Red Crow

紅姫

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女帝と戦争と死にたがり41

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Side ユウィリエ


8日目


その日は朝から城はパーティ状態だった。

兵士たちや今まで私の前に姿すら見せなかった大臣達が広いホール内にひしめき合い、笑顔でグラスを打ち鳴らす。

その中には国王もいた。
大臣と話したり、大将をねぎらうその姿が見える。


生きてるな。

と思いながら、ハービニーの料理人が腕によりをかけ作った料理(無論、ミール国の料理人の味には遠く及ばない)を口に運ぶ。

フレデリックから国王のことは聞いていたし、フレデリックの悩みも聞き、事情を知っているだけに今も生きている国王の姿を見ると感慨深い気持ちになってしまう。
もちろん、そうだからと言って国王を危険な目に合わせる可能性のある作戦をたてたフレデリックを怒ったことを撤回したいとは思わない。
それに、フレデリックがなぜ自分が迷ってるのか分からず迷走しているのを見て、『こいつ頭いい癖に馬鹿だなぁ』と感じた思いは今もなお健在である。


そういえば、アイツはどこだ?
と、国王の周りを見るが姿がない。


「飲んでるか」

と今しがた考えていた人物に声をかけられる。

「あぁ、あんまり美味しくはないがね。ミール国の酒が飲みたいよ」

と、近くにおいていた空のグラスを手に持ちあげ後ろを振り返る。

「ミール国の酒と比べられたら負けを認めるしかないな」

と、シャンパンの瓶を私のグラスに向かって傾けた。


シュワッ


といい音を立ててグラスの中で泡が弾ける。

グラスを持つ腕を伸ばすと、フレデリックもそれにならってくれ、チンッとグラスがぶつかり音を立てた。


「国王の側にいなくていいのか?自殺されるかもしれないぞ」

と冗談交じりに言う。

「大丈夫さ。それに、俺にだって友と酒を飲み交わす時間くらいあったっていいだろ」

「まあな」

私はグラスに口をつけた。口の中にシャンパンの味が広がる。ちょっと苦味が強い。

「あぁ、そうだ。これ返しとくよ」

とフレデリックがナイフを出す。
誰も見てないことを確認しての行動だろうから、注意はしない。

「新品同様で返していただき感謝申し上げるよ」

ナイフをしまいながら私は言う。

「貸してくれてありがとう。お礼と言ってはなんだが、あの件はこっちで処理しておくよ」

「よろしく頼む」

これで貸し借り無しである。


「ユウィリエさん!!」

声がかけられた。
近づいてくる4つの足音。

「ほんと、お前は人に好かれやすいな。危険人物のくせに」

と笑うフレデリックの声はきちんと私の耳に届いたので、思いっきり足を踏んづけてやる。
ウッとくぐもった声がしたが、無視だ無視。

「おー、お前らか」

エマヌエル、パコ、アティリオ、キャルヴィンが私にかけよってくる。

「お疲れ様でした!」

と礼儀正しく頭を下げるエマヌエルに、お前らもなと返しつつ、この場を勝手に離れようとするフレデリックの腕を掴んで引き寄せる。

こんな黄色い視線の中、一人じゃ耐えきれん。
道連れだ。

フレデリックは、やめろと視線で訴えてきたが、手を離さずにいると諦めたようにため息をついた。


「キャルヴィン、怪我の具合は大丈夫なのか」

「はい!もう動く分には問題ありません!」

フレデリックの質問にピシッと敬礼して答えるキャルヴィン。一応、上下関係は分かっているようだ。
その様子を見ながら、私はパコから酌を受ける。

注がれたのは先程飲んだのとは違うシャンパン。
今度は甘すぎる。
パコやエマヌエルのような若い子には合ってるのかもしれない。


「ユウさん、戦争中姿見えないときありましたけどどこにいたんすか?」
「あの機械兵?ってやつはどうやって倒したんです?」
「帰ってくるの遅かったですよね?どこに行ってたんですか?」

エマヌエル、パコ、アティリオから色々と質問を受ける。
殆どが正直に答えられるものではない為、お茶を濁しつつ答えておく。
それに、フレデリックとキャルヴィンも加わって、他の話をしているグループよりちょっと賑やかになる。

