Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり⑲

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Side パコ


ジリッと腕に焼けるような熱さを感じた。

「っ!」

相手の刀が腕をかすめ、血が流れる。

ガチャッ…

剣を持っていた方の腕だったために、剣を地面に落としてしまった。

「パコ!」

「大丈夫…前を見てろ、エマ!」

ともに戦っているエマに声をかけながら考える。

どう考えても今は絶望的状況だ。


相変わらずどこを見てるのかさっぱり分からない目をしながら、フラフラと動く敵。
それで居ながら、刀を振るう力は女とは思えないほど強い。


これがMOTHERの敵。


強すぎる…。


どれくらいの時間戦ったのか分からない。
体感では何時間も経っているように感じるが、本来はまだ数十分がいいところだろうか。

逆に言えば数十分は経っているのだ。
それなのに、未だに敵に傷を負わせることも、近づくこともできていない。





傷口を抑えながら、剣を取る。
はやく…戻らないと…エマに負担がかかってしまう。
でも…このまま戦っていても…勝てるとは思えない。


どうする…。
どうすればいい…。



「ウッ…」

「エマ!」



考え事をしている間に、敵の刀に薙ぎ払われたエマが、地面に倒れ込んだ。

敵は刀を振り上げている。

このままでは…



「エマっ!」



足に力を入れて、駆け出そうとしたが

「!」

右肩に何らかの力が加えられて、後ろに引っ張られる。


まさか…新しい敵か?
このタイミングで?
そんな…そんな…。


「あ…」


足の力が抜けて、後ろに引っ張られると同時に地面に座り込む。

やばい…!
そう思っても立ち上がることはできない。

キュッと目をつむった。
もうすぐ、新たな敵の武器が自分に振り下ろされる…その恐怖で体が震えた。



しかし、自分に降り注いた感覚は、冷たい武器の温度ではなく






優しくあたたかな、手の温もりだった。
















Side エマヌエル


油断したわけではない。
ただ、相手の剣を動かすスピードが早く、避けきれなかった。

「う…」

地面に倒れ込んだ。
身体を打ち付け、骨が軋む。

「エマ!」

パコの声が聞こえる。

しかし、そちらを見る余裕はない。
敵は今まさに、刀を振り上げているのだ。

「エマっ!」


来るな!と叫ぶことすらできない。
恐怖でガタリと歯が音を立てる。



カキーン



と頭上で音がした。


「へ?」

と敵の声がした。


ゆっくりと上を見る。

「あ…」

無意識に出された声に

「大丈夫?」

と彼は言った。
片手で持つナイフで敵の刀を抑えながら、こちらに手を伸ばしてくる。


「おまたせ




あとは任せて」


スッと耳に入ってくるその声に涙が溢れた。















Side ユウィリエ


ナイフで敵の刀を弾き返す。
敵はふらりと後に後ずさった。


「エマヌエルって言ったっけ?立てる?」

なかなか手を取ろうとしない彼に声をかける。
フルフルと横に振られる顔。その顔はなぜか涙で濡れていた。

「そうか…。なら、ちょっと待ってて」

と敵に向きなおる。


「お兄さん…だあれ?」

「君の敵さ」

「敵?」

「そうさ」


敵はフラフラと私に近寄り、


「なら、倒さなきゃ」


と刀を振り上げた。

それをナイフで押さえ込む。
強い。それにその喋り方…やはり…。


「流石、サーヴィスの娘。狂幻の血はちゃんと引いてるみたいだな」

「へー、知ってるの」

「ドイルの娘、ドゥルセに聞いたよ」

「!」

「お前の名前は?」

「ブライス=サーヴィス。姉貴は死んだ?」

「ああ」


スッとブライスの目が細くなる。


「そろそろ決着をつけよう」

「お姉さんが殺されて怒ったのか?」

「骨くらいは拾ってあげたいからねっ!」


刀に力がこめられる。
それを押さえ込む。


「姉貴思いのいい妹だね。でも、私も手加減する気はないんだ」


カッキン


「!」

ブライスの刀を弾き飛ばす。

ブライスの後ろに刀が落ち音を立てた。




「すまないね」






私はナイフをブライスの胸に突き刺した。










ナイフを引き抜き、血をふるい落とす。
刃はガタガタ。もう使えそうにない。
鞘にナイフを収め、エマヌエルを見る。


エマヌエルは泣きやんでいたが、泣いたせいか頬が赤くなっていた。
落ち着いてはいるみたいだ。

「帰ろう」

私はまだ立てなそうなエマヌエルを抱え上げ、もう一人の班長のもとへ向かった。





「エマ…」

座りこんでいたもう一人の班長…確かパコとか言うはず…は近づくと焦ったように声を出した。エマヌエルは疲れたのか私が抱え上げた時には気を失っている。不安そうに私を見る。

「大丈夫。気を失っているだけ」

「…」

パコは安心したように息を吐いた。


「帰ろう。傷の手当をしてもらわないと」


私はパコに手を差し出す。
キュッと握られるのを確認してその腕を引き、立ち上がらせる。
ふらつく彼を一人で歩かせるのは危険なので、手を繋いだまま、支えるようにしてテントの方向へ歩き出した。
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