Red Crow

紅姫

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優しい鬼でも涙は流す⑥

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ーミール国にて

私は音を立てずに自分の部屋の寝室へ飛び降りた。

まずは着替えなくては…
突然の依頼だったし、どのタイミングでルークが盗みに入るのか分からないという状況だった為、服も片付けずにマットン家へ向かった。
そのため、今日着ていた軍服はベッドの上に乱雑にのったままである。


少しすれば結局シャワーを浴びるし…着替えもするのだから良いか…


私はマフラーを外し、服を脱いでいつものように処理したあと少しシワのついた軍服に着替えた。





寝室から出ると、ソファのいつもの位置にノアの姿が見えた。

「あ、おかえりなさい」

「ただいま」

「どうだった?」

私はノアの前の席に腰掛ける。

「ルークはちゃんと国宝を手に入れたし…逃げもしたよ。伝言も伝えておいた。多分、また来てくれるよ」

「ほんと!」

ノアは嬉しそうに笑った。

「さて…私は仕事しないとね。ノアは仕事終わってるだろ?今日はもう休みな」

ソファから立ち上がりながら言うと

「あ、ユウの分の仕事も終わってるよ」

「へ?」

「前に教えてもらった仕事だったからやっておいた。確認はお願いしたいけど。これがそう」

と机の上の資料を指差す。

「あぁ…わかった」

「じゃあ、僕は休むね。また明日」

「おやすみ」

ノアが部屋から出ていくのを見送り、私はソファに座り直した。

ペラペラと資料の確認を行う。

誤字脱字、計算の間違いもない。

「大丈夫そうだな」

全部確認し終え、私は呟いた。


フーと息を吐き、私は背をソファに預けた。


「ノア…変わったなぁ…」


私の記憶は、今日の昼過ぎ。
ルークが国を出たあとのところまで遡る。



………
……







「僕…ルークに死んでほしくないよ…」

そう私の手を握ったノアに


「なら…私を駒として使ってみたらどうだ?」


そう提案した。


「え?」

「本気で何かをやろうとしている人物をただ自分がそうして欲しくないからと止めるのは、相手にも響かないし、止めることはできない。


ならどうするか。
それは、自分が持っている駒を最大限に活かして抵抗する。それしかないんだよノア」

パチパチとまばたきを繰り返すノアに私は続ける。


「本気でルークを守りたいというのなら、君が持つ駒を使って、守ってみせな。

言うだけなら誰にもできる。
それをいかにして、行動に移すか。
そこが重要なんだ」


「でも…どうやって?僕には力なんてないし…」

うつむくノアに私は言う。

「何も自分で動く必要はない。おあつらえ向きなことにノア、君には多くの駒が手中にあるだろ?

世界一とまで言われるアサシンである私や仲間思いの総統、どんな事情のある存在であっても受け入れてくれるであろう仲間もいる」

私は微笑みながらノアに問う。


「さあ、ノア。君はこの駒を使ってどう動く?」


ノアの目には確かな決意の色が浮かんでいた。



緊張を取るように一度深呼吸をしてノアは口を開く。

「まずは…リュウに頼んでみる。ルークが盗賊だってことは隠すけど、カラー武器の保有者であることは伝えて、この国の仲間にしてほしいって頼む」

「うん、それから?」

「それから…他の幹部の人にはルークのことをありのまま伝える。ルナに頼んで皆に伝わるようにインカムを使って」

「うん」

「それで…」

ノアはじっと私を見た。

「お願い、ユウ







ルークを守って。ルークが誰かに狙われたら、そこを助けて…ルークがちゃんと国宝を手に入れられるように手を貸してあげて



そして、伝えて


国王様のお墓参りが終わって、心の整理がついたらまた会いに来てって、……待ってますって」




私はノアの言葉にしっかりと頷いてみせた。







その後ノアは、リュウにちゃんと話して、国に迎え入れることの了承を得たし(と言ってもリュウに仲間の思いを受け入れないっていう選択肢はないだろうが)、他の幹部達にルークのことを話して、理解してもらった。


私はその様子を見守り、ルークを守るというノアからのお願いを叶えるべく動き出したのだ。







………
……







「ほんとに、頼もしくなった」

思い出しながら私は呟いた。


過去のトラウマを乗り越え、自分の思いを口に出せるようになった彼。

指針は示したとはいえ、自分で決断し、計画を立てて、相手に命を与えることを知った彼。


私は微笑む。



もしも、私が女性ならこの思いは『母性』と呼べるものなのかもしれない。

彼の成長が、それを感じられることが、とても嬉しい。


これから、彼はどうなっていくのだろう。

少なくとも、優しく育ってくれることだろう。


なぜならあの時、彼は『ルークを守って』『ルークが狙われたら助けて』『手を貸してあげて』と私に頼んだのだ。


アサシンである私に

『ルークを傷つける人、邪魔する人を殺して』とは頼まなかったのだから。




優しい彼が望む道を歩んでいけるように支えていこう。
それが、私に唯一できる事だ。




トントンッ
扉が叩かれた。
こんな時間に誰だろうか?

「どうぞ」


「ユウ」

「ノア?」

扉をあけて入ってきたのはノアだった。

「どうしたの?」

「その…明日言おうかと思ったんだけど…今話したくて…。お願いがあるんだ」

「なあに?」

「僕…




強くなりたいんだ」

「へ?」

予想外の言葉に変な声がもれた。



「今日のことで、思ったんだ

僕には…力が無い。ユウやみんなの力を借りないと何もできなかった」


「そんな事、気にしなくても…

私や他の奴らが特殊なだけで、ノアは普通なのだから、負い目を感じる必要なんてない」


ノアは首を横に振る。


「そうかもしれないけど…僕は…



僕は、人を守れるようになりたい

助けられるようになりたい

守られるだけじゃなく、助けられるだけじゃなく、僕自身が誰かを守れるように助けられるようになりたいんだ」


あぁ…君は…理解しているのか




「だから、お願い。

僕に戦い方を教えて」




真剣な目で私を見て、そう言いきったノア。





私は小さく笑う。

アサシンである私に、『人を守る術として戦いを教わりたい』と彼は言うのだ。

矛盾、とは言えない。



彼はきっと理解したからこんな事を頼んでいるのだ。




誰かを守るためには、誰かを傷つけなくてはならないことを

時として、誰かを殺さなければ、守れないものがある事を




それがわかっているのなら…拒む理由はない。


「いいよ」

「ほんと!」

「もちろん」

「ありがとう、ユウ」


パアッと明るい笑顔を見せるノア。

「どういたしまして

さあ、ほんとにもう寝な。こんな時間まで子供が起きてるもんじゃないよ」


「…ユウだって対して変わらないでしょ」

私は首をすくめる。
どうも皆、私を若いと思ってる節があるなぁ


「おやすみ」

そう言い残して、部屋を出るノア。




私はそれを見送りながら思う。



人を守るために力を得たいという彼に私はどれだけの事を教えてあげられるだろう。



とりあえず…


「何個か武器を準備しとかないとな…」


私はそう呟いた。
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