Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり37

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Side ユウィリエ


名も知らぬ息絶えた女を人目のつくところに動かしてから私は来た道を戻った。

目の前で自殺されるとは…。

そんなことを考えながら、人目を避けて歩く。


上へと続く階段への出入り口に戻り、音を立てずに扉を開け中にはいる。
小さな空間に足を踏み入れ、私が入ってきた扉の隣にある扉を開ける。

「おまたせ」

と中に声をかけると、

「ユウ!」

とミリの元気な声が聞こえた。
マノリトに抱かれるのもだいぶ慣れたのか、楽しげに体を揺らしている。

「はぁ…」

とマノリトは安堵のため息をついていた。

「よくバレなかったな…」

「灯台もと暗しって言うだろ?」

私は笑って言った。

私がこの場に来たとき、出口とは違う、多分控室と思われる場所に誰の気配も感じなかったことをいいことに、その中にマノリトとミリを突っ込んだ。

息を殺しておけ

と指示し、私は外へと飛び出したのだ。

まぁ…見つかったとしてもマノリトならどうにかなったとは思うが。


「さぁ、行こう」

私は声をかけて階段の方へ歩き出した。


















Side カリサ


「カリサ」

と後ろから声がした。
ウェンディがこちらにやってくる。

「アリスンは死んだ」

「そうですか」

ウェンディからの報告にそれだけ言う。

アリスン=ベレスフォードを彼と戦わせたのは、私の策ではあったが、こんなにもあっさりと終わるのかと、内心で彼女に落胆する。

もう少し粘れると思ったのだが…。

「彼女の実力を過大評価してしまいましたね」

ベレスフォード家の名誉をかければ、それなりに働くと思ったのですが…。

「実力ねぇ。アリスンは自殺だぞ?」

ウェンディの言葉に片眉を上げる。

「なんですって?」

「アリスンは自殺だぞ?」

ウェンディは同じ言葉を繰り返した。

「さっき、アリスンの死体が運ばれてきたんで見てみたんだがな、胸にアリスンの剣が刺さってた。刺さり方から見て自殺だ」

「…自殺」

「意外か?」

「えぇ」

あの男に殺されたのなら分かるが…まさか自殺とは…。

「でも、貴方が言うならそうなのでしょうね」

「評価いただき感謝するよ。…どうやら、文句を言いたい人もいるようだがね」


ドンっ!

「カリサァァ!!」


扉を足で蹴り開けて入ってきたのはエルヴェラだった。

「なんです?」

「なんです?じゃねぇよ!アイツは私が仕留めるって言っただろ!なんで、雑魚兵なんかを向かわせてるんだ!」

「今回の戦争の指揮は私がすることになってるんです。どこで誰に兵を向かわせようと、それを一々貴方に確認を取る必要性は感じませんが?」

「雑魚兵とは…失礼なやつだな。アレでも特訓について来れた腕のあるやつなんだぞ?」

今回死んだのはどちらもウェンディの教え子だ。それなりに思い入れがあるのだろうことが発言から伺えた。

「確認取る必要性は無いかもしれないし、腕があるやつかもしれないけどなぁ!死んだら意味ないだろ!

カリサ!お前は分かってたはずだ!
あの男の実力が幹部より下の奴らじゃ太刀打ちできないような奴なことを!

今回の戦争で、あいつに何人殺された!?
一般兵を含めれば両手じゃ足りんだろ!?

なんで、私やウェンディを向かわせなかったんだ?
そうすれば…」

「死なずに済んだ命もある、と言いたいのですか?」

私はエルヴェラが言いたかったであろう言葉の続きを口にした。

「確かに、そうかもしれません」

「なら!」

「ですが!」

エルヴェラが何かを言おうとするのを止めるように私は声を張り上げた。

「万全な状態のあの男に、貴方達は勝てたと言い切れますか?」

「なっ!」

「私はそうは思えません。
機械兵相手でも息一つ乱さず6時間もの間戦い続けた男ですよ?
体力の底が見えません。

この国を下から登ってくるのは普通、苦労すると思います。ですがあの男ならどうか私には図りかねます。相手は全く未知の存在です。

もし、なんの苦もなく上までたどり着けられたとしましょう。そこで貴方達が戦っても勝てたと私は自信を持って言えません。
幹部は貴重な戦力です。自身を持って大丈夫だと言える状態でなくては敵に向かわせたくはないのですよ」

