Red Crow

紅姫

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優しい鬼でも涙は流す③

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ルーク=ウィシャートは一人残されたその部屋をキョロキョロと観察していた。

ノアに連れられてやってきたこの部屋。

普通盗賊だと言えば即座に牢屋にでも打ち込まれたりするものだと思うのだが…

「きれいな部屋だな…」

そうこの部屋は綺麗だった。

腰掛けたソファはフカフカで座り心地がいい。
陽が入りながらも、空調がきちんときいているためか、初夏なのに暑さを感じない。

少なくとも盗賊を連れてくる部屋ではない。




トントンッ




扉を叩く音がして、ビクリと肩があがる。

ノアは書記長を連れてくると言っていたはずだ。
盗賊だというのにノコノコと上の者が来るということは…その書記長はかなりの手練か、優秀な守護者がいると考えられる。
ルークはジッと扉を見つめた。


扉はゆっくり開かれた。



「失礼するよ」

「おじゃまします」

二人の男が入ってきた。あとに続いてノアもや入ってきたが、ルークの目は最初に入ってきた二人の男に釘付けだった。


なんて…綺麗な人達だろう


それが第一印象だった。


一人目は、エメラルドグリーンの瞳を持つ男。黄色っぽい茶髪は見るだけでサラサラであることが分かる。
優しげな雰囲気があり、今も優しい視線でコチラを見ている。

二人目は、ルビーのような瞳を持つ男。ノアとはまた違う色味の赤だ。明るい茶髪が歩くたびに揺れ、陽にあたり輝く。
興味深そうにこちらを見る目からは敵意などは感じない。

緑の方が書記長か?

ルークは考える。
どちらも若い。特に赤い目の方は緑の方よりもかなり若く見える。書記長というから年寄りが来ると思っていたのだが…。
緑の目の方が歳上そうだし…書記長だろう。


「君が…白鬼?」

赤い目の方が聞いてきた。
声まで綺麗なのか…
すっと耳に入る心地よい声に反射的に頷いた。
別に自分から白鬼を名乗っているわけじゃないのだが…。

「そうか」

赤い目の男と緑の目の男はルークの前のソファに腰掛けた。


「初めまして、白鬼。私はユウィリエ=ウィンベリー。この国の書記長だ。こっちはマオ。この城の専属医だ、今回は同席を頼んだが構わないかい?」

赤い目の男…ユウィリエが言った。


こっちが書記長?若すぎる


ルークは驚きで目を見開いた。










ポカンとする白鬼。隣ではクスクスとマオが笑っている。

「ユーエ、多分また若すぎるって驚かれてるよ」

白鬼はコクコクと頷く。

「そんなに若いか…?」

「見た目はね」

私は肩をすくめた後、ノアを見る。


「ノアも同席する?」

「うん、したい」

頷く様子を見て、私は自分の隣の席をポンポンと叩く。
ノアが戸惑いながらも座るのを見てから視線を白鬼に戻した。


「名前を教えてくれるか?」

「ルーク=ウィシャート」

私はチラッとマオを見る。
マオは大丈夫と言うように頷いた。

マオは特殊な目をもっている。
その1つの能力に『嘘を見抜く』というものがある。
医者であるFairyは病状などを隠そうとするのを見逃さないようにそのような目を持っているらしい。
そのため、この場に同席を頼んだのだ。

今、白鬼…ルークは嘘をついていないようだ。

ルーク=ウィシャート…?

「ん?」

私の頭の中でその名前が引っかかった。
ルーク=ウィシャート…
聞いたことがある。確か…

「お前、もしかして帝国ダストの双剣の騎士長か?」

ルークが大きく目を見開いた。







まさかまだその名を覚えている奴がいるとは思わなかった。
この書記長…若いと思って油断するのは危険かもしれない…

ルークはそう思った。







「帝国ダスト?」

「双剣?騎士長?」

私の言葉にマオとノアが首を傾げる。

「帝国ダストってのは、今はない国だが…ミールのように平和な国だったんだ」

「だった?」

私はチラリとルークを見てから口を開く。

「国王ゴンサロ=プロッサーはある時期から性格が一変してね。平和を愛していたはずなのに…国民に徴兵令をだして、隣国に戦争を仕掛けはじめたんだ」

「それで?」

「結果的には国民も大勢死んで、国王も殺された」

マオは憐れむような目をルークに向けるが、ルークは私から目を離さない。
警戒されているようだ。

「双剣とか騎士長ってやつは?」

「その戦争の中で帝国ダストの兵士達を率い、猛威を奮った存在さ。双剣を使い、兵士を導いたその姿を見て、隣国がつけた異名だよ」

「ルーク、意外と強いんだね」

そう言ったノアに、大げさに首を振ってみせる。

「強いなんてもんじゃないさ。ある意味、彼はいろんな国から脅威に思われているんだからね」

ビクッとルークの身体が揺れる。

「脅威?」

首を傾げるノア。

「なんたって彼はカラー武器、『青』を所有する者だからね」

それを聞いたマオが目を見開く。

「何?カラー武器って」

ノアが聞く。

「昔、シャノン=カラーって名前の女鍛冶師がいたんだ」

今まで黙っていたルークが話し始めた。

「シャノンの腕はとても良かった。どんな武器でも彼女の手にかかれば新品のように治ったし、作り出す方の腕前も素晴らしく、剣でも銃でも何でも作り上げることができたんだ。

