Red Crow

紅姫

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番外編 風邪っぴき総統と妖精

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その日は朝からなんか変だと感じた。

それは食堂に来てからも変わらなくて、ルナやゾムに軽く挨拶していつもの席につく。

「おはよう、リュウ」
「あぁおはよう」

扉をあけて入ってきたユウと挨拶をしていると


「おはよう、皆」


とその後ろからマオがあくび混じりに言いながらやって来た。

「おーマオ。眠そうだな。相変わらず、朝は弱いのか?」

「そうだね…森にいると時間を気にすることもないから余計に…」

「そういや、お前。昔、夕方に起きてきておはようって言ってきたことあったよな」

「どうしてそう恥ずかしいことだけしっかりと覚えてるかなぁ…」

目の前で楽しげに交わされる会話。

ユウとマオは小さい頃からの知り合いだし…。
無二の親友だとユウも言っていたし…。



モヤモヤする。
なんか…おかしい。

「リュウ?」

呼びかけてくるユウの声。
なんか…焦ってる?

呼びかけに答えようとするが、口があかない。
何だろうか…。


ヒタリと冷たい何かが額に触れた。

「熱っ!リュウ、お前熱あるじゃん!」

熱…?

「マオ、スマンが朝食前にリュウを見てやってくれ!」

焦ったユウの声がする。

「分かった、医務室で準備しとくからリュウを連れてきて」

「うん!リュウ、医務室に行くぞ」

そう医務室に行くの…
なら、歩かないとね…

足に力を入れようとする。あれ?おかしいなぁ。力が入らない。

クラリと身体が傾く。

あ、倒れる…

衝撃を予想していたが、代わりに何かに抱きとめられる。

「リュウ!クソッ…」

身体が浮いたような…浮遊感。
でも、不思議と落ちるとかそういうふうには思わなくて…
肩と膝の下に感じる腕の感触
誰よりも信頼できる人物の腕であることはすぐに分かった。

