34 / 119
優しい鬼でも涙は流す③
しおりを挟むルーク=ウィシャートは一人残されたその部屋をキョロキョロと観察していた。
ノアに連れられてやってきたこの部屋。
普通盗賊だと言えば即座に牢屋にでも打ち込まれたりするものだと思うのだが…
「きれいな部屋だな…」
そうこの部屋は綺麗だった。
腰掛けたソファはフカフカで座り心地がいい。
陽が入りながらも、空調がきちんときいているためか、初夏なのに暑さを感じない。
少なくとも盗賊を連れてくる部屋ではない。
トントンッ
扉を叩く音がして、ビクリと肩があがる。
ノアは書記長を連れてくると言っていたはずだ。
盗賊だというのにノコノコと上の者が来るということは…その書記長はかなりの手練か、優秀な守護者がいると考えられる。
ルークはジッと扉を見つめた。
扉はゆっくり開かれた。
「失礼するよ」
「おじゃまします」
二人の男が入ってきた。あとに続いてノアもや入ってきたが、ルークの目は最初に入ってきた二人の男に釘付けだった。
なんて…綺麗な人達だろう
それが第一印象だった。
一人目は、エメラルドグリーンの瞳を持つ男。黄色っぽい茶髪は見るだけでサラサラであることが分かる。
優しげな雰囲気があり、今も優しい視線でコチラを見ている。
二人目は、ルビーのような瞳を持つ男。ノアとはまた違う色味の赤だ。明るい茶髪が歩くたびに揺れ、陽にあたり輝く。
興味深そうにこちらを見る目からは敵意などは感じない。
緑の方が書記長か?
ルークは考える。
どちらも若い。特に赤い目の方は緑の方よりもかなり若く見える。書記長というから年寄りが来ると思っていたのだが…。
緑の目の方が歳上そうだし…書記長だろう。
「君が…白鬼?」
赤い目の方が聞いてきた。
声まで綺麗なのか…
すっと耳に入る心地よい声に反射的に頷いた。
別に自分から白鬼を名乗っているわけじゃないのだが…。
「そうか」
赤い目の男と緑の目の男はルークの前のソファに腰掛けた。
「初めまして、白鬼。私はユウィリエ=ウィンベリー。この国の書記長だ。こっちはマオ。この城の専属医だ、今回は同席を頼んだが構わないかい?」
赤い目の男…ユウィリエが言った。
こっちが書記長?若すぎる
ルークは驚きで目を見開いた。
ポカンとする白鬼。隣ではクスクスとマオが笑っている。
「ユーエ、多分また若すぎるって驚かれてるよ」
白鬼はコクコクと頷く。
「そんなに若いか…?」
「見た目はね」
私は肩をすくめた後、ノアを見る。
「ノアも同席する?」
「うん、したい」
頷く様子を見て、私は自分の隣の席をポンポンと叩く。
ノアが戸惑いながらも座るのを見てから視線を白鬼に戻した。
「名前を教えてくれるか?」
「ルーク=ウィシャート」
私はチラッとマオを見る。
マオは大丈夫と言うように頷いた。
マオは特殊な目をもっている。
その1つの能力に『嘘を見抜く』というものがある。
医者であるFairyは病状などを隠そうとするのを見逃さないようにそのような目を持っているらしい。
そのため、この場に同席を頼んだのだ。
今、白鬼…ルークは嘘をついていないようだ。
ルーク=ウィシャート…?
