Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり③

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Side ユウィリエ


訓練場を訪れて、真っ先に感じたのは人の多さだった。

徴兵令とは別に兵士を志願したものがこの訓練場で剣の訓練をしているわけで
ココにいる奴らは自ら望んでここに居るということだ。

ここまで志願兵を出せるなんて…ホエル=ロタ=フランクリンはよっぽど国民達からの支持がアツいと思われる。

と、言っても

「…弱いなぁ」

やはり、素人よりちょっと強いくらいとしか言えないくらいの腕前である。

「おい…ユウ…」

「ん?」

隣でフレデリックが私の腕をつつく。
視線で前を見るように訴えられ、そちらに目を向けると

「あ…」

「どちら様ですかな?この不躾なやつは?フレデリックさん」

強面のガッチリとした体格の男が、引き攣った笑みを浮かべて言った。

どうやら私が呟いたと思っていた声は存外大きかったようである。

「えーと…取り敢えず落ち着きましょう、兵士長」

フレデリックは困ったような笑みを浮かべて言った。


フレデリックからこの国の兵士の序列については説明を受けている。

まず、兵士達はそれぞれ100人ずつ、計20の隊に別れており、その隊には1名ずつ隊長と副隊長が存在する。

そして、隊長4人ずつ、計5つの班が存在しており、その班をまとめる班長がそれぞれ5人。

その班長の上に立つのが三人の兵士長。兵士の訓練を行うのはこいつ等らしい。

更にその上に立つ大将が3人存在する。

最後に、その大将の上に立つのが元帥と呼ばれる、戦争の全権を握る存在らしい。今回、フレデリックが任されたのがまさにコレだ。



んで、今、目の前で青筋をたてているのは、兵士長。つまり、位は結構上の方のやつと言うことだ。

「わたくしは、落ち着いてますよ。それで?ソイツは何者です?」

返答によっては切るとでも言いたげに、私の倍は太そうな腕が腰の剣近くをウロウロしている。

「彼は、俺の親友で…今回の戦争に力を貸してもらう為にわざわざ来てもらったんだ」

「ほう?」

兵士長は、品定めでもするように私の姿をジロジロ見る。
最初は、どんなもんかと見ているようだったが…途中からなんとも形容しがたい気持ちの悪い視線へとそれは変わった。

全身を舐めるように見たあと、兵士長はフッと笑う。

「力を貸すって、まさかこんな奴が戦場に出るわけではありませんよね?こんな細い奴が戦場に出たらすぐに倒されてしまいます。

まぁ顔は整っているようですから、いいとこ、兵への一時の快楽の捌け口、男娼位にしかなりますまい」

「…」

私はニッコリと笑いながら、フレデリックに視線で訴えかける。


『コイツ、殺していい?』


『駄目です』


視線でそう返された。
しかし、ここまで侮辱されて黙っている私ではない。


「さっきから聞いていれば、言いたい放題ですね。
そんな低能な言葉しか使えない上に、礼儀もなってない…。この国の兵士長とやらは馬鹿でもなれるようだ」

「あ?」

キッとこちらを睨む兵士長。

「貴様…今何といった?」

「貴方こそ、“貴様”とは何です?仮にも客人に向かってその様な口の聞き方しかできないのですか?」

「名乗りもしないやつを貴様と呼んで何が悪い」

「こういった場合、先に名乗るのは貴方の方でしょう。礼儀というものを教わらずに生きてきたんですか?貴方」

「っ!」

ギリッと奥歯を噛みしめる兵士長。しかし、言っていることは私の方が正しいので何も言い返せないようだ。

「ケネス=ボイデルだ」

「そう、私はユウィリエ=ウィンベリー。フレディから頼まれてね、戦争に参加するために来た」

「戦争に参加するためだと?」

「ああ」

ケネスは大声で笑い出す。

「お前が?戦争に参加するだと?笑い話もいいところだな。そんな細い腕で何ができる?」

「太けりゃいいってもんじゃねぇだろ?少なくともお前よりは強いぞ、私は」

ケネスはジロリとこちらを睨み、何か思いついたように気持ちの悪い笑みを浮かべた。

「そこまで言うなら、今この場で見せてもらおうではないか。ここに居る第七隊の兵士が見届け人だ。

もしもコチラが勝ったら、跪いて許しを請うてもらおうか」

「おい、やめておけ…」

フレデリックが止めに入る。

「お前の親友はそう言っているが、どうする?今すぐに跪くというならそれでもいいぞ」

ガハハと笑うケネス。
フレデリックは頭を抱えている。

ケネスはどうやら、私に対してフレデリックが忠告していると思ったようだ。
本当は逆なのに

「男に二言はないよ。その代わり、コッチが勝ったら私の言うこと一つ聞けよ?」

「いいだろう」

あ~あ…と言いたげな哀れむ目線をフレデリックがケネスに向けた。
本人はまるで気づいていないが…

パンパンっ!とケネスが手を叩くと、兵士100人の動きがピタリと止まり、整列する。
そして、何やらケネスが話している。

話し終えると、兵士達が私に視線をよこす。そこには、私を男娼と言ったケネスと同じ色が浮かんでいた。
なんとなく、ケネスが何を言ったのか予想がついた。
そして、兵士達は何やら動き出した。

