Red Crow

紅姫

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癒し手④

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ー夜、とある国にて


カツッカツッ
靴の音が空間に響いた。

マオは目を開けた。

あぁ、来てしまったか…


「やぁ、お待たせ」

ニタァと笑う男に、ゾワッと寒気がする。


「兵士たちから聞いたよ。まだ薬を作る気にはならないみたいだね」

ゆっくりとマオに近づいてくる男。


「そんな悪い子には仕置が必要だ」

マオの目の前に立ち、おもむろに服に手を伸びしてくる。
上着をはだけられ、素肌を撫でられる。
そんな事はないだろうに、どこかヌメリとした感触が体を襲う。
マオは思わず目をきつくつむった。


嫌だ…
気持ちが悪い…
触るな…


言いたい言葉は沢山あるが、口からは出てこない。

男は楽しむようにマオの素肌を撫でる。


耐えるしかない
ギュッ目をつむりマオは思う。

声をだしたら相手は調子に乗るだけだ。
反応するな
声をだすな
耐えろ…

自分に言い聞かせるように心の中で唱える。



ふと、男の手が身体を離れた。

…なんだ
次は何をされる…?

表しようのない恐怖
恐ろしさから、マオのキツく閉じられた目から雫が落ちる。

泣くな…
こんなの…
相手を煽るだけだ…

しかし止まることはない。

きっと男は俺の涙を見て笑い、何か言ってくるだろう

そう思うも、いつまで経ってもなんの声もしない。


なんだ…
なんなんだよ…



恐怖からさらに涙がこぼれ始める。


涙で濡れる頬を触られる。

「え……?」

思わず声が漏れた。


あの男の気持ちの悪い手ではない。

暖かくて、気持ちのいい
優しい手…

この手を自分は知っている。
何度も何度もこの手に救われてきた。

「あ…」

「大丈夫だ。もう終わったよ」

「ユーエ…」

目を開けると、思い描いていた人が目の前に立っていて、思わず笑みがこぼれる。
足元に転がる男の死体には目を向けない。
見る必要がないのだから。


ジャラッ!!


