Red Crow

紅姫

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番外編 集会

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草木も眠る…と詩人なら表現するかもしれないほどの夜更け

ミール国からかなり離れたところにあるオードリード国の道路をのんびりと歩く男の姿があった。

ビルも家も電気が消え、照らすのは月明かりのみである。


そんな真っ暗な道の先に、1部屋だけ明かりのついたビルがそびえ立っていた。

男はその光を見つめ、次の瞬間


姿を消した。




………
……



音も立てずに天井から私は飛び降りた。

「遅いぞ、烏」

「時間前だろ」

私は声をかけてきた相手を一睨みし、席についた。

丸テーブルの周りには私の他に5人の人物が座っている。

「全員揃ったようだから、774の集会を始める」

私の向かいに座る男が静かに宣言した。








「それにしたって急だったな…いつもは早めに手紙をよこすだろうに…何かあったの?蜂さん?」

「それは後で説明する。まずは最近の自国の様子を報告しろ、烏。他の者たちは特にないそうだからな」

と小言を言うと、向かいの眼鏡をかけた男、フレデリック=フェネリー。アサシン名、青蜂‐BleuBee‐が言った。
私は肩をすくめてみせた。
私が来る前に有無の確認はしていたのね…。



この774の集会は不定期に開催される。
たいてい、1ヶ月前にフレデリックから手紙が届き、この場所に集合する。
前に開かれたのは…確かゾムが国に来る前だから…かなり前だ。
まぁ今までも1年空くこともあったので、特にそれについては特に疑問に思わない。

何かあったのか?と聞いたのは、手紙に書かれた開催日時の件だ。
いつもは1ヶ月後などと書かれていたのに、今回に限っては3日後とかなり急だった。

まぁあとで説明すると言うし…今はとりあえず報告しようか。
あいにく、語るべきことは多くある。

とりあえず…

「国に新しい仲間が来た」

この辺りから話していこうか。










「アハッハッハッ!!ヒ~」

と私の話を聞き終えて爆笑しだしたのは私の右隣に腰掛けている男、コンラド=ハリディ。

「烏~。お前の国は平和主義じゃなかったのかぁ?どうしてそんなに、ヤベー奴が集まってんだよ~」

「私が聞きたいくらいだよ、鼠」

彼のアサシン名は暴れ鼠。小柄で背もかなり低い。

「確かに…下手な国なら滅ぼせそうな人が集まりましたね。心配ですわ…」

「…私の総統はそんな命令しないから安心しろよ、蝶」

怯えたように言う女、黄蝶‐YellowButterfly‐ことジェセニア=マリーをなだめる。

「あなたはどう思います?蠍」

「烏が言うなら大丈夫だろ」

無愛想にそう言ったのは、鉄蠍‐IronScorpions‐、ルカ=シャノン。

「相変わらずだなぁ、そこまで烏を信頼するなら仲間になれば良かったのに。平和主義とは裏腹に危険人物受け入れ放題みたいだし」

「黙れ鼬」

軽口をたたき、ルカに睨まれたのは誘い鼬と呼ばれているマリクルス=モンクリーフ。一応女である。見た目は華奢な男にしか見えない。

「烏、自国の仲間の管理はちゃんとやっておけよ」

「分かってるよ、Bee。少なくともお前たちの国には絶対に手は出させない」

フレデリックはカチャッとメガネを直した。

「で?そろそろ本題に入ってくれないか?」

「そ~だね、こっちも暇じゃないんだ」

私がフレデリックに言うと、すかさずマリクルスが言った。
彼女は、ワーゼンという国で国王の側近をしている。他に腕がたつやつが居ないといつもはグチグチ言っていたからな…国王が心配なのだろう。

「いいじゃありませんか、たまにはこうやってのんびりお話会をするのも一興ですわ」

ジェセニアがいる国は、メートと言う国だ。そこで医者の助手…いわゆるナースをしていたはずだ。確か、メート国はこの間まで戦争していて…怪我人多数だったはずだ。
多忙で息抜きがしたかったのだろう。

「ニヒヒ~オレっちもゆっくりしたいなぁ。最近、忙しくてねぇ」

コンラドが居るのは、絶賛戦争中のアゼット国。確か…兵士だったはずだが…よく考えればココに居ていいのだろうか。

「…」

ルカは黙っていたが、視線はジッとフレデリックを見ていた。ルカはイージス国の兵士をしている。イージスは戦争にしても国政にしても落ち着いた国だから時間はあるのだろう。


「では、話すとしよう」

フレデリックは私達の顔を順番に見渡し言った。

「話したかったことは2つ。
1つめは最近現れた盗賊についてだ」

「盗賊?」

私は首を傾げた。
はて…そんな話は聞いたことがない。

「『白鬼』の事か」

「知ってるのか?蠍」

ルカは頷きこそしたが、口を開く様子はない。説明はフレデリックに任せるつもりらしい。

「烏が知らないのも無理はない。どうもその盗賊…と言っても1人らしいが…ソイツは国民達から多額の金を取っていたり、国民を下に見てたり、国民から嫌われてる国王や大臣をターゲットにして宝石やら金やらを取っているみたいだからな」

「ふーん」

そりゃ知らんわ。
私達の国の税金なんて微々たるものだし、そもそも嫌われてるなんてことはないだろう。

「だが、この件について一番気にかけてほしいのは烏、お前だ」

「なんで?私の国にソイツが盗みに入るとは思えない」

「その点はコチラも同意だ。気にかけてほしいのは、その盗んだ宝石を金に変えるルートだ」

「あ、なるほど」

確かに宝石をそのままずっと手元に置くような真似はしないだろうから、金に変えるだろう。
その際、どうせ売るなら国政が安定していて高値で買ってくれる国を選ぶのもまた当たり前のことだ。