「さぁ、コチラへどうぞ」

兵士達が円を作り、その輪の中に入るよう促される。

なるほど…よく見えるようにという配慮か

「武器の使用は一本のみ。先に地面に足以外をついたものが負けというのでどうです?」

腰から剣を抜き、ケネスはいう。
私は頷いた。

「では、はじめるぞ!」

ケネスが大股でドタドタと私に近づき、おおきく振りかぶって剣を振るう。

私は少し動いて、剣を避ける。

ケネスは一瞬驚いたような顔をした。が、すぐに顔を険しくし、また大きく剣を振りかぶりながらこちらを向き、振り下ろす。

それもまた、少し動いて避ける。

そんな状態がしばし続く。
最初はニタニタと笑いながら見ていた周囲を囲む兵士達も、途中からザワザワとし始めた。

「はぁ…はぁ…」

ケネスの息の音が大きくなる。

「…もう息切れ?」

私は笑ってみせる。

「!」
ケネスは驚いたようにこちらを見る。

私は息切れなどしていない。
そもそも、そこまで動いていない。
剣も抜いてない。
ずっと、ケネスの攻撃を避け続けていた。

「大したことないねぇ、兵士長とやらは」

「逃げてばかりのお前に言われたくないな」

減らず口を叩くケネス。
まぁ確かに


「そろそろ飽きてきたしねぇ」

「は?」


私は剣を抜き、剣先をケネスの目の前に突きつける。

「!」

それにより、ケネスの身体がバランスを崩す。
それに合わせて、私はケネスの軸足と思われる右足に自身の足をひっかけ、払う。



ドンっ


とケネスは無様に尻餅をつき、そのケネスの目の前にまた剣先を突きつけた。

「私の勝ちね」

誰の目にも明らかなことだが、あえて口にする。

周りの兵士たちはポカンとした顔でこちら見つめている。
それもそうだろう。
この国の兵士の中で『兵士長』にまでなった男が、誰とも知らない存在に負けたのだから。

「もういいだろ、ユウ」

ただ一人平然と様子を見ていたフレデリックが私に近づき言った。

「このままだと今日中に城の中を案内しきれなくなる。そろそろ行くぞ」

「分かった」

剣をしまい、答える。






「ケネス兵士長!」

と遠くから声がした。
そちらを見ると、走ってくるラルフの姿があった。

「あ、まだここにいたんですかフレデリックさんに…兄貴!!」

「あ、兄貴?」

ラルフは私を見つけて、近づいてくる。

「オレ、あそこまで力の差を見せつけられたのは初めてだったんです!ぜひ、兄貴と呼ばせてください!!!」

と腰を90度に曲げて頭を下げる。

その様子に、兵士達のざわめきが大きくなる。「ラルフ大将が頭を下げたぞ」「あのラルフにも勝ったのか、あの人」と話している声がする。
コイツ…大将だったのか…

「…好きにしなよ」

「はい、兄貴!」

こういう暑苦しいやつに文句を言っても埒が明かない。好きにさせとくのが一番楽だ。

「じゃ、私達は行くから」

「はっ!お気をつけて!」

敬礼するラルフを背に、私とフレデリックはその場を離れ、城の中に戻った。



「じゃあ次は、情報関連の部署に行くぞ」

「あぁ。…………ん?」

フレデリックの後をついていこうとして、足を止め、振り返る。

「どうした?」

「今…誰かに見られていたような…」

だが、誰も見えない。
気配も感じない。

「気のせいだろ」

「…」

気のせい…なのだろうか。
私は取り敢えず頷き、フレデリックの後を追う。


その後、情報関連の部署や銃器の練習の様子を見たり、医務などを見たりした。
素晴らしいとは言えないが、医務はなかなかの設備だったと思う。

見学が長引き少し遅い夕食を取ったあと、私が使う部屋に案内され、明日の集合時刻を知らされた。

部屋に入り、鍵をかけるまで





誰かに見られているような、そんな感覚がつきまとっていた…。
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