37 / 119
優しい鬼でも涙は流す⑥
しおりを挟むーミール国にて
私は音を立てずに自分の部屋の寝室へ飛び降りた。
まずは着替えなくては…
突然の依頼だったし、どのタイミングでルークが盗みに入るのか分からないという状況だった為、服も片付けずにマットン家へ向かった。
そのため、今日着ていた軍服はベッドの上に乱雑にのったままである。
少しすれば結局シャワーを浴びるし…着替えもするのだから良いか…
私はマフラーを外し、服を脱いでいつものように処理したあと少しシワのついた軍服に着替えた。
寝室から出ると、ソファのいつもの位置にノアの姿が見えた。
「あ、おかえりなさい」
「ただいま」
「どうだった?」
私はノアの前の席に腰掛ける。
「ルークはちゃんと国宝を手に入れたし…逃げもしたよ。伝言も伝えておいた。多分、また来てくれるよ」
「ほんと!」
ノアは嬉しそうに笑った。
「さて…私は仕事しないとね。ノアは仕事終わってるだろ?今日はもう休みな」
ソファから立ち上がりながら言うと
「あ、ユウの分の仕事も終わってるよ」
「へ?」
「前に教えてもらった仕事だったからやっておいた。確認はお願いしたいけど。これがそう」
と机の上の資料を指差す。
「あぁ…わかった」
「じゃあ、僕は休むね。また明日」
「おやすみ」
ノアが部屋から出ていくのを見送り、私はソファに座り直した。
ペラペラと資料の確認を行う。
誤字脱字、計算の間違いもない。
「大丈夫そうだな」
全部確認し終え、私は呟いた。
フーと息を吐き、私は背をソファに預けた。
「ノア…変わったなぁ…」
私の記憶は、今日の昼過ぎ。
ルークが国を出たあとのところまで遡る。
………
……
…
「僕…ルークに死んでほしくないよ…」
そう私の手を握ったノアに
「なら…私を駒として使ってみたらどうだ?」
そう提案した。
「え?」
「本気で何かをやろうとしている人物をただ自分がそうして欲しくないからと止めるのは、相手にも響かないし、止めることはできない。
ならどうするか。
それは、自分が持っている駒を最大限に活かして抵抗する。それしかないんだよノア」
パチパチとまばたきを繰り返すノアに私は続ける。
「本気でルークを守りたいというのなら、君が持つ駒を使って、守ってみせな。
言うだけなら誰にもできる。
それをいかにして、行動に移すか。
そこが重要なんだ」
「でも…どうやって?僕には力なんてないし…」
うつむくノアに私は言う。
「何も自分で動く必要はない。おあつらえ向きなことにノア、君には多くの駒が手中にあるだろ?
世界一とまで言われるアサシンである私や仲間思いの総統、どんな事情のある存在であっても受け入れてくれるであろう仲間もいる」
私は微笑みながらノアに問う。
「さあ、ノア。君はこの駒を使ってどう動く?」
ノアの目には確かな決意の色が浮かんでいた。
緊張を取るように一度深呼吸をしてノアは口を開く。
「まずは…リュウに頼んでみる。ルークが盗賊だってことは隠すけど、カラー武器の保有者であることは伝えて、この国の仲間にしてほしいって頼む」
「うん、それから?」
「それから…他の幹部の人にはルークのことをありのまま伝える。ルナに頼んで皆に伝わるようにインカムを使って」
「うん」
「それで…」
ノアはじっと私を見た。
「お願い、ユウ
ルークを守って。ルークが誰かに狙われたら、そこを助けて…ルークがちゃんと国宝を手に入れられるように手を貸してあげて
そして、伝えて
国王様のお墓参りが終わって、心の整理がついたらまた会いに来てって、……待ってますって」
私はノアの言葉にしっかりと頷いてみせた。
その後ノアは、リュウにちゃんと話して、国に迎え入れることの了承を得たし(と言ってもリュウに仲間の思いを受け入れないっていう選択肢はないだろうが)、他の幹部達にルークのことを話して、理解してもらった。
私はその様子を見守り、ルークを守るというノアからのお願いを叶えるべく動き出したのだ。
………
……
…
「ほんとに、頼もしくなった」
思い出しながら私は呟いた。
過去のトラウマを乗り越え、自分の思いを口に出せるようになった彼。
指針は示したとはいえ、自分で決断し、計画を立てて、相手に命を与えることを知った彼。
私は微笑む。
もしも、私が女性ならこの思いは『母性』と呼べるものなのかもしれない。
彼の成長が、それを感じられることが、とても嬉しい。
これから、彼はどうなっていくのだろう。
少なくとも、優しく育ってくれることだろう。
なぜならあの時、彼は『ルークを守って』『ルークが狙われたら助けて』『手を貸してあげて』と私に頼んだのだ。
アサシンである私に
『ルークを傷つける人、邪魔する人を殺して』とは頼まなかったのだから。
優しい彼が望む道を歩んでいけるように支えていこう。
それが、私に唯一できる事だ。
トントンッ
扉が叩かれた。
こんな時間に誰だろうか?
「どうぞ」
「ユウ」
「ノア?」
扉をあけて入ってきたのはノアだった。
「どうしたの?」
「その…明日言おうかと思ったんだけど…今話したくて…。お願いがあるんだ」
「なあに?」
「僕…
強くなりたいんだ」
「へ?」
予想外の言葉に変な声がもれた。
「今日のことで、思ったんだ
僕には…力が無い。ユウやみんなの力を借りないと何もできなかった」
「そんな事、気にしなくても…
私や他の奴らが特殊なだけで、ノアは普通なのだから、負い目を感じる必要なんてない」
ノアは首を横に振る。
「そうかもしれないけど…僕は…
僕は、人を守れるようになりたい
助けられるようになりたい
守られるだけじゃなく、助けられるだけじゃなく、僕自身が誰かを守れるように助けられるようになりたいんだ」
あぁ…君は…理解しているのか
「だから、お願い。
僕に戦い方を教えて」
真剣な目で私を見て、そう言いきったノア。
私は小さく笑う。
アサシンである私に、『人を守る術として戦いを教わりたい』と彼は言うのだ。
矛盾、とは言えない。
彼はきっと理解したからこんな事を頼んでいるのだ。
誰かを守るためには、誰かを傷つけなくてはならないことを
時として、誰かを殺さなければ、守れないものがある事を
それがわかっているのなら…拒む理由はない。
「いいよ」
「ほんと!」
「もちろん」
「ありがとう、ユウ」
パアッと明るい笑顔を見せるノア。
「どういたしまして
さあ、ほんとにもう寝な。こんな時間まで子供が起きてるもんじゃないよ」
「…ユウだって対して変わらないでしょ」
私は首をすくめる。
どうも皆、私を若いと思ってる節があるなぁ
「おやすみ」
そう言い残して、部屋を出るノア。
私はそれを見送りながら思う。
人を守るために力を得たいという彼に私はどれだけの事を教えてあげられるだろう。
とりあえず…
「何個か武器を準備しとかないとな…」
私はそう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる