Red Crow

紅姫

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血に濡れた汚れた手を②

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『ノア=アリソン 19歳
 父親は幼き頃に他界。母と姉と共に暮らしていたが、姉は何らかの原因で自殺、母親はノア=アリソンを育てる事を放棄した。そのため、施設に入る。
 ノア=アリソンは10歳の頃に精神障害を患ったものと思われる。姉の死が同時期である事から、それが要因では無いかと考えられている。

[障害]
潔癖症(強)
いつも手袋をはめ、暇さえあれば水道で手を洗う。何時間も洗い続けることもある。何かをブツブツと呟く事もある。

記憶障害
精神障害を患ったと思われる時期の記憶が無い。姉の自殺のショックを忘れるためにそのような状態になっている可能性大

障害とまでは言えないが、人を苦手とする様子あり、コミュニケーションがうまく取れないことがある。』



「…」

私はノアのプロフィールを見たあと、目の前の光景に視線を戻した。


「……」
黙々とジャージャーと水道から流れる水で手を洗うノア。

まさか、最初に案内する場所が洗面台だとは思わなかった。

「なぁ…まだ洗うのか?」

かれこれ30分以上洗い続けているノアに私は声をかけた。

「…」

しかし、ノアは答えず手を洗い続ける。

「はぁ…」

こりゃ、前途多難そうだ。
私は額に手をやった。





一時間ほど手を洗い続け、ようやく満足したのか水を止め手袋をはめたノアを書記長室へ案内する。

「しばらくはココで過ごすことが多くなると思うよ、自分の部屋のように思ってくれていい」

「…」

物珍しそうにキョロキョロと書記長室を見回すノア。

「ブレンダン国王から聞いてるかもしれないけど、基本的に君には私の仕事の補佐、書類整理とかをしてもらうんだけど…」

私は自分の机を叩く。

「この通り、今は書類がない。それに、ここまで長旅だったろう?今日は休んで、明日から本格的に仕事をしてもらおうと思ってるんだけどいいかな?」

コクリ

頷くノアを見て私は入ってきた扉とは違う扉を指差す。

「あっちの部屋に、ベッドがあるよ。私が使ってるやつだけど。よかったら使ってくれ」

「…ありがとうございます」

ペコリと会釈し、ノアは扉を開け中に入る。


数分たち、私はノアが入っていった扉の中を覗く。
スースーと布団の中で寝息をたてるノアの姿を確認し、私は扉を閉めた。








「…」
私は書記長室の机に肘をつき、思案する。


どうやら、思っていた違和感は正しかったようだ。
最初に違和感を覚えたのは、ノアが手を洗う為に洗面台に行ったとき。彼は手袋を外して、蛇口をひねったのだ。
それ自体は、普通の行動だ。
ただ、潔癖症のしかも極度の奴が、誰が触ったとも分からない蛇口をひねるだろうか?

だから、私は確認したのだ。
結果として、ノアは普通にドアノブをひねっていたし、私が寝てると説明しても躊躇いなくベッドに寝ていた。

彼は潔癖症ではない

それが、私の中で出た結論だった。


「でも…じゃああれは何なんだ…?」

私はつぶやく。
彼は確かに一時間ほどかけて手を洗っていた。
手袋も常時しているようだし、何よりリュウイの握手を拒んでいる。

「関係してるとしたら…姉の自殺か」

だが、本人にはその記憶が無い…
八方塞がりな状態である。

私はインカムを操作した。

『そろそろ連絡が来るんじゃないかと思ってたよ』

開口一番、そう言うルナ。

「頼みたいことがある」

『あのノアって子のことでしょ』

「ああ」

『実はもう調べてたんだ』

ルナの声はテンションが低い。

「どうだったんだ?」

『それが、ヒューズ国に彼の情報が無いんだ』

「は?」

言葉の意味が理解できなかった。

「ヒューズ国の国民じゃないってことか?」

『あ~、ごめん言い方が悪かった。彼はれっきとしたヒューズ国民だよ』

「そうか」

とりあえず、一安心である。

『名前は確かに国の情報の中にあった。でもその中身が全て暗号化されてたんだ』

ルナの言葉に、私の中で緊張が走る。

「ノアの存在は国家機密レベルだと?」


情報の暗号化
それは、国家機密をデータで保存しておく際の常套手段だ。


『いや…暗号化自体は初心者がやったような代物。国家機密とは思えない。でも、何重にもロックやらパスワードやらがかかっててね…しかもご丁寧に拙いウイルスまで付けてくれてる』

「つまり…少しでも解き方を間違えればデータそのものが消える…と?」

『ご名答。流石ユウ、察しがいいね』

「…解けそうか?」

『僕を誰だと思ってるのさ、意地でも解いてあげるよ。時間はかかりそうだけどね』

「なら頼む。あと、もう1つ頼みたいことがあるんだ」

『なに?』

私は今までのノアの動きとプロフィールの内容、自分の考えを手短に伝えた。

『なるほど、姉の自殺か…。わかった、調べてみるよ』

「悪いな、頼むよ」

『悪いと思うなら、適度な時間に夜食よろしく』

軽口を言い、ルナは通信を切った。
私は時間を確認する。
夜の9時
夜食にはまだ早い

私は何を持っていこうかと考えながら、目を閉じた。
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