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優しい鬼でも涙は流す①
しおりを挟む初夏の陽射しが暖かく部屋を照らす午前中、幹部集会の場で
「…ってところかな」
私はこの前の774の集会で聞いたことを皆に説明し、そう締めくくった。
「白鬼ねぇ、有名なのか?ルナ」
「かなり有名みたいだよ」
ゾムの問いかけにルナは答えた。
「クイグリー家の宝石が盗まれたって話知らないかい?」
「あ~、そういや警察が被害にあってないかと聞きに来たっけ」
「それにハガード家の宝とか、ミーガン家の王冠なんかも盗まれてるみたい。総額すればかなりの額になるだろうね」
クイグリー家もハガード家もミーガン家も、皆、国をおさめる者たちではあるが国民たちからの支持は低かったはずだ。
まさに白鬼が狙う家といえる。
「姿とかの特徴は?」
リュウイが聞いた。
「いろんな話が出ているからね…どれが本当か…。あ、でもどの証言にも必ず共通しているのがあるね」
「へぇ、どんな?」
「深海を思わせる透き通った蒼の瞳だって」
「青い目の奴なんて…探せば五万と出てきそうだな…」
この国にだって数人は居そうだ。
「まぁね。ちょっと個人の特定には向かない情報かな」
「この国に盗みに入ることはないでしょうし…城下を歩くときに注意すればいいですよね?」
「あぁ」
私はキースの言葉に頷いた。
「ノア、今日の定期観察の時も注意しといてくれ、何かあったらすぐ私に連絡だ」
「分かった」
ノアが力強く頷くのを見て、頼もしくなったなぁと嬉しく思う。
だいぶ国にも慣れ、仕事にも慣れてくれたノアに最近私が今までやっていた仕事の一部を任せている。定期観察もその1つだ。
本当に頼もしくなったものだ。
「じゃ、今回の幹部集会はおしまい!みんな仕事に戻ってくれ」
リュウイの一言で私達は各自の仕事に戻った。
ー午後
ノアは両手一杯に物を持ちながら公園の広場を歩いていた。
幹部集会終了後、定期観察へ出かけたノア。国の人たちとも打ち解けたノアに、お店の人たちは優しく声をかけ、ねぎらい、『まだ仕事あるんだろ?これ食べな』とパンやら果物やらと食べ物を渡してきた。
優しい彼らに『他のところでも貰ったので…』と断ることができなかったノアの手はあっという間に一杯になった。
ちょうどいい時間になったので、ここらで休憩して、食べてしまおうとノアはこの公園の広場にやってきたのだ。
ココはノアのお気に入りの場所だ。
広場の中央にある噴水からはキラキラと陽を浴びて輝く水が降り注ぎ、花壇には色とりどりの花が咲き乱れる。
美しい景色、と誰もが口にするだろう。
ノアもユウィリエに初めて国を案内されたときに来て、美しさに言葉を失ったほどだ。
この公園はユウィリエがデザインして作ってもらったと聞いたときにはセンスの良さを絶賛したものだ。
広場の端にあるベンチに腰掛け、荷物を置く。
流石に全部は食べれないが…仕事のことを考えるとなるべく減らしたい…。
「すみません、隣いいですか?」
荷物とにらめっこしていると声をかけられた。
目の前に立っているのは、キースくらいの年齢の男だった。
ユウィリエやマオには負けるが、中々に整った顔立ち。
銀に近い白色の髪が太陽の光で様々な色に輝いている。ココらへんでは見ない色だ。
そして、何より目を惹くのは
とてもきれいな蒼の瞳だった。
空の色ではない。その青は…まるで海の深いところのような…そんな深くきれいな蒼。
「かまいませんよ、どうぞ!」
「ありがとう」
微笑んで答え、スッと隣に腰掛ける男。
周りを見るとどのベンチも埋まっている。
だから、声をかけてきたのかと納得する。
ふぅと息を吐く男。
初めて会う男なのに、何故か隣りに居てホッとする。
「すごい荷物だね」
「え…あ、そうなんですよ」
「食べ物みたいだけど…今全部食べるの?」
「いや…流石に無理だと思うんですが…まだ仕事もあるんでなるべく減らしたいなと…あ!良かったら食べませんか?」
ホッとする上に、何故か話しやすさをこの男から感じた。
「いいの?」
「もちろんです!絶対に一人じゃ食べきれませんし」
ノアは、袋の中からカツサンドを取り出し、男に差し出す。
カツサンドはこの国の一員になって、ユウィリエがノアに一番に勧めてきた食べ物だ。
『ココのカツサンドは絶品だよ』
とカツサンドをかじりながら、幸せそうに笑いながら言ったユウィリエの事をノアは今でも覚えているし、実際、とても美味しかった。
男はそれを受け取り、珍しいものを見るようにカツサンドを見つめている。
「カツサンド好きじゃないですか?」
「え…いや、そんな事はないよ。ただ、初めて見たもので…」
初めて?
