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女帝と戦争と死にたがり⑤
しおりを挟むSide ユウィリエ
2日目
若干暗い会議室に数十人の老若男女が集まり、円になって机に着いていた。
重々しい雰囲気。
寒くはないはずなのに、若干寒く感じるのは気のせいではあるまい。
♪~
会議室に備え付けられていた時計が10時をさし、それを伝えるように雰囲気に合わない明るいメロディを奏でた。
「さて、時間になったし、はじめようか」
私の隣でフレデリックが会議の開始を宣言した。
「まずは…知ってる人は知ってるだろうが、彼の自己紹介といこうか」
フレデリックは私に促す。
私は立ち上がり、一度座っている奴らを見る。
一部は興味津々に、一部は憎々しげに、一部は馬鹿にしたような視線をこちらに向けてくる。
『こんな奴が助っ人かよ』
と殆どの目が訴えてきた。
全く…ここの奴らは見た目で実力を決めるのか…
いや、私は見た目だってそんな弱そうじゃないはずだ…多分
「ユウィリエ=ウィンベリーだ。よろしく」
簡単に挨拶を済ませる。
ここで変なことを言うと後々面倒なことになりそうだ。
「見た目は弱そうだが彼の強さは俺が保証しよう」
「おい」
「さて…次に参加者の紹介と行こうか。知らないやつばかりだろう」
無視された仕返しに、足を踏んでおく。
知らないやつばかりなのは確かなので頷いた。
どうやら、大将と兵士長、班長が集まっているようだが…ラルフとケネス以外は知らない。
「じゃあ、俺の隣からいこうか。レジナルド大将お願いできますか」
「もちろんです。元帥」
立ち上がったのは年老いた男。白髪をオールバックにしており、軍服から覗く日に焼けた腕は年老いている割に太く筋肉がついていることが伺えた。
礼儀正しく私に一礼し、話しだす。
「レジナルド=インマンと申します。長年、この国に仕えて参りましたので誰よりもこの国に詳しい自身があります。何かあれば何なりと」
「ご丁寧にどうも」
レジナルドにならって頭を下げると、レジナルドは白い歯をのぞかせ笑い、座った。
「ラルフの事は知ってるから…隣だ」
レジナルドの隣に座っていたラルフが、恭しく座ったまま頭を垂れた。
それを確認すると、隣に座る女が立ち上がる。
「女も大将になるのか」
「実力があればな」
フレデリックにしか聞こえない声で尋ねると、そう返答があった。
私は視線を女に向ける。
腰まである長い黒髪。長めの前髪の一部が明るい紫色に染められている。
私が身につけている軍服と色は同じだが、形がちょっと違う。女性用ということなんだろうが…胸を強調するデザインなのは国王の趣味だろうか…。
「マカレナ=マッキントッシュです」
女はややキツめの目でこちらを見て、それだけ言うと席についた。
さすが、女で大将になる奴だけあって、可愛げというものが感じられない。
「次は兵士長だ。ケネスは飛ばして…お願いします」
「はい!」
元気よく返事をし、立ち上がったのはかなり若い男。
「若いな」
「この国のお偉いさんの息子だ」
「ほー」
なるほど、親のコネでこの位置にいる訳か。
「はじめまして、キャルヴィン=マコーミックです!お兄さん弱そうだから、僕が責任持って守ってあげます」
右手で自分の胸をトントンと叩くキャルヴィン。
守ってもらう必要なんてない。
私は首をすくめて見せるが、キャルヴィンは得意げな顔をやめることなく、席についた。
「えーと…次は俺ッスよね?」
キョロキョロと周りを見ながら立ち上がりキャルヴィンの隣に座っていた男が言った。
深緑色の髪と瞳。多分天然物だ。彼はどうやら移民のようだ。北東の方の国ではこんな色の髪の一族がいると聞いたことがある。
「どうだ?俺のお気に入りだ」
「あぁ、なかなか」
強いものは気配で分かる。
まだ未熟ではあるが…きちんと特訓すればこの男はかなり化けるだろう。
「えー、アティリオ=リッジウェイです。よろしく」
私とフレデリックがじっと見ていたためか、緊張したように言い、アティリオは席についた。
「次は班長だ。班長達とは誰ともあったことがなかったよな?」
「あぁ」
「じゃあ、ドミニク、頼むよ」
「はっ!」
ガッシリとした体格のドミニクなる男が立ち上がる。
「ドミニク=アンブラーと申します!よろしくお願い致します」
敬礼をし、私をじっと見る。
その目がやたらキラキラしているのは何故だろうか。
私は目線でフレデリックに尋ねる。
「彼、昨日第七隊の訓練に参加してたから…お前の戦いっぷり見てたんだ」
なるほどね。
それで…
私が微笑み返すと、彼は嬉しそうに顔をほころばせ、席についた。
それを見て、隣に座っていた女が立ち上がる。
隊長にも女がいるのか…。
剣を握るよりも、裁縫針を持つほうが似合いそうな女だった。
