Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり27

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No Side


荒野を進む機械兵の群れ。

高くなった太陽の光が機械兵の体や頭を煌めかせる。

ガチャガチャと規則正しい音を出しながら、機械兵達はハービニー国の兵がいるであろう場所へ向かって進んでいく。

一糸乱れぬ動きとはまさにこの事だ。






そんな機械兵達の隊が乱れた。







先頭を歩いていた機械兵が後ろへ倒れたのだ。
その機械兵の瞳は先程までの青い光は消失しており、もう動かない事が伺えた。
その機械兵の首は鉄が溶けたようになっており、中の回線が切られている。


その隣にいた機械兵にも変化があった。
腰のあたりから上と下に真っ二つに切られ、上半身が後ろに転がった。
その目もやはり、色を失っていた。



他の機械兵達は一時的に停止する。
異常事態がおきた。それぞれがてんでバラバラに動く。




「回線は首に集中してるって言ったろ?なんたって、胴なんて切るんだよ」

「どこを切ったって動けなくなれば同じじゃないか」

その声に一斉に機械兵は声がした方を向く。

「そういう所が非効率的だって言うんだ。結果が同じなら手短に済ませたほうがいいだろ?」

8000もの機械兵に見られているというのに、その声は呑気に話す。

「結果が同じなら、どんな方法だっていいと思うがね」

「だから…」

日常的な会話のようにのんびりとした雰囲気。



機械兵はそんなのお構いなしに、彼らに向かっていった。





「あ、来たな」

「言うまでもないだろうが、死ぬなよ」

「お前もな」





向かってくる機械兵を前に、赤いナイフを握るユウィリエと青紫色の刀を構えたフレデリックが言い合った。



「ま、とりあえず半分ずつ対応しようか」

とユウィリエは近づいてきた機械兵の首元に向けてナイフを突き出しながら言った。



ジュッ…




と音を鳴らし、鉄が溶けた。



ナイフが機械兵に効かないことは、先刻ユウィリエが試したことで証明されていた。
が、そのナイフはそれを否定するように次々と機械兵の首の鉄を溶かし、中の導線を切っていく。

硬いはずの鉄に触れているというのに、ユウィリエの持つナイフに刃こぼれは見えない。


カラー武器『赤』の1つ
それが、ユウィリエが持つナイフである。
この赤きナイフは、カラー武器の中でも極めて特殊であり、“最強”の異名を持つ武器である。
特殊と呼ばれる由来は『赤』ができた経緯によるものだ。
本来、ナイフなどの武器を形造る際、原料を熱し、赤くなったところを叩き形を整える。それを冷ますことで硬く切れ味の良い武器が出来上がる。
しかし、この『赤』は冷ます過程で、刃の内部に熱を取り込んだ。
それ故に、刀身は熱く、燃えたぎるように赤い。
製作者のカラーが、このナイフに合う鞘を作るのに苦労したと言う話はよく知られている。
ナイフで切ることは難しいと言われる鉄も溶かし、切る。そんなナイフの扱いが容易いわけもなく、かなりの技術が必要である事は疑いようのない事実である。



「半分か。まあいい。後ろは任せるぞ」

フレデリックは手に持つ青紫色の刀を横に薙ぐ。

フレデリックの周りにいた機械兵が横に2つに切れる。


カラー武器『青紫』の一つ
それが、フレデリックの持つ刀である。
『青紫』はこの世界では珍しい片刃の刀である。
この世界の大概の刀は、両刃である。両刃の方が剣の向きなど関係なしに敵に攻撃することができるからだ。
だが、カラーはあえて『青紫』に片刃にし、ある特徴を与えた。
それは重さ。
『青紫』は世界で最も重い刀と言われている。
それを片手で扱えるのは『青紫』に選ばれた者だけ。