「楽しそうだな。私も混ぜてくれるか」

かすれたその声を聞いた、私を除く5人は、ハッとしたように頭を下げた。

「どうぞ、ホエル国王」

私はホエルを私とフレデリックの間に来るように手で示す。
ホエルはそれに従った。
ホエルの手にはワイングラスが2つ握られており、その片方が私に差し伸べられた。
それを受け取ると、ホエルはテーブルにあったワインのボトルを持ち上げる。

「グラスを」

思わず固まってしまった。

「ホエル国王!それは…さすがに…」

フレデリックも焦ったように言う。
近くにいたエマヌエルたちはぽかんとしているし、遠くで国王の動きを見ていた兵や大臣達はガヤガヤと騒ぎだす。


国王から酌を受ける。
それは、ふつうではあり得ないことだ。
酌というのは、下のものが上のものにやるものだからだ。
国で一番偉い国王から酌を受けるなんて…光栄を通り越して畏怖の念すら感じてしまう。


「いいんだ、私がやりたいんだ。ユウィリエ、グラスを」

「あ…ありがとうございます」

思わずどもりながら酌を受ける。
その様子を見守っていたフレデリックが、恨みがましい目を向けてくるのも、今ならあまんじて受け入れられる。
フレデリックですら、酌など受けたことはないだろう。

ホエルからワインのボトルを受け取り、今度は私がホエルのグラスにワインを注いだ。
手が震えなかった自分を褒めてやりたい気分だ。

チンッ

とグラスを打ち、ワイングラスに口をつけた。


「君たち、ちょっと外してもらえるか。フレデリックとユウィリエと、3人で話したい」


注いだワインを飲み終えるとホエルが、4人に言った。
4人はそそくさと離れていく。
これが…国王の力か…。
リュウイには無い力だなぁと現実逃避するかのようにそんな考えが浮かんだ。



「フレデリックから、君の働きは聞いたよ。我が国の勝利に貢献してくれたこと感謝する」

「いや、お礼を言われることでは…。その為に来たようなものですし。私も久々に戦争に参加できて楽しかったですし」

それは素直な思いだった。
決して、戦争しない平和の国のトップを主に持ったことを後悔している訳ではない。
だが、久々の戦場で力の限りを尽して戦うのはとても楽しかった。

「…ユウィリエは、フリーの兵士何だろう?戦争に何度も出ているんじゃないのか?」

「…」

そういや、そんな設定だったなぁ。
とりあえず、笑って誤魔化そうとするが、ホエルはそんな誤魔化しで騙せる相手ではない。

「フレデリックの話を聞く限り、戦い慣れもしているように感じたんだが…違うのかね?」

あ、これは駄目なやつだ。
と直感で悟った。
こういう相手には素直に答えるのがいい。

「すみません、国王。私はフリーの兵士ではないんです」

「どういうことだ?」

とホエルの視線がフレデリックを向いた。
フレデリックは困ったように笑った。

「私はある国で重職をしています。今回戦争に参加したのは、フレディから頼まれたのと…私の主から許可を得ることができたからです」

許可を得たと言っても、嘘をついて来たのだがそれは言わなくてもいいだろう。

ホエルは口を閉じて、少し唸り、納得したように頷いた。

「なるほど…それなら理解できる。活躍ぶりを聞いて、この国にスカウトしようと思っていた。だが、普通こんなに強い兵士がどこにも所属してなければ他の国だって黙ってないはずだと思っていたんだ。

国の重職をしているなら、その強さも頷ける」

「そう言っていただけて光栄です」

「何と言う国にいるんだ」

「申し訳ありませんが、それは黙秘させていただきます。我が国の主は戦争をする国を嫌っておりますゆえ、名を知っても交流は不可能でしょう」

戦争をする国を嫌っている、なんてもう殆ど答えを言っているようなものだ。
ホエルも気づいたようで、目を見開き私を見ていた。

「なるほど…だからか」

と、ホエルは笑った。

「だから…とは?」

「アイツはいつも会議に出席しようとしない。それを見れば気性が荒い奴らはアイツの国に攻撃を仕掛けるべきだと言う。
それを知っているだろうに、アイツは顔を出そうとしないものだから、不思議に思っていたんだ。

