Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり29

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Side カリサ


MOTHER内部のとある部屋に、私達は集まっていた。

「アハハ、機械兵も動かなけりゃただの鉄屑だな」

私の報告を聞いてエルヴィラが言った。背中から覗くスナイパーライフルの銃口が天井のライトの光を受けてキラリと光を放つ。

「笑い事ではありません、エルヴィラ。結果的に一般兵を出すことになったんですからね」

「出さずに終わる予定だったもんな」

エルヴィラは、笑いをこらえながら言う。
彼女は戦うことが大好きな人種だ。機械兵の投入で、狙撃も必要ないと考え、狙撃の命令を出していなかった。
今回のことで、彼女は戦える場が与えられて嬉しいのだろう。

「それにしても…コイツ等は何者?」

そう言ったのはウィンディ。隣でマリタも頷く。
視線の先のモニターには、二人の人物が映し出されている。

コレは、機械兵に搭載されていたカメラの映像から出したものだ。
機械兵と戦っていた二人。
黒猫がハッキングを終える前までの6時間もの間、機械兵と戦っていた人物。

強さと硬さを合わせもった機械兵をたった二人で押さえ込むだけの実力者。

「以前ショーナに頼んで調べてもらったハービニーのデータの中に該当者がいました。一人だけですが」

私は、写真を拡大させ、一人をデカデカと映し出す。


眼鏡をかけた男が映る。
明るい黄色の髪。それとは対象的な青紫色の目。なかなかに整った顔立ちは一度見たら忘れられない。
手に持つ刀は画像の画質が悪くよく見えないが、機械兵を切ることができるほど上質な物なのだろう。


「コチラの男はフレデリック=フェネリー。今回の戦争で元帥を努めるハービニーの主軸です。普段は国王専属の側付きをしているみたいです」

「専属の側付き…。なるほど、それならこの強さ頷ける。流石は五大旧家の1つフランクリンだ。こんな奴が国にいるとはな…」

ウィンディが感心したように言う。

「もう一人の方は正体すら掴めていません」

私は画像のピントを動かし、もう一人の人物を映す。


ルビー色の瞳の男が映し出された。

「はっきり言って、脅威はコッチの男だろ?」

「えぇ、フレデリックとは格が違います」

私は映像を動画に切り替え、再生ボタンを押した。


それは、その男が機械兵を倒すところを映していた別の機械兵の映像。

機械兵の胴と頭を繋ぐ部分を一撃で壊している。
最小限の動きで確実に敵を仕留める術を知っているのだ。

「ショーナにこの男について探らせたのですが…」

チラリと視線をショーナに向ける。
それを受けて彼女は話し出す。

「情報は出てきてません。…ワタシが思うにこの男、ハービニーの者ではないかと」

「他国の奴がなんで今回の戦争に?」

「そこまでは分かりませんが…ハービニーをこれだけ探っても出てこないとなると、それしか考えられないと思います」

皆の視線が映像に向かう。

何を考えているのかは、私には分からない。

しばらく、沈黙が続いた。






「誰かもわからない敵…ですか」






キィ…という扉が開く音と共に声がした。

何故ここに?別室でこの会議の映像を見ているはずなのに!?

と思いながらも、床に片膝をついて頭を下げる。見てはいないが皆そうしているだろう。

「頭を上げて」

私は頭を上げて、彼女を見た。

「会議を続けて」

「仰せのままに」

私は一度頭を下げ、皆に言う。

「この男については引き続きショーナに探ってもらいます。この後からは一般兵を出しながら戦います。エルヴィラ、狙撃隊もプランAの配置について」

「わかった!」

「マリタ、貴方は一般兵と共に戦場ヘ」

「了解です」

「ウィンディはまだここに残ってください」

「ええ」

一通り指示を出し、時計を見る。
夜の6時過ぎ…。

「30分で準備してください。0630に進軍開始です」

皆が頷く。


「カリサ、ちょっといいかしら」

「なんでしょう」

女帝の言葉に背筋を伸ばす。

「アラセリスの姿が見えないけれど、彼女はどこへ?」

「あぁ、彼女は」

ここで一度言葉を切ると、女帝は首を傾げる。



「彼女達には、ハービニーへの潜入を指示して、もう動いてもらっています」



「そう」

そっけなく言う女帝。
でも、口の端が少し上がっているのは隠せていない。






全ては貴方様のために








私はまた、深く頭を下げた。

















No Side


ユウィリエとフレデリックが野営地へ戻ってくる数分前。
ハービニーの野営地近くをその男は歩いていた。

彼、ダドリーは一般兵だ。今回の作戦にも志願して戦場へおもむいた一人である。
あまり優秀とは言えない兵士でもある。

なぜ、彼がこんなところを歩いているかというと…。簡単に言えば、戦っていたときの興奮が収まらなかったからだ。


先程、野営地へ戻ってくる前まで戦っていたダドリーは、元々戦うのが好きなこともあってあの戦場で興奮していた。
苦戦はしていたものの、ユウィリエに助けられ、生きて帰ってきた彼は、今もあの興奮が引かず、テントで待っていることができず、夜風に当たりながら散歩していた。


