Red Crow

紅姫

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忌み子と花売り⑥

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「なぁ、忌み子ってなんだ?」

アルフと少し離れて腰を下ろした私の隣に腰掛け、ゾムが小声で言った。

「忌み子ってのは…何ていうのかな…色々な解釈はあるが…簡単に言えば『望まれずに生まれた子』とでも言うのかな」

「望まれずに…?」

「ああ、単純に親がその気がないのに産んでしまった子を言う事もあれば…昔の風習に囚われた家とかだと双子の片割れをそう呼ぶ事もある」

「双子が駄目なのか?」

ゾムはわからないと首を傾げる。

「駄目…というか、縁起が悪いって言われてたんだよ」

「ふーん…」

ゾムはアルフに視線を向ける。

「アイツはどっちだと思う?」

「双子だろうな…。しかも忌み子になったのは最初からってわけじゃなさそうだ」

「最初からじゃない?」

「ああ…少なくとも赤ん坊の時から忌み子ではないよ」

「なんで分かる?」

「もしも赤ん坊の時から育てるのを止められてたらあの歳まで生きられないし…。何より、さっき彼の肩に手をおいた時、確かに痩せてはいたけど骨はしっかりしてた。ある程度育つまできちんと育てられてた証拠だ」

「なるほど」

「…話を聞きたいところだが、話せる状態じゃないからな」

私は壁に体重を預ける。

「今は待つしかないな」

ゾムも私にならい、壁によりかかる。
さてはて、何時間で迎えが来るかな…
私は目を閉じた。






「あの…」

と小さな声に呼びかけられたのは、私の体感で(正確だと自負できるが)3時間ほど経ったときだ。

ゾムには聞こえてないようで、隣からクーと音が聞こえている。

「ん?…っ!」

目を開けて、思いの外アルフが私の近くにいて驚く。

「ちょっと…いいですか?」

「かまわんよ」

私達は少し移動する。

「なんだい?」

「あの…その…あ、あなたが…その…どこかの国の…偉い人なんですか?」

かなりどもりながらアルフは言った。

「偉いかは考え方によるが…。私はミール国の書記長だ。それなりの地位にいるとは答えておくよ」

「…本当に若い…ですね」

「ソラナが話しかけていたのは君だね?」

「…はい」

「ソラナは…妹?」

アルフは目を見開く。

「あなたは…どこまで…わかっているんですか?」

「あくまでも、私の中での仮定ではあるけれど…」

私は話し出す。

「君とソラナは双子として生まれ、村人たちに囲まれて平和に暮らしていた。

でも、村長が亡くなってしまったことで全てが変わったんだ。

きっと前々からこの村を…この土地を欲しがっていた奴がいたけど、村長はこの村を愛していたから拒否し続けていたんだ。でも、村長が亡くなり、後続が決まる前にこの土地は買われた。

それでやってきたのが、今の村長、ノビオ=フランクリンだ。

この土地がフランクリン家に買われたとはね…。全く厄介なやつに買われたものだ…。

フランクリン家は昔からの決まりとかに厳しいところがある家だ。
以前こんな話を聞いたことがある。フランクリン家に双子が生まれ、片割れをその場で殺したっていう話だ。
フランクリン家は、忌み子の話を信じていたってわけだ。

なら、この村に来て君とソラナを見て顔をしかめたはずだ。
そして、片方を捨てろと言った。

きっと、君の両親は抵抗しただろうね…。抵抗して…殺された。

そして、妹を守るために君は忌み子になった。
村人たちは…君を殺せなかった。小さいときから知ってる君を。でも、村長に逆らう事も出来なかった。だから、ココに閉じ込め死ぬのを待つことにしたんだろうね。
村長も自分の目に映らなければ何も言わないだろうしね。

ソラナは…多分だけど村長と…その奥さんに預けられた。虐待されてるだろうね。私達の案内人をする時も、慰み者にされると説明してたみたいだし…もしかすると、そうするように強要されてたかもしれない。

そんな風に扱われて、あの歳の少女が耐えれているのは、君がいたからだ。
ソラナは定期的にこの寺に来て、君に話しかけていた。君がこの牢屋から抜け出しているのを察してね。
双子だからきっと察することができたんだ。

ソラナがミール国まで花を売りに来て、お金を集めていたのも君のためだろうね。多分、村長に一定の金を集めれば君を助けてやるとでも言われたんだろう。
あの様子を見るに…途中で村長達に取られたみたいだけど

今日、君がココを抜け出し、いつもは出ない外へ足を踏み出したのは…

私に会うためかな?

昨日、ソラナの話を聞いて君は私と話したかった

違うかい?」


長い話を終えて、私はアルフを見る。

「そこまで…わかっているんですね」

アルフの目から涙がこぼれ落ちた。

「ぼくは…ソラナから初めてあなたの話を聞いたときからあなたと話してみたかった」

「うん」

「優しいあなたなら、ぼくの話をきちんと聞いてくれると思ったから」

「何か私に頼みたいことがあるんだね」

アルフは頷き、頭を下げる。

「お願いです…。ぼくらを助けてください…!ぼくは、こんな生活…もう嫌だ。ソラナも限界なんだ!村長に預けられてからソラナが嬉しそうに話すことは無かった…あなたと出会うまでは」

アルフは私をじっと見る。

「ソラナはあなたの話をするとき、とても嬉しそうに話したんだ。とても…。だから、あなたなら力になってくれるかもって…



お願いです…。ぼくらを…ぼくが無理ならソラナだけでも…この村から助けてください…!」



私は、優しく彼を抱き寄せた。

片腕でも抱えて腕が余るほどに細い体にどれだけの重りをつけて生きていたのだろうか。

望まれずに生まれた子なんて…この世には居ないはずなのだ。

「わかった」

私はアルフの目を見て言う。

「1週間以内に君らを助けに来るよ」

「え?」

私はアルフを離し、檻に近づいた。
奥から慌てたような足音が聞こえる。

「少しの間、お別れだアルフ。私が来るまで生き延びて」

私の声は

「申し訳ございません!外交に来ていた方とは知らず!!」

やってきた、ノビオの側付きの声によってかき消された。

しかし、アルフは確かに私を見て、力強く頷いた。
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