身体を襲うだるさ
クラクラと揺れる視界

俺は意識を手放した。











「ん…あ…」
目が覚めた。

喉が痛い。
頭も痛い。

靄がかかったような視界に真っ白な天井が見えた。

起き上がろうとするも腕に力が入らない。

「無理しないで。まだ起きちゃ駄目だよ」

「え…」

俺を覗き込むマオの姿がぼんやりと見えた。

「力はいらないでしょ?ごめんね、あまりに熱が高かったから解熱剤を注射したんだ。薬が抜けるまでちょっと力が入りづらいかも」

「あ…う…か…」

あぁそうなのか
そう言おうとしてるのに声が出ない。

「喉もやられてるみたいだね…ちょっと見せて」

アーと言うマオの声にあわせて口を開く。

「んー、そこまで赤くはないから…大丈夫かな。他に痛いところある。触ってくからその場所で頷いて」

腕や関節に乗せられていく手。
最後に触られた頭のところでコクリと頷いた。

「頭痛いのか…。本格的な風邪だなぁ。待ってね、今、風邪薬出すから。あ、その前に何か食べないとな。食欲は?」

横に首を振る。

「うーん、困ったな。ゼリーとかでいいんだけど…無理そう?」

ゼリーか…
その程度なら少しは食べれるかもしれない
…あんまり好きじゃないけど

俺は頷いた。

「そう!食べれるんだね。待ってて、いま連絡するから」

俺から少し離れて、もしもし、と連絡を取ってくれるマオ。
小声で誰に連絡してるのかは分からないけど…

「今ね、ユーエがリュウが起きたとき食べれるようにって買い物に出てくれてたんだ。ゼリーくらいなら食べれるって伝えたから。買って帰るって」

ユーエ?
ああ、ユウのことか…
マオだけが呼ぶユウの愛称だったな…

チクリと胸が傷んだ。
枕に顔を埋める。

「ユーエが来るまで寝る?」

それを眠いと捉えたらしいマオの言葉に頷き、寝返りを打つふりをして、マオがいる方とは逆の方向を向く。

眠るつもりはなかったが…瞼が重くなってきて…
俺は目を閉じた。







「……って…?」
「……か?」
「い…じゃ…」
「な…ろ」
誰かの話し声がした。俺に気を遣ってか両方かなり小声だ。

「……ぞ」

カチャッ

と扉が開き、誰かが出ていった。

俺は目を開け、声がした方を向く。
気づいたマオが慌てたように近づいてきた。手には紙袋が握られている。

「ごめんね、うるさかった?」

首を横に振る。

「そう、ならいいんだ。ちょうどいいタイミングで起きてくれたよ。今、これ届いたんだ」

ああ、そういやユウが俺が食べるの買ってきてくれたんだっけ?

「でも…アイツときたらゼリーって言ったのにさ…」

と紙袋の中に手を入れて取り出すのは

「プリン買ってきたみたいで…」

プリンの入ったプラスチックのカップ。

ゼリーはあんまり好きじゃないけどプリンは好きだ。

「ゼリーって頼んだよね?って聞いたら、ユーエなんて言ったと思う?『それじゃ駄目なのか?』ってさ。そりゃ別にゼリーじゃなきゃいけないわけじゃないけど、頼んだもん買ってくるよな、普通」

確かに…普通そうだな…

そう思ったとき、そういえばユウは俺がゼリー好きじゃないこと知ってたな…と思い出す。

…だからプリンを買ってきてくれたんだ。

でも、その事をマオに伝える術がない
少し手を動かしてみようとすると、前よりは動く。
俺は、マオに何かを書きたいとジェスチャーで示す。

「え?何書くの?」

と言いつつ、紙とペンを貸してくれる。

俺はゆっくりと文字を書く。
その字を見てマオが言う。

「あ、そうだったの…。ごめんね、確認もせずに」

首を横に振る。

「プリン食べちゃって、そしたら薬飲もうね」

今度は縦に首を振った。

「全く…ユーエも知ってたなら教えてくれればいいのに…。まぁ昔からそういう所あったしなぁ。自然と相手が喜ぶようにもっていくっていうか」

懐かしむように言うマオにまた胸が痛む。
分かってる…
この痛みは風邪によるものじゃない。

俺の沸いた頭は、その思いをそのまま文字に表してしまう。


[マオが羨ましい]

「なんで?」

読んだマオが首を傾げた。

[俺が知らないユウをたくさん知ってる]

「え?」

[羨ましい]

これは嫉妬。
今まで思いもしていなかったのだ。
自分よりもユウと仲の良い奴の存在なんて。

うつむき、口をキュッと結ぶ。


「フフッ…」
近くから、小さな笑い声が聞こえた。

そちらを見ると、マオが心底可笑しそうに笑っている。
眉をひそめると、手を振りごめんごめんと謝ってくる。
笑い終えたマオは微笑みながら俺に視線を合わせた。

「自分も同じなんだよ?」

え?
目を見開いた。

「確かに自分はリュウの知らないユーエを沢山知ってるけど、それはリュウだって一緒でしょ?リュウは自分の知らないユーエのことを知ってる。

ユーエね、自分のところに検診に来ると必ずリュウの話をするんだ。とっても楽しそうに。

それが凄く羨ましかった」

思いもよらない言葉だった。

「似たもの同士だね、自分たち」

優しく言ってくれるマオに、頷いた。





「あ、そうだ」

とマオが声を出したのは、俺に薬を手渡すときだった。

「こうしようか、時々さ二人で会って昔話するの。そうすれば、嫉妬心もなくなるでしょ」

俺は何度も頷いた。
確かにそうすれば、ユウのことを知れるし、マオとも話せて一石二鳥だ。

「じゃ、早く風邪なおしてね。声が出ないんじゃ話せないし」

俺は頷き、笑った。













完全に回復したリュウがマオを呼び止めたり、医務室でマオと面談する様子を見た、ユウィリエが
『いつの間にあんなに仲良くなったんだ?』
と首を傾げるのはまた別の話



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