Red Crow

紅姫

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優しい鬼でも涙は流す④

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「ま、とりあえず…」

と未だビクついているルークに私は言う。

「私達は君を警察につき出そうとか、拷問しようとかそんな事は考えてないから安心しなよ」

「え?」

「これも返すよ。この国での換金は難しいだろうけど、隣の国にでも行けば少し安くはなるかもしれないが普通に換金できると思うぞ」

私は机に国民達から預かっていた宝石の類を置く。

「なんで…ココにこれが?」

「知っての通り、この国の人達は総統及び私達に対する信頼がアツい。そして、宝石を見る眼もピカイチだ。少しでも怪しいもんがあれは教えてくれるのさ」

「はぁ…来る国を間違えた…」

ルークの投げやりな言葉に苦笑がもれる。

「双剣も返してあげる。多分…門番にとられたろ?この国は城の者と届け出を出したもの以外武器の携帯は禁止だからね」

「あぁ…」

「じゃあ、取ってこよう。マオ、ノア、一応ルークの監視を頼むよ。まぁ逃げないとは思うけど」

私は席を立ち、部屋を出て外門へ向かうべく歩き始めた。











「逃げても、あの書記長にすぐ見つけられそうだ…」

ユウィリエの後ろ姿を見届けて、ルークは呟いた。

「見つけるだろうね」

クスクスと笑うマオ。

「ルーク…」

「ん?」

ノアの呼びかけにそちらを見ると、心配そうな赤い瞳がこちらを見ていた。

「また、どこかの家に盗みに入るの?」

「まぁな、次で最後だろうけどね」

「…」

「どうした?」

俯いてしまったノア。

「……やめたら?」

「え?」

「だって…今まで盗みに入った家の関連性をその家の人は絶対気づいてるよ!気づいてたら…ルークを倒そうとしてくるよ…」

「だろうね」

「なら!」

「でも、俺はやる」

「なんで!?」

ルークはノアに微笑んでみせた。

「それが、俺のせめてもの恩返しだから」

「恩返し?」

ルークは頷いた。


「もしよかったら、話してみてくれない?どういう経緯で双剣の騎士長とまで言われた人が盗賊になるのか興味があるよ」

マオが言い、ノアも真剣な眼差しでこちらを見る。


なんとなくだが…話してもいいのではないかと思い、ルークは口を開いた。



「俺のいたダストって国ではね、戦争以前は確かに徴兵令は出てなかったけど…国王や国を守るために少なからず騎士はいたんだ。

そして、俺はその騎士団の中にいた。

本当なら…幼い俺が騎士団に入ることなんてできないんだけど…。親を両方とも亡くし、身寄りがなかった俺を国王が城へ引き入れて、特別に騎士団に入れてくれたんだ。

訓練はあっても、基本的に平和な国。力を入れて訓練をしていた訳じゃないから、空き時間のほうが多かったんだ。

俺はその中でも1番の年下で…王女と一番年が近かったから、よく遊び相手にされてたんだ。と、言っても王女の方が5歳も歳上だったんだけどね。

王女エリシアは…勝ち気で正義感が強くて喧嘩っ早くて…お世辞にも麗しき王女の風格があるとは言えなかった。
でも…誰よりも国を愛し、国民を愛していた。


そして…エリシアは…


誰よりも愛した国の愛した国民の手によって殺されたんだ」


「え…」


「エリシアは16歳で…他国の王子と結婚が決まっていたんだけど…。国民の中にエリシアの熱狂的なファンがいてね。それを裏切りと捉えて…

ちょうど国王の誕生祭の準備で忙しくて城の警備が薄くなってて…ソイツが城に入った事に誰も気づかなかったんだ。

ソイツは…エリシアを凌辱し…殺した

それがキッカケになって…国王がおかしくなったんだ」


俺は口をつぐむ。
思い出すだけで怒りがこみ上げ、気づかなかった自分に嫌気がさす。


「ユウィリエ…だっけ?あの書記長が言ってたろ?国王がおかしくなって、戦争を起こしたって。そのキッカケが王女の死だ。

国王はエリシアを愛していた。王妃を早くに亡くした国王にとって唯一の家族だったし…何よりエリシアは王妃の生き写しのように顔が似ていた。

国王は…エリシアの死を受け入れられなかったんだ。

国宝に『エリシア』と名前をつけた、って言えば見かけはいいが…意味は違う。
国王は、その国宝を本気でエリシアだと思ってた。エリシアと同じ瞳の色をした宝石をね。いつも綺麗な目だと言いながら国宝を国王は見ていた…。

それから数年はまだ良かったんだ…。
でも…。

隣国と戦争を始めたのも、その宝石を隣国の国王が欲しいと言ってしまったことからだった…。そんなことで?って思うだろ?