「だから、雑魚兵を使ったと?」

「そのとおりです。別にあの男に勝てるだなんて思ってませんよ。
目的は男の体力を削ることです。

階段を登るだけでなく、一般区を走り、弱者とはいえ戦えばいくら体力に自信がある男でも息切れの一つはしてくれるでしょう。
そうすれば勝率は上がる」

「…」

エルヴェラは何も言わず、うつむきながら私に近づき…

「!!っ…」

「エルヴェラ!」

私の首に手をかけ、力を入れた。
咄嗟にウェンディが助けてくれたから良かったが、もし一人だったなら私は殺されていただろう。

「ケホッ…ケホッ…」

咳き込みながらエルヴェラを見る。
ウェンディに押さえつけられながらも、目に怒りを込めて私を睨みつけていた。

「勝率、勝率って!お前何考えてんだ!!人の命をなんだと思ってやがる!!」

エルヴェラは声を荒らげる。

「勝つためだったら何やったっていいってのか!?
死んだ兵士にだって、家族がいるんだぞ!何の罪もない家族がどんなに悲しいか…。
カリサ!お前だって家族を失った身だろ!?何故そのことがわからない!」

頭の中に昔の情景が浮かびそうになる。
思い出したくない、と頭を振った。

「黙りなさいエルヴェラ。私は、この戦争を任されてると言ってるでしょう。
勝率を気にするのは当然ですし、勝つためならなんだってやりますよ」

信じられないというように私を見るエルヴェラに背を向ける。

「エルヴェラ、ウェンディ。持ち場に戻りなさい。
いつ敵が来るのかわからないのですよ?こんな所にいるべきではありませんよね」

「カリサ!私の話はまだ終わってない!!」

「無駄だエルヴェラ」

ウェンディがチラリと私を見た気がした。なんとなく、視線を感じた気がする。
まだ何か言いたげに唸るエルヴェラを引きずりながらウェンディは部屋から出ようとする。

「カリサ!!聞けよ!!」

「エルヴェラ」

最後の抵抗だろうか。大声を上げたエルヴェラに背を向けたまま言う。

「私は何と言われようと考えを改める気はありません」

「っ!」

「それと」

少しだけ振り返り、私を睨むエルヴェラをチラッと見る。

「私は家族を自ら切り捨てたんです。失ったからと言って悲しくなんてありませんでしたよ」

「!」

抵抗も忘れて私を見るエルヴェラをウェンディが部屋の外へ出す。


私以外居なくなった部屋の中で首から下げたロケットネックレスを握る。
中には、ある女の写真が入っている。

「全ては貴方のために…。

貴方は、私の全て…」

私の呟きは、静かな部屋の中で消えた。























Side ウェンディ


「何だアイツは!!!!」

部屋を出てしばらくは大人しかったエルヴェラだったが、その言葉を皮切りにまた暴れだした。

「あんまり、カリサをせめてやるな」

「何であんな奴の肩を持つ!ウェンディだってカリサが間違ってることくらい分かるだろ!」

「…」

本人の許可なく他の奴に言うのはアレなのだが…

「カリサにはカリサなりの事情があるのさ」

「事情ってなんだよ!人の死よりヤバイ事情なんてあるか!!」

「…」

やっぱり、きちんと話さなければこいつは納得しないだろう。

「…昔、ある夫婦の間に女の子が生まれた」

「あ?なんの話だ、こんな時に!」

「まあ聞け」

エルヴェラに言う。
フンッと鼻を鳴らしながらも何も言わないところを見るに、話を聞く気はあるようだ。
私は口を開いた。

「その少女が生まれた国には不思議な風習があった。子供に武器を持たせるんだ。少女は短剣を持っていた」

エルヴェラは意味がわからないと言いたげな顔で私を見るが、説明はしないでおく。

「少女は…とても頭が良かった。頭の回転が速くて、大人顔負けの知識を持っていた。

だから…国の人たちは少女を嫌った」

「なんで?」

ここで初めて口を開いたエルヴェラの質問に答える。

「大人ってのは…子供に負けるのが嫌いなものだろ?
何を言ってもそれ以上の知識で返され、少女が良かれと思って知識を披露してもそれは大人にとっては屈辱でしかなかったのさ」

