Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり23

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Side ユウィリエ


5日目


たった一回の睡眠で、昨日半日の戦いを終えた兵士達の疲れをすべて取ることはできないもので、起きてきた兵士たちはあくびを噛み締めながらノロノロと歩いている。

「大丈夫なのか…こんなんで…」

「今日からは眠る暇なく2日半戦うってのにな…」

と呆れて言うと、隣でフレデリックも困ったように言う。

「まぁ、今日殆どの兵は戦場には出ないし…」

と言い訳のように付け加えるフレデリック。
苦しすぎると自分でもわかっているのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「全く…先が思いやられるよ…」

「流石に、戦場に出る組はちゃんと起きてると思いたいね」

「そういや、いたのか?戦場に出るやつなんて」

私が把握しているのはエマヌエルとパコだけだ。

「いたよ。兵士長と班長は全員出るし、一般兵からも出たからね。あ、そうそう。お前につくことを希望したやつが一人増えたよ」

「え?」


「ユウィリエさん!」

後ろからの声と背中に衝撃。
誰かが近づいてくる気配がしたから警戒していたため、バランスを崩すことはなかったが、なかなかの衝撃である。
腹部に回された腕と肩甲骨の間に埋められる顔の感覚。

「マティリオ…」

「随分、懐かれたなぁ」

と他人事のようにクスクス笑うフレディを睨みつつ、マティリオの手をポンポンと叩き、離れるように促す。

「おはようございます!」

と元気よく挨拶してくれるマティリオに、挨拶を返す。

「おはよう」

「今日はよろしくおねがいします!」

「今日?」

といった後についさっきフレデリックが言っていたことを思い出す。

「あ、増えた一人って…お前か」

「はい!足を引っ張らないようがんばります!」

「まぁ何だ。余裕があったら剣の振るい方の1つでも教えてやってくれ」

無茶を言うフレデリックを無視しつつ、よろしく、とマティリオの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

















………
……



「オリヴァー!」

戦場に出る前に話がしたくて探していた人物を見つけて声をかけた。

「ユウィリエさん」

「なんか、久々にあった気がするな」

まあ実際、昨日は戦場にいた私と高みから狙撃していたオリヴァーが会うわけもないし、話す時間もなかったのだが。

「今日はよろしく。お前のいるグループは私が指揮を取ることになった」

「!そうなの?」

「無理して頼んだ。生きろって言ったんだから、守るのは当然の役目さ」

「ありがとう…。その…」

「姉貴とはまだ会わせてあげられないけど、大丈夫。絶対会わせるから」

オリヴァーは小さく笑った。














ー10:00

「時間だな…」

と呟き、私は振り向き後ろを見た。
200人の狙撃兵とパコ、エマヌエル、マティリオを見回しながら、フッと息を吐いて声を張り上げる。

「行くぞ!」

『はい!』

大きな返事があたりに響いた。







各班の陣の組み方などは、そこのリーダーに任されていた。
そのため、私がまず一人で前を歩き、その後ろにパコ、エマヌエル、マティリオの三人、更にその後ろに狙撃兵という並びでMOTHERに向けて歩く。

特に敵の兵士の姿も見えない。

だが、油断するわけにも行かないため、ゆっくりと前へと進んでいく。



日が少し高くなってきた頃、私達の進行方向が何やら光り輝く。

「なんだ?」

私は後ろに止まるように合図し、少し先に進み、それを見る。
何かに日光が反射し光っているようだが、それが何なのかはっきりしない。

ここからでは、オペラグラスを使っても、はっきりとは見えないだろう…。

私は胸元に持っていった手をおろし、また進むように後ろに合図した。



30分程歩いただろうか。光は消えることはなかった。
ましてや、さほど距離が近づいた感じもなく、私達もゆっくり歩いているが、あちらもかなりのんびり歩いている事が伺えた。

「何なんだ?あの光…」

呟くが答えはかえってこない。


不意に、その光に何やら色がつく。
青い、ピカッとした光だ。

「みんな!止まれ!」

と言う私の声は



ドドドドドッ!



という地鳴りでかき消された。

「!」

そして私は見た。
猛スピードでこちらに近づいてくる物体を。

全身鉄か何かで出来ていて日光を反射させながら、ガチャガチャとアームを動かしやってくるソレ。


「機械兵…!」


私の呟きに答えるように、ソレは目を光らせた。









機械兵
ソレは、昔、それこそMOTHERができたばかりの時にMOTHERの武器製造を担当していた者が作り上げたと言われているものだ。

言われている、というのはその実態は誰も見たことがないからだ。

だから、誰もが想像上の物として考えられていた。

が、アサシンの間では機械兵は存在すると考えられていた。

そもそも、国を動かそうという発想をしたMOTHERだ。機械を歩かせることくらいできるだろう。

それが、アサシン達の考えだった。

戦争に出てこないのは、調整ができていないか、それを動かすだけの技術を持つものが居ないのだろうと言われていた。



今回のMOTHERは、新兵が多い。
その中にハッカーの一人でもいれば、機械兵を動かすことなど容易だろう。








「皆!今すぐテントに向かって走れ!」

と地鳴りに負けないように声を張り上げる。

スピードこそあるが、まだ距離はある。
今ならまだ…!

皆が走り出したのを見て、私も後ろへ下がる。相手との距離を見ながら、味方に攻撃などされないように警戒する。


「あっ!」

ドタッ…

という声と音が進行方向先から聞こえた。オリヴァーの声だ。

「オリヴァー?」

「アタタ…」

どうやら転んだらしい。

近づき、立ち上がらせる。
血は出ていない。

「大丈夫か」

「はい…」

返事はしているがしかし、痛みは抜けていないのだろう。顔をしかめている。
このままでは追いつかれる。

「オリヴァー、その銃貸してくれるか」

「え…?」

戸惑う彼から銃を半ば無理やり奪う。

「いいか、ゆっくりでもいいから前に進んでな。テントについたらフレディにこのことを伝えろ。機械兵が来たってな」

「え…、ユウィリエさんはどうするんです?」

「足止めするさ」

何をとは言わなかったが理解したらしいオリヴァーは喚く。

「何言ってるの!あんなの勝てるわけ無いじゃん!」

「一概に勝てないとは言えないかな。まぁ今倒すつもりはないよ。情報収集は必要だろう?」

ドドドッという足音が近い。
もう話している時間は無さそうだ。

「頼んだぞオリヴァー」

私はそう言い、何か言いたげなオリヴァーに背を向けて機械兵に向かって走り出した。
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