Red Crow

紅姫

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書記長のお仕事①

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書記長の仕事には色々なものがある。
例えば、書類を整理し総統へ報告すること。例えば、城下へ行き国民の様子を観察し、国民の要望を聞くこと。
などなど沢山あるが、その中でも1番労力が必要なのは…


「ハァ…」
ユウィリエ=ウィンベリーは目の前の相手に気づかれないように小さくため息をついた。
と、いっても相手は話すことに夢中でこちらの様子など気づいていないだろう。


「我が国は、貿易にも力を入れていて……」

さてはて、何度同じ話を繰り返すつもりなのだろうか。

これはリュウに任せなくてよかったと私は心の中で呟いた。


書記長の仕事で1番労力が必要なのは
客人の相手であると私は思っている。

他国と交渉する際、ここミール国では総統ではなく、書記長である私が対応している。
万一、交渉が決裂し、客人が総統に銃や刃を向けることがないようにだ。

今回の相手は、要約すると貿易の為の商品を作るためにこの国に拠点を作りたいと言っている。普通なら了承しても差し支えなさそうだが…


「すみませんが…」

話の途中で私は口を挟んだ。

「これ以上、話していても無駄でしょう。お引き取りを」

そう言い、席を立とうとすると、客人は怒ったように声を荒げた。

「何故です!我が国と交流を持つことは、ミール国にとっても価値が大きいはずです!」

「…ハァ」

今回は隠そうともせずため息をつく。
相手の顔が赤く染まっていく。

「我が国は平和主義を掲げています。この国で戦争に使う銃火器の製造などさせるはずがないでしょう」

「…!」

なぜそれを知っている、と客人の顔に書いてあった。
逆になぜ知らないと思ったのだろう。
交渉に来る国について調べるのは当たり前だろうに。


「調べているなら分かっているでしょう?我が国は軍事力の大きい国と多く同盟を結び、武器を輸出してます。我が国が頼めば5.6の国にミール国を攻撃させることだって可能なのですよ」


「なんと言おうと、交渉を飲む気はありません、お帰りを」


チッと客人は舌打ちした。

「わざわざ2時間もかけやって来たのにこの仕打ち…どうなっても知りませんからね…」

捨て台詞をはき、客人は出ていった。




コンコンッと扉を叩き、私は総統室に足を踏み入れた。
「リュウ、客人が帰ったよ」
「そう」
リュウこと、リュウイ=レラ=ウェンチェッター総統閣下はこちらも見ずにそう言った。

「そう…って総統なんだからもう少し関心を持ったらどうだ。この国のことなんだぞ?どんな交渉してきた客人だったとか聞きたくないのか」

私の言葉にキョトンとした顔をするリュウ。

「ユウが客人を俺の所につれてこないってことは、交渉は決裂って事だろ?」

「まぁ…そうだが…」

「なら聞く必要ないだろ?ユウが駄目だってんならどう転んだって交渉をのむことはないんだから」

「…そうかい」

信頼してくれるのは嬉しいが、もう少し興味を持ってほしいものだ。



「そういえば、今日って城に国民を招いて食事会するんだよな」

「あぁ」

ミール国では月に二回、城を開放し国民達と触れ合う行事を行っている。
今回は食事会。今頃、厨房は大忙しだろう。

「夜7時から10時までだっけ?早く書類に判押し終えなくちゃな」

そう言うとリュウは書類に判を押す作業に戻った。
私はそれを邪魔しないようにそっと部屋を出た。

今、午後4時30分。食事会まで2時間30分。

「……」
全く面倒を抱えてしまったものである。
でも、まぁ…
「信頼には答えないとな…」










「クソッ、あの書記長め」
ミール国を訪れていた客人は自室に入るなり吐きすてた。

客人の国は、今、甚大な人不足に悩んでいた。人が居ないせいで武器の製造が遅れてしまっている。
そこで目をつけたのがミール国だった。

「絶対に後悔させてやる。我が国の武器製造ラインは世界でもトップクラスなのだ」


「そんなに武器製造が大事か?」


近くからそんな声と



ボコォォォォォン!!!!


