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女帝と戦争と死にたがり33
しおりを挟むNo Side
その決戦は、今この場で行われている戦いの中で、間違いなく1番の接戦だった。
「クッ…!」
「っ!」
剣と槍が接触するたびに、キンッと音を出し、時には擦れて火花を散らした。
近くで戦っていた兵たちが、フレデリックを、マリタを呼ぶが、その声に彼らは答えない。
いや、その声すら聞こえていないのだろう。
彼らの目は互いを離さず、武器の切っ先は互いに向かい、小さな息遣いだけが、二人の周りを満たしていた。
同等の力を持つ者の戦い。
一体、何時間その戦いは続いただろうか。
彼らが戦っている間に、ある者は敵を殺し、ある者は敵に殺され、
両方の戦力は確実に減っていた。
それをヒシヒシと感じながらも彼らは、お互いの視線を外すことはなかった。
だが、均衡というのはいずれ崩れるものだ。
「!?」
クラリとマリタの身体が揺れた。
フレデリックはその隙を逃さない。
愛剣をマリタへ突きつける。
キンッ…
バランスを崩しながらも、槍を動かしたマリタは流石だが、
「っ!!」
「足元が無防備だぞ」
フレデリックが足払いをかけて、崩れたバランスを更に崩す。
「これで、終わりだ!」
フレデリックは、マリタの心臓めがけて剣を突き刺した。
Side ユウィリエ
ドオオオン
ドオオオン
と音がする。
足元に転がる死体に目も向けず、私は戦場を歩いていた。
「全く、面倒くさい仕事を押し付けやがるもんだ」
私は口で手榴弾のピンを抜き、投げる。
フレデリックに頼まれた通り、私は今、狙撃兵が集まっていた所にいる。
だが、MOTHERの狙撃兵は、どうも一般人を鍛えた素人のようで、月明かりしかないこの戦場で、暗さになれるのが遅く、見えていてもぼんやりいるのだろう。私に気づかない奴もいるし、気づいても攻撃できない奴が多い。それでいて、数が多いのだから始末におえない。
ナイフを振るうのも億劫で、バックパックに詰め込んでいた手榴弾を投げ続けている。
お陰で、バックパックが軽くなったが退屈で仕方ない。
気がつけば、周りは死体しかなった。
「はぁ…」
もう慣れてしまった鉄臭さの中でため息をつく。
連絡はいれなくていいと言われたし、そろそろ…。
「行きますか」
と夜闇に紛れてそびえるMOTHERを見つめた。
その時、
「!」
とっさに避けたがそれは確かに私を狙って放たれた弾丸だった。
この距離を、正確に狙えるだけのスナイパー。
私が動かないにも関わらず、撃ってこないところを見るに…。
「のぼってこいってか」
私は呟いた。
Side エルヴィラ
「ウフフ」
と、アタシはスナイパーライフルのスコープからその男を見ていた。
今の狙撃の意味もきちんと理解してくれたことだろう。
彼はきっとココまでやってくる。
カリサの作戦上、今回アタシは戦場に出ることは許されていなかったし、指示があるまで撃つなと言われたせいでとてつもなく退屈だった。
やっと出た狙撃令も、そこらの素人兵しかいない中での狙撃。
暇でしかなかった。
だが、やっと面白そうな玩具がやってくる。
狙撃してもいいが、相手はナイフを使うようだし、フェアじゃない。
ココまであがってきてもらわねば…。
カリサは、理解できないと言うが、アタシは正々堂々、相手と対等な立場で戦いたいと思っている。
だってそうじゃないか。
例えば、アタシは狙撃手で相手は剣士だったとする。
それで、遠くから撃てるからといって剣士を狙撃で殺したとする。
だが、それは勝利ではあるが、評価としては『アタシが有利な立場にいたから勝った』とされるのだ。
そんなと許せない。
自分のほうが強かったから勝ったのだと、評価されたい。
だから、アタシは狙撃だけでなく、武術や剣術も覚えた。
そうすれば、相手が剣士でも武闘家でも、狙撃手でも対等に戦えるから。
久しぶりに見つけた面白そうな獲物がやってくるのを、今か今かとアタシは待つ。
「ウフフ」
口から思わず笑い声が漏れた。
Side フレデリック
マリタの体から剣を引き抜く。
ダラダラと溢れるように血が漏れる。
「ふぅ…」
と俺は息をついた。
長い戦い。疲れがあるのは当然だが、昔はこの程度なんてことなかったのに。
身体が鈍ってるようだ。
今ではアサシンとして活躍することは少ない俺だ。身体が鈍るのは当たり前と言えるが、これでは…。
この戦いが終わったら、また身体を鍛えよう。
と心の中で決める。
マリタの死体に背を向けて、状況を見る。
マリタと戦っている間に多くの者が死んだようだ。
だが、逆にマリタが死んだことでMOTHER側の戦力は大幅に削れたはずだ。
無論、まだ新兵がいることも考えられる。
注意していかねば…。
俺は苦戦している味方のもとへ走った。
そういえば…。
と走りながら考える。
ユウィリエの方は大丈夫だろうか。
MOTHERに乗り込めただろうか。
アイツが死ぬことはないだろうが、敵に見つかってなどいないだろうか。
俺は頭を振ってその考えを振り払う。
俺がすべきは心配ではない。
彼は戻ってくるのだから、それまで、味方を多く守ることだ。
「頭下げろ!!」
「!」
俺は敵に向かって剣を振り下ろした。
No Side
フレデリックがマリタとの決戦を終えた時、ユウィリエはMOTHERの周りを走っていた。
敵兵がいるからというのもあるが、どこから侵入しようかと考えていたのだ。
さすがのユウィリエでも正面きって乗り込むつもりはないらしい。
MOTHERの形は少々特殊だ。
見た目は表面が凸凹とした卵型。
色は黒い。
卵型の底辺近くから太い車輪が伸びている。
「お?」
ユウィリエは足を止めて、その場所を見つめた。
MOTHERの正面のちょうど反対側。
そこの車輪のちょっと上に小さな窓のようなものが並んで見える。
「あそこから乗り込むか…」
言うが早いか、ユウィリエは助走をつけてMOTHERから伸びる車輪を駆け上る。
そして、ある程度まで登ると、その窓に向かって飛び上がり、勢いをつけて足を窓に叩きつけた。
パリンっ!
