Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり25

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Side ロベルティナ


「クッ…」

ラルフ大将の班に入ったワタシはソレの攻撃を受け止めながら耐えていた。

何なのだろう。コレは…
鉄の塊に2つの水晶をくつけたような頭。
その下の胴も長方形の鉄の塊。
そこから細長い棒が飛び出し、足と手となっている。
今、ソレの手は剣へと変貌していた。

目の前で対峙し、剣を構えた瞬間、ソレの腕(腕と言っていいのか…?)は長方形の胴に吸い込まれ、次出てきたときには剣に変わっていた。何がなんだかさっぱり分からない。


まさか…こんなのを相手にすることになるとは…。



ワタシは、内心でイライラしていた。

こんなのを自分で思うのはなんだが、ワタシは剣は持っているが剣術が得意ではないし、だからといって銃の扱いに長けているわけでもない。

それなのにワタシは班長になった。

剣術もできない、銃も得意ではない、そんなワタシの得意分野は毒だった。

戦場では味方が敵の相手をしている間に、背後から首筋に注射器で毒を流し込む。
毒を塗ったナイフで相手に軽い傷を負わせて殺すこともある。

また、こう言ってはなんだが…ワタシは自分の容姿に自信がある。
時に、敵国の兵士を誘惑し、ベッドへ誘い込み、相手が油断している隙に毒を注射したり、薬と称して飲ませたりして殺した。
戦士というよりも、暗殺者のようなものだった。


それがワタシの戦い方。今回もそのつもりで戦場に来た。
ラルフ大将を選んだのは、ラルフ大将は戦場で目を惹く戦い方ができる方であり、ワタシが動きやすくなるから。


なのに、今回の敵はどうだ?
剣も銃も通じない。注射器の針なんて通るわけがないし、誘惑するなんて虚しいだけだ。


こんな事なら、戦場になんて出なかったのに…。

ギリッと奥歯を噛み締めた。


ピピピピ

とソレから音がした。

「!?」

力が増した?
なぜ?

「グッ…っ!」


片膝を地面について、どうにかソレの剣が自分に触れるのを防ぐ。
相手の剣は目と鼻の先だ。


「みんな!!」


と声が響いた。ラルフ大将の声だ。

「狙撃兵はテントへ戻れ!他の奴らは敵の攻撃を避けて走り回れ!!敵に攻撃はするな!」

いきなり何を言い出したのかと思った。
だって、攻撃しなければコチラがやられてしまう。避けて逃げるのにも限度がある。


でも…大将が言うのなら…。


何か考えがあるのかもしれない…!

ワタシは自分のもてる力を剣に込めて、ソレの剣を弾き飛ばした。

少しバランスを崩したソレは少し後ろへよろめいた。が、すぐに剣をこちらに向けて振るってくる。

それをギリギリで避ける。
どんどん上がっていくスピードに、ワタシはついていけない。

頬に、腕に、腹に、焼けるような痛みが走る。

もう限界だ。

ガクリと膝が地面についた。

ワタシに向かって、剣を振り上げるソレをワタシは睨みつけた。



ちくしょう…こんなのに、負けるなんて…。




「っりゃあぁ!!」




ソレのバランスが崩れて、地面に倒れた。
ソレに乗るように、それを蹴飛ばした相手がその場に立つ。

「逃げろ!」

ソレから降り、彼は走り出し、他の兵が戦っているそれに向かっていく。

起き上がった私と戦っていたソレも彼に向かっていく。

「ラルフ!!逃げろ!!早く、逃げるんだ!!」

ワタシ達が戦っていた多くのソレは、彼を追いかけていく。
1000、2000のソレがもともと彼を追いかけていたソレと合わさり、群れになって彼を追う。

ソレは追いかけながら、彼に剣を振るい、ある個体はその腕についた銃で彼を狙う。
それを彼は避ける。
避けながらもワタシ達から距離をとるべく、走る。


どんどん離れていく彼をワタシはただただ見つめていた。
目を離せなかったのだ。








風になびくように揺れる明るい茶色の短髪が
先を見据えるルビー色の瞳が
鉛色の群れに追われながら走るその姿が


とても、美しく見えたのだ。








「みんな、無事か!動ける奴はテントへ向え!近くに動けない奴がいたら手を貸してやってくれる」

ワタシは周りを見た。

近くに名も知らない一般兵の姿があった。
倒れていて、脈をとらなくても死んでいることがわかる程に出血し、濡れていた。

立候補してまで戦場に出た一般兵にとって、この死は栄誉なものか…否か…。
それはワタシには分からない。


ワタシはテントの方向へ歩き始める。



ふ、と彼が向かっていった方向を見る。そのまま走ったなら、他の班がいる場所へたどり着くだろう方向。

彼は何を考えて走っているのだろうか。

分からないが、彼ならどうにかしてくれるのではないかと言うそんな気がした。

















Side ドミニク


「狙撃兵はテントへ!他の兵は攻撃を避けろ!敵に攻撃はするな!」

謎の命令をするケネス兵士長の声が遠くから聞こえた。
張り上げられた声は切羽詰まっていて、彼もまた敵から攻撃を受けていることが見受けられた。

しかし…攻撃するなとはどういうことだ?