それほどまでに…国王は壊れてたんだ。

戦争が始まる前、俺は国王に呼び出された。
国王は俺とエリシアが仲が良かったことを知っていたからね、よく話をしていたんだ…死んだあともね。

これから戦争をしなくてはならなくて…はっきり言って緊張していたよ、俺は。

そんな俺に国王は言ったんだよ。


『娘を守ってくれ』って


国宝を指差してね。

『自分が死んだらこの娘を頼む』

そう言ったんだ…。



俺はそれまで、ずっと握ることを拒んでいた双剣を握ることを決意して、戦場に出た。
世界に双剣を持っていることは発表していたけど…俺は双剣を握る勇気がその時まで無かったんだ…。

俺は、戦った。
双剣で敵を倒して倒して、倒し続けた。
それでも結果は惨敗。

国王は死んでいた。

俺はせめて、墓に入れるとき国宝である『エリシア』と共に入れてあげたくて…でも、国宝は無かった。

俺はね、国王に本当に感謝していたんだ。国王がいなかったら…俺はとっくの昔に餓死していた。だから、せめて、国王が愛したものと共に安らかに眠れるようにしてあげたかった。

なのに…国宝は消えた。
誰かが盗んだんだ

俺は誰が国宝を盗んだのかを探り始めたんだ。」

「それで…?」

「噂であの戦争にクイグリー、ハガード、ミーガン、そしてマットンの奴らが関わっていたことを知った。アイツラは金に目がない奴らだ。間違いなく誰かが持ってると思ったよ」

「で、盗賊になったと…」

「盗賊…か。俺は自分を盗賊だとは思っていない。自分の主のものを返してもらいに言ってるだけさ」

フフッと笑ってみせた。

「双剣もあるし…相手が何かをしてきても、大概はどうにかなる。だから、俺は『エリシア』を手に入れるまで盗みをやめない」

「ルーク…やめるべきだよ。そんなの…国王達は望んでないよ…」

「…そうかもしれない。でも、それが俺にできる唯一の事なんだ」

俺はそこで口を閉ざした。
ノアはまだ何か言いたげだが、結局何も言わなかった。




「さて、俺は行くよ」

ルークは立ち上がる。

「逃げる気?」

「どうやら、あの書記長でも知らない事があるみたいでね

双剣…いやカラー武器は普通の人には持ち上げることすらできない。

だから、どんなに待っても書記長はココには…」



がちゃ
「おまたせー」



話している最中に部屋へ入ってきたユウィリエ。

手には双剣を入れていた袋が握られている。


「あれ?何事?」

部屋の雰囲気に首を傾げたユウィリエに




「あんた…ほんとに…何者?」




ルークは呟くことしかできなかった。










ー外門にて

私とノアは、ルークを見送るべく外門にいた。

「んじゃ…行くわ」

「おー、達者で」

外門から国を出ていくルークを見送る。

ノアは最後まで何か言いたげにルークを見ていたが、最後は結局何も言わずに見送っていた。

さすがの足の速さでルークの姿はすぐに見えなくなった。



「ユウ…」

「ん?」

「ユウは…全部知ってたの?」

「何を?」

「ルークのことや…ルークがいた国の国王や王女様のこと」

「まぁね」

「なら、どうして止めないの」

「止める?」

「だって…ルークは次の盗み先で、殺されるかもしれない、その可能性が高い」

「そうだね」

「なら!」

「でも、それを止める権利は私にはないんだよ、ノア」

「!」

「ルークが決めたことだし…何他人が何言ったって決意があるやつを止めるのは難しい」

「そんな…」

ノアは涙を目にためて、私を見た。


「僕…ルークに死んでほしくないよ…」


ノアは私の手を握る。


「なら…」


私はノアにある事を提案する。


最初は困惑しながらも、彼は

確かに頷き



「お願い、ユウ」



ノアは言った。


私は……………………。


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