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協力者①
しおりを挟むアサシンは1人で行動する孤独な仕事だ
そう思ってる人は多いだろうが、そんな事はない。
アサシンといえど、できる事には限界がある。
そのため、世間を騒がせるRedCrowである私にも協力者はいるのである。
「あー、やっと終わった」
「おつかれさん」
目の前で伸びをする男に私は労いの言葉をかけた。
「全く、誰かさんのせいで仕事が増えちゃったよ」
「悪かったって…」
コキコキと首を鳴らす男は振り返り、耳に当てていたヘッドホンを取りながら、ニィと笑い
「ま、そのお陰でトルレッタ国の皆が笑顔になったんだからいいんだけどさ」
「お前の情報のお陰でもあるさ、ルナ」
ニシシとルナと呼ばれた男は笑った。
このミール国で俗に幹部と呼ばれる人材は少ない。
従者や門番などはいるものの、それはあくまでも、国民の一人であり、国の幹部職ではないのだ。
幹部と呼べるのは、総統であるリュウイと書記長の私、そして目の前にいる情報管理者のルナティア=ハーツホーン
この3人くらいだろう。
そして…
「それにしたって、今回はまた派手にやったもんだね、RedCrowさん?50人刺殺した感想、ぜひ聞きたいよ」
ルナティア=ハーツホーンは私がRedCrowと知る数少ない人物の一人である。
「別に普通さ、ただ殺しただけ。そこに快楽はないだろ」
「そういうもんか?」
「お前だって、別にどこぞの国の生半可な情報プログラムをハッキングしたところで快楽にはならないだろ?それと同じさ、天才ハッカーの黒猫さん」
「な~るほどね」
ルナはどこかから取り出した、棒付きのキャンディの包み紙をとり、口に入れながら答えた。
ハッカー黒猫と言えば、秘匿情報を持つ国のものなら知らぬものはいないと言うほど名のしれたハッカーである。
黒猫にかかればどんな情報だってたちまち奪われてしまう。
ハッキングした情報には、真っ黒な猫の足型のマークが押されることから、黒猫と呼ばれるようになった。
知り合ってしばらく経つが、黒猫と言う通称はなかなか彼にあったものだと私は感じている。
トルレッタ国の移民対策が完了し、書記長である私の仕事も一段落した頃
「……」
「……」
とても居心地の悪い沈黙が書記長室を満たしていた。
私と机を挟んで向かい合うルナの表情は氷のように冷たい。
「また見つけちゃったのか?」
その問いかけにルナは無言で頷いた。
「それで怒ってると」
その問いにもルナは無言で頷いた。
こりゃ、大変な事になりそうだ。
私は心の中でため息をついた。
午前7時、起床
メイドの呼びかけにより男は目を覚ます。
午前7時10分 着替え
執事が男の服を着替えさせる。
午前7時30分 朝食
側にはメイドが控えていて、コップの飲み物がなくなったら即座に注ぐ。
午前8時~午後1時30分 仕事
国王としての仕事をする。側には大臣や補佐官が常にいる。
午後2時 散歩
愛犬とメイドと共に庭を散歩する。
午後3時 昼寝
自室のベッドで眠るとメイドたちに告げ、部屋へ戻るが、実際は自分の収集物である宝石のたぐいを磨く時間。他の者たちに宝石を見られたくないため、この時間はいつも一人。故に…
ストッと小さく音を立てて私はその男の背後に立った。
こちらに気づく様子もなく、男は宝石を磨いている。
少々つまらないが…仕方ない
私は背中から心臓の位置めがけてナイフを突き刺した。
そして、赤い羽根を側に置き、
「全く、どうやって調べたんだか…」
服の中に入れていた、紙の束を取り出し、眺め私は呟いた。
午後3時 昼寝
自分のベッドで眠るとメイドたちに告げ、部屋に戻るが、実際は自分の収集物である宝石のたぐいを磨く時間。他の者たちに宝石を見られたくないため、この時間はいつも一人。故に…暗殺するのであればこの時を狙うのが一番である。この時間以外、男が一人になる時間はないのだから
「サルクハ国の国王が殺されたらしいよ」
まるで、世間話をするかのような口調でパソコンをいじりながらルナは私に言った。
「…そりゃ殺してきたからね、生きてたほうが驚きだよ」
「そ~うだよね。さすがRedCrow。今回も見事な腕前だったらしいじゃないか」
「ま、これのおかげでいつもよりスムーズだったからね」
と私は紙の束をルナの頭にのせた。
それを受け取りながら、ルナはニィと笑い
「役に立った?」
とペラペラと紙の束を揺らす。
その紙の束に書かれているのはサルクハ国の国王の1日のスケジュールである。
大まかに何時に何をするのか書いてあるものもあれば、分単位で書かれた細かなものまである。
一応、目は通したが、分単位のものまでは覚えられなかった。
「どうやって調べたんだ?こんなに細かく」
「サルクハ国の国中の監視カメラをハッキングしたの」
監視カメラだけでこんなに正確なタイムスケジュールが作れるものか。
そう思ったが、伝えたところでルナは答えないだろうから言わない。
「ここまでする必要があったのか?」
「何が?」
「こんなタイムスケジュールまで作って殺すほどのやつだったのか?」
「そりゃあ…そうでしょう」
くるりとこちらを向き、私を見るルナの金色の瞳は怪しく光る。
「だって、ソイツはリュウイの悪口を言ったんだから」
サルクハ国の国王はある意味運が悪かった。
とある国と外交の際に、ミール国の話がとある国から出された。
サルクハ国の国王はミール国よりも自身のほうが優れていることをアピールしたかったのだろう。
ミール国の総統であるリュウイのことを貶してしまったのである。
それが…その部屋につけられていた盗聴器に聞かれていたことや、たまたまその盗聴器を暇を持て余したハッカー黒猫がハッキングしたことは彼には分かりようがない話である。
「たとえ、サルクハ国王が神様の悪口を言っていたって僕はなんとも思わないさ、でも…でも…
リュウイの悪口を言うやつは僕は絶対に許さない」
私は心の中で、名も知らぬサルクハ国王に合掌する。
目をつけられたやつが悪かった。
悪びれる様子もなくニコニコと笑みを浮かべるルナを見て私は思う。
どこか飄々としていて、掴みどころがない
しかし、主には絶対の忠誠を置き、なつく
誰かが主の悪口一つ言おうものなら、長く鋭い爪で反撃する。
まさに黒猫のような男
ルナティア=ハーツホーン
人はきっと彼を狂ってると言うだろう。
しかし…
「なぁユウ」
「なんだ」
「僕は狂ってるか?」
「いや?
お前は、正しいよ」
ニィと笑うルナに笑い返しながら私は答えた。
きっと狂ってるのは私も同じ
だからこそ、
同類だからこそ、彼は私の協力者にふさわしいのだ
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