ユウィリエが鎖に向けてナイフを一振りすると、鎖は音を立てて切れた。
地面にへたりこむ。

「ごめん、鍵は見つけられなかったからそれで我慢してくれ。あとで外すから」

ユウィリエの言葉に頷く。
手首に重さがあり持ち上げるのも辛いが…歩いたり走ったりする分には問題ないし、大丈夫だろう。

立っているユウィリエに視線を向けると、ユウィリエは顔をしかめる。
首を傾げてみせると、ユウィリエは自分に近づき、屈み込んで、服をなおしてくれる。

あの、そういえば襲われそうになってて…そのままだったな…

と服をなおすユウィリエを見て他人事のように思う。


「ごめん、もう少し早く来るべきだった」

「大丈夫だよ」

申し訳なさそうに言うユウィリエに手を振りながら言う。

「少し撫でられただけだし…もう気持ちが悪い感じないから」

「…」

本当に気持ち悪さはない。
大丈夫だと目で訴えると、ユウィリエはやっと納得したように頷いた。

「悪いが、時間がないかもしれない」

「え?」

「この国の兵士たちに睡眠薬盛って眠らせてるんだ。見つかったら面倒だったし…殺してたら時間かかるからな」

「うん…それで?」

「兵士たちがいつ目覚めるかわからない。お前を私が通るような道で逃がすわけにも行かないから、今のうちに正面玄関から出るぞ」

立てるか?と差し出された手を握る。
足に力を入れるがうまく立てない。ずっと不自然な体制でいたせいだろう。

その様子を見るとユウィリエは握った手を肩にのせ、背中に自分を抱き上げる。
いわゆる、おんぶである。

「しっかり捕まりな」

そう言って、歩き出す。


心地の良い温度
心地よい揺れ

とてつもない安心感と、いつ男が来るのか怯えていたせいで緊張していた疲れから、まぶたが重くなり…いつの間にやら眠りについていた。










寝てしまったマオを抱えながら、道なき道を進む。
マオを落としたり傷つけるようなヘマはしない。
向かうのはミール国。
流石に森にマオを返すわけにはいかない。

さて…どうしたものかな…

私は考えながら足を速めた。












「この人がFairy…」

「さすが、妖精と言われるだけあるね」

「キレイな人ですね」

「もはや人形だな…」

「あんまり騒ぐな、起きちゃうだろ」

私は着替えながらベッドに眠るマオを囲んでいる4人に言う。
ちなみに、ノア、ルナ、キース、ゾムの順での発言である。

マオを連れ帰った私は、空いている部屋のベッドにマオを寝せた。
夜遅かったが一応インカムで帰ったことを知らせると、4人がぞろぞろとやって来た。

リュウは眠らせたらしい。
なんだ…アイツまた暴れたのか…

若干お疲れモードのキースに心の中で手を合わせつつ、着替え終えた私はベッドの側の椅子に腰掛ける。

穏やかに眠るマオを見てるとこちらも眠たくなってくるが…今寝るわけにはいかない。

「どうしたものかな…」

「どうしたの?」

ノアが私のつぶやきに言う。

「マオのことさ…」

「ん?」

「これから、マオはどこで身を隠すべきか…。今回のこともあるし、なるべく私の近くにいて欲しいんだが…」

「「「「は?」」」」

4人が一斉に声を上げた。
なんだ、なんだ?

「何言ってんのさ、ここにいてもらえばいいでしょ。医者は欲しいし、医務室はあるんだし」

ルナの言葉にほか三人も頷く。

確かに無人の医務室は存在するし、空き部屋もあるから寝泊まりにも困らない。が…

「そりゃ…私だっていて欲しいが…。本人が嫌がるだろ…」

「あ~、あの危険人物とか迷惑かけたくないとかってやつ?」

私は頷くことで答えた。
あれがなければ、無理にでもここに居座らせるのだが…いや、いっその事監禁すべきか…?

