Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり②

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Side ユウィリエ


フレデリックについて歩いていると、大きく黒い扉の前にたどり着いた。

その前で立ち止まる。

「ココに国王がいる。入るぞ」

フレデリックはキィ…と音を立てて扉を開けた。






とても広い空間がそこにはあった。
扉からまっすぐに敷かれた赤いカーペット。
その先には玉座がある。

段の下には二人の護衛と思われる男が立っている。
段の上には、金縁の椅子に腰掛ける男。


短く切りそろえられた白髪。
顎と鼻の下には髭が長すぎず短すぎないくらいの長さで伸びている。
私の着ている軍服と形は同じだが、色が真っ白でラインが金色の服を着ており、背にはこれまた真っ白なマントがつけられている。
恰幅がよく、軍服のボタンが窮屈そうだ。
ほぼ全身が白く染められた男。
しかし、黒く鋭い瞳には強い意志を感じる。

この人が…ホエル=ロタ=フランクリン…。


私は、フレデリックと共に彼に近づき、玉座の段の下、護衛たちから1mほど離れた位置で立ち止まる。

「国王様、我が友を連れてまいりました」

うやうやしく頭を下げるフレデリック。

「ふむ…」

低く、少しかすれた声。
国王の目がこちらを見る。その目にはどこか軽蔑するような意味合いが感じられた。

「ユウィリエ=ウィンベリーと申します」

名乗り、私も頭を下げた。

「ようこそ、今回はMOTHERとの戦争に参加していただけるとのことで」

「はい」

「我が国の軍事力で事足りると思うのですがね…」

どうやら、国王様はあまり歓迎してくれてないようだ。

「戦力が多いことに越したことはないかと。それに、はっきり言って今の軍事力で戦力が足りているとは思いません」

隣でフレデリックが息を呑む気配を感じたが、あいにくと私は遠慮するつもりはない。

「なんだと…」

「お言葉ですが、国王様はMOTHERの事をどれ程お知りで?」

「フッ…。女がおさめる国などに負けるわけがなかろう」

「あまり舐めてかかるのは浅はかかと」

ホエルの視線が鋭く私に突き刺さる。


「貴様!国王様に何と言う事を言うんだ!」


私の近くに立っていた護衛の一人が大声を上げ、私の軍服の首元に手を伸ばし握りあげる。

「撤回しろ!!さもなくば…」

「…」

大声を上げて、威嚇してるつもりなのだろうか?
一応、脅しも入れてるようだが…

「勢いだけで怒るな、愚民」

「なんだと!!」

首元を握る力が強くなる。

「貴様!俺がこの国でフレデリックさんの次に強い男、ラルフ=ドリスコルと知っての発言か!!!」

「お前が?フレディの次に強い?」

思わず笑ってしまう。
いやはや…なんというか…

「フレディの次がお前とは…この国、やっぱり軍事力足りてないな」

「貴様!!」

ラルフは私の首元を握り締めたまま、空いている片方の手で剣を抜く。

「クソが!!」

と叫びながら、剣を振り上げるラルフ。
そして、勢い良く振り下ろす。




カッ…キン…






ガタッと音を立てて、ホエルが立ち上がったようだが気にしない。

「何が…起きたんだ…」

ラルフと共に護衛をしていた男が呟いた。
まぁ、今の現象がちゃんと見えていたのはフレデリックくらいだろう。


「ユウ」 

「わかってるよ」

私は、ラルフの喉元に突きつけていた剣を鞘にしまった。



先程、ラルフが振り下ろそうとしていた剣は少し離れたカーペットに突き刺さっている。
私が弾き飛ばしたからだ。

ラルフが剣を振り下ろそうとした瞬間、私は左手で首元にあるラルフの手を捻り上げ、右手で剣を抜き、下ろされた剣と接触させ、思いっきり弾き飛ばした。
そして、その勢いで尻もちをついたラルフの喉元に剣先を突きつけた。


それだけ。
ただ、その動きに20秒も経ってないから何をやったのか普通の人には見えなかったろう。



「起き上がれるかい?」

手を差し伸べてやると、呆然とその手を取りラルフは立ち上がる。案外素直なところがあるようだ。

「…」

呆然と私を見るホエル。その目に先程までの鋭さはない。

「国王様、私の話を聞いていただけますか」

「…あぁ」

ホエルが席につくのを見てから私は口を開く。

「私は以前、MOTHERの軍人と戦ったことがあるのですが…その時はほぼ互角でした」

「!」

ホエルの目が見開かれる。

「フレディの強さは友としてよく知ってますから疑ってはいませんが…本当に彼が2番手なら、はっきり言って苦戦すると思いますね」

「我が国が…負けると?」

「このままでは、ね。私だって負け戦にわざわざ参戦する気はありません。MOTHERが来るまでの間、戦争で勝利を収められるよう尽力させていただきましょう」

「そうか…。よろしく頼む」

「もちろんです」

私が答えるとホエルの目に、ホッとした色が浮かぶ。
最初の軽蔑するような視線はもうそこには存在しなかった。

「国王様」

今まで口を閉ざしていたフレデリックが口を開く。

「MOTHERがやってくるのは3日後の昼過ぎと予測できます。これから早速、ユウに国の案内と現状の把握をしてもらう為動きます。

本来なら他の兵士を選び、ユウの案内人にしたいのですが…。彼は我が友。遠慮なく意見をもらうためにもワタクシ自らユウの案内人をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

