Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり⑬

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Side フレデリック


「元帥、第8隊と第9隊、第10隊、ラルフ大将の治療終了しました。」

「皆、命に別状はございません」

「そうか…良かった」

医師長のラッセルと看護師長のファティマ=ベルナップの報告を聞いて、一息つく。

兵がどんどん負傷している、と報告が来たときには肝を冷やしたが命に問題は無いようで一安心だ。

「フレデリック元帥!」

「…ラルフ」

腕に何重にも包帯を巻かれ、たどたどしく歩きながらラルフがテントに入って来る。

「元帥、アニキ…ユウィリエさんは…」

「まだ帰ってないよ」

「!自分、ユウィリエさんのところへ行きます!」

「その怪我で何ができる!おとなしくしてろ!」

慌てた様子でテントから出ていこうとするラルフを止める。

「だって!俺達を助けるためにアニキは、あの敵の前に立ったんです!

もしかすると…怪我をして、動けなくなってたり…してるかも」

「大丈夫だよ。ユウがそんな状態になるなんてありえない」

ユウィリエが負けるわけがない。

「でも!!」

何故そこまで言うんだ?と一瞬考えるが、よく考えればラルフ達がユウィリエと過ごした時間など微々たるものだ。
ましてや、ユウィリエはこの国に来てから本気で戦いなどしてないのだから、俺以外にとっては実力が未知数なのだろう。

「そんな状態になってたら、アイツは抜け目なく連絡してくるさ。今は体力を回復することを考えろ」

「…」

強い口調で言うと納得する様子は見られないがラルフは口をつぐんだ。

「ラルフ大将、戻りましょう」

とファティマが促し、テントから出ていく。
その後をラッセルが一度お辞儀した後に出ていった。

ピピッ

とインカムが音を鳴らす。

「はい」

『元帥、レジナルドでございます。今、敵の殲滅が終了いたしましたのでご報告申し上げます』

落ち着いた声が耳元で響く。

「わかりました。怪我人はどれくらいでましたか」

『幸運にも、動けないほどの怪我をした者はいません』

「なるほど」

『フレデリック元帥』

他の声が耳元から聞こえた。

「マカレナだね、どうした」

『こちらも殲滅が終わりました。第11隊と第12隊に怪我人がおり、第13隊と第14隊でテントまで連れ帰ります』

「分かった」

俺はマカレナとの通信を切り、レジナルドにつなぐ。

「レジナルドさん。実はラルフのとこの部隊が全員怪我をしていてね。SE方向が手薄なんだ。キャルヴィンの部隊を向かわせたけれど不安な所がある。そっちの予備の部隊、第3隊と第4隊をSEに向かわせてくれるかな」