しかし…シャノンは不治の病にかかってしまう。余命宣告をうけ、あと5年も生きられないと言われた。

シャノンは悲しみながらも、この世界に自分が居た痕跡を武器として残そうとしたんだ。
自分の持てる技術を総動員してね。

彼女は自分の名でもある『カラー』つまり色のついた武器を作り上げたんだ。
十二色相環の色+白と黒の武器を各色2個づつ。計28個の武器をね」

そこで口をつぐんでしまったため続きを引き受ける。

「カラーの作った28の武器はこの世界にあるどの武器よりも優れている。それこそ、それを持つ者が一人でも国にいれば恐れられるほどにね」

「じゃあ…戦争してる国とかに沢山そんなのがあるの?」

「いや、カラー武器の存在が確認されているのはたった4つだけ。非公認も含めても10もないだようね」

「え?そんなのおかしい」

ノアが眉をひそめて言う。

「そんなに強い武器なら戦争してる国が手にしてるはずじゃん」

「カラー武器は…武器が人を選ぶんだよ」

「え?」

「武器を人が選ぶんじゃなくて、武器が自ら自分の持ち主を決めるんだ。もちろん、色の片方に選ばれてももう1つは他の人のところに行くこともあるし…両方とも一人が保有することもあるけど」

ノアがルークを見つめた。

「ルークはそんな武器に選ばれた。ましてや、双剣はそれで2本分の武器になるから、『青』の武器を両方とも所有する者ってことになるね

今は世界の法律でカラー武器所有者がいる国は世界に何色の武器を所有する者がいるのか発信しなくちゃいけないんだけど…法律ができる前に所有した人とかは対象にならなかったから、非公認の所有者もいるはずだよ」

そこまで説明して、私はこちらを見るルークと目線を合わせた。

ルークの目に映すのは、警戒心と、好奇心。

彼は警戒しながらも、私に興味があるようだ。


「君があの双剣だというのなら、クイグリー家とかを狙った理由もなんとなく察しがつくよ」

「…」

わかるものかとでも言いたげにこちらを睨むルークに微笑みながら言う。

「で?見つかったの?『エリシア』は」

「お前…」

ポカンとこちらを見て、

「どこまで、知ってるんだよ…」

戸惑う彼に優しく私は微笑んだ。

「私が知ってるのは、ダストには国宝があって、それに国王が自分の娘と同じ『エリシア』という名をつけたってこと

そして、国が滅ぶきっかけとなった戦争にクイグリー、ハガード、ミーガン、あともう一つの国が加担していて、そのうちのどれかが国宝を奪ったってことくらいさ」

「…ほぼ全部じゃないか」

ルークが肩の力を抜くのが分かる。
どうやら、気を張るのが馬鹿らしくなったようだ。

「あんた、なに者?」

「へ?」

「その若さでこんだけのこと知ってて…ちょっと油断ならないなって思っててね。もし、ヤバイやつならココで始末しないとさ…」

ルークから殺気が漏れた。
なるほど…
さすがは騎士長と呼ばれただけある中々の殺気だ。

マオはビクッと体を揺らしているし、ノアに至っては私の腕にしがみついている。

「中々の殺気だね


でも…


特定の人物以外に殺気を感じさせるのはいただけないなぁ」











「特定の人物以外に殺気を感じさせるのはいただけないなぁ」

そう笑ったユウィリエに、ルークは驚く。

なぜ、笑っていられる?



ゾクッ…!




突如感じた悪寒。
声を出したくても声が喉から出てこない。
身動き一つ…手の指1本たりとも動かない。


なんだよ…コレ…

唯一動く目をユウィリエに向ける。

ユウィリエは未だ微笑んでいる。
しかし、その殺気は間違いなくユウィリエから出されたものだ。


ルークは恐ろしく思った。

殺気にではない。



…全く力の底が見えない



微笑むユウィリエは余裕そうで、先程まで自分の殺気に当てられていたというのに、恐れることなく、これだけの殺気を出しているのに微笑むことができるなんて…



何者だよ…ほんと…


ユウィリエはスッと殺気を引っ込め、


「フフッ」


と笑ってみせた。
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