「すごかったなぁ」

こぼれ落ちた声。
思い出すのは苦戦していた時に、さっそうと現れ、自分を助けてくれた彼。

彼はフリーの兵士をしていると聞いた。
友人にフリーの兵士がいるが、あそこまで強くなかった。
あの強さは何から来るのだろうか。


「オレも強くなりたい」

と呟くダドリー。
興奮は冷めることを知らない。
ダドリーは、おもむろに腰から剣を抜き、ぶんぶんと振り回す。

不規則で乱雑としか言えない剣さばき。
ユウィリエやフレデリック…いや、少しでも剣術に精通しているものが見たら、顔をしかめるであろうその剣舞を止めるものも正すものも今はいない。

乱暴な剣舞をしながら、ダドリーは楽しげに、不規則に動く。
剣舞を舞うことに集中していた彼は

近づくその人物に気づかなかった。


ドッ

「キャッ!」

ぶつかり、倒れ、小さく悲鳴を上げたその人物。
ダドリーは慌てて、止まる。

「ごめんなさい、大丈夫ですか」

「えぇ、転んでしまっただけですから」

その女は言った。


軽く巻かれた髪をサイドで一本にまとめた女。
焦げ茶色の瞳を細めながら、頬を赤く染め照れたように笑う。
適度に引き締まった腹や豊満な胸、ほっそりとした太腿を覗かせるそのスタイルは、『魅力的』の一言では言い表せない。
顔立ちも整っており、華やかではないものの品のよさが伺える。

ダドリーも彼女に見惚れていた。

立ち上がろうとした女は、途中で顔をしかめ、地面にまた腰を下ろした。

「どこか痛みます?」

「えぇ…ちょっと足首が…」

「ほんと、すみません」

手を差し伸べると、一瞬躊躇いながら彼女はその手を取る。
ゆっくりと引き上げて、彼女を立ち上がらせる。

「ありがとうございます」

微笑む彼女。

「いや、オレが悪いんです」

頬を赤く染めて言うダドリー。

「優しいんですね。兵隊さんはもっと乱暴なイメージがありましたが…」

「いや…そんな…」

こんなふうに言われたことなどない彼は、先程の興奮とはまた違う興奮を覚えていた。

「家はどちらです?お送りしますよ」

「あ…」

と目を伏せる彼女。

「どうしました?」

「家には…帰りたくないんです…」

「え?」

「…」

黙ってしまった彼女。
その場にシンとした沈黙がおりる。

「ワタシ…逃げてきたんです」

彼女が言った。

「友人と一緒に…またあの場所に帰ったら…!!」

ガクガクと身体を振るわせる彼女。
その光景をダドリーはただ見えいることしかできなかった。

「兵隊さん」

きゅっと握っていた手を彼女は両手で包む。

「ワタシ達を…ワタシを守ってくれませんか」

「も、もちろんですよ!」

手を強く握り返してダドリーは言う。

「ありがとうございます、出会えたのが貴方なように優しい兵隊さんで良かった」

そう微笑まれれば、女に免疫のないダドリーは舞い上がる。

「安全な場所に案内します。今は戦争中ですし…事情を話せば城に匿ってもらえるかもしれません」

「本当ですか」

「えぇ、貴方のことは必ず守ります。…えっと…お名前伺っても?」

「あ、そう言えば名乗ってませんでしたね。ワタシ、テレ=ハッドンといいます。今、友人も呼んできますね」

と彼女、テレは歩き出した。
その様すら美しいテレにダドリーは見惚れ、かけていくその後ろ姿をボーッと見つめていた。



思考がうまく働かないダドリーは気づかない。
彼女、テレの不自然な言動に。

足首を痛め、立てなかった彼女がなぜ、いきなり歩けるようになったのか。

乱雑としか言えない剣舞をしていた彼に近づいたのに、なぜその刃に傷つけられることなく彼にぶつかれたのか。

そもそも、逃げ出したと言った彼女がなぜまだ、国の近くをウロウロし、国の中に戻されるにも関わらず抵抗する様子を見せないのか。


不自然な点は多々あるが、彼は気づかない。


「おまたせしました」

とテレが戻ってくる。
隣には、まだ少女と言っても通じそうな女。
ダドリーを見てその女は微笑む。

「彼女がワタシの友人の…」

「アラセリス=ホルボーンといいます」

「あ…どうも…」

またも美しい女性の登場に、ダドリーはドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


ダドリーがもう少し優秀で、記憶力があったならば、アラセリスという名が戦争前に大将レジナルドから伝えられたMOTHER戦での要注意人物の名である事に気づけたかもしれない。


ダドリーは気づかない。
まさか、自分が敵を自国の城の中へ誘おうとしていることを。
それが、どれほど自国において危険なことなのかを。


「行きましょう」

とダドリーは、彼女たちの前を歩く。

その後ろで、二人が顔を見合わせ、フフッと笑ったことに
ダドリーが気づくわけがなかった。
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