ホエルは頷く。

「分かった。今回の戦争の全権限はお前に任せてある。好きに動け。ユウィリエ、フレデリックに協力してやってくれ」

「はい」

「…」

フレデリックは返事をし、私は頭を下げることで答える。

「それでは、失礼させていただきます」

私とフレデリックはその部屋を出た。







ふぅと部屋を出てすぐにフレデリックは息を吐いた。

「心臓が止まるかと思った…」

と歩きながら私を見て言う。

「お前がやれと言ったんだろ」

「あそこまでやるとは思わないだろ!」

フレデリックは少し声を荒らげる。私は首をすくめた。








国王への面会へ向かうべく歩いていた際、フレデリックからあることを頼まれた。

それは 

「国王に今回の戦争、この国の戦力ではきびしいと教えてやってほしい」

というものだった。

「どうも、国王はMOTHERを侮っているところがある。女がおさめる国に負けるわけないってね。君を呼ぶときもあんまり乗り気じゃなかったんだ」

「昔気質なところがあるのは相変わらずってことか」

「俺達がなんと言っても、国王は聞く耳を持たない。だから、頼む」

「いやいや…お前たちの話を聞かないのに、私の話なんて聞くわけ無いだろ」

「そこは、考え方だ」

フレデリックはチラリとこちらを見る。

「お前、昔MOTHERの兵士と戦ったことがあるだろ?」

「あるけど…。20年以上前の話だぞ。しかも、互角だし」

「小さくても化物並みに強かったお前と互角ならかなりの強さだろ。それを国王に知ってもらいたい」

「どうやって?まさか、国王の前でお前と戦えとでも?」

「いや…。国王の護衛についているラルフという男がいる」

「?」

「ソイツはこの国で俺の次に強いと言われているやつで、国王のお気に入りだ」

「ふーん、で実際は強いのか?」

「いや、動きも単調だし、無駄な動きも多い。勢い任せってやつだな」

「雑魚じゃん」

「でも、国王は強いと思っている。ラルフも国王への忠誠は強い。そこで…お前には国王に無礼な口を聞いてほしい」

「は?」

「そうすれば、必ずラルフが動く。そして、ちょっと挑発してやれば奴は必ず剣を抜く」

「なるほど、そうなったらこっちのもん。倒せと」

「殺さない程度にな。国王もそれを見ればお前の話を聞くだろ」

「分かった。やってみよう」











「うまく行ったんだからいいじゃないか」

「まぁ…な」

「それよりも今後のことについて説明しろ。3日後となるとかなり急ピッチで動くことになるだろ?」

「あぁ」

フレデリックは頷く。

「とりあえず、今日はこの国の案内。本格的に動くのは明日からだ。

明日、戦争に関する会議を行うからそれに参加して意見してもらいたい。
その後は武器の確認、及び補充にはいる。
本当はこの国の兵士達と訓練に参加してもらいたいが…差がありすぎるからな。嫌だろ?」

「当たり前だ。今の兵士の強さは3日でどうこうできるものでもないし。そういえば…」

私は思いついた疑問を口にした。

「今回も国民に徴兵令を出したのか?」

「出したよ。銃の使い方を教えて、今も練習中じゃないかな」

「そうか」


ハービニー国の兵士の主な武器は剣である。
統一した姿をした兵士が統制された隊列を作りながら進む様は圧巻の一言に尽きると聞いたことがある。

しかし、それだけでは武力が足りないと国王が国民に徴兵令を出しているのもまた事実。
そして、その者たちに渡されるのは銃である。

剣のほうが扱いが簡単なように見えるが…戦う場において素人が剣を使うのはあまりいただけない。
剣を使うということは、それだけ敵に近づくということだからだ。

それよりだったら、不慣れでも銃を使うべきである。『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』とはよく言ったものだ。

それをきちんと理解して、国民に銃を持たせるこの国は、ある意味国民に優しいと言えるかもしれない。…本当に優しいなら戦争なんてしないのだが。


「とりあえず、明日までの予定を分かってくれればいい。その後のことはまた後で説明する」

「あぁ」

「じゃあ、まずは訓練場へ行こうか。兵士の力の具合を見てくれ」

私が、頷くのを確認するとフレデリックは少しだけ歩く速さを上げた。
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