『承知しました。一応、斑長2人をつけて向かわせます。』

「ありがとう、よろしく頼む」


それで、通信は途絶えた。



ピピッ



またインカムが音を出した。

「はい?」

『フレディ、私だ』

「おー、ユウか。」

『あぁ。報告があるんだが…良い報告と悪い報告どっちが先に聞きたい?』

「は?」

戦争中だというのに何という質問だろう。
戦争している時点で悪い報告も無いだろうに…。

「じゃあ、良い方から」

『分かった。

ラルフ達をボコボコにした戦士は倒したよ』

なるほど。
確かにこれは良い報告だろう。
敵が一人減ったのだから。

「新参者だったみたいだね。おつかれさん。

で?悪い報告ってのは?」

『その前に一つ確認させてくれ。他の戦場の戦績はどうだった?後、兵の配置の状況も』

「レジナルドのところもマカレナのところも、無事殲滅が終わった。

お前に行ってもらったSE方向に他の部隊をまわして…もう配置についたんじゃないかな」

『なら、そいつら全員に伝えてくれ………!』

「どうした?」

『すまない、遅かったようだ』

「え?」

『切るぞ』

「おい!」

声をかけるがブチッと通信は一方的に切られた。

「なんだ、いったい…」


ピピッ

『大変です…元帥…』

レジナルドの声がする。

「どうした?」

『敵です』

「え…」

『第15、16隊が共に戦闘不能。17、18隊にも負傷者多数です』

「敵は何人!怪我人たちを早くテントに」

『敵は…




一人です』

「!」

『かなりの強敵です。普通の兵では太刀打ちできません』

「時間は稼げる?今すぐ行くから時間を稼いで!」

『それには及びません』

「え…?」

『ココはわたくしが相手いたします。怪我人たちをそちらへ向かわせますので対処をお願い申し上げます』

「そんな!一人でなんて…!」

『ハッハッハ。わたくし、無駄に歳はとっておりません。こんな若者に負けるわけにはいかないのですよ』

「…」

『おまかせ下さい』

「……分かった」

インカムに小さな笑い声が聞こえ、通信がきれた。


ピピッ

『フレデリック元帥、怪我人の対処はそちらにおまかせできますか』

「マカレナ、君のところにも敵が?」

『そのお言葉だと他もなのですね。怪我人はテントに向かわせてます。ココは私が食い止めます』

「待って!俺が行くから!」

『結構です』

「でも!!」

『私にも戦士としてのプライドがあります。剣を向けられて背を向けて逃げることなどできません。

ココはおまかせ下さい』

「っ!」

『では』

通信がきれた。


どいつもこいつも…。


俺はインカムを操作し、キャルヴィンにつなぐ。

「キャルヴィン。聞こえるか」

『…!……?』

『…、…』

遠くからキャルヴィン以外の声が聞こえる。
この声は…パコとエマヌエルか。
送られた班長はこの二人だったのか。

「キャルヴィン」

『はーい?』

「そっちに敵はいるか」

『ええ、いますよ。なめられたようで、たった一人で堂々と歩いてました。まだコッチには気づいてないみたいですね。キョロキョロしてます』

どこか緊張感のかけた声に発言。

「いいか、絶対に刺激するな。そのまま、気づかれないようにテントまで戻ってこい」

『なんでですか!たった一人で来た敵なんかに負けやしませんよ』

「何言って…」

『俺、このまま突撃します』

「おい!やめろ!」

『やめません。それじゃ』

通信がきれた。

あのワガママ野郎…!
俺は奥歯を噛みしめる。

イライラするが、気にしている場合じゃない。
早く…行かねば!

俺が立ち上がった時、

「元帥!」

「ラッセル?」

「すみません、手を貸して頂けますか。医療班が足りません!」

「!」

「一刻を争います!早く!」

手を捕まれ、引っ張られる。

早く戦場に行かねばならないが…けが人も放っておけない…。

俺は引っ張られながら、思案する。

まずはけが人が先決。コッチは命に関わる。



俺かユウが行くまで持ちこたえてくれよ…。



心中でそう願った。


















Side レジナルド


通信が切れたのを確認し、フッと息を吐く。
周りを見ると、兵達は居なくなっており、無事にテントに向かったことが確認できた。

「オジさんは逃げないの?」

と心底疑問、と言いたげに聞いてくる目の前の少女。


幼い…いや、幼く見える。
肩より上で切りそろえられた黒髪。前髪も眉の上辺りで真っ直ぐに切りそろえられ、首を傾げるたびにサラリと揺れる。
学生の制服のようなピラッとしたワンピースを着ているだけで防具の類は見られない。
そして、何より背が低い。
7、8歳と言われても違和感がないだろう。

一見すればただの幼き学童に見えるが、手にする身長の倍はあろう鎖の先についた大きな鎌がその印象を壊している。

自分の孫もこれくらいだったな、とそんな事が頭をよぎった。が、振り払う。

「申し訳ございませんが、逃げるわけには行きません」

「フ~ン。じゃあ、どうするの?」

「若き芽を刈りとってしまうのは心苦しいですが…わたくしも仕事なので」

と愛刀を抜き、少女へ向ける。

「ヘ~。ワタシと戦うの?」

「こんな老いぼれが相手では嫌でしょうが、よろしくお願いします」

「ううん。嫌じゃないよ。戦うのは楽しいしね!」

ジャラッと鎖が音を出す。

「戦う前は名乗るのが礼儀ですね。

わたくし、レジナルド=インマンと申します。

お名前、伺っても?」

「うん!ワタシ、マルガリータ。マルガリータ=フラトン。よろしくね!!」

無邪気な声で言う少女。
だが、油断はならない。

この少女は、先ほど一瞬で兵を戦闘不能に追い込んだ実力の持ち主なのだから。

愛刀を持つ手に力が入った。
















Side マカレナ


「遺言は伝え終わったかしら!!」

と私が通信を終えた私に待ってましたとばかりに声がかけられる。

「待ちくたびれたわ!」

手に持つ直剣の柄を弄びながら彼女は言った。

「…」

無言で彼女を睨みつける。
彼女は肩をすくめてみせた。


小柄で鼻筋のとおった整った顔立ちをしている。
それ故に、黒いタンクトップにダボッとしたカーキ色のズボンという出立ちが浮いて見える。
小さくあまり物言わなそうな口は、さっきからパクパクと開いては、ソプラノの大きな声を発する。
黙って、きちんとした身なりをしていれば…とどうしても思ってしまう。
言うならば、『残念な女』。

「そんなに睨まなくたっていいじゃない!」

やや喧嘩腰に彼女は言う。

「そういう目つきなんです」

「さっき、雑魚兵に向けてた目はもっと優しかったわよ!」

「そうですか?」

「ええ! 

別に悪いことしてるわけじゃないじゃん?あたし!

味方と話してる間はきちんと待ってあげたし!

雑魚兵も逃がしてあげたし!

なのに、睨むなんて筋違いよ!」

「敵を睨んでなんだと言うんです?」

「そうだけど!そうだけど!」

地団駄を踏む彼女。どこか子供っぽいが油断はしない。

「貴方が何を望んでいるのかはわかりませんが…この場にいるならやることは一つでしょう」

私は腰の細剣を抜く。

「その貴方っていうのやめて。堅苦しくて嫌いだわ!

あたし、ポーラ=エクルストン。ポーラって呼んで!

まぁ確かに、アンタの言うとおりだわ!やることなんて決まってる」

「アンタ呼びされる筋合いないですね。マカレナ=マッキントッシュです」

「そう、マカレナ」





ポーラはニタァと笑い言う。
とても楽しそうに…




「殺し合いを始めましょう!!」





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