次々と倒れていく機械兵。
機械兵の剣や銃弾がユウィリエ、フレデリックに届くことはない。



「数が多いな…」

何時間がたっただろうか。ふぅと息を整えながらフレデリックが呟いた。
近くには数百はあるであろう機械兵の残骸。

「口動かすより手を動かせよ」

と、ユウィリエはその残骸を蹴飛ばし、スペースを作りながら言う。

「何時間経つ?」

「6時間くらいじゃないか?」

「じゃないか?って…お前が言うなら6時間なんだろ」

フレデリックがまたふぅと息を吐いた。

「そんなに経つのか…。あとどれ位だ?」

「まだ3割も狩れてないんじゃないか?」

「そうか…まだ3割も倒せてないのか…」

「疲れたのか?」

「まあ…久々の戦いだしな…」

ユウィリエは、ナイフを動かす手を止めずに、フレデリックを見て、フンッと鼻で笑う。

「これはこれは…フレデリックさんともあろう御方が、少々弱くなったのでは?」

「なんだと!」

「まぁ、元々私の足元にも及ばなかったけど」

「言うじゃないか」

フレデリックはピキピキと眉を動かしながら言った。

「お前だって以前よりも衰えたんじゃないか?昔だったら半分ずつなんて言わなかったし、今頃、倍の数は倒してたろ?」

「まあ確かに」

とユウィリエはフレデリックの言葉を認めた。

「なんだ?イヤにあっさり認めるな」

「手を抜いてるのは確かだからな」

「はあ?手を抜いてる?」

呆れた声を出すフレデリックに、ユウィリエはニッと笑う。

「あいにくと私はお前と違って効率を求めたくてな」

「はあ?」

また呆れた声を出すフレデリックをケラケラと笑いながらユウィリエは



「もうすぐだよ」



と言った。



数秒後ー

辺りで一斉にガチャガチャと音がした。
ユウィリエ達を狙っていた機械兵達が地面に倒れたのだ。


「え?」


驚くフレデリック。


「おー」


感心するユウィリエ。


彼らがその声を上げたときには、彼らの周りに動く機械兵は一体足りともおらず


色を失った瞳を夕陽が照らしていた。























✻✻✻✻

MOTHERのとある部屋にて

「どうなっているの!」

と、その人物はキーボードに指を走らせながら言った。

目の前にある無数のモニターは全て砂嵐。
ザーという不快な音が部屋に満たしていた。


「どうしたの、ショーナ」

その人物、ショーナ=スタインズの声を聞きつけた女、カリサ=ストーニーが言った。

「カリサ、ごめん。機械兵に通信がいってないみたい」

「どういうこと」

「何らかの妨害を受けてる。今、探ってる」


カリサは顎に手をやり考える。

「ショーナのプログラミングがそう簡単にやぶられるとは思えない」

ショーナがキーボードを叩く後ろで、カリサは呟いた。




ショーナ=スタインズ
彼女は、最近MOTHERにやってきたハッカーであり、カリサ=ストーニーの旧友である。
彼女のハッカーとしての腕前をカリサはよく知っていた。
だからこそ、機械兵を動かすためにハッカーが必要とわかったとき、すぐに連絡したのだ。


先程まではきちんと動いていたのに…なぜ?…誰が?


カリサの頭の中にそんな疑問が浮かんだ。



「ああ!!」

「どうしたの?」

いきなり声を上げたショーナにカリサが声をかける。

「パソコンの中に入ってたデータが…取られてる…!」

カチカチカチカチカチカチ

と、ショーナがキーボードの上で指を動かすも苦しげな表情は消えない。


「どうなっているの…。ハービニー国にハッカーがいるなんて話聞いたことないわ」


ショーナの呟きに答えるように



ティンッ



と音を立てて、すべてのパソコンの画面にある絵が浮かぶ。


三日月に乗る黒猫の絵。


「まさか!」

カリサが思わず声を上げる。



「黒猫…!」



ショーナも画面を見ながら言う。

それを楽しむかのように画面内の絵が時計回りにくるりと動いた。
















✻✻✻✻


「全く…人使いが荒いよねぇ」

とミール国の城のとある部屋で、ルナティア=ハーツホーンが椅子の背もたれに寄りかかりながら言った。

「お疲れ様です」

そんな彼にコーヒーの入ったカップを渡し、キース=ティリットが言った。

「ありがとう」

「大変でしたね。ルナさんでも6時間もかかりましたね」

「初めて見るプログラムだったからね。でも、完璧に仕上げたし、ついでにその機械兵とやらのプログラムとか造り方とか色々と盗ませてもらっちゃったから得るものは大きかったね」

「機械兵…。どんな機械なのかは帰ってきたらユウさんに聞きましょう」

「そうだね。それだけじゃ割に合わないから、何かお願いもしなきゃ。考えとこ」

ルナティアはコーヒーのカップを弄びながら言った。






ハービニー国にいるユウィリエから連絡が来たのが6時間前。ちょうど、昼時。

電話をとったキースに挨拶もなしに「ルナに繋いでくれ」と言い放ち、ルナティアが出たら出たで「今すぐMOTHERの中にあるパソコンハッキングして機械兵を止めろ」と命令したかと思ったら即座にツーツーと電話から音が聞こえた。

何がなんだか分からないがユウィリエがそんなに急いで頼んでくるのだからヨッポド何だろうとルナティアはハッキングを開始した。



思ったよりも時間がかかってしまったが…まぁユウィリエがそのせいで死ぬことなんてないだろうし、普通ならこの何倍も時間がかかるんだから怒られることはないだろう。



とルナティアは思いながらコーヒーに口をつけ

「そうだ!」

と、声を上げた。
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