だが、ユウィリエ。お前が近くにいるならそれも頷ける。どんな敵を向かわせようと返り討ちに合いそうだ」

「会議の件は申し訳がありません。出るように言い聞かせているんですけどね…」

ホエルは更に笑った。

「あぁ、こんなに笑ったのは何時ぶりだろうか」

そんなことを言うホエル。
言ってしまってから、焦ったように私を見て何やらゴニョゴニョ言っている。

「フレディから聞いてますよ。お話は」

「!」

ホエルはフレデリックを見る。

「ユウには知っておいてもらったほうが良いと思ったので、話しておきました」

「…そうか。お前が言うなら、そうなのだろうな」

フレデリックの言葉にホエルはそう言った。

信頼関係は築けているようだ。

「今は死ぬ気はなくなったようですが、今後また死にたくなる気はあるのですか?」

「今後のことはまだわからん。なるかも知れないし、ならないかも知れない」

「もしもまた」

私は小声で、それこそ、フレデリックとホエルにしか聞こえないほどの大きさの声で言う。

「また死にたくなったら、私にご一報下さい。そのときには…私が殺して差し上げます」

「…!」

ホエルは寒気を感じたようにビクッと肩を揺らした。
フレデリックは私を見ている。
さすがはフレデリック。私の殺気を感じても普通でいられるか。

「ユウィリエ、お前は…不思議な人だな」

ポツリとホエルが呟く。

「底が見えない」

「よく言われます」

殺気を引っ込めつつ、笑うとホエルもホッとしたように笑った。

「面白い。アイツよりも早くお前を見つけられなかった事を悔やむよ」

「たとえ貴方と先にあっていても、私は今の主に仕えたと思いますよ」

「そうか」

ホエルは声に出して笑った。
なんというか、イメージとはだいぶ違うんだなぁと感じた。


♪~♪~


時計が鳴った。
11時だった。


「もうこんな時間か」

とホエルが言う。

「そうですね。私はそろそろ帰らないと…」

「ゆっくりしていけばいいじゃないか」

ホエルが首を傾げる。

「一応、今日の昼までの契約なので」

「帰りたいのは分かったが、アレをどうにかしてから行けよ」

フレデリックはクイッと顎で何かを示す。
そちらを見ると、周りを囲んでいた誰もが私を見ていた。
…なんだ?なんだ?

「話したいんだろ、お前と」

「は?」

「おいおい、まさかと思うが…。ホエル国王から酌を受けるような奴と一度も話さず、さっさと返すような兵士や重役がこの国にいると思っていたのか?」

「…」

こりゃ…時間がかかるぞ…。
私は頭を抱えたい気分だった。















ー夜
空に星が輝く時間。

聞こえてくるのは、風の音と車のエンジン音。
時折、石を踏んでガタつく車の音だけだ。

「疲れた…」

「お疲れ」

車の背もたれに身体を預けながらつぶやいた私にフレデリックがクスクス笑う。

ホエルとの話のあと、私はあの会場にいたほぼ全員と話をした。
そしたらこんな時間である。

全く…昼には帰る予定だったのに…。
帰ってから私はまた疲れることになるんじゃないだろうか。

「寝る。着いたら起こせ」

帰ってからも疲れるなら今のうちに休んでおかねば、私でももたない。

「寝れるのか?何が起こるかわからない状態だと寝れないんじゃなかったか?」

「安心できるところでしかねれないんだ」

「なら、今は寝れないだろ」

クスクス笑い続けるフレデリックを横目で見ながら、体を倒し、フレデリックの太ももを枕にするように寝転がる。

「なんだよ」

「寝る」

「だから…」

「お前がいるなら安心だろ」

フレデリックの言葉を遮り、私は目を閉じた。

「重い」

「鍛えてるだろ」

「寝にくくね?」

「私は枕は硬めが好みなんだ」

はぁ…とため息の音が聞こえた。

「烏」

「ん?」

「おやすみ」

優しく言われたその言葉。


「おやすみ、Bee」


私は、意識を沈めた。
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