょう」

人を押し退けて前に出る。
はっきりと二人の姿が見える。金髪の男と黒髪の男だ。

「対戦相手はプルデンシオだったのか」

マルティーナが呟く。

見ていれば…なんと言うか…実力の差は明らかである。
圧倒している金髪の男がジャレッドだろう。

同性の私から見ても目を惹く男だ。
流れるような金色の髪。健康的な白肌。
切れ長の黄緑色の瞳は今は鋭く相手を見ている。
兵士にしては細身の体はアーマープレートに包まれている。
手にしているのは金色の片手直剣。
凝った装飾など一切ないその剣は、優美な彼にはあまり似合わないが、近くで見なくてもかなりの業物であることが分かる。

「はあぁ!!」

彼の持つ剣がプルデンシオなる男の剣を弾き飛ばした。
流れるような動きだった。
間違いなく彼は手練だ。

「ま、まいった」

プルデンシオが言うと、彼はふうっと息を吐いて剣をしまった。
パチパチと拍手が起こった。

「凄いな彼」

「ユウがそう言うってことは凄い実力の持ち主なんだね」

私は呟きながら手を叩くとアリスが隣で呟いた。






「ジャレッド」

舞台から降りてきた彼にマルティーナが声をかけ、近づいていく。私達も後に続いた。

「マルティーナ、テディー。それにアリス先生も。…?」

戦っていたときとは違う穏やかな色をたたえた瞳が私を見て止まる。どこか警戒した様子だ。

「はじめまして、ユウィリエです。アリスと共にこの国に来た護衛です」

「あぁ、貴方が。はじめまして、ジャレッド=ルウェリンです」

「ルウェリン?」

どこかで聞いたような…。どこだったろうか…。
しばし、考える。

「あ…」

思い出した。
私は声を潜め、ジャレッドにのみ聞こえる声で囁く。

「君、ジャンヌって娘の兄貴か?」

ジャレッドは目を見開いた。
なぜ知ってる、とジャレッドの口が声を出さずに動いた。





「そうか、ルイを知っていたのか」

ジャレッドに連れ出され(アリス達は訳がわからない顔をしていた)二人で校庭脇の木の根本に座りながら話した。

ルイと出会い、ジャンヌのことを聞いたことを話せば納得したようにジャレッドは頷いた。

「あの村のことを久々に聞いたなぁ。ルイは元気か?」

「えぇ、元気ですよ。この前、木こりの天職を終えて、今は兵士になってます」

「あの木が倒れたのか!?」

頷けば、そうか…とジャレッドは呆然とつぶやく。

「凄いな、ルイのやつ。あの木を倒しちまうなんて」

厳密に言えば倒したのは私だが、それは言わなくてもいいだろう。

「今は武術大会に向けて毎日特訓してますよ」

「武術大会に…」

ジャレッドは表情を曇らせる。

「じゃあ、オレとはライバルになるんだな…」

「そういう事だな」

「ルイは剣の才能がある…油断ならないな」

ほう…。

「ルイの剣の才能に気づいてたのか?」

「当たり前だろ?未来の兄弟になるかもしれなかった男のことは観察してたさ」

未来の兄弟か。
確かにジャレッドにとっては、ルイはそういう存在だったのかもしれない。
全て過去形なのが悲しいところだ。

「…戻ろうか。アリス先生達が心配しているかもしれない」

ジャレッドはそう言って…まるで私が何か言うのを拒むように立ち上がった。



戻ると、何やらある舞台の周りがとても騒がしかった。
その舞台には4人の人がいた。

「何するんだよ!!」

と舞台の上で尻餅をつく男。その彼に近寄り身体を支えている女。
そして…。

「ふん、そこを退けと行ったのに言うことを聞かなかったのはお前らだろ?」

「そうだ、そうだ」

尻餅をつく男の前に立つ薄茶色の髪の男とそのすぐ後ろに立つ小太りな男がいた。


「やめろ!お前達!」
と勇敢にもその舞台に上がっていくのはマルティーナである。
その後にはアリス、テディーまでもが舞台に上がっている。
何やってるんだあいつ…。

「これはこれは、マルティーナ嬢」

薄茶色の髪の男がニタニタと笑いながら言う。
私とジャレッドは舞台に近づくため人をかき分けながら、その様子を見守る。

薄茶色の髪の男は…なんと言うか…好感の持てない男だった。
肩まで伸びる髪を垂らしている。
顔立ちは整っている方だが、目に浮かぶ人を小馬鹿にするような様子やニタニタと笑う薄い唇を見ているととても気分が悪くなる。