首を傾げながらも、命令なら聞かねばならない。

が、とりあえず。命令を聞くためにはこの状況をどうにかしなければならない。

今、俺の目の前にいるソレ達は両腕に持つ(ついている?)剣を俺の首めがけてブンブンと振っている。
それを自分の剣で避けているが…刃はボロボロになっている。
猛スピードで襲ってくる剣を避けることなど不可能に近い。もしも、剣で攻撃をさばくのも攻撃にあたるなら…俺が命令を遂行することは不可能だろう。


「クッソ…」


思わず口から漏れる言葉。

剣士として力をつけてきたと思っていたが、こんな何かもわからない物体に負けるなんて…。





「頭下げろ!」




唐突に後ろからかけられる声。
誰に言ったものかわからなかったが、咄嗟に頭を下げる。

カーン

と頭上で音がする。

俺の目の前に落ちてくる手のひらサイズの石。
これが当たったのか。

上を見ると敵の目(水晶玉)は俺を見ておらず、俺の後ろにいるであろう人物を見ていた。

敵が動く。
俺は後ろを振り向く。

「ユウィリエさん!」

「逃げろ!!」

ユウィリエさんは走っていく。
それを追いかけていく敵達。


「ケネス!」

「わかってる!総員!テントへ向え!」


事前に決まっていたかのように、ケネス兵士長が命令を出す。

「行きましょう、ドミニクさん」

一般兵が俺の腕をひく。

俺は一般兵と共にテントへ向かいながら、チラリと後ろを見る。


彼の姿はもう見えない。見えるのは、数を増して彼を追いかける鉄の塊だけ。

「ユウィリエさん…」

俺は小さく呟いた。























Side メアリー


わたしは逃げていた。

「皆さん、頑張って攻撃を避けてください!」

自身も攻撃を避けながら、レジナルド大将が言う。

後ろには数十体はいるであろう敵。人ではない。
ソレが何なのかわたしには分からないが、捕まったり、一対一で向き合ったら勝ち目がないことはわたしでもわかる。

敵が前に現れた時に、班員達がバラバラに動いたためか、敵が分散できているのは有り難いが、一人の負担が大きいことは目に見えている。

「クッ…!」

地面をえぐる様に振り下ろされる相手の武器。




もともと逃げるとか避けるとかが苦手だ。
機敏に動くのが苦手なのだ。

普段の戦闘スタイルも、動くというよりは、一箇所にとどまり向かってくる敵を討つというものな為こうした戦法は苦手でしかない。

相手をしても勝てないことが目に見えてはいるが…このままでは体力がもたない。


コチラは女なのだ。
男とは違いどれだけ特訓しようと元々の体力で劣る。
ましてや、この敵は体力なんて概念が通用するのかも怪しい。


「もう少し!もう少し耐えてください!」


レジナルド大将の声。
この戦いにどんな希望をもって耐えろというのだ。




レジナルド大将ですら、圧倒する敵。
そんなのに、女で、まだ班長のわたしが…。





「っ!」






足元に注意がいっていなかった。
敵の剣が足元の地面をえぐり、それに足をとられる。

無様に地面に倒れる。
これ幸いとばかりにわたしを囲む敵。



コレは…まずい…。




そう思い、目を閉じた時、

トサッという軽い音が近くからした。

そして、

「ファ!」

身体が浮く感覚。
でも落ちる感じはしなくて、腰のあたりに感じる暖かく柔らかな感触。

「グッ…」

不意に腹部に感じる重力。
なんだ…。

目を開けると、自分の下にあの敵の頭上が見えた。真っ平らな箱の辺のような頭上が。


呆然としていると、地面が近づく。

でもぶつかる事はなく、空中で私は停止した。

ゆっくりと首を動かす。
赤い布が見えた。

足が地面について、腰にまわされていたそれがなくなる。


「大丈夫か?」


そう言いながら、わたしを抱えていたであろう人物は手に持つ手榴弾のピンを抜き、先程まで私が居たであろう敵の群れに向かって放る。

「逃げな」

口で何個も手榴弾のピンを抜き、そこらじゅうに投げていく。

敵が一斉に彼を見る。

遠くからはわたし達が戦っていたのとは別の敵がゾロゾロとやってきているのが見えた。

「これで全部か?」

小さく呟いた彼は、手榴弾を投げながら走り出す。



「レジナルド、あとは任せるぞ!」


「もちろんです!」



一言言うと彼はテントとは反対の方向、MOTHERに向って走り出した。


「…」


その様子を呆然と見る。先程まで、私達を狙っていた敵は皆、今は彼を見て追いかけていく。


辺りが静かになった。


「皆さん!無事ですか!?」


所々で小さな返事が聞こえる。


「テントは向かいます、動ける方は動けない方に肩を貸してあげてください」


わたしはヨロヨロと立ち上がり、近くで蹲っていた一般兵に肩を貸して…歩き出した。
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