Red Crow

紅姫

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優しい鬼でも涙は流す⑦

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ー1ヶ月後

「懐かしいなぁ…」

ルークはミール国の外門を見上げて呟いた。

あの日から早一ヶ月。
ルークはまたこの地を訪れた。


国王の墓参りも終え、クイグリー家などから盗んだ宝石も元通り返しておいた。
もともと、欲しくて盗んだわけじゃなかったし…


宝石が戻ったら、クイグリー家達は白鬼には興味をなくしたようで、警察に捜査はもういいと言ってらしい。国際誌がそう書いていた。


と、言うわけで晴れてルークを縛るものはなくなった。

それで…ノアからの伝言どおりココへ戻ったわけだが…
なんとなく、入りづらい。
だが、ここまで来て帰るのも…。


ルークは大きく深呼吸をして、外門を叩いた。

大きな音を立てて開いた門。


「え……」

「やあ、やっと来たね。いらっしゃい」


出迎えたのは、にこやかに微笑むユウィリエだった。










「なんで、俺が今日来るってわかったんだ?」

「なんでだと思う?」

城へ向かうべく、ユウィリエについて歩きながらルークは聞いた。が、クスクス笑って答えられたのは望む返答ではなく、からかうような言葉だった。

「…」

「まぁ、答えなんてないんだけど」

「へ?」

「なんとなく、来るかなぁって思って待ってたの」

「…」

全く…この人には敵う気がしない…。


「待ってるのは私だけじゃないよ。二人くらい君を待ちわびてる人が城で待っているよ」

「二人?」

さて…誰だろうか…。

「一人はノア。もう一人は…この国の総統」

総統…。そういえば、一度も会ってない。
ポケッとそう思うと、ユウィリエは小さく笑う。

「緊張しなくていいよ。無理だろうけど…はっきり言って緊張するだけ無駄だぞ?」

「え?」

どうやら、ポケッとした様子を見て緊張していると捉えたらしい。

「いや、そもそも…俺、総統に会うの?」

「え?」

ユウィリエはじっとこちらを見る。

「言ってないっけ?幹部になってほしいって」

「幹部?」

「あ~やっぱり言い忘れてたなぁ」

ガシガシと頭を掻くユウィリエ。
乱雑に扱っているのにサラリと揺れる髪は手入れが行き届いていることを主張している。


「すまんな」


ユウィリエは憐れむような目線をこちらへ向けてそう言った。












「君がルークか!!会えることを楽しみにしていたよ!!」

「え…あ、はぁ」

「いや~ノアから話は聞いていたよ!ほんとにイケメンさんだね~俺が出会った中でも五本の指に入るよ」

「ど、どうも」

城についてすぐに連れて来られた総統室。
入るやいなや、両手を握られ、ブンブン振り回された。
矢継ぎ早に喋るこの男が総統なのだろうか。

キラキラと輝く瞳や、ほんのりと桃色に染まる頬。
どこか子供っぽい印象を受ける。


「リュウ、ルークが困ってるだろ」

「え?あ、ごめん」


ユウィリエが窘めるとしゅんとするその様子もやはり子供っぽい。

「すまんな」

ユウィリエは俺にそう言ってから、リュウと呼ばれた人物の隣に立った。


「紹介するよルーク。彼はリュウイ=レラ=ウェンチェッター、この国の総統だよ」

「よろしく、ルーク!」

「お前ねぇ…もうすこし総統っぽく出来ないのかよ」


呆れたようにそう言ったユウィリエ。
しかし、その口調は優しい。


「あ、ルーク=ウィシャートです。はじめまして、リュウイ総統閣下」

「おー、流石元騎士。礼儀正しいねぇ。でも、そんなに気を遣わなくて大丈夫だよ。俺、堅苦しいの嫌いなんだ」

情報は総統までいっているようだ。ただ、盗賊とかって言葉がでないから…それは伝わってないのだろう。

「それにしても…若いのにカラー武器の所有者なんて、君も大変だったね。ユウ以外のカラー武器保有者と会うのは初めてだからわからないけど、かなり若い方なんじゃない?」

あ、それは知ってるのか。

「若い…かな?」

「若いだろ」

「若いよ」

俺の疑問に、ユウィリエとリュウイが即座に答える。
…。

「…ユウィリエだって…あんまり変わらないじゃないか」

「へ?」
リュウイが素っ頓狂な声を出し、ポカンと俺を見る。
ユウィリエはそのとなりで額に手を当て上を見上げている。

俺はそんなに変な事を言ってるだろうか…。

「ユウィリエだって…若い…でしょ?」

リュウイとユウィリエを交互に観ながら問う。


「ハハ…」


リュウイの口元が歪み、


「アハハハハハハハハハハ!!」


腹を抱えて笑いだした。


「ハー、こんなに笑ったのはいつぶりだろう。君、面白いね。気に入ったよ」


目元の涙を拭い、リュウイは笑みを浮かべて言った。

「もともと駄目だなんていう気なかったけど…この国に来てくれて嬉しいよ、歓迎する」

「歓迎?」

「ん?」

「あ~、リュウ。すまん。ルークにそこまで話がいってないんだ」

「え?」

「伝えてなかったみたいでね…私が」

「ユウにしては珍しいミスだな」

「…すまん」

「まぁいいさ。なら俺直々にお願いしようじゃないか、ルーク」


リュウイに名を呼ばれる。

その声は先程までのやんわりとしたものとは違い、思わず背筋を伸ばしてしまうようなそんな真剣な声だった。




