Red Crow

紅姫

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出会いの季節②

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例えば、優等生が宿題を忘れてきたとか
例えば、ヤクザまがいが人助けしただとか

そういう現象を目の当たりにすることがあるだろう。

そうすると、人は言う。
『珍しい』
と、そう表現する。


ならば


「はぁ!!??」


ミール国の書記長室で、外にまで響くような大声をあげたユウィリエ=ウィンベリーを


「珍しいな」


と評したゾムーク=フェアファクスの発言はとても正しいと言えるだろう。








ー3日後

ゾムークは、警備のため城壁外の見回りをしていた。
戦闘員として雇われたといっても、この国で戦闘が起こることなんて限りなく無いに等しい。
そのため、普段はこうして警備をすることが多い。


「ん?」


あと少しで全部見終わる、というところでゾムークの目にそれはうつった。

人が倒れてる…?

一応、警戒をしながらゾムークはその人物に近づいた。

珍しい髪の色をしている。輝く金髪を見るのは初めてだった。
服は半袖短パン。この季節には少し寒そうに見える。
白い肌にはいくつもの切り傷ができている。

「おい、大丈夫か」
「うっ…」

その男はうめき声を出した。
どうやら、意識はあるようだ。

「しょうがねぇなぁ…とりあえず、ユウのところに連れてくか…」

ゾムークは男を抱え上げた。










「ん…」
男は声を漏らしながら起きた。
「…」
包帯の巻かれた腕を見て、自分が助かったことを知る。
ほぉっと安堵のため息が口からこぼれた。

カチャッ
と扉が開く音がして、人が部屋に入ってきた。
「あ!起きたんだ!」
ニカリと笑うその人物に、男はパチリと瞬きした。





「俺、リュウイ=レラ=ウェンチェッター。お前は?」
男が寝ていたベッドの脇に椅子を持ってきて腰掛け、入室してきた人物、リュウイは言った。

「…キース=ティリット」
男、キースは恐る恐る口を開き言った。

「キースか!よろしくな」

スッと前に出される手。
キースは、少し躊躇いながらその手をとった。

とても暖かな手だ。
とても柔らかな手だ。

「どうしたんだ?」

リュウイがもう片方の手でキースの目元に触れた。
そこで、キースは初めて自分が泣いていることに気づいた。

「分からない」

本当にキースには何も分からなかった。
ただ、涙は止まらなかった。

「そうか…。きっと色々あったんだな」

ヨシヨシと頭を撫でるリュウイの手をキースは心地よく感じていた。









ースフィリー国にて

全く…面倒なことになったもんだ

とユウィリエ=ウィンベリーは、今しがた殺した男からナイフを引き抜きながら思った。

殺した男、スフィリー国、国王シーオドア=ティリットの死体の上に赤い羽根を置く。

「アンタも不運な奴だねぇ」

ユウィリエの言葉に返事はなかった。









ー3日後

コンコンッ

「失礼しますよ」

キースが寝ている部屋にその人物がやってきたのはキースが目覚めてから3日後のことだった。

とても整った顔をした若い男だった。
赤い瞳がとてもきれいで、目が離せない。

「君がキースだね、傷の具合いはどうだい?」

「大丈夫です」

「そうか」

男はキースの眠るベッドの端に腰掛ける。

「すまないね、本当は医者に見せてやりたいんたが…ココにはあいにく軍医が居なくてね」

キースはここに来てから一度もベッドから出ることが出来ていなかった。
どうやら、足の筋を違えたようで歩くことも出来なかったのだ。
と、いっても最初ほど痛みはなくなってきたし、いずれ元通りになるだろう。

「ごめんよ…城を出れば医者は居るんだけどね」

「…?」





「流石に、『狂犬』を一般市民に会わせるわけにはいかないんだよ」





キースの顔から血の気が引いた。


「あなたは…いったい…」

「ああ、名乗ってなかったね」

男は真っ赤な目を真っ直ぐにキースにむけて続けた。



「ユウィリエ=ウィンベリー。どうぞよろしく」


キースはユウィリエに怯えたような目を向けた。

「大丈夫、私は君と同類だよ」

「え?」

「君のことを、師匠…フェリクスから頼まれたんだ」

「!!」

キースが目を見開くのを見て、ユウィリエは目を細めた。








事の始まりは、一週間前
私のもとにある手紙が届いたのだ。


「懐かしいなぁ、師匠からだ」

「師匠?」

私の部屋に来ていたゾムークが首を傾げる。

「私に殺しの術を教えてくれた師匠さ、ゾム」

「ユウに師匠が居たのか」

ゾムークが驚いたように目を丸めた。

同じアサシンということもあってか、私とゾムークはなかなか相性が良かった。
気が合うとでもいうか
今では『ゾム』『ユウ』と呼び合う仲になった。

「最近、会ってなかったけど…しばらくぶりに会いに行こうかな」

懐かしき師匠のミミズの這うような汚い字で書かれた名前を見ながら私は呟いた。
昔は解読するのに1日を要した字も今ではすんなり読める。


ペーパーナイフで封を切り、手紙を取り出す。


相変わらずの文字で書かれた紙が2枚入っていた。


『ユウィリエヘ

久しぶりだな、と言っても赤烏としての活躍を新聞なんかで見ているからか、そこまで懐かしさを感じていないがね

この前のヤフェト国の一件もお前の仕業だろう?羽根があったとは書いてなかったがあのナイフの切り口、すぐに察しがついた

さて、今回お前に手紙を書いたのは他でもないお前にやって欲しいことがあるからだ。

スフィリー国を知っているだろうか?
お前さんがいるミール国から遥か遠くにある大国だ。行ったことはないかもしれないな。
その国の国王を殺してきてほしいのだ

何故?とか自分でやれ、と思っただろう?