「…。続けて」

「ある時、こんなことを言う大人が現れた。

『あの娘は悪魔と契約している。だからこそ、あそこまでの知識を持ってるのだ!』ってな」

「悪魔だぁ?」

「そうだ、悪魔だ。今なら考えられないだろ。でも、つい数年前は悪魔や魔法なんてものは信じられてたし、実際あったらしい」

「え?」

「昔、居たらしいよ。魔法使いとか、悪魔憑きってのがね」

ポカンとするエルヴェラ。

「私も詳しくは知らないがね。…話を戻そう」

私は一度口をつぐみ、話し始める。

「無論、少女が悪魔と契約しているなんてデマだ。でも、国の人たちはそれを信じてしまった。

怖いよな…。人ってのは、例え嘘でも万人がそうだと言えば真実になっちまう。
少女は…処刑されることになった」

「!」

「少女は訴えた。でも、聞く耳を持つやつなんていなかった。
最後まで両親に訴え続けた。でも、両親すらも少女を庇うことはなかった。

少女のその頭脳は理解した。
両親すらも自分を守ることはない、ここに居ても意味がない…とね。

少女は両親を短剣で殺した。
国を出るとき、阻もうとしてくるやつも容赦なく殺した。

国を出ても行くあてのない少女は彷徨い、女の子と出会った」

「女の子…?」

「女の子は少女に手を差し伸べ、自分の国に連れて行った。
女の子はその国の女王の娘だった。
少女は女の子の遊び相手、友として側に仕えた。

そして、共に育ち、少女は女の子に信頼を寄せ、今もなおその信頼と忠誠は衰えない」

「…」

エルヴェラは抵抗することを忘れたように黙り、私に引きづられていた。



分かれ道に出た。
私とエルヴェラの持ち場へ行くには別れなければならない。

「ちゃんと持ち場に戻れよ」

と引きずるために握っていた手を離す。

「ウェンディ」

「ん?」

「勝とう…絶対…」

「当たり前じゃないか」

私は拳を握りエルヴェラに伸ばす。

「私とお前がいるんだ。負けるわけない」

「だよな!」

「あぁ…期待してるぞ」

エルヴェラが走っていく。
その後ろ姿を見ながら考える。



さて…どうやら、あの話をエルヴェラは信じたようだ。
カリサがあそこまでの勝利を希望するのか、それを女帝への信頼だと思ったことだろう。

あの話はほんの少しだけ真実と違う。



カリサは両親を殺した。
国を出るとき、阻もうとしてくるやつも殺そうとした。しかし、剣術をまともに知らないカリサが国民すべてを敵にまわして全員を殺すことが出来るわけなかった。

カリサは捕まり、殺されそうになった。
処刑方法は火炙り。
両手両足を木に縛り付けられ、逃げることも出来ないそんな状態だった。

そこを私が助けた。
もともと私は諸事情でその国の国王を殺しに行ったのだが、その帰り、その現場を目撃し、助けることにしたのだ。
捕まっていたカリサの才能を感じ取ったから。

カリサを連れ、MOTHERに戻り、前女帝に許可を取ってカリサを元女帝の側につかせながら、私はカリサに戦術というものを叩き込み、今のカリサが生まれた。

カリサが一番に信頼を寄せるのは私だ。

今回の件も、私があの男の体力を削るべきだとカリサに助言したのだ。

それが、女帝に勝利を捧げるために必要だと私が思ったから。

カリサは私を信頼し、私は女帝に忠誠を誓う。
カリサが行うことは結果として私の為に、そして女帝のためになる。
それが、MOTHER内での方程式。


だから…。

「せいぜい、死ぬまで頑張ってね。スナイパーさん」

私は、持ち場へ行くべく歩き出した。
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