その後ろに立つ小太りな男は、どうも薄茶色の髪の男の腰巾着のようだ。
薄茶色の髪の男同様、ニタニタと笑い、余計な肉のついた顔を揺らす様はある意味滑稽だが見てみたくはない。

「お前には兵士としての誇りがないのか、シリル」

「おやおや、このワタシにそんな口を聞きますか。たかが、女兵士の分際で」

シリルと呼ばれた男はどうも性格まで悪いみたいだ。

「シリルさんのおっしゃる通りだ。まぐれで兵士になったようなお前に、シリルさんに物を言う資格はないね」

「キム…」

と小太りの男の名だと思われるものを呟きながら顔をしかめるマルティーナ。マルティーナが歯を噛みしめる音が聞こえてきそうだ。

「シリル、キム。それはマルティーナに失礼な言い分だぞ」

前に出ていくのはアリスだ。
まさか前に出るとは…。もう少し待ってほしいものだ。
まだ舞台には遠いのだから。

「うーん?これはこれは、アリス先生ではありませんか。なぜここに?ココは武術を心得ている者が立つ舞台ですぞ?」

先生と呼びながらも、どこか小馬鹿にしたようにシリルは言う。
そりゃ…アリスは武術なんて心得ていないだろうけど…そんな言い方はないだろう。

「テディー、お前もここに上がる資格はないね」

キムがニタニタと笑いテディーに言った。
テディーはうつむく。それを見て、シリルとキムは笑う。
アリスはテディーをかばうように前に立つ。今日に限ってなんでお前そんなに勇ましいんだよ。

「シリル、キム!どうしてそんな失礼なことばかり言うんだ」

「先程から失礼、失礼といいますがね先生。失礼なのはそちらでしょう?ワタシが言うことにいちいち反論してきて。ワタシと彼らでは立場が違うのですよ」

「シリルさんの言うとおりです」

シリルはフンッと鼻を鳴らし、声高らかに話し出す。

「ワタシはこの国の騎士が一人、クェンティン=エリュ・シックスティーンの息子、シリル=ビヴァリーだぞ。つまり、ワタシは貴族の子で、そこの女や貴方よりも身分が上なのですよ」

シリルの情報に一つ加筆を加える。
親の臑齧り。

「この国から呼ばれてやってきたのでしょうけどね、アリス先生。貴方の身分はワタシより下。
頭がいいばかりで、自分の身一つ守るすべを持たない貴方の身分は底辺とも言える」

「なんだと…」

ハンッと嘲り笑いながら、シリルはこんなことを言った。

「全く失礼な方だ。身分が下なのだから敬語を使いなさいな。それとも、その頭のいいはずの脳みそにはそんな常識的な事柄が入っていないのですかなぁ?
貴方のいる国の方々は皆、その程度の頭の持ち主なんですかね?

貴方のいる国の国王のことを疑いますよ。
上下関係というものも理解していない、その上、自分の身一つ守る力もない、そんな貴方を国の重役としているなんて…。
相当な馬鹿だと思われる」