「もしよければ、この国の幹部として働き、俺と共にこの国を守って欲しい」






“もしよければ”なんて言いながらもリュウイの言葉には、俺が拒否することはないというような自信が感じられた。


そして、何故か


「俺で…良ければ…」



俺の中にも断るという選択肢はなかった。


「これから、よろしく」


スッと差し出されたリュウイの手を

「こちらこそ」

俺は握った。














「すまなかったね」

と総統室を出て、ユウィリエが俺に言った。

「伝えておくべきだった」

「いや…いいよ。どうせ、新しい職場は探さないといけなかったし…。武器持ちだと中々見つけれないからさ」

「まぁそうなんだな…」

とユウィリエは納得したのかしてないのか、どちらか判断つかない返答をした。

リュウイ総統は、すぐに世界への届け出を書いてくれるとのこと。
こういう人は中々いない。面倒だからだ。
ゴンサロ国王も書くのを渋ったものだ…。どうにか説得したが、届け出がなされたのは、俺が武器を手に入れて半年後だったっけ…。

「やっぱり、他にも武器持ちがいるとすんなり受け入れちゃうんだな」

「あ、その事なんだが…」

とユウィリエは言いよどむ。

「私が武器持ちな事は殆どの人が…というかリュウイとマオしか知らないことだから他言無用で頼むよ」

「え?ノアも知らないの?」

「知らないよ。補佐官とはいえ教えられなくてね。君が知ったのはコチラとしては予想外なんだ」

まぁ確かに…。ユウィリエが俺の武器を持たかなったら、気づかなかったはずだ。

「それに…届け出も出してない。他の国に知られると厄介だからあんまり口に出さないでくれ」

「わかった」

なぜ、届け出ないの?と聞くのはやめておいた。
それぞれ事情があるのだろう。

「あと、私がRedCrowだってこともリュウイの前では内緒で頼むよ」

「あ、やっぱり知らないんだ」

「教えられるわけないだろ…。平和主義国の書記長がアサシンですなんてさ」

「確かに。内緒にするよ」

俺は頷いた。

「ありがとう」

ユウィリエが微笑んだ。

「じゃあ、城の中を案内する。ついてきて」

俺達は歩き始めた。














「ココが庭だよ」

部屋や食堂など城の中の案内を終え、最後に案内されたのは庭だった。

花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。
他の部分は芝生になっていてかなりの広さがある。

「この城には訓練場とかはないから、訓練はこの庭で頼むよ」

ユウィリエの言葉に頷き、キョロキョロと見回す。
これだけの広さがあれば、どんなに暴れても城に被害は出なそうだ。


シュンッ…

「ん?」

そんな音が耳に聞こえてきて、声をもらした。


シュン…シュン…

「…ア、も…し……う……て」

「う…」

話し声も聞こえる。
その声の1つに聞き覚えがあって…
俺はそちらに駆け出していた。




「ノア!!」

思っていた人物の姿を見て、思わず大きな声が出た。

「ルーク…?」

振り下ろしていた剣を構えたまま、ノアがポカンとした顔をしていた。

「あぁ、君がルーク君」

と、ノアに指導をしていた金髪の男がこちらを見て言った。

ポカンとしているノアをよそに、金髪の男は俺の側に来る。

「ノア君達から話は聞いてるよ、もうリュウさんとは話した?」

優しい笑みを浮かべた彼の言葉に頷きで返す。

「そう、じゃあこれからはこの国に居るんだね。僕はキース。キース=ティリット。総統補佐をしてる。何かあったら何でも言ってね。力になるよ」

「あ、ありがとうございます」

優しそうな人だなぁ…
虫も殺せなさそうだ…

「優しそうに見えるだけで、キースも中々強いんだぞ?」

「うおっ!」

耳元で言われた言葉に飛び上がる。
声がした方を見るとユウィリエが腕を組んで立っていた。

「虫も殺せなさそうな顔して、戦闘狂だからな?油断はするな」

「ユウさん、そんな紹介ないでしょう」

困ったように言うキース。

「嘘はつけんだろ」

「まぁ…そうですけど」

あ、認めた…
二人の会話を聞きながら、そんなことを思った。

「キースが戦闘狂な事はおいおい分かるだろうから置いといて…ノアはどうしたんだ?」

「あ~、驚きで固まっちゃったみたいです」

固まっているノアを見て、首を傾げるユウィリエに、微笑みながらキースが答えた。



「ノア?」

ノアに近づき声をかけると、ゆっくりとノアはこちらを見て、握っていた剣を地面に落す。


「ルーク!」

目に涙を貯めたノアが、俺に飛びつく。
それをバランスを取って受け止めた。

「良かった…無事だったんだね」

「無事?」

「ノアは君があまりに来るのが遅いから、誰かに攻撃されたんじゃないかって思ってたんだよ」

ふぅと息を吐きながらユウィリエが言った。

なるほど…

「心配してくれてありがとう。この通り、なんともないよ」

「そうみたいだね、良かったよ」

「遅くなってゴメンな。これからはココに居るから、いつでも会えるよ」

「うん!」

嬉しそうに笑うノア。




その笑顔が見れただけで、この国に残る判断は間違ってなかったと思える。

これから、どんな日々を送ることになるのかは分からないが、きっと俺は






今日の決断を後悔はしないだろう。
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