という地響きと
まばゆい光が窓の外から見えた。


「は…」

フラフラと客人は窓に近づいた。
見えたのは火の海。世界トップクラスを誇っていた武器製造工場が赤赤と燃えていた。

「な、どうなっている!?」


「…後ろがガラ空きだぞ?」


「ガッ…」

声とともに右脇腹に鋭い痛みを感じた。そして、全身が痺れていく感覚。

「こ、れは…」

「刃に毒を塗らせてもらった。じわじわと死に近づける、しかも調べても検出されない特殊な毒をね」

毒の効果でのた打ち回る客人を、ユウィリエ、もとい赤烏は見つめ、1枚の赤い羽根を放おった。


「時間がないんでね。死ぬのを見れないのが残念だ。」

赤烏は呟く。その声にチラリと客人が目線を向けた。


「じゃあな…えと…名前…。スマン忘れてしまった。まぁもう会うことも無いんだから良いだろ…。自分が愛した工場が燃え壊れていく様子を見ながら死んできな」



赤烏は天井へと消えた。












「お時間をとらせて申し訳ありません」
翌日の昼間、2人の客人がミール国の城を訪れていた。

「いえいえ、今日はなんの予定もありませんから」

私はにこやかに2人を応接間へ招き入れる。

「それで、国際警察の方々がなにゆえ、この国へ?」

この2人は国際警察の人たちだ。
国際警察とは、この世界の警察部隊を率いる大元で、国の国王や総統閣下が殺されたりすると動く国を跨いで捜査できる警察組織だ。


「昨日、ナルジャ国の国王、ルーファス様がこちらを訪れたと聞いたのですが本当でしょうか」

あいつは、ルーファスと言う名だったのか

「ええ、確かに。何でもこの国に貿易のための商品を作るための拠点を置きたい、と言っていました」

一生懸命にメモを取る部下と思われる女性に気を使い、なるべくゆっくりと話す。

「それで、交渉はどうなったのです?」
「お断りさせていただきました。」
上司の方の質問に素直に答える。
「なぜか聞いても」

私はあえて言いづらそうに言葉をどもらせながら続ける。

「それは…。ナルジャ国は武器製造で貿易をしている国と噂を聞きまして…ミール国は平和主義を掲げる国です。武器製造工場ができれば国民が働くことになる。国民たちに武器製造などさせる気はありませんゆえ」

「なるほど」

「あの…。昨日来たナルジャ国王様に何か…?」

ハッとした顔をして警察2人は顔を見合わせ、頷き合う。

「実は昨日殺害されました」

「え…?」

さて…キチンと驚けているだろうか。反応を見るに大丈夫だろう。

「それで、私をお疑いで?交渉は確かに断りましたが…それは国家の指針が相容れなかっただけの事。それで殺害など…」

「あぁ、違います違います。ただ事実を確認しに来ただけです」
上司の方が慌てたように言う。

「ユウィリエ書記長さんに殺害が無理なことは分かっています。ナルジャ国王の殺害時刻は午後9時頃なんです」
部下が説明していく。
そうか、9時頃死んだのか。

「ナルジャ国王がこの国を出たのは午後4時。ナルジャ国まで車を飛ばしても2時間かかります。9時頃死んだとなるとここを午後7時頃に出る必要がありますが、その時にはユウィリエ書記長さんはリュウイ総統と共に国民達を城へ迎えていたことを国民達が証言しています」

私はホッとしたように息を吐く。

「それに犯人は分かっています。…アサシンの赤烏です。現場に羽根がありましたから」

「そうなのですか」

「ええ。…お時間ありがとうございました。これからまだ回るところがあるのでこの辺で」

「あぁいえいえ。なんの協力もできず…」

「素直に答えてくださるだけで十分協力していただいてますよ」

そう言い残し、警察2人は部屋を出ていった。






「ふぅ…」

椅子の背もたれに身を預け息を吐く。

「どうにか、容疑からは外れたようだな…」

私は呟いた。


警察の見立ては間違っている部分がある。
確かにナルジャ国王がこの国を出たのは午後4時だし、殺したのは赤烏、つまり私だ。
それは合っている。
間違っているのは殺害時刻だ。
私がナルジャ国王を刺したのは午後6時頃だ。
確かに、ミール国からナルジャ国まで車で2時間はかかる。
午後4時半に国を出て、殺害し、食事会の午後7時に戻るのは不可能だ。
実質的には…ね。

車で2時間かかるというのは整備された道を通って2時間なのだ。
直線距離でかんがえれば、2時間もかからない。
つまり、私は獣道やら家の屋根をつたって直線距離でナルジャ国に行ったのだ。片道45分。工場に爆弾を仕掛け、殺害し、戻ってからシャワーを浴びる余裕すらあった。

奴が3時間も苦しんで死んでくれたのも大きい。殺害時刻や移動時間を含め食事会の時間にピッタリと一致してくれたのだから。


おかげで、容疑から外れ、警察からの疑いも受けずにすんだが…

「ハァ…」

やはり、書記長の仕事で1番労力が必要なのは、客人の相手だ。
いかに、疑われることなく、不自然じゃないかを意識しなくてはならない。

「疲れたなぁ…」

私は小さく呟いた。

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