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女帝と戦争と死にたがり21
しおりを挟むSide ユウィリエ
「ユウィリエさん!」
会議が終わって、兵が散っていくのを眺めていたら声をかけられた。
「あぁ、お前らか」
来たのは、エマヌエルとパコの二人だった。
私が、二人の方を向くとピシッと敬礼する。
「「今日は助けていただきありがとうございました!」」
と声を合わせて言う二人。
「そんなかしこまらなくてもいいよ。私は君達の上司ではないんだから」
「そんな訳には…」
「いいって」
二人は顔を見合わせる。
「なら…そうします」
エマヌエルが言う。出来てないのに気付いてないようだ。
「今日、ユウさん凄くカッコ良かったっす」
パコはだいぶ砕けた口調で言った。
「カッコ良かった?」
「はい、俺達があんなに苦戦してた敵を、あっさりと」
あぁあのとこか。
「君たちも経験を積めばあんな風に戦えるさ」
二人はまた顔を見合わせた。
「あ、あの!」
とエマヌエルがいきなり緊張したように言う。
「なんだ?」
「俺達、明日戦場に出ようと思ってて」
「あ、そうなの」
ちょっと意外だと思った。目の前で友人を刺されたのを目撃したのにすぐに戦場に出ようと思うとは…なかなか肝が座っている。
「二人は今日レジナルド大将の班にいたんだよね。明日もレジナルド大将につくって事でいいのかな。伝えておくよ」
「あ、いや…その…」
「俺達、ユウさんと戦いたいと思ってて」
「私と?」
これまた意外だ。
部外者な私につきたいとは…。
「迷惑ですか?」
恐る恐る聞いてくるエマヌエル。
「そんなことないさ。仲間がいてくれるのは嬉しいからね。
明日、よろしく頼むよ」
二人は嬉しそうに笑い
「「はい!」」
といった。
「今日はゆっくり休みな、明日に向けて」
「はい」
と返事をして、二人は去っていった。
「随分、懐かれてるじゃないか」
「見てたのか?」
テントに入るとフレデリックが言った。
「お前を呼ぼうとしたら話してたんだ」
「盗み聞きとは趣味が悪い」
「フッ…いいじゃないか」
フレデリックが前の席に座るように手で示すので腰を下ろした。
「夜は長い。話でもしようじゃないか」
「そうだな…」
と椅子の背もたれに体を預けた。
「…何人死んだ」
と私は聞いた。
「…20人ほど。お前がいてくれてよかった。居なかったら…こんなもんでは済まなかっただろう」
「…マカレナの事は済まなかった」
「…」
フレデリックは視線をこちらに向けた。
「なぜ謝る」
「彼女の死に…もしかすると私は力を貸してしまったかもしれない」
「どういう事だ?」
私はチラリとフレデリックを見て、話し始めた。
………
……
…
それは、最初の会議の日の夜。
私は布団に入りながらも、眠ることができずにいた。
アサシンは安心できる自分の居場所でしか寝ない。
だから…それは当たり前のこと。
朝になるまで待てばいいだけなのだが…。
シュッ…
と遠くで音がした。
その音が気になって…私は部屋を出たのだ。
音は、城の庭から聞こえていた。
気配を消して、柱の影から様子を窺うと剣を振るう一人の女剣士の姿があった。
確か…マカレナとか言う女大将だったな…
と思いながら、隠れる必要はなさそうなので
「こんな遅くまで練習かい?」
と声をかけた。
マカレナは驚いたようにこちらを見て、何を思ったのか剣でコチラを狙ってきた。
それを避けて、マカレナの手首を掴む。
ハッとした顔をして、マカレナは私を見た。
「私は敵じゃない」
「あ…」
と腕から力が抜けたのを確認して手をはなした。
「申し訳ありませんでした」
「いや、私こそいきなり声をかけて悪かったよ。で?こんな遅くまで練習?」
「ええ」
マカレナは、私に背を向けてまた剣を振るい出す。
「MOTHER戦が近いのに、呑気に眠ることなどできませんから」
マカレナは、冷たい声でそう言った。
まるで、今城の中で寝ているであろう兵士達を馬鹿にするように、はねつけるように。
「休むことだって大事だと思うがね」
そう呟くと、マカレナはキッとこちらを睨み、詰め寄ってくる。
「貴方には分からないでしょうね!フリーランスの兵になんて分かるわけがない!私は国王様の勝利のために強くならねばならないの、だから寝る暇なんてないわ!」
…私にも忠誠を誓う主はいるんだがなぁ…と思ったが、今は設定上フリーランスと言うことになっているので何も言い返せない。
言い返せない…が…。
「なるほど、よく分かったよ。君がこの国の国王を慕っているってことは」
「慕っているですって?」
心外だと言いたげに私に詰め寄るマカレナ。
「私は!ホエル=ロタ=フランクリン国王に忠誠を誓っているわ!」
「…」
「忠誠を誓っているから、私は今もこうして自分の力を磨いているの!」
「それは忠誠とは言えない」
思ったよりも冷たい声が出た。
「なぜ、そんなことが言えるの!」
「…忠誠ってのは、その人の為に自分の力を磨けるとかその人の為に強くなろうとかそういうんじゃない」
「じゃあ!何だっていうのよ!」
「君は…」
私はマカレナをジッと見つめながら言った。
「君は、ホエル=ロタ=フランクリンの為に死ねるか?」
「え…」
「主が死ねといえば死ぬか?と聞いているんだ」
「そんな事、国王様が言う訳がない」
「言う言わないは関係ないんだよ。言われたら死ぬかって聞いてるんだ」
「…」
「答えられないか。ならお前の忠誠とやらはその程度って訳だ」
「そんな…こと…」
「私は死ねるよ」
サラリと口にするとマカレナは目を見開いて私を見た。
「主が死ねというならその場で舌を噛み切ろう。
主の望みなら何でも叶えてあげよう。
私の身体も命すらも主の思うがままに使おう。
それが…主の真の望みならば私は何も躊躇わない。
それが、私の忠誠」
私は後ろを向き、城の中へ戻る。
「早く寝ろよ」
と言い捨てて、私は歩き続けた。
………
……
…
「私があの時、あんな事言わなければマカレナは死のうとまではしなかったかも知れない」
「…いや、お前の言ったことは間違ってない。それに、そんなことが無くたって、国王の勝利を望んだ彼女はこの決断をしただろう」
「そうだろうか」
私は思う。
マカレナがしなうと決意する時、もしくは、決意する前に私の言葉が頭をよぎったのではないだろうかと。
もしも、そんな言葉が浮かばなかったら…
彼女は最後まで剣を握り、戦ったのではないだろうか。
私は、人を殺めたのではないだろうか。
と……。
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