「見つけたら…別に警察に渡せとは言わんが、止めさせるように説得位はしてくれると助かる。ソイツがいつ自分の国に来るかとヒヤヒヤものでね」

「りょーかい」

そう簡単に言うことを聞くとは思えんが…まぁ見つかったら説得くらいはしてやろう。


「んで、2つめは…」

フレデリックは言いづらそうに一度口をつぐみ、喋りだす。

「どうやら、MOTHERが動くらしい」

「「「「「はぁ!?」」」」」

全員から同じ言葉が漏れた。


MOTHER
それは、この世界で唯一の『動く国』の呼び名である。
きちんとした呼び名もあるのだが…その国をおさめているのは女性であり、まるで子を産むように国から兵隊を出す姿からMOTHERと呼ばれるようになった。


「マジかよ…」

「困りましたわ…」

「…」

「ハハハ…絶望的…」

鼬、蝶、蠍、鼠が困った顔をする中、私は

「MOTHERねぇ…」

と他人事のように呟いた。
まぁ本当に他人事なのだが


「余裕そうだな、烏」

「そりゃね、MOTHERは平和主義の国は狙わない」


MOTHERが動くのにはある理由がある。
それは、MOTHERの支配者『女帝』の考えによるものだ。
女帝曰く『女であることで男より下だと思われたくない。戦争が行われると男は駆り出され女は休む暇もなく働かされる。そんなのは許せない。戦争をしようとする国は滅んでしまえばいい』
ある意味、平和主義だが、考え方はリュウイとまるで違い、戦争したくないから武力を持たないことにした(リュウイは知らんだろうが戦力はある)ミール国に対して、戦争しようとする国を無くすためにその国を滅ぼすべく武力を行使するのがMOTHERのやり方だ。

つまり戦争しないミール国にMOTHERは来ない。

「すまないが、先に失礼させてもらうよ。MOTHERが動くなら対策をねらないと」

「ワタクシも…」

「ウム…」

「オレっちも帰るわ」

「おー、国があったらまた会おう」

私が手を振る頃には4人の姿は消えていた。






私とフレデリックだけが残された。

「ゼード村の件の時には世話になったな」

私は口を開いた。
ゼード村のノビオ=フランクリンの情報を私にくれたのはフレデリックだ。

「なぁに、いいってことよ。ノビオに関してはコチラも対応に困っていたからな。殺してくれて感謝してるくらいだ」

「そうか」

「我が主も言っていたよ『RedCrowにお礼金を出したいくらいだ』ってね」

私は小さく笑う。

「気前がいいな。さすがは五大旧家が1人、ホエル=ロタ=フランクリンと言ったところか」

フレデリックも小さく笑った。

そう、フレデリックが仕えるのは五大旧家のフランクリン家。ホエルがおさめるハービニー国で国王専属側付きをしている彼に聞けばフランクリン家の内情を知ることは容易である。

「ノビオの件で世話になった礼として、忠告しとくぞ。今回MOTHERが狙う国は間違いなくお前のところだ」

「やはり烏もそう思うか」

「お前だってわかってたろう?Bee」

「あぁ…この前の戦争で国民がだいぶMOTHERにながれたみたいだからな…」

フレデリックが遠い目をしていった。


いくらMOTHERとて、ランダムに狙う国を決めたりはしない。
戦争で傷ついた、または戦争を嫌う者たちが国から逃げ出し、MOTHERに移民として受け入れられると候補国として名があがる。
最も人数が多い所がターゲットとなるわけだ。

ハービニー国はこの前まで戦争をしており、その際、国民の中でもかなり有名だったおしどり夫婦の旦那が死んだことで、奥さんやその友人達、旦那の友人達、その他諸々が一斉に逃げ出したと言う話を聞いた。
そういった事情で国を出た際、訪れる国など限られている。私が居るミール、もしくはMOTHERのどっちかだ。
ミール国には来ていないから…必然的にMOTHERに逃げたのは確定だ。


「3日凌げそうかい?」

3日というのは、MOTHERの稼働できる時間だ。『動く国』とはいえずっと動いているわけではない。動くためには燃料も電気も必要なのだ。その限界が3日。
MOTHERが動いて戦い始めても3日凌ぐことができれば国が滅ぶことはない。


「…微妙だな。兵隊達にそれなりの訓練をさせて…それでも足りないだろうな」

「そうか…」

フレデリックが私をじっと見る。

「烏、力を借りられないか」

「Bee、そうしたいなら我が主を説得してくれ。多分無理だと思うぞ」

「やっぱりか…」

フレデリックはため息をついた。

「3日だけでいいんだがな…」

「そう言われてもねぇ。何か思いついたらミールまで来ればいい。条件をのむかは総統次第だがね」

私は立ち上がった。

「私もそろそろ帰るよ。今回は色々知れてよかった。MOTHERはともかく、『白鬼』とやらの方は全力であたらせてもらうよ」

私が天井へ飛び上がろうとすると、フレデリックが思い出したかのように言った。

「そういや、お前のところの総統に1つ言っといてくれ」

「なんて?」

「五大旧家の当主会議にそろそろ顔を出してくれないかって」

「伝えるが…期待はするな」

「…全く参加してないのはウェンチェッター家だけだぞ…。ま、言ったところで来るとは思ってない」

「なら伝えろなんて言うな」

私はそう吐きすて天井へ飛び上がった。





数分後、ビルからは明かりが消え…あたりは静淑に包まれた。
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