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女帝と戦争と死にたがり⑳
しおりを挟むSide ユウィリエ
私がテントへ着く頃には辺りは闇に包まれていた。
怪我人二人を医務に預け、フレデリックがいると思われるテントの中に入った。
複数の兵と共にいる目的の人物を見つけて声をかけた。
「フレディ」
「帰ったか」
「ああ」
地図を見ていた彼はこちらに視線を一瞬だけ向けて、また地図を見た。
「連れないねぇ、『心配した』の一言くらい言えないのか?」
「心配するだけ無駄だろ。それより、この状況どう思う」
私は肩をすくめ、地図を見る。
「戦況はいいのでは?」
「そうですよ!コチラが押しています。今日来たMOTHERの兵は全部倒せましたし」
と言う一般兵。
「…少ないんだよなぁ」
それに混じって私は言った。
「やっぱり、そう思うか」
「あぁ、少ない。少なすぎる」
「あの…何が少なすぎるんです?」
一般兵が疑問を口にする。
私は答える気がないので、フレデリックに『言え』と合図する。
「MOTHERの兵がね、少ないんだよ」
「へ?」
「MOTHERにはもっと兵が居るはずなんだ。少なくとも昔はもっと…それこそ、突撃兵に10000人も動員しても大丈夫なくらいに」
「え…」
「それなのに…今回はたった200数人。強い敵もいたけど、たった一人でやって来てた。不自然だ。もっと兵を出せるはずなのに」
そう…少ないのだ。
MOTHERは何を狙っているんだか…。
「明日の配置は考え直すべきだ」
私は提案した。
「やっぱりそう思うか。
相手が兵を全部出してないのに、コチラだけ全力なんていずれ攻め込まれる」
「あぁ」
「でもなぁ…」
と珍しく困ったような声を出すフレデリック。
「とりあえず、銃器兵は高みからの狙撃じゃなく、戦場に出すだろ」
私は黙って頷く。
私も同じことを思っていた。
そして、フッとある考えが浮かんだ。
「フレディ、私にいい案があるんだが」
「…いい案?」
「今思いついた。聞くかい?」
「聞くだけ聞いてやるよ。どうせとんでもないんだろうけど」
「失礼な奴だなぁ」
ジッとフレデリックを一睨みし、説明を始めた。
「やっぱり…とんでもない作戦だな…」
と呆れた声を出すフレデリック。その側ではポカンとした一般兵。
「そんなにおかしいか?」
私は首を傾げる。
「でも…それしかないか」
とフレデリックは最終的に頷いた。
ー30分後
「集まったな」
とフレデリックは外に整列した兵を見て言った。
テントでの作戦会議のあと、動ける兵は集まるように言ったのだ。
「今から明日の作戦を伝える」
とフレデリックは話し始めた。
「まず、明日から銃器兵は戦場で戦ってもらう。セシリオ、全員にそう伝えておいてくれ」
「わかりました」
と情報班であり銃器兵の長であるセシリオは頭を下げて言った。
隣に座るオリヴァーは少し不満げである。
「それに伴って、兵の動きも変えようと思う」
ここからが私の作戦。
「兵の数を少なくする」
「は!?」
と多くの者が言った。
まあ聞けと、フレデリックは手を動かす。すると、場が静かになったいく。
「今日MOTHERの動きを見た限り、相手は兵をほぼ出していない。そんな中に全員で動いても体力を消耗するだけだ。そこで…」
と合図されたので、地図貼られた板を掲げる。
「4方向に銃器兵200人と班長以上の役職をもつ兵3、4人1組で配置し、MOTHERと戦う。他の兵は、戦っているやつが怪我をしたらその都度変わって出てもらうし、怪我人の手当を手伝ってもらう」
「一つよろしいでしょうか」
と、手があがる。メアリーとか言う班長だ。
「なんだい、メアリー」
「その兵士の班というのはどうやって決めるのですか?それに…今日のことを考えると…その…」
なんか言いたそうにメアリーは口ごもる。まぁ、言いたいことはなんとなくわかる。大将が一人死んでるし(自殺ではあるが…)兵士長の一人は重体だ。強い者と一緒にいたいだろうし、できれば戦場に出たくない。不安なのだろう。
「今から説明しよう」
とフレデリックは言い、続ける。
「4班見決めるにあたってだが…まずそれぞれを率いる人物を紹介する。大将のレジナルド、ラルフ。兵士長のケネス。あとはユウに頼んである」
会議の前にその三人には話を通してある(私にはなんの断りもなかったが…)。
「で、残りの兵士長であるアティリオと班長、それと一般兵の中で戦場に出てもいいって人は、この中から共に戦いたい人を選んでほしい。もちろん、戦場に出たくない人は出なくていい」
場がざわめいた。
そりゃそうだ。誰だって戦場になんて出たくない。
「最悪、この四人には一人で戦ってもらうことも了承してもらってるから、気兼ねなく出たくないなら出なくていい」
それもレジナルド、ラルフ、ケネスには確認済み(もちろん、私に確認なんてなかった)。
「明日、戦場に出るまでに俺とかユウに戦場に出てくれる人は伝えてくれ。
それじゃ、今日はもう自由にしていいよ」
「え?」
と一般兵から声があがった。
「まだ、戦うのではないんですか?」
「今日はもうMOTHERは攻めてこない」
それに答えたのは私だ。
「MOTHER戦は2日目からは寝る間もないと言われる。初日は相手も様子見だからな。休めるときに休むべきだ。
夜に相手が攻めてくるんじゃないかと不安かもしれんが、安心しろ。私とフレディで警戒しとく」
「そういうこと。訓練したい人は訓練してもいいし、寝たい人はねてもいい。とにかく、明日に備えてくれ」
フレデリックの言葉を最後に会議は終了した。
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