真剣に悩む私を見て四人は顔を見合わせて、苦笑する。

「なんだよ…」

「ユウさんって…時々とても簡単な事で悩みますね」

「へ?」

「簡単な解決法があるだろ」

キースとゾムの言葉に私は首を傾げた。





「ん…」

マオが目を覚した。

「あ、起きた」

「ココは…」

「ミール国の城の中の部屋だよ」

「ユーエ…。?」

マオは起き上がりながら、私の方を見る。
そして首を傾げた。
私は少し離れたところでマオを見ていた。
多分、どうしてそんなに離れてるんだ?と言う意味だろう。

仕方ないのだ。
任せることになっちまったんだから

私は苦笑して、マオを見て、今後の展開を見守ることにした。




「はじめまして」

「!」

私を見ていたマオの前に四人が立つ。
マオは驚いたように目を見開いた。

最初に声をかけたのはルナだった。

「僕はルナティア=ハーツホーン。ルナって呼んで」

「はぁ…。マオ=ウォルフォードです」

困惑しながらもマオは頭を下げた。

「よろしくマオ。君の事はユウから色々聞いてるよ。妖精-Fairy-って呼ばれてる一族のことも、君の体質のこともね」

「!」

マオは私を見る。
私はコクリと頷いた。
マオの顔から血の気が引いていく。

「ご、ごめんよ。すぐこの国は出てくから、君達の迷惑にはならないよ」

やっぱり…そう言うじゃないか…
私は四人に視線で訴えるが、帰ってくるのは苦笑だけだった。

「マオ、僕らの話を聞いて」

「…?」

「僕はね、巷じゃ黒猫って呼ばれてるんだ。知ってる?黒猫って」

「天才ハッカーの?」

「そう、それ。だから、はっきり言って僕は秘密情報を保持してる国にとっては危険人物ってわけよ」

マオはルナの言葉に目を見開く。
次に口を開いたのはゾムだった。

「俺はゾムーク=フェアファクス。ゾムでいいぞ、マオ」

「はじめまして…ゾム」

放心したままマオは視線をゾムに向けた。

「俺は…まぁユウほど有名人ではないけど…アサシンの銀狼-SilverWolf-って呼ばれてる」

「銀狼…!?」

アサシン事情には、私のこともあって詳しいマオのことだ、ゾムのことくらい知ってるだろう。

「と、言うわけで俺も危険人物なんだよね」

ニシシと笑うゾム。

「次は僕ですかね」

キースが口を開いた。

「はじめまして、マオさん。僕はキース=ティリットといいます。今は総統補佐をさせてもらってます。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」

やっと普通の人がきたとでも思ったのか、ホッとした表情を見せるマオ。

「僕は、ユウさんと同じ師の元で修行してましてね。総統補佐をする前は『狂犬』って呼ばれながら戦場にいました」

「へ?」

にこやかに微笑みながらさらりというキースにマオは変な声をあげた。
マオは私の師の事を知っているからなぁ…

「今でも僕のことを探している戦争主義国家があるみたいですし…僕も危険人物の一人ですね」

私はここでようやく、コイツ等の意図が読めた。
ココはノアが最後に言ったほうがいいだろうし…私も口を挟む。

「わざわざ、自己紹介はしないし、深い説明もしない。お前は私のことを分かってるからな」

「ユーエ」

「私だって、危険人物の一人さ。お前らなんかの比じゃないくらいのね」

「!」

「今更、一人危険人物が増えたところでどうってことないさ」

マオは驚きで目を丸くする。

ほらっとどめを刺せ、と私はノアの背を押す。

「あ…その…。はじめまして、ノア=アリソンです。よろしくお願いします」

「よろしく、ノア」

自分より慌てている奴を見ると落ち着くというのは誰でも同じなようで、慌てるノアを見てマオは少し落ち着いた様子で返答をしていた。

「あの…、ぼ、僕は皆さんみたいに危険人物とかじゃないんですけど…。ついこの間まで他の国にいて…その…事件に巻き込まれて、記憶を失ってたり、暴れちゃったり、人に触れなくてずっと手袋してたりしてたんです」

「そうなんだね」

「でも、ユウさん達はそんな僕を受け入れてくれたんです。だから…」

ノアはマオの手を握る。

「マオさんも大丈夫ですよ。皆、マオさんのことを迷惑だなんて思いません」

マオの目から涙がこぼれ落ちた。







「自分は、ここに居ていいの…」

泣きやんだマオが私を見て言う。

「むしろ居ろって言ってんだよ。医者を探してたところだし…何よりここに居てくれれば何時でもお前を守れるしな」

「ユーエ…ありがとう」

「でも、ここに居るにあたってやる事がある」

「え?」

「多分、もうすぐ来るから」


ガチャッ!

「ユウ!」

目覚めてすぐ来たのか、軍服は着ているが寝癖が酷い。
先程、マオの涙がひく間に連絡しといたのだ。

「どこ行ってたんだよ!心配したんだぞ?彼がここの専属医師になってくれる人?」

勢い良く語りかけてくるリュウイをなだめながら答える。

「何も言わずに出てったのはすまなかった。大変な用事だったんだ。んで、コイツが専属医師になってくれる人なのは確かだ」

マオの方に手を置いて答えると、リュウイの目がきらめき出す。

受け入れないかもと心配していたが…無駄だったようだ。

「紹介するよ、彼はマオ=ウォルフォード。私が信頼している医師であり、幼い頃から知ってるから良いやつな事も保証する。何より、マオは私の無二の親友だ」

「ユーエ…!」

嬉しそうに笑うマオ。
その手を握りしめてブンブンと振るリュウイ。

「マオ!!俺はリュウイ=レラ=ウェンチェッター。この国の総統だ。これから、よろしくな!」


「こちらこそ、よろしく」



嬉しそうに言うマオに私はホッとするのだった。


これからまた賑やかになりそうだ


私は微笑んだ。
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