しかし、暫く凶器を持ってこなかったワタシに今更暗殺は難しい。できない事もないがきっとヘマをしてしまうだろう

だから、お前に任せたい

もちろん、お前が理由なく人を殺すのはあまり好かない事は知っている。
今から理由を書こうではないか


暫く前から、ワタシの元には二番弟子が来ていてね
一番弟子のお前さんほどではないがなかなか筋がいい

その二番弟子がスフィリー国の国王に酷い目に合わされたようでね

信頼してスフィリー国に托したのに、酷い裏切りにあったよ

是非に復讐したい

頼めないだろうか』


「なるほど」

私は呟いた。
他でもない師匠の頼み。受けないという選択肢はもとより無い。
しかも、私の後輩の敵討ち。やらない手はないだろう。

「ん?」

私は紙に鼻を近づける。
紙の余白部分からある匂いがした。
酸味のある柑橘系の香り…これは

「ゾム、ライター持ってるか」

「?あぁ」

渡されたライターで紙を炙る。
すると、文字が浮かんできた。
あぶり出しである。



『追伸
実は、二番弟子はまだワタシの元には帰ってきていない。
以前、お前さんの事を話したことがあったからもしかすると、お前さんの方へ行こうとしているかもしれん、来たらよろしく頼む


あと、その二番弟子だが、お前さんなら知っているだろうが最近、戦争区に神出鬼没で現れ狂ったように両者の兵士を殺す『狂犬』と呼ばれている奴だが、まだまだ技術的に未熟だ。もし良かったら鍛えてやってくれ



        フィリクス=オルコック』



読み終えたユウィリエは


「はぁ!!??」


と外まで響くような大声をあげた。


「二番弟子が、あの狂犬!?」


驚きで目を見開くのをユウィリエを見て


「珍しいな」


と言ったゾムークの発言はとても正しいものだった。









「師匠から話を聞いてて、ここを目指してたんだろう?」

「はい、そのとおりです」

キースは頬を掻きながら言った。

「やられたまま師匠の所に帰るのは気が引けましたし、逃げ出して宛もなく歩いていたらミール国が近くだという噂を聞いたので」

「スフィリー国の国王は殺しておいたよ。まさか入れ違いになるとは思わなくてね、会いに来るのが遅くなったんだ」

そう、入れ違いだ。
私がミール国からスフィリー国に向けて出発した日にキースはこの国に来た。
行き帰りに3日ずつ、計6日も国を空けていたためキースと会えていなかったのだ。


「そうでしたか…。ありがとうございます、敵をうってくれて」

「構わん、私にとって君は後輩だからね、当たり前のことだよ。ただ…その…」

「いいんです。ありがとうございます、先輩」

ニコッと笑うキースに私も笑みを浮かべた。



それ程までに、キースは父親を恨んでいたのかもしれない。
どういう経緯で今のような状態になったのか、私にはわからないが…まぁ、本人がいいと言うなら私が口を出すことではないだろう。


「それで…どうする?師匠のところに帰るか?一応、師匠からはこっちに居てもいいって話だったけど」

「あー…」

キースは困ったように笑う。

「足もあと少しで治りそうですし…帰りますかね…」

キースがそう言った時、扉が開いてリュウイが入ってきた。


「リュウ?」
いつもと雰囲気の違うリュウイに私は声をかけた。
「…」
しかし、リュウイは無言で手に持っていた紅茶の乗ったお盆を適当に置き、キースに近づく。


「キース…」

ガシっとキースの手を握るリュウイの様子を見て

こりゃ早めに師匠に手紙を書かなくては…

とユウィリエは思いながら、優しい瞳で2人を見つめた。

「か、」

「?」

困惑した顔をするキースにリュウイは言う。

「帰っちゃうのか?キース」

「え?」

「せっかく、仲良くなれたのに!もう帰っちゃうのか?」

リュウイの顔には『寂しいです』と書かれていた。

パチパチと瞬きするキース。
多分、こんな風に言ってもらうのが初めてなのだろう。

私も昔、そうだった…

ちょっとした、懐かしさを覚えながら私は口を開く。


「リュウ、キースは今ちょうど働き口を失ったばかりで職についていないらしい」

「え?」

私の言葉に最初こそポカンとしていたリュウイだが、意味を理解するとキラキラした目でキースを見た。

「それに、キースは私の知人に鍛えられていてね、めちゃくちゃ強いぞ」

「キース!!」

リュウイは握っていた手をブンブンと振る。



「俺の補佐官にならないか!!」



満面の笑みでそういうリュウイ。



「!」

キースは私を見る。
きっと、迷っているのだろう。
気持ちはよく分かる。

「いいんだぞ、自分に素直になって」

私が言うと、キースは俯き、少し震える。

「…ボ、」

キースはリュウイの手をキュッと握りながら






「ボクで良ければ、喜んで。リュウイ総統」






優しく微笑んだ。




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