長い金髪を一本の三つ編みにして右からたらしている。
「メアリー=ホスキンズです」
先程の女大将とは大違いで、愛らしい笑みを浮かべながらメアリーは言った。
…戦えるのかなぁ。この人。
「あ、あの…戦力としては頼りないと思いますが一生懸命やらせていただきますので、よろしくお願いします」
どうやら、顔に出ていたらしい。たとだとしく彼女は言い、深く深く頭を下げて、彼女は座った。
隣に座っていた男は…
「何だアイツ…」
思わず呟いてしまった。
「おい!パコ!起きろ!!」
あろうことか、コクコクと舟をこいでいた。
その隣に座るまだ名乗っていない隊長が体をゆする。
「んー…なんだよ、エマ」
「なんだじゃない!会議中だ!さっさと立て!」
「んー、」
男はうなりながら、立ち上がろうとするがフラフラとしている。
「あ~もう!!」
それを支える隣の男。
「すまん…エマ…」
「ったく…しょうがないやつだな。お前は」
私は一体何を見せられているんだろうか…。こんなところで仲良しこよしな劇見せられても…。
「すまんが…エマヌエル。パコの分も紹介してやってくれ」
フレデリックが言うと、エマヌエルなる男は頷いた。
「お見苦しいところを…。ボクはエマヌエル=スウィンナートンです。で、こっちがパコ=アルドリッジ。よろしくお願いします」
早口でエマヌエルは言い、パコを座らせ、自分も席についた。
多分、漫談していたときの方が時間を使ったのではなかろうか。
「最後はわたくしですわね」
立ち上がった女は、私に艶やかな笑みを向けウインクを一つ飛ばしてくる。
オレンジ色に染められた髪と黒い目。
胸元のボタンは留められそうなものなのに2、3個外して谷間を見せつけている。
昨日、私を男娼とよんだ奴がいたがコイツのほうがよっぽど娼婦のようである。
「わたくしはロベルティナ=ピアースですわ。よろしくお願いします、ユウィリエさん♥」
ゾワッとした。
駄目だろコイツ…絶対メアリーよりも使いモンになんねぇよ
「俺もコイツはなんで隊長になれたのか分からん。…噂だと国王に…」
最後を濁したフレデリック。なんとなく察しはついた。
「本来はかなりの面食いらしいからな…気をつけろ」
何をどう気をつけろと言うんだ…。
フフッと面妖に笑い、ロベルティナは座った。
「次からは…自分で役職を言ってもらえますか。ラッセル医務長からお願いします」
フレデリックが声をかけると、ロベルティナの隣に座っていた男が「よっこらせ」と声を出しながら立ち上がった。
細い黒縁のメガネをかけた、顔にシワの目立つ老人だった。
しかし、足腰はしっかりしているようで、ふらつく事なく立っていた。
「えー。医務長のラッセル=スティーブンです。怪我をした際には何時でもどうぞ」
「ははは、お世話にならないことを願ってます」
笑って答えるが、本当にお世話になりたくないものである。
怪我なんてして帰ったら、リュウやマオが煩そうだ。
「次はアタシね」
ラッセルが座ると、隣の女が立ち上がる。
ブラウンの髪は肩より上の長さの短髪で、癖なのかピョンピョンとはねている。前髪を右に流しヘアピンで留めている。
頬にはそばかす。
活発そうな女だ。
「アタシ、レズリー。レズリー=ギリングズ。看護師よ。今日は看護師長が用事で不在だから変わりに来たの。よろしく」
ハキハキと元気良く話すレズリー。
ニコッと笑い、隣の人に
「次はあんたよ!」
と肩をたたいて、席についた。
「相変わらずだな…レズリーは」
と痛そうに肩をさすりながら立ち上がる初老の男。
「どうも、情報部長のセシリオ=マケルウィーです。今日は部下のコイツを補佐人に連れてきました。色々情報を持ってきたので戦いに活用してください」
セシリオは座り、隣のやつに立つよう促す。
彼が最後。フレデリックとは反対側の私の隣に座る人物だ。
…?
何だろうか…このなんとも言えない感覚は…
その男を見ていて私は正体不明の何かを感じていた。
右側が長いアシンメトリー。色は栗色。
同色の瞳。
少し低めの鼻。
薄い唇には、幸薄そうな笑みを浮かべている。
私は、この男と…会ったことがある気がする…。
でも、名前も知らないし…
ただ直感的に…会ったことがある気がするだけなのだ。
何だろうか…この感覚は…
「…」
彼は私のことをジッと見ていた。
私も彼を見返した。
数秒…体感では数分の謎の空間が私と彼の間で広がっていた。
「オリヴァー=ランプリングです」
オリヴァー=ランプリング…?
…ランプリング…だと?
私は目を見開いていた。
コレが私と彼との出会い。
今回の戦争するにあたり、最も出会いたくなかった存在との…出会いだった
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