シリルとキムが品のない笑い声を上げた。








プッチン







と私の中の何かが切れた。

「どうしたんだ?」

人だかりの中人をかき分けるのをやめ、立ち止まった私にジャレッドが言う。

「早く行かなくては。シリルは…」

ジャレッドが言葉の途中で息を呑む音が聞こえた。
が、そんなことは気にしていられない。
私は足に力を入れた。


「シリル…!僕のことはどんなに侮辱してもいいが…」

「うるさい愚民が!」


シリルがアリスの肩を押した。


それと同時に私は
ダンッと地面を蹴り、舞台に向かって飛んだ。


舞台に着地しながらアリスを支える。

舞台にいた人も、周りの人物も私の登場にポカンとした顔をしているが…そんなことは気にしていられない。

「ユウィリエさん…?」

テディーが呟いた。

「な、なんだお前は!」

「許さない」

私はシリルとキムを睨みつけ、怒りに任せて殺気を放つ。
ヒッと息を呑む音が聞こえるが、そんなことは気にしていられない。

「我が主を侮辱するとは…許さない!」

私は言い放った。


「ユウ…」

アリスの呼びかけに少しだけ理性を取り戻す。
近くにいるアリスには私の殺気は強すぎる。私は殺気を引っ込めた。

「誰だお前は!」

「私はユウィリエ。アリスの護衛だ」

キムの言葉に嫌々ながらも答えてやる。

「フンッ…護衛の分際で…」

「護衛の分際…だと?どの口が。お前のような性根の腐りきった臑齧り野郎にそんな事言われる筋合いはないね」

「な、なんだと…!貴様!ワタシが貴族と知っての無礼か!」

「貴族だか何だか知らないけど!」

私はシリルの声よりも大きく声を張り上げて言う。

「我が主を侮辱した罪は重い」


「ハハハ…」

と、シリルは笑い出す。

「面白い。ワタシをコケにするか。それはワタシへの挑戦と受け取るぞ」

シリルは腰に下げていた剣を抜く。

「この舞台でワタシと戦え、護衛」

「構わない」

むしろ望むところである。

「ユウ…」

私を呼ぶアリス。
アリスの目には『間違っても殺さないでね』と書かれている。
誠に不本意だが…殺しはしないさと頷けば、はぁとアリスは息を吐いた。

「後悔するなよ…シリル」

小さな私の言葉にシリルは不敵な笑みを浮かべた。



何か言いたげなマルティーナ達を舞台から下ろす。
が、シリルはキムを舞台から下ろそうとはしなかった。
ただニタニタと笑い私を見るだけだった。

「おい護衛。お前の武器は?」

「ふん、お前ごときに武器なんか使うかよ」

私は両手を振ってみせた。
今、手に武器など持ってしまえば、私は確実にコイツを殺してしまうから…今は握らない。

「ずいぶんと余裕だなぁ」

「お前こそ」

嫌に余裕ぶってるシリルが不気味でならない。
シリルはニタァと笑い、キムに何やら目で合図する。
そして、二人同時に剣を抜いた。

「そんな口聞くんだから、2対1でも文句はないよなぁ!!」

シリルは言うが早いか、こちらに向かって突進してくる。なかなかのスピードである。周りが息を呑む音が聞こえた。


あぁ、そういうタイプか。
と私は内心で呆れながら、突進してくるシリルが私にぶつかる直前に片足で軽く後ろに飛ぶ。
地面についたその足を軸にもう一つの足を、私が避けたことでバランスを崩すシリルの腹に向かって振り上げ、膝をめり込ませる。
そしてそのまま、後ろに控えていたキム目掛けて蹴り飛ばした。
二人とも舞台から落下する。


「な…ワタシが…負けるだと…」

呟くシリル。キムはシリルの下でのびている。
私は、舞台の上からシリルを見下し口を開く。

「よく聞け、臑齧り野郎。どれだけ親が強かろうとそれはお前の実力ではない。己の力を見誤り、他者を見下すのは愚か者の行いだ。お前も国の兵士だと言うのなら、それ位の常識は心得ておけ」

シリルは悔しげに奥歯を噛みしめる。
そして立ち上がる。
私のことを睨みつけるが、何も言うことなく人の中へと消えようとする。
そこで意識を取り戻したキムが状況を理解しようと周りを見回した。

「キム!早く来い!」

「え?」

間抜けな面を見せるキムにイライラしたようなシリル。
またキムに何か言うかと思ったが、視線を違う方向へ向け、声を張り上げる。

「マノラ!キムをつれて来い!」

マノラ?

「は、はい」

怯えたような返事をして人混みから飛び出してきたのは、ほっそりとした小柄な少女。
少女は私を一瞬見た。その目には…まるで助けを求めるような色が浮かんでいた。
長い髪を一本の三つ編みにした彼女はいそいそとキムに近寄り、肩を貸し、シリルの後をゆっくりと追う。
なんとなく、その姿を目で追っていたが、人混みに消えた彼女の姿はすぐに見えなくなってしまった。


「ユウ」

安心したように私の名を呼ぶアリスにほほ笑みかけながら、私は舞台を降りた。

ちょうどその時、校舎の鐘が昼休憩の時間を知らせた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...