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癒し手①
しおりを挟む深い深い森の中に
♪~♪~♪~
歌声が響いていた。
少し低めの男の声。
聞いているだけで、心が軽くなるようなそんな歌声である。
男はその森でも一番大きく太い木の枝に腰掛けて、鳥たちと歌っている。
若い男だ。黄色に近い茶色の髪にエメラルドを思わせる緑の瞳が輝いている。
とても整った顔をしており、同性ですら虜にしそうである。
♪~♪~♪~~
木々や風、鳥たちはまるで彼の歌声に合わせるかのように踊っている。
チチッ
と鳥が1羽、彼の指に止まり首を傾げる。
「ふふふ、ご機嫌だって?」
チチッ
「今日はね、お客様が来るんだ」
チチッ
「自分の大事な人さ」
チチッ
男はまた歌い出す。
「相変わらずだな」
そんな男に声をかける声が木の下からした。
「ユーエ!!」
男は下にいる人物、ユウィリエ=ウィンベリーに声をかけ、スッと下へ降りる。
「もう来たの?」
「もうって…。約束の時間に来たんだが…?」
「へ?あ~本当だ」
男はポケットから小さな懐中時計を取り出し、時間を確認すると頬をかいた。
「本当に、相変わらずだな。マオは」
ユウィリエは微笑み、男、マオ=ウォルフォードに言った。
「3ヶ月前と変わりはないけど…体重が減りすぎてるかな」
「あ~、ちょっと運動してたからなぁ」
「殺しは運動じゃないんだよなぁ」
遠い目をする私に、マオは言う。
「はい、服着ていいよ」
マオはそう言うとカルテを書いていく。
彼、マオ=ウォルフォードは私の主治医である。
3ヶ月に1回、私はマオのもとを訪れ、健康診断をしてもらう。
私は彼の診断に絶対の信頼をおいている。世界で有名な名医よりもマオのほうが優れていることを知っている。
「見るだけでよくそこまで分かるもんだ」
服のボタンを留めながら、カルテを覗き込む。
細々ビッチリと文字が書かれている。
「凄い目だよなぁ、医者眼-Doctor eye-だっけ?」
「まあね。はい、控え」
私は自分のカルテの控えをもらう。
「どうも。じゃあ、帰るかな」
「え?もう?」
「だって、すること無いし…」
「駄目!自分と話ししてけばいいじゃないか」
マオはさっさと机を片付け、お茶のコップを並べていく。
「ユーエは紅茶だよね。この前、いい茶葉が手に入ってさ」
「へー」
「あ、お菓子もあるよ。クッキー」
「そりゃどうも」
「そういえば、部屋寒くない?さっき服脱いでもらったし、少し温度あげようか」
「…」
「何?」
マオをじっと見てると、お茶を注ぎながら聞いてきた。
「小さい頃から知ってるが…お前って面倒みがいいというか…何というか…構いたがりだよな」
「そ、そんなことは…」
「あるだろ」
マオはお茶のカップを私の前に置く。
私が持ち手に手をやり、口をつけようとすると
「ああ!熱いから気をつけて!」
「…」
私は一口紅茶をすすったあと、立ち上がり机を挟んで反対側のマオの頬に手をやり、横に引っ張る。
「どの口が構いたがりじゃないって言うんですかねぇ」
「ほへんははい(ごめんなさい)」
謝ったので手を離して、席につき直す。
「でも、悪いのは自分じゃなくて、ユーエだと思うけどなぁ」
「は?」
「だって…ユーエが構いたくなるタイプなのが悪いじゃないか…。こう、危なっかしいというか…」
私はそういうタイプだろうか?
首を傾げると、マオは呆れたように首をすくめる。
「覚えてない?昔、包丁の刃を握りしめようとしたり、師匠の拳銃持ち出して遊んだりさ」
「あ~」
そんなこともした気がする。
「自分が何度師匠からユーエの事を監視するように言われたと思ってるのさ。構いたいんじゃなくて、構わざるを得なくなって、癖がぬけないの」
「ハハハ…そりゃ申し訳ないね」
「まぁ…」
マオは私を見る。
「単純にこうして会えて嬉しいから構っちゃってるってのもあるけどね」
微笑むマオに私も微笑み返す。
その後は、国のことや新しい仲間のことなどなど話していたら(と言っても新しい仲間がアサシンだとかそんな事は言わないが)、すっかり日が沈みそうな時間になっていた。
「悪いな、長居しちゃって」
「いやいいさ。自分も久々に人と話せて楽しかったよ」
「…」
「何?」
私は、マオを見上げ言う。
「私達の国へ来ない?」
「ユーエ…」
マオは悲しげにこちらを見る。
「もちろん、わかってるさ…。でもさ、私の主や仲間たちはそんなの気にしないと思うんだ」
「そうかもしれないね」
「それに…ちょうど城の医者を探しててさ、マオなら安心して任せられるしさ」
「ユーエ…嬉しいけど…でも
自分は危険人物だから…」
「…そっか」
「誘ってくれてありがとう、また3ヶ月後に」
「うん、また来るよ」
私は歩き出した。
森を出て、すぐに私は車とすれ違った。
こんな所に車が来るなんて珍しい。
そんなことを思いながら私はミール国へ向かって歩き続けた。
トントンッ
とドアをノックする音がしてマオは驚く。
来客はユウィリエ以外やってこない。
そのユウィリエは先程帰ったばかりだ。
これは、居留守を使ってもいいだろうか?
でも、もし来たのがユーエで忘れ物とかがあったとかなら…
いろいろ考えたすえ、マオは扉を開けた。
「はい?」
扉の少し開いた隙間から差し込まれた手には拳銃。
「!」
「一緒に来てもらおうか、妖精-Fairy-」
マオには抵抗する術がなかった。
「ユーエ…」
連れ去られる時、マオは小さく呟いた。
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