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血に濡れた汚れた手を④
しおりを挟むソファに身体を預けて眠るノアにタオルケットをかける。
「何…今の…」
呆然とルナは呟く。
「トラウマのフラッシュバックだろうな。何らかのきっかけで失っていた記憶の一部が戻ったんじゃないかな」
私はノアを見る。
まだ血の気が引いて青白い顔は怯えた表情をしている。
「きっと、これが関係あるんだ。アナねえさんって言ってたからね」
ルナは机に置いていた資料を私に投げ渡す。
ペラリとめくると、中には何枚もの新聞記事の切り抜きのコピーが綴られていた。
「今から9年前。アナ=アリソン、当時16歳はある事件に巻き込まれ、精神病院に入院していた」
コピーを眺める私を見ながら、ルナは話し始める。
「なぜ、事件に巻き込まれて精神病院なんだ」
「アナ=アリソンは…犯人に暴行された形跡があったんだ」
「!」
「幸い、怪我はなかった。でも心が壊れてしまった。何度も自殺未遂を繰り返してる。そして、病室の窓から飛び降りて本当に自殺してしまった」
「ノアがそれを見ていた可能性は?」
「…第一発見者だったんだよ、ノアは」
私は、目を見開いてルナを見た。
「ノアが御見舞のために精神病院を訪れ、姉の病室を訪ねたとき、姉は窓から飛び降りた」
「な…」
「看護師が発見したときには、ノアは姉が飛び降りたと窓から、姉の亡骸を呆然と上から見つめていたらしい」
「…」
「暴行事件の犯人は捕まってない。ただ、気になることがある」
「なんだ?」
「発見時、暴行事件の現場、彼らの家の中に居たのは、ノアとアナの姉弟だけ」
「ノアも現場に居たってのか」
「少なくても発見時には居たんだ。気になるのは家の床に落ちていた血がついたハンマー。そして」
ルナは一度口をつぐみ、ゆっくりと絞りだすように言葉を紡ぐ。
「発見されたとき、ノアの手は血で汚れていたらしい」
結局、その日ノアが目を覚ますことはなかった。
次の日、目覚めた彼がどのような反応を示すか、私は少しヒヤヒヤしていたが、彼は暴れることも泣き出すこともなく、元通りだった。
それとなく、探りを入れてみたがどうやら、昨日の自分の行動や過去の事件の事などは覚えていない様子だった。
私もそれならばと特には詮索せず、ただ彼がしたいようにさせることにした。
ルナには引き続き調べてもらっているし、彼が帰るまでには何かわかるだろう。
ゆっくり、知っていけばいい
そう私は思ってたのだ。
動きがあったのは、ノアがやってきて5日がたった日の昼間だった。
いつも通り、書類整理をノアとやっていると扉を叩く音がした。
「どうぞ」
「失礼いたします」
やってきたのは従者の一人だった。
「何かあったのか?」
「はい、実は今、門の前にヒューズ国の大臣が来ていると連絡がありまして」
「え?」
「何でも彼を預かりに来たと」
従者の目がノアを見る。
「まだ期間はあるはずだけど…」
「はぁ…しかし、我々に対処は無理ですので総統閣下に言ったところ、書記長に頼めと」
「わかった」
私は手を止め、立ち上がる。
「ノアはここで待ってて」
コクリ
と不安げな表情で頷くノアに確認しながら私は門まで向かうべく、部屋を出た。
「これはこれは、ユウィリエ書記長殿。ご足労ありがとうございます」
門につくと、その男、ヒューズ国大臣サントス=バッグは頭を下げた。
深く帽子をかぶった、初老のヒョロリとした男である。
眼鏡の向こうで濁った瞳がこちらを見た。
「要件は聞きました。ですが、まだ期間が残っているはずです。何故、今日迎えに来たのですか」
私はさっさと話を終えるべく話題を出した。
私はこの男が苦手だ。
嫌いとまで言ってもいい。
はっきり言って、話したくもない。
「そうなのですが、なにぶん国王からの依頼でして」
「ブレンダン国王からの?」
「ええ、やはり信頼できる貿易国とはいえ、他国に国民を預ける事はしないほうがいいと思ったようです」
「…」
「ちょうど、他国から帰るワタクシに序でにノア=アリソンを連れてくるように連絡がありました」
確かに彼の後ろには何台かの車が見えていて、どこかからの帰りのようだった。
「こちらには連絡がありませんでしたが…」
「国王もお忙しい身。きっと、他の用事で後回しにしてしまい、忘れてしまったのでしょう、以前もあったでしょう?」
反論はできなかった。
確かに以前、ブレンダン国王がこちらに連絡をせずに来訪したことがあったからだ。
「それに、貴方達も彼を持て余していたでしょう?」
「そんなことはありません」
きっぱりと答えるとサントスは、驚いた顔をしたが、すぐに元の顔に戻し
「とにかく、彼は連れて帰ります。連れてきていただけますね」
有無を言わさぬ言葉。
こういう所が大きらいだ。
「…わかりました。少々お待ちください」
私はインカムでゾムに連絡を取り、ノアを連れてくるように頼んだ。
数分後、ゾムに連れられやってきたノアをサントスはさっさと車に乗せ、多くの車を引き連れ、去っていった。
その様子を見ながら
「別れの言葉も言わせてくれないのか」
私は呟いた。
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