ノアは首を傾げる。この店のカツサンドは中々に有名だ。見たことが無いなんてことあるだろうか。
…この国で見かけたことがない顔だしな
観光客なのかもしれない。
男は恐る恐るカツサンドに口をつける。
ゆっくりと咀嚼していた男の目が見開かれ、カツサンドをじっと見る。
その目がノアを見て、
「すごく美味しい」
と幸せそうに笑って言った。
その顔を見てノアは、この男に話しやすさを感じたりホッとする理由に気づいた。
この男は…
ユウに似てる
ノアは男に笑い返しながら思った。
「ごちそうさま」
だいぶ減った荷物に安堵していると、男が手を合わせていった。
「美味しかったよ、ありがとうね」
「いえ、こちらこそ。食べてもらえて良かったです」
「ほんとに助かったよ。何日も食べてなかったし…。今日の昼飯をどうしようかと思ってたんだ」
「え?」
何日も食べてなかった?
「今日、この国に来て物売ってお金にする予定だったんだけど…査定に時間がかかるってどの店にも言われてね。無一文だったんだ」
「はぁ…」
「だから助かったよ。えと…そういえば自己紹介もしてなかったな」
「そういえば…そうですね」
名も知らない男と今まで話していた。よく困らなかったものだ。
「俺、ルーク。ルーク=ウィシャート」
「ノア=アリソンです。よろしくお願いしますルークさん」
「こちらこそ、ノア。あ、そうだ。コレお礼にどうぞ」
ルークはおもむろにポケットに手を突っ込み、何かを取り出してノアの手に乗せた。
それは、中心に大きな宝石のついたペンダントだった。
ノアはそれを注意深く見て、目をみはった。
「…え?あの…コレ…」
「ん?あぁいいのいいの。ここらで手に入れたものだから気にしないで」
「…でも?」
「?」
ノアはルークに困惑した顔をしてみせるが、ルークはなぜ困っているのかわかっていない様子だ。
ノアが困ってしまった理由は3つ。
1つめはルークは『ここらで手に入れた』と言っているが、コレはこの国で作られたものではない事。
ミール国には鉱山があり、宝石が取れる。
それを他国に輸出もしているし、加工もしてるので作られた物だと言われても不思議はないように思うが…加工の仕方はこの国独自のものがある。
ルークから手渡されたペンダントの加工はこの国のものではない。
2つめはペンダントが中々に古いものであること。
少し汚れているが美しさが衰えない宝石を囲う枠やチェーンは年季がはいっているし、デザインも古めだ。
3つめは…コレが一番驚いているが…ペンダントの宝石に模様が刻まれており、その模様に見覚えがあったことだ。
そう、コレは…この模様は…この前警察が盗賊『白鬼』の調査に来たときにユウィリエに見せていた紙に書いてあったものだ。
同席を許されて、ノアも紙を見せてもらったから覚えている。
確か…クイグリー家の紋章だと言っていたはずだ。盗まれた宝石に描かれていると説明していたはずだ。
それが…今ノアの手に乗っているのである。
ノアは頭の中で情報を整理する。
盗まれたはずのクイグリー家の紋章のついた宝石がノアの手にある。
手渡してきたのは目の前の男、ルーク=ウィシャート。
ルークは嘘をついている。
盗賊『白鬼』の特徴は、深海を思わせる透き通った蒼の瞳。
頭の中でパズルのピースがハマっていく。
「か…」
「ん?」
「確保!!!」
「うわっ!」
ノアはガッチリとルークに抱きついた。
「な、なに?ノア?」
驚きながらノアを見るルーク。
ノアはそれを見返しながら言った。
「僕は、この国の書記長の補佐をしています!一応、この国の幹部です!」
「え?」
ルークの顔からスッと血の気が引く
「貴方に聞きたいことがありますので、すみませんが一緒に来てもらいますよ」
ノアはインカムを操作し、ユウィリエにつなぐ。
「ユウ!」
『ノア?』
「ユウ!白鬼を捕まえた!」
『はぁ!?』
驚きの声を上げたユウィリエ。
だが、次の瞬間には焦ったように
『ちょっと大丈夫?白鬼暴れてない?怪我してない?そっちに迎えに行くから何かで縛り上げておけるかい?何だったら蹴りの1つでも急所に…』
とちょっと物騒なことを言いながら心配してくれた。
「暴れてないよ、それについてきてくれると思うんでこのまま城に行くよ」
『へ?』
「ね、ついてきてくれるでしょ?」
ルークに聞くと、お手上げと言うようにルークは両手を挙げた。
「ついてきてくれるって」
『そ、そう。じゃあ、着いたら空き部屋に案内して…私に声かけてくれ』
「分かった」
通信が途切れた。
「行きましょうか」
「…しょうがないか」
ノアは、ルークの手を掴んで歩き出した。
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