Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり⑮

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Side ユウィリエ


『はい!』

というエマヌエルの返事を聞いて、インカムの電源を切った。

ふぅと息を吐いてから、私はそいつに目を向けた。

「すまないねぇ。待ってもらっちゃって」

「いいのです」

女は胸の前で手を組む。

「話すという行為は神が我々に与えた能力の1つです。
敵とはいえ、それを妨害することは神への冒涜と同じです。全能の神はワタシ達に話すという力を与えてくれました…なんと喜ばしいことでしょう!
神を愛するワタシがそのような真似はいたしません」

祈るように女は言った。


女は…はっきり言ってこの場には相応しくない格好をしていた。
俗に言う修道服である。
首から下げられた十字架のついた銀色のペンダントが夕暮れの陽を浴びて妖しく光る。
背中に何かを背負っているが、コチラからではわからない。
ベールの奥に見える黄色い瞳は、私ではない何かを見ていた。

…?何だろうか。コイツの目…どこかで…?


「神様?」

「そうです!!」

バッと両腕を女は広げる。

「ワタシは、戦いの女神アテナ様を崇め!愛し!そして、アテナ様もワタシを愛し、お守りしてくださる!

あぁ何てこの世は素晴らしいのでしょう!」

「…」

何というか…

話すという事は神が…とか言っていたが信仰するのは全能神ではないんだなとか、処女神であるはずのアテナが人間を愛するはずないだろとか、そもそも神を信仰するなら戦場になんて来ないで拝んでろとか言いたいことは多々あるが。まぁ…総括して

「お前バカだろ」

の一言でとどめておく。

「はい?」

「神様なんてこの世にいるわけ無い。神様がいるならこんな戦争すら起こるわけがないんだから」

「なんですって!」

ヒステリックに声を荒らげる女。

「無礼者!ワタシへの侮辱ならまだしも、神を侮辱するとは!」

「ホントの事だろ」

「まだ言うか!」

女は背中に背負っていた何かを引っ張りだす。

ジャラッ

と鎖の音とともに、薄い鉄板のようなものが出てくる。鉄板の上の辺に1箇所穴が空いておりそこで鎖と繋がれている。下の辺は斜めに切られている。

何だろうか…この武器…見覚えが…?


「はあぁ!」

ジャララッ

と鎖を揺らし、鉄板が宙に舞う。案外軽いのかもしれない。

「どりゃぁ!」

鉄板が私に向かって飛んでくる。

「!」

かなりの速さで飛んできたため、ギリギリになってしまったが避ける。
そしてそのまま、女に向かって走り、ナイフを突きつけようとした。


ガッギン!!


「なっ!」

「フフ…」

私のナイフを防ぐように鉄板が間に入る。いつの間に引き戻したのかも謎だが、何より驚いなのはその強度だ。

私は飛び退き、手に持つナイフ…だった物を見る。

刃が折れている。
折れた刃はどこかへ飛んでいってしまった。

「あらあら…武器がなくなってしまいましたねぇ」

女は言う。
私は折れたナイフを地面に置き、新たなナイフを手に取る。

ナイフは折れたが…得るものはあった。


「驚いたよ」


私はナイフを構えながら言う。

「神に愛されてるワタシに攻撃がとおらないのは当たり前のことです。コレが神のご加護なのですから」

「いつから、MOTHERにいるんだ?お前」

女の発言を無視し、私は言う。


「は?」

「本当に驚いたよ。まさかこんな所で会うことになるなんて…」

「なんの事です?」

「アンタ、『処刑人』エスメラルダ=マッケイブだろ?」

女が目を見開くのを私は見逃さなかった。







『処刑人』エスメラルダ=マッケイブ

世界でも十数人しかいない、名バレしたアサシンである。
狙う人物は主に悪名高い貴族。
名バレしたと言っても、ヘマをして捕まったわけじゃない。彼女自身が自分で名乗り、そして未だ捕まったことがない。


女なのに殺害手口は派手で、首とちょん切るという同じアサシンでも「エ…」と思うような方法を取る。
そのときに使う武器が、今、女が手にしているギロチンの刃だ。

ギロチンの刃で悪名高い貴族の首を切り落とす。その姿から『処刑人』という異名がついた。

ただ…一つおかしな点がある。



「何故、そんなに若い。エスメラルダは普通に歳をとっていれば御年80歳のはずだぞ?」

女はフフッと笑い、ベールを上にあげた。

「まさかお祖母様の事を知っているとは…思いもしませんでしたわ」

「お祖母様だと!?」

そういえば…聞いたことがある気がする。確かにエスメラルダには娘がいて…そして…。

「ハハ…なるほど。人殺しの遺伝子を色濃く継いだって訳ね」

「アラ、そこまで知ってますのね」

「参考までに教えてくれ。どっちの子だ?」

女は恭しく頭を下げて言う。

「遅ればせながら名乗らせていただきます…ワタシ、ドゥルセ=ベイルと申します」

「ベイル…大悪人の子か」

ドゥルセはまたフフッと笑ってみせた。






師匠とエスメラルダは20歳ほど歳は離れていたが、気があったらしく友だった。

何度か師匠の家にエスメラルダが来たこともあって、私はエスメラルダのことを見たことがある。と言ってもまだ年齢を片手で数えられるほどの時だが…。

だが、その歳でも私はエスメラルダが凄い人物だとわかった。醸し出す雰囲気、言葉の重さがまるで違った。

そんな彼女について、私は師匠に色々と聞いたことがある。単純な興味からだったが…まさかこんな所で役に立つとは…。

エスメラルダ=マッケイブには娘がいた。旦那の名前は知らない。というのも、エスメラルダは子供ができたと分かったその日に旦那を殺したらしい。
『父親はいらない』
と、そう言っていたとか。

エスメラルダの娘の名は、パウリナ。

彼女もまた母と同じ道を歩んだアサシンであり、そして、恋多き女性だった。

中でも、パウリナが入れあげたのが二人の男性。

『大悪人』バレリオ=ドイル。と『狂幻』カリスト=サーヴィス。である。

どちらも名の知れたアサシンで、パウリナの仕事仲間でもあった。

パウリナは二人と交際し、どちらとも一人ずつ子をなし、そして…母親同様父親を殺した。

その後、どうなったのかは知られていなかったが…。まさか、MOTHERに居たとは…。


…。待てよ…。





「パウリナ…お前の母親がMOTHERに入ったからこそ、お前がここに居る…。と言うことは…!」

「フフッ…察しがいいですね」

「居るってのか…サーヴィスの子も、ココに!」

まいった。コイツはまいった。
もしも、エマヌエル達の所にいるのがソイツだったら…悠長に話している時間はなさそうだ。



「話してる時間はなさそうだ。悪いが、本気でいかせてもらうぞ」

「貴方にワタシは殺せませんよ。神の加護を受けるワタシに手など出せるわけないのです」

「ハッ…。神なんて居ないっての。それに…仮に居たとして人殺しの子であるお前を加護するわけがない」

「神は誰にだって平等ですの…よっ!」


私とドゥルセは同時に動いた。
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