と小さな音を立てて割れた窓。そこから、ユウィリエは身体をMOTHER内部に入れた。
「ここは?」
飛び降りたユウィリエはキョロキョロと周りを見る。
そこは細く暗く、とても寒い通路だった。
MOTHERの底辺とも言えるこの場所に通路があることがユウィリエは不思議だった。
MOTHERの造りは簡単に言えば、城下の街と城が一体になっていると考えればいい。
中は何層もの階層に分かれていて、上に行くほどお偉いさんがいる。
それぞれの階層は長い階段で繋がれているが、ある程度の身分がないと上の階へは行けない。
「一番下にはエンジンとかがあるもんだとばかり思ってたんだがなぁ」
噂で聞いていたMOTHER内部を想像して、そう考えていたユウィリエにとって、この通路は何のためにあるのか理解しがたい代物だった。
通路の脇にはいくつかの扉がある。
雷のマークが付けられたそれは、多分、機械室だろう。
どうやら、エンジンやその他の機械などをきちんと部屋で分けて管理しているようだ。
「意外と几帳面なんだな…ん?」
その扉を見ながら、階段を探すべく、細い通路を歩く。
安っぽい素材で出来た通路は歩くたびにキシっと音を立てた。
その扉の1つにユウィリエは目を留め、首を傾げた。
その扉には何のマークも付いていなかった。
この几帳面ぷりから見ても付け忘れたというわけではないだろう。
それに、その扉には棒を倒すタイプの鍵がついていた。こういうものは普通内側にあるものではないだろうか。
何の部屋だ?
ユウィリエは扉の鍵を外し、扉を開けた。
キイッ!
と鋭い音を立てる重い扉。
その中は、通路よりも暗い。
通路の光で少しだけ照らされた室内。
1歩、ユウィリエは足を踏み入れた。
カサッ…
何かが動く音がした。
「うわあああ!!」
ソレはユウィリエに向かっていく。
とても幼稚な攻撃。
ユウィリエにそんな攻撃が通じるはずなく、
「うわあっ!」
ユウィリエはその攻撃を避け、次いでソレの足を払う。
ドン、と音を立ててソレは床に倒れた。
ユウィリエはソレに視線を向けたまま、扉の近くを探る。
普通ならこの辺りに部屋の灯りのスイッチがあるはずなのだが、なかなか見当たらない。
「あった…」
やっと見つけたそのスイッチはかなり高い場所にあった。
パチッとスイッチを入れる。
ついた灯りは電球一つのみ。
ないよりマシという程度に照らされる部屋。
そこには、薄汚れたベッドと申し訳程度に仕切られたトイレがあった。
灰色の冷たい床と壁。
そして倒れていたのは、小さな、本当に小さな子どもだった。
ボロボロの布切れのみを纏っており、布から覗く肌は薄汚れ傷ついている。
「子供だったのか…」
ユウィリエは呟いて、子供に近づく。
子供だと思わず、避けてしまったユウィリエは、うつ伏せの身体を反転させて起こす。
息はあるが気を失っているようで、ユウィリエの腕に預けられた軽い身体は力が入らず、頭をダラリとしていた。
「参ったなぁ」
速く上層部に行かねばないが、気を失った子供をそのままにしておくわけにもいかない。
ユウィリエはため息をついて、子供を抱え上げ、ベッドに寝せた。
その近くの壁に背を預け、座る。
子供の息遣いを聞きながら、ユウィリエもしばしの休息を取るために、目を閉じた。
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