「ん?」
私の頭の中でその名前が引っかかった。
ルーク=ウィシャート…
聞いたことがある。確か…
「お前、もしかして帝国ダストの双剣の騎士長か?」
ルークが大きく目を見開いた。
まさかまだその名を覚えている奴がいるとは思わなかった。
この書記長…若いと思って油断するのは危険かもしれない…
ルークはそう思った。
「帝国ダスト?」
「双剣?騎士長?」
私の言葉にマオとノアが首を傾げる。
「帝国ダストってのは、今はない国だが…ミールのように平和な国だったんだ」
「だった?」
私はチラリとルークを見てから口を開く。
「国王ゴンサロ=プロッサーはある時期から性格が一変してね。平和を愛していたはずなのに…国民に徴兵令をだして、隣国に戦争を仕掛けはじめたんだ」
「それで?」
「結果的には国民も大勢死んで、国王も殺された」
マオは憐れむような目をルークに向けるが、ルークは私から目を離さない。
警戒されているようだ。
「双剣とか騎士長ってやつは?」
「その戦争の中で帝国ダストの兵士達を率い、猛威を奮った存在さ。双剣を使い、兵士を導いたその姿を見て、隣国がつけた異名だよ」
「ルーク、意外と強いんだね」
そう言ったノアに、大げさに首を振ってみせる。
「強いなんてもんじゃないさ。ある意味、彼はいろんな国から脅威に思われているんだからね」
ビクッとルークの身体が揺れる。
「脅威?」
首を傾げるノア。
「なんたって彼はカラー武器、『青』を所有する者だからね」
それを聞いたマオが目を見開く。
「何?カラー武器って」
ノアが聞く。
「昔、シャノン=カラーって名前の女鍛冶師がいたんだ」
今まで黙っていたルークが話し始めた。
「シャノンの腕はとても良かった。どんな武器でも彼女の手にかかれば新品のように治ったし、作り出す方の腕前も素晴らしく、剣でも銃でも何でも作り上げることができたんだ。
しかし…シャノンは不治の病にかかってしまう。余命宣告をうけ、あと5年も生きられないと言われた。
シャノンは悲しみながらも、この世界に自分が居た痕跡を武器として残そうとしたんだ。
自分の持てる技術を総動員してね。
彼女は自分の名でもある『カラー』つまり色のついた武器を作り上げたんだ。
十二色相環の色+白と黒の武器を各色2個づつ。計28個の武器をね」
そこで口をつぐんでしまったため続きを引き受ける。
「カラーの作った28の武器はこの世界にあるどの武器よりも優れている。それこそ、それを持つ者が一人でも国にいれば恐れられるほどにね」
「じゃあ…戦争してる国とかに沢山そんなのがあるの?」
「いや、カラー武器の存在が確認されているのはたった4つだけ。非公認も含めても10もないだようね」
「え?そんなのおかしい」
ノアが眉をひそめて言う。
「そんなに強い武器なら戦争してる国が手にしてるはずじゃん」
「カラー武器は…武器が人を選ぶんだよ」
「え?」
「武器を人が選ぶんじゃなくて、武器が自ら自分の持ち主を決めるんだ。もちろん、色の片方に選ばれてももう1つは他の人のところに行くこともあるし…両方とも一人が保有することもあるけど」
ノアがルークを見つめた。
「ルークはそんな武器に選ばれた。ましてや、双剣はそれで2本分の武器になるから、『青』の武器を両方とも所有する者ってことになるね
今は世界の法律でカラー武器所有者がいる国は世界に何色の武器を所有する者がいるのか発信しなくちゃいけないんだけど…法律ができる前に所有した人とかは対象にならなかったから、非公認の所有者もいるはずだよ」
そこまで説明して、私はこちらを見るルークと目線を合わせた。
ルークの目に映すのは、警戒心と、好奇心。
彼は警戒しながらも、私に興味があるようだ。
「君があの双剣だというのなら、クイグリー家とかを狙った理由もなんとなく察しがつくよ」
「…」
わかるものかとでも言いたげにこちらを睨むルークに微笑みながら言う。
「で?見つかったの?『エリシア』は」
「お前…」
ポカンとこちらを見て、
「どこまで、知ってるんだよ…」
戸惑う彼に優しく私は微笑んだ。
「私が知ってるのは、ダストには国宝があって、それに国王が自分の娘と同じ『エリシア』という名をつけたってこと
そして、国が滅ぶきっかけとなった戦争にクイグリー、ハガード、ミーガン、あともう一つの国が加担していて、そのうちのどれかが国宝を奪ったってことくらいさ」
「…ほぼ全部じゃないか」
ルークが肩の力を抜くのが分かる。
どうやら、気を張るのが馬鹿らしくなったようだ。
「あんた、なに者?」
「へ?」
「その若さでこんだけのこと知ってて…ちょっと油断ならないなって思っててね。もし、ヤバイやつならココで始末しないとさ…」
ルークから殺気が漏れた。
なるほど…
さすがは騎士長と呼ばれただけある中々の殺気だ。
マオはビクッと体を揺らしているし、ノアに至っては私の腕にしがみついている。
「中々の殺気だね
でも…
特定の人物以外に殺気を感じさせるのはいただけないなぁ」
「特定の人物以外に殺気を感じさせるのはいただけないなぁ」
そう笑ったユウィリエに、ルークは驚く。
なぜ、笑っていられる?
ゾクッ…!
突如感じた悪寒。
声を出したくても声が喉から出てこない。
身動き一つ…手の指1本たりとも動かない。
なんだよ…コレ…
唯一動く目をユウィリエに向ける。
ユウィリエは未だ微笑んでいる。
しかし、その殺気は間違いなくユウィリエから出されたものだ。
ルークは恐ろしく思った。
殺気にではない。
…全く力の底が見えない
微笑むユウィリエは余裕そうで、先程まで自分の殺気に当てられていたというのに、恐れることなく、これだけの殺気を出しているのに微笑むことができるなんて…
何者だよ…ほんと…
ユウィリエはスッと殺気を引っ込め、
